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橘玲の世界投資見聞録
2015年6月4日 橘玲
GoogleもTwitterも禁止。中国ネットサービスの
「巨大なガラパゴス」化はさらに進む
[橘玲の世界投資見聞録]
4月末に中国を訪れた。昨年の同じ時期に内モンゴルや天津、鄭州などの鬼城(ゴーストタウン)を回ったのだが(編集部注:最新刊『橘玲の中国私論』に収録)、今回驚いたのは、1年前はまったく問題なかったGoogleのサービスがまったく使えなくなっていることだった。
Googleは2012年3月、中国の人権活動家などのGmailアカウントに何者か(中国の公安当局だと示唆された)が侵入したことなどを理由に中国から撤退したが、それでもGmailやGoogleカレンダー、Googleドライブなどのサービスはふつうにアクセスできた。ところが今回はGoogle検索だけでなく、GmailなどGoogleのすべてのサービスがブロックされていたのだ(ネットで調べてみると、今年1月から使えなくなったようだ)。
私もそうだが、複数の端末でメールを送受信するひとはGmailで一括管理していることが多いだろう。それに加えてGoogleカレンダーでスケジュールを共有していたり、Googleドライブでドキュメント管理をしていると、中国ではなにもできなくなってしまう。
なぜこんなことになるのだろう。
FacebookやLINEなど海外のインターネットサービスは
すべて禁止されている
よく知られているように、中国で敵視されているのはGoogleだけではない。TwitterやFacebookが禁止されたのは2009年のウイグル騒乱がきっかけで、2010年のアラブの春でSNSが民衆デモの動員に使われたことで規制が強化された。YouTubeのような動画共有サイトにアクセスできないのは、天安門事件やチベット問題に関するニュース映像などの投稿を警戒しているからだ。
いまではアメリカのインターネット企業だけでなく、ニコニコ動画やLINEなどの日本のサービスも規制されている。中国では、政治的に利用される可能性のある海外のインターネットサービスはすべて禁止されていると考えていい。
公安当局にとって、海外企業と国内企業では大きなちがいがある。国内のネット企業が「反政府主義者(西側からすれば民主活動家)」に関する重要情報を持っているのなら、行政命令でその個人情報を提出させればいい。命令を拒めば、経営者や責任者を逮捕・拘禁するまでだ。
ところが相手が海外企業では、このやり方は通じない。Googleのセルゲイ・ブリンやFacebookのマーク・ザッカーバーグに中国が逮捕状を出すわけにはいかない。海外の“危険な”サービスをすべてシャットアウトするのは、中国にとってもっとも合理的な選択だ。
しかし通常、こうした極端な情報統制はうまく機能しない。特定のIPアドレスへの接続を遮断したり、ドメイン名やURLでフィルタリングをかけるには高度なITの知識が必要だ。禁止命令を出したとしても、消費者は便利なサービスを欲するから、それを無視してアクセスしようとするだろう。
ではなぜ、中国では大きな混乱が起こらないのか。
中国の公安当局がネットの監視に大量の人員を動員できるということもあるだろうが、それ以上に重要なのは、検索やフリーメール、あるいはSNSや動画共有サイトでも、中国では国内企業によって、禁止されたものと遜色のないサービスが即座に提供されることだ。これはもちろん中国が13億の巨大な市場を持っているからで、他の独裁国家ではこんなことはできない。
中国共産党の論理は、次のようなものだ。
反政府活動を行なおうとする人物は、自分たちの活動を隠蔽するためにGmailなど海外のインターネットサービスを利用しようとするだろう。それに対して、共産党に忠実な人民は、国内企業が提供するサービスを利用するのになんの不都合もないはずだ。
フリーメールが使いたければ網易(もうい)や騰訊(テンセント)と契約すればいい。TwitterやFacebookと同じことなら微博(ウェイボー)でできる。それでも海外のサービスを使いたいというのなら、うしろ暗いことがあるにちがいない――。
そして実際、中国の一般消費者にとって、GoogleやTwitterが使えないことが大きなストレスになっているようには見えない。苦労しているのは、日常的にこれらのサービスを利用している外国人だけだ。
北京、紫禁城 (Photo:©Alt Invest Com)
VPNや海外パケット通信ならGmailに接続できるが…
中国では、「上に政策あれば下に対策あり」といわれるように、ニーズがあればそれを提供する企業家が必ず現われる。今回の旅行前に調べてみたら、VPN(仮想プライベートネットワーク)を使って中国からGmailなどにアクセスできるサービスがいくつもあった。それらはすべて中国人の経営で、中国駐在の日本人ビジネスマンや中国旅行をする観光客のために日本語のホームページを用意している。
VPNは中国国内からいったんアメリカや香港、日本などの海外のサーバーに接続することで情報ブロックを回避する方法で、中国にいる日本人はほぼ全員が使っている。利用料も安く、私が契約した会社は1カ月780円だった(年払いを選ぶとさらに割引される)。
VPN以外に中国でGmailやTwitterを使うには、携帯会社の海外パケット通信を利用する方法がある。海外パケット通信はきわめて高額だが、携帯会社が契約しているキャリア(中国の大手通信会社)を選べば1日あたり2000円から3000円の定額になる。VPNに比べれば割高だが、こちらはWifiがつながらないところでも利用できるのでビジネスや緊急時には便利だ。――中国のキャリアが海外パケット通信を規制しないのは、利用者のほぼ全員が外国人だからだろう。
今回、中国各地でVPNを試してみたが、空港や高速鉄道の駅ではほとんどつながらなかった。公共施設が提供するWifiサービスではVPNのサーバーにアクセスできないようにしているのかもしれない。
ホテルのWifiではなんとかつながったものの接続は不安定で、30分ほど使うと切断してしまう。さらに夜間には、数時間接続できないことがかなりあった。これがたんなる技術的な問題なのか、VPNに対するなんらかの規制が行なわれているからなのかは不明だが。
今回わかったのは、VPNを利用すれば海外のインターネットサービスが中国で無条件に使えるわけではない、ということだ。そうはいってもVPNに代わる方法があるわけではなく(海外パケット通信は定額でも1カ月6〜9万円かかる)、中国在住の日本人はみんな「VPNが使えなくなるとほんとうに困る」と話していた。
中国政府のGoogleに対する敵視は徹底している。
スマートフォンで急成長した小米(シャオミ)はOSにGoogleのAndroidを採用しているが、OSに標準装備されているGoogle検索はもちろん、アプリや映像、音楽、書籍などをダウンロードするGoogle Playも使えないよう初期設定している。OSは中国国内で開発できないから仕方がないが、それ以外のGoogleのサービスはすべて禁止なのだ(iPhoneのApp Storeは利用できる)。
VPNを使えば禁止されたサイトに接続できることは、当然、公安当局も知っている。いつ規制されても不思議はないのだ。
中国のIT企業は規制を望んでいる
中国の検索最大手は百度(バイドゥ)だが、同社の躍進は中国政府がGoogle検索を禁止したことから始まった。中国版SNSの微博は、TwitterとFacebookが規制されたことで急成長した。中国のインターネットサービス企業の多くは、規制によっていまの地位を手に入れたのだ。
共産党政府による情報統制は、中国国内のインターネット企業にとっては関税障壁のようなものだ。高い競争力を持つ海外企業が参入できなければ、国内企業だけで13億の市場を独占できる。もちろんそこには厳しい国内競争があるだろうが、ネット企業の多くが規制から多大な恩恵を受けていることは間違いない。
だとすれば、こうした企業に情報統制に抵抗するメリットはなく、逆により多くの規制を望むようになるのは当然のことだ。これが、中国の公安当局がきわめて高い技術力を使ってさまざまな情報統制を行なえる理由だろう。このようなハイテク技術も、中国以外の独裁政権ではぜったいに手に入らないものだ。
中国では、官民をあげて情報統制を強化する負のスパイラルができあがっている。一般にIT企業は自由を求めるとされているが、中国では規制を必要としている。両者の利害は完全に一致しているから、公安当局の求めに応じて、海外のライバル企業のサービスを遮断することに協力を惜しまないだろう。
その結果、中国はいまや「巨大なガラパゴス」になりつつあるようだ。
国内企業が提供するさまざまなインターネットサービスは洗練されていて、中国のひとびとにとって、日々の生活を送るのにGoogleやTwitter、Facebookは必要ない。だが中国では誰もが個人情報を握られていることを知っているし、本音では政府がいつ抑圧者に豹変しても不思議はないと疑っている。北京や上海などの大都市の中流層は、機会があれば外国の市民権を取得してガラパゴスを抜け出したいと考えているのだ。
1990年代からの爆発的な経済成長によって、中国はまたたくまに世界2位の経済大国になった。これが冷戦の終焉に匹敵する、現代史の画期をなす出来事であることは間違いない。中国を訪れるたびに高層ビルが建ち並び、高速道路や地下鉄、高速鉄道ができ、ひとびとがゆたかになっていくのはほんとうに驚きだった。
まぶしいまでの経済成長に影が差すようになったのは、中国全土に鬼城と呼ばれるゴーストタウンが増殖するようになってからだ。そしていま、過剰な情報統制によって人口13億のガラパゴス化した社会が誕生しつつある。
中国の安定は「奇跡の経済成長」によってもたらされたが、その前提はいま、徐々に崩れはじめている。だが日本の十数個分もの国内市場があるかぎり、共産党政府は社会の動揺をさらなる規制によって防ごうとするし、国営・民営を問わず企業はそれに率先して協力するだろう。こうしてガラパゴス化はますます進むことになる。
このままでは、この巨大な隣人はどうなってしまうのだろうか。そんなことを考えさせられた旅になった。
上海の高層ビル街 (Photo:©Alt Invest Com)
<橘 玲(たちばな あきら)>
作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)など。中国人の基本思想、反日、政治、経済、鬼城(不動産バブル)など「中国という大問題」に果敢に切り込んだ衝撃の最新刊 『橘玲の中国私論』が発売中。
●DPM(ダイヤモンド・プレミアム・メールマガジン)にて
橘玲『世の中の仕組みと人生のデザイン』を配信中!(20日間無料体験中)
http://diamond.jp/articles/-/72731
- 中国の情報統制が進化−客船転覆事故で明らかに rei 2015/6/05 17:50:59
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