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バイオ薬、韓国急成長
生産能力、世界の3分の1 後発薬の製造受託を武器に
バイオ医薬品で後発薬にあたる「バイオ後続品」の製造受託を武器に、韓国企業が攻勢に出ている。各社が生産能力の増強を競い、主な企業の年産能力は世界の3割を超えた。大型薬の生産に成功したり、従来の10分の1の投資で済む生産技術を開発したりする新興企業も現れ、海外から製造委託要請が相次ぐ。自社ブランドでなく製造受託でのし上がる、バイオ後発薬業界の「鴻海精密工業」は生まれるか。
エイプロジェンは小型のタンクで連続生産することで、効率的に生産できる技術を持つ(ソウル近郊の城南市)
「新薬開発では日本に及ばない。だが事業化への量産技術確立は私たちが得意だ」。リウマチ治療薬「レミケード」の後続品生産に成功したバイネックスの李赫鐘社長は自信を見せる。
韓国の中小製薬会社だったバイネックスは2009年にバイオ医薬品に参入。香港で欧米の投資銀行にいた李社長を招き、まず政府が国内技術振興を目的に造ったプラントの運営権を獲得し技術を磨いた。レミケードは世界で年80億ドル(約9千億円)を売り上げる超大型のバイオ医薬品で、安価な後続品はそれ以上の需要が見込める。
昨年9月には同業のハンファ化学から約60億円で工場を取得し、生産能力を2.3倍に高めた。日米の製薬企業から「特殊性が高い製品の製造受託を増やして市場開拓を目指す」(李社長)。
世界のバイオ医薬品の15年の生産能力は関係者によると年産100万リットル。韓国勢はセルトリオンやサムスンバイオロジクスが知られるが、草分けのLGライフサイエンスのほか、バイネックスやエイプロジェンといった新興勢など担い手は広がる。これら主要企業の年産能力は合計35万リットル程度に拡大し、世界の3分の1を占める。
生産技術の進化も進む。日本の後発薬最大手、日医工が45%出資するエイプロジェンの金在燮社長は「既存の製法の10分の1の規模の設備と費用で生産できる技術を開発した」と胸を張る。
バイオ後続品は細胞培養に数カ月かかるため数千〜数万リットルの大容量タンクを用いるのが一般的。同社は数百リットルのタンクで培養し、増えた分だけ細胞を取り出しながら培養液をつぎ足して連続生産する手法を確立した。
同社は韓国最高峰のバイオ研究機関、韓国科学技術院の研究者だった金社長が仲間と2000年に設立した。バイオ後続薬に乗り出すと生産技術に日医工が注目し出資。これまでリウマチ治療薬を共同開発してきたが、今後は抗がん剤の後続品開発にも乗り出す。他にも「日本の大手製薬会社も含め10社以上が接触してきており引く手あまた」(金社長)の状況だ。
韓国で最も早くバイオ後続品の生産に成功したLGライフサイエンスはリウマチ治療薬「ヒュミラ」の後続薬開発で持田製薬と提携した。LGは注射剤で年1億5千万本の生産能力を持つ。バイオ医薬品ビジネスユニット長の尹秀姫氏は「バイオ後続薬では地理的にも近い日本と中国が最重要市場だ」と強調する。
韓国でバイオ医薬品の生産が急拡大しているのは、1997年の通貨危機を経て政府が新たな産業育成の柱に位置づけたことが大きい。トップ研究機関の研究者に副業を認め起業を促し、バイオ医薬品の製造技術開発へ設立した施設を民間開放するなど重点支援。その果実が実りつつある。
もっとも新薬は国ごとに厳しい治験が必要でハードルが高いため、目をつけたのが後続品だ。新薬より負担が軽いとはいえ治験は必要。そこで製造を委託する日本や米国の製薬会社に治験などの開発業務を任せ、生産技術に磨きをかけた。
設計、開発、生産――。急成長が見込まれるバイオ後続品は分業が進んだパソコンやスマートフォンと同様の動きが広がる。電子機器の鴻海のような雄が韓国から生まれる可能性は十分にある。
バイオ医薬品とバイオ後続品とは
▼バイオ医薬品とバイオ後続品 従来型の医薬品より副作用が少ないとされるバイオ医薬品は、ひとの免疫細胞が外敵を攻撃するためにつくる抗体などを人工的に造り出したもの。従来の医薬品と異なり、化学合成ではなく動物細胞などを培養して造る。大量生産にはノウハウが必要で、安定的に生産できる企業は世界でも限られる。
バイオ医薬品の後発薬にあたるのがバイオ後続品で「バイオシミラー」とも呼ばれる。バイオ医薬品の多くは2000年ごろから実用化され特許切れの時期を迎えたことで後続品市場が立ち上がり始めた。市場は15年の約4500億円が20年に約2兆4千億円に膨らむとの試算もある。
日本勢は出遅れ
バイオ医薬品の製造受託は欧州勢が主導してきた。最大手はスイスのロンザで、世界で24万リットルの培養能力を持つ。同じスイスのロシュなどバイオ医薬品に強い新薬メーカーとの関係が深い。インスリンなどのバイオ新薬を手掛ける独ベーリンガー・インゲルハイムも製造受託大手の顔を持つ。
新薬から手掛ける欧州勢に比べ、後続品中心の韓国勢は元になる細胞そのものの開発技術などで差があるとみられていた。ただ「韓国メーカーは思い切った投資で規模面で急速に追い上げると同時に、技術面でも差は縮まっている」と、みずほ銀行産業調査部の戸塚隆行調査役は指摘する。
一方、日本勢は出遅れ感が強い。世界でバイオ医薬品の開発が盛んだった1990年代、従来型の低分子医薬品で収益を上げていたからだ。
成長市場での挽回へ韓国企業と組むのも選択肢の一つだ。既に日医工がエイプロジェン、日本化薬がセルトリオンなどと提携している。ただ韓国の製造受託会社の奪い合いも激しさを増す。日本の関係者からは「セルトリオンなど大手は簡単には手を組んでくれなくなった」との指摘もある。
東京=朝田賢治
[日経新聞2月19日朝刊P.9]
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