2. 2015年11月15日 10:13:51
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北朝鮮、農業強化で食糧増産に走る 全国にモデル農場を置き、ノウハウを拡大福田 恵介 :東洋経済 記者 2015年11月15日 http://tk.ismcdn.jp/mwimgs/b/3/1140/img_b34da695d02f0f90d04b9024161d7b1d643530.jpg 北朝鮮の将泉野菜専門協同農場。温室の面積は日本の一般的なものよりやや広い 「わが国の近代的な農業、特に温室農業の前線基地だ」。平壌(ピョンヤン)中心部から車で30分の所にある将(チャン)泉(チョン)野菜専門協同農場。チョ・チャンピョ技士長は胸を張った。 農場内の典型的な温室に足を踏み入れると、一面に白菜が育っている。日本のスーパーの店頭でも売られているようにみずみずしい。2014年6月に北朝鮮の最高指導者、金正恩(キムジョンウン)・第1書記が現地指導し、既存の農場に30ヘクタールの温室を付設したこの農場では、ほかにもトマトやキュウリなどが栽培されている。ただ、「今年から本格稼働したので、まだ土地の状況を農場員がよく知らない。もっと上手に栽培できるのだが、現段階ではこの程度」と、チョ技士長は打ち明けた。 金正恩政権が本格始動した2012年以降、北朝鮮経済が徐々に明るさを見せている。その一つに、食糧の供給状況が改善していることが挙げられており、北朝鮮のGDP(国内総生産)の2割強を占めている、農業生産が上向いてきたことが大きいようだ。 家族単位へと細分化 今年9月下旬、その農業の現場を訪れた。前出の将泉野菜専門協同農場では、1棟の温室ごとに「分組」が組織され、その中で「圃田(ほでん)担当責任制」が実施されている。 北朝鮮では、協同農場の下にいくつかの作業班があり、さらにそれがいくつかの分組に分かれて、作業を行っている。2013年からは圃田担当責任制を導入。一定の広さの土地で10〜25人ほどが作業を行う分組管理制から、分組の枠組みの下に、ほぼ個人や2〜3人の家族単位へと土地の担当を細分化し、農業を営むようになった。 集団農業による責任の不明確さを排除し、収穫後は各農場員の働きや成果に応じて、差別化して分配される仕組みだ。農業従事者たちのやる気を引き出し、増産につながるような制度とされる。 前出のチョ技士長に圃田担当責任制の現状を聞くと、「実施後は収穫全体で30〜40%の増産になった。一気に増えて驚いた」と答えた。 農場を後にしてから、同じ平壌郊外にある、平壌野菜科学研究所を訪問。ここは2007年、既存の農場に水耕栽培の研究施設が併設されたのを皮切りに、2012年には大規模温室が増築された。栽培面積は40万平方メートルという、大規模な温室が広がっている。 将泉野菜専門協同農場と同様に、温室内ではキュウリやトマト、トウガラシなどがしっかりと実をつけていた。温室内では、他国から入手した種子の試験栽培をしており、日本産の野菜も栽培されている。この研究所は生産単位であり、農場員が施設内でせわしく働いている。 ここでも圃田担当責任制を尋ねると「生産量は3割増」(水耕温室栽培研究室のシム・ジョンヒョク室長)と成果を誇った。 帰国後、2施設の写真や動画を日本の農業専門家らに見てもらったが、いずれも生育は順調との見方だ。「作物に水・栄養不足は見られない。温室の面積が日本と比べ広く、病害虫の発生率が高まるが、北朝鮮の気候は日本より寒冷なので、広くてもさほど心配しなくていいのかもしれない」、とのことだった。 今年の生産は前年レベル 社会主義諸国の崩壊と、洪水など大規模な自然災害によって、1990年代後半の北朝鮮は、飢餓が発生するほどの困難を経験した。そのせいなのか、北朝鮮=「経済不振・食糧難」というイメージが、今でも日本では強い。 http://tk.ismcdn.jp/mwimgs/0/7/-/img_070f8e7e922767620649a64e286ba36b237112.jpg 画像を拡大 現在の北朝鮮では、主食のコメとトウモロコシの生産(穀物生産)は増加傾向にあるものの、自給ラインとされる穀物生産量550万〜600万トンの水準にはまだ届いていない。朝鮮社会科学院経済研究所の朴成哲(パクソンチョル)・工業経営室長は「2013年の穀物生産量は566万トン(精穀基準)、2014年は干ばつなど自然災害の影響もあり、2013年から若干減少した」と分析する。今年の生産量は前年と同レベルと見ているようだ。 一方で2010年以降は、穀物生産の回復に加えて、加工食品の輸入や自国生産が本格化。首都・平壌を中心に食生活がかなり向上し、市民の嗜好も多様化している。野菜などの副食物の生産に力を入れ始めたのも、このためだ。 「穀物生産量が400万トンを超えれば、北朝鮮では餓死者は発生しない」と韓国・国民大学のチョン・チャンヒョン教授は指摘する。国家による配給は減ったが、その分、市場を通じての供給が十分に代替している。市場での食糧価格はこの1〜2年間、安定しており、「食糧が行き渡っている証拠」(チョン教授)なのだろう。 国家による農業分野へのインフラ投資も拡大し、圃田担当責任制などの制度改革も動き始めた。そうしたモデルケースは北朝鮮全土に広がりつつあるが、成果がきちんと上がるかは、まだ時間を置いて見る必要がありそうだ。 (「週刊東洋経済」2015年11月14日号「核心リポート06」を転載) http://toyokeizai.net/articles/-/91575 http://toyokeizai.net/articles/-/91575?page=2 |