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[中外時評]習近平改革はどこへ行く 司法も経済も「逆噴射」
論説副委員長 飯野克彦
暗黒の金曜日と呼ぶ人もいるそうだ。2週間あまり前の7月10日。中国で人権の擁護に熱心な弁護士や活動家たちに対する大々的な迫害が、明らかになった。
始まりは9日の未明だったらしい。ウイグル人の人権擁護を訴えて2014年に逮捕されたイリハム・トフティ氏の弁護などに携わり、「中国で最も勇敢な女性弁護士」と呼ばれてきた王宇氏の北京の自宅に、20人を超える警官たちが踏み込んできた。王氏は連れ去られ、以来、事実上の失踪状態にある。
その後、王氏の所属する北京鋒鋭弁護士事務所の関係者を中心に、人権派の弁護士や活動家たちが各地で相次いで連行された。香港の非政府組織(NGO)、中国維権律師関注組によると、これまでに少なくとも249人が「刑事拘束されたり/連行されたり/連絡がとれなくなったり/当局に呼び出されたり/一時的に自由を奪われたり」した、という。
以前から共産党政権は人権派弁護士を煙たい存在とみなし、時に迫害を加えてきた。ただ、20を超える省や直轄市で一斉に、というのは異例だ。人民日報や新華社をはじめとする国営メディアが公然と批判しているのも、これまでにない特徴といえる。
これほどの規模の取り組みは、共産党政権の指導部、つまりは習近平国家主席が指示を下したからだとみなくてはならない。とすると、大きな疑問が浮かんでくる。習主席みずからが旗を振って進めてきた司法改革は、どこへ行くのか――。
「改革を全面的に深化する若干の重大問題に関する決定」。こんな名前の文書を共産党が年に一度の重要会議で採択したのは、13年11月だった。政治から経済、社会、文化まで、広い範囲で野心的な改革の青写真を示した文書だ。その1年前に発足した習政権が掲げた「公約」とみることもできる。
そのなかでも司法改革は目玉政策の位置づけだった。習主席は最高指導者に就いた直後から「ひとつひとつの案件で公平な司法を実感できるようにする」と語り、並々ならぬ意欲を示していた。この「決定」を採択した1年後に、改めて司法改革に焦点を絞った「決定」を採択したことからも、指導部の力の入れようは明らかだった。
人権侵害の温床だと批判されてきた労働教養制度を廃止するなど、早々に実行に移したとされるメニューもある。それだけに人権派の弁護士を標的としたかつてない迫害には、司法改革に急ブレーキがかかった印象、あるいは改革の方向が大きくそれたという印象を、禁じ得ない。
公約に背を向けるような「逆噴射」は、経済の面でも目につく。わかりやすい例は今月はじめ、株価の急落に対応した露骨なまでの市場介入だろう。日本でもPKO(株価維持策)という言葉があるように、当局による市場介入は決して中国に特有というわけではない。それでも、習政権が見せたほどあからさまなのは珍しい。
13年11月の「決定」は、経済改革をつらぬく基本的な理念として「市場に決定的な役割を果たさせる」と高らかにうたっていた。それが今は空念仏のように響かざるを得ない。少なくとも足元の経済運営は「市場に市場としての役割を果たさせない」ことを目指しているようにしかみえないからだ。
産業政策では昨年末、鉄道車両の二大国有メーカーの合併を発表したことが記憶に鮮やかだ。同じ中国の国有企業が海外で受注に向けた消耗戦を繰り広げていたのを改める狙いとされるが、合併で生まれる新会社は中国国内ではほぼ100%のシェアを握る見通し。市場が機能するうえで欠かせない競争環境を、政府は整えるどころか破壊しようとしている。
習主席については「反動的な毛沢東主義者ではないか」といった観測が早くから出ていた。胡錦濤前国家主席や江沢民元国家主席に比べ、毛沢東を評価する発言が目立ってきただけではない。教育現場での思想統制やメディアに対する締め付けの強化、権力闘争の一環にみえる大々的な汚職の摘発など、実際の政策にも毛沢東時代を思い起こさせる点があるからだ。
半面、改革の青写真が野心的だっただけに「改革断行に欠かせない権力基盤を固めるため毛沢東のような言動を見せているのだろう」との見方もあった。本質は「改革者」だとする、希望的観測といえようか。このひと月ほどの出来事を踏まえれば、どうやら結論は出たようにみえる。
[日経新聞7月26日朝刊P.11]
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