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[地球回覧]中国、愛憎半ばの日本観
中国東北部の黒竜江省ハルビン市にある旧日本軍「731部隊」の実験施設の旧跡を昨秋、参観していた時だった。「あなたは日本人ですか」。19歳の大学生だという中国人の男性に声をかけられた。一人でここを訪れ、生まれて初めて日本人に会ったのだという。
細菌戦の研究のため人体実験を繰り返した旧跡には、蛮行の証拠とされる遺留品が並ぶ。歴史認識を問いただされるかと身構えたが、彼の口から出た言葉は「日本人ならゴジラを知ってますね。日本の特撮やアニメは素晴らしい」。サブカルチャーへの憧れだった。
日本では中国からの旅行客が大幅に増え、百貨店や観光地はいわゆる「爆買い」で潤う。一方で、尖閣諸島の国有化を機に、2012年9月に中国全土で反日デモの嵐が吹き荒れたのは記憶に新しい。「中国人は反日じゃないのか」と戸惑う向きは多いだろう。
「中国人の日本観は階層で3タイプに大別できる」。共産党機関紙の人民日報で論説委員を務めた馬立誠氏はこう分析する。馬氏は02年に「戦後日本の指導者は侵略戦争について何度も反省を表明してきた」とする論文「対日関係の新思考」を発表し、建設的な日中関係を唱える知識人だ。
日本観は「教育水準の高くない一般大衆」「高等教育を受け、海外経験のあるエリート層」「日本の製品やアニメが好きな都市の中産階級」のそれぞれで異なるという。いずれの層も共産党の愛国宣伝を見聞きしているのが前提だ。
「抗日戦争の精神は(中華)民族の精神だ。この展覧を通じて皆が(愛国)教育を受ける」。習近平国家主席は7日、愛国宣伝の必要性を改めて強調した。日中戦争の発端となった盧溝橋事件の現場近くにある抗日戦争記念館(北京市)を視察した際の発言だ。
共産党は学校で「党の正しい指導で日本に勝った」とする愛国教育を続け、戦勝70周年と位置づける今年は官営メディアが洪水のように「右傾化」などの日本批判を流す。直接の戦争被害を受けていない人でも、日本に対しては必ず一定の嫌悪感を抱く環境にある。
それでも馬氏によると、愛国宣伝の受け止め方は階層によって濃淡がある。一般大衆は「民族主義的な刺激を受けて外国人排斥に走りやすい」ため、反日デモの主体となった。しかし、エリート層は日本の良さを理性で評価する。中産階級は過去よりも、いまの日本への関心が強い。
さらに、多くのメディア関係者が「官営メディアの影響力は下がり続けている」と指摘する。宣伝色が強い人民日報や国営中央テレビは人気がない。インターネット人口が6億人を超えた現在、特に中産階級ではネットで好きな情報だけを探す人が増えている。
当局はネット規制を強めるが、日本の製品、旅行、アニメ・特撮に関するウェブサイトは海賊版を含めかなり自由に見られる。731部隊の旧跡を見学し、ゴジラをたたえた大学生は典型例だろう。彼らの中では「反日」と「親日」が二重人格のように同居する。
中国経済が成熟するにつれ、エリート層や中産階級は厚みを増している。とはいえ、共産党体制が続く限り、政治的には日本批判が正しい。どの階層であれ、公の場で歴史認識を問いただせば「日本は反省していない」と答えるだろう。
「愛憎半ばする複雑な思いだ」。知日派の中国人編集者は自らの日本観をこう表現する。小説「ジキル博士とハイド氏」のように、反日と親日が交錯する。中国人と交流する日本人は、そんな心のひだの理解に努めるしかない。
(中国総局長 山田周平)
[日経新聞7月26日朝刊P.15]
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