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[真相深層]中国新戦略「ひとまず西へ」
新シルクロード・アジア投資銀を推進 習氏、日本取り込みに動く
東に進むのは小休止、ひとまず西へ――。中国国家主席、習近平の新しい世界戦略が波紋を広げている。米国に圧力をかけるため、まず西に巨費を投じて大経済圏をつくる。それが陸路と海路で欧州までつなぐ新シルクロード(一帯一路)構想だ。中国の動きは対日外交にも影響し始めた。
「中国は新シルクロード、アジアインフラ投資銀行(AIIB)構想を共に進め、シルクロード基金も活用する」
習は4月22日、バンドン会議60周年首脳会議の演説で訴えた。インドネシアは1年半前、AIIBと海のシルクロード構想を提唱した場だ。今月に入り習は1年半前に陸のシルクロードを発表したカザフスタンやロシアも訪問。カネと微笑で海・陸の拠点を固めた。
インドネシアでは首相の安倍晋三も演説し、先の大戦への深い反省を示す一方、明確な謝罪は避けた。中国側の評価は厳しく、日中首脳会談でも両国国旗を置かず、他の会談と差を付けた。それでも習が安倍との再会談に応じたのはなぜか。
「アジア、欧州を巻き込む中国主導の新秩序に向けて経済面でノウハウを持つ日本を少しでも引き入れたい。AIIBに日本が参加すれば対米圧力になる」
中国共産党幹部の解説だ。だからこそ習は訪米前の安倍にAIIBを説明した。歴史認識より世界戦略が重要だった。
米国に挑む
昨年11月、北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の最中に外交関係者が断言した。「トップが西進戦略の全面推進を決めた。対外宣伝も一色になる」
シルクロードの名を冠した構想は周辺国のインフラ整備に中国製品を回す単純な経済政策だった。改革派の経済学者、呉敬●(たまへんに連)らの案だ。これが習の経済ブレーン、劉鶴の目に留まり、習が新設した党のチームでもまれ政治色を増す。北京大学の米国研究者、王緝思による地政学的な西方重視も加味された。
財政相、楼継偉が発案したAIIBは各部門の調整でシルクロード構想と一体化され、経済安全保障を含む世界戦略に昇格する。人民銀行総裁、周小川は新経済圏での人民元の国際化を唱えた。ユーラシア大陸、アフリカなどをあわせて40億人超の新経済圏への影響力を武器に米国へ再び挑む総合戦略が動き出した。
トップ就任後、習は爪を隠して力を蓄えるケ小平以来の韜光養晦(とうこうようかい)の策を捨てた。中国の力を認めさせた上で新秩序をつくる。習が2013年の訪米で強調した「新しい形の大国関係」の真意だ。
だが米大統領のオバマは「大国関係」の部分を決して受け入れなかった。習は東シナ海に防空識別圏を新設し、南シナ海でも石油掘削を巡ってベトナムと衝突した。
外交当局者さえ右往左往する。原因は権力集中だ。「権力は全て習主席の手にある。一人で決めるから対外政策の予測は困難だ」。対米戦略が専門の中国人民大学教授、時殷弘は珍しくトゲのある言葉を吐いた。
さすがの習も14年夏、元最高指導部メンバー、周永康の摘発公表で反腐敗に道筋を付けると戦略の修正に動いた。同年末には中国独自のシルクロード基金を創設。巨額の400億ドル(4兆8千億円)規模を見込む。習は4月のパキスタン訪問で初案件として水力発電所の建設への投資を決めた。これは各国が共同で拠出するAIIBとは違う。
カネで友情買う
「言葉は悪いがカネで友情を買うのだ」。対外戦略に詳しい清華大学教授、閻学通の説明だ。だがカネだけで世界は動かない。理念や文化的な魅力が要る。中国の全盛期、唐王朝は開放感に満ち、世界が憧れる絹織物があったから交易路が栄えた。詩人も輩出した。
英独仏までAIIBに引き入れた習は、秋の再訪米に向けて自信を深めている。オバマにどんな言葉をぶつけるのか。そのやり取りから中国の西進戦略の中間評価も浮かび上がる。
=敬称略
(編集委員 中沢克二)
[日経新聞5月14日朝刊P.2]
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