2. 2015年10月21日 08:45:15
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韓国政府が歴史教科書を国定に限定へ「正しい歴史」をめぐり世論分裂 2015年10月21日(水)趙 章恩 地上波放送SBSのニュースは10月17日、歴史教科書の国定化に反対する市民団体がソウル市内で行った集会を取り上げた。全国466の市民団体が実施したこの集会「韓国史教科書国定化阻止ネットワーク」には800人が参加した(警察の推定)。中には制服姿で参加する高校生の姿もあった。 ソウル大学や韓国科学技術院、梨花女子大学といった主な大学の入り口には、歴史教科書の国定化に反対する学生らが署名した手書きポスターが貼られた。ポスターは「国民の意見を聞くことなく政府が一方的に国定教科書にすると決めたのは間違いである。国定教科書にするのは歴史を歪曲するため。政権の正当性を主張する手段として利用することに反対する」といった内容だった。 教育部(「部」は日本の「省」に当たる)は10月12日、「中学校の歴史教科書と高等学校の韓国史教科書の発行体制改善方案」を発表した。中学の歴史教科書と高校の韓国史教科書は国定のもの1種に限定し、全国の学校で「正しい歴史」を教えるという内容だ。現在は教育部が行う検定をパスした複数の教科書があり、各学校がその中から選択している。今回の教育部の決定により、全国の中学・高校は2017年3月の新学期から国定教科書で教えることが義務となった。 親日行為・独裁・朝鮮戦争 掲示板サイトやSNSでは歴史教科書の国定化をめぐって賛成派と反対派が対立し、お互いを攻撃する書き込みが後を絶たない。韓国ギャロップが10月13〜15日に行った世論調査では、歴史教科書の国定化に「賛成」が42%、「反対」が42%と意見が真っ二つに分かれた。反対派の中心は若い世代と野党支持者。例えば20代の66%が国定化に反対する一方で、60歳以上は61%が賛成している。 ファン・ウヨ社会副総理は10月12日、「現行の教科書にある間違った記述を部分的に修正する方法では問題を根本的に解決することはできない。このため政府が直接、教科書を発行することにした。未来の主役となる青少年が正しい国家観と歴史観を持つようにすべきである。政府が教科書を作れば『(植民地時代に民族を裏切った)親日行為と軍事政権による独裁を美化し、特定人物を賛美することになる』と非難する意見もある。そういう非難こそ現行の歴史教育が特定の理念に偏っていることを示すもの」と発表した。 与党のセヌリ党も国定化に賛同している。セヌリ党は「現行の教科書は高校生に北朝鮮の体制を賞賛する内容を教えている」「韓国戦争(本誌注:朝鮮戦争を指す)を起こしたのは北朝鮮ではなく韓国だと教える教科書もある」と主張。このような主張を書いた垂れ幕を製作し、全国各地に設置した。朴槿恵大統領も13日、歴史教科書を国定化する必要があると発言した。 韓国メディアは国定にこぞって反対 ところが、セヌリ党の垂れ幕に書いてある内容は事実ではなかった。セヌリ党の主張が正しいかどうか、現行の教科書を全て複数のメディアが分析したところ、北朝鮮の体制を賞賛する記述も、韓国戦争は北朝鮮ではなく韓国が先に起こしたといった記述も全く存在しないことが判明した。 さらに、韓国メディアは「教育部とセヌリ党は検定教科書に問題があるというが、検定教科書は教育部の検定を経て出版されたものである」としてセヌリ党の発言に疑問を唱え始めた。 それでもセヌリ党は立場を変えていない。15日にセヌリ党緊急議員総会を開き、キム・ムソン党代表が「現行の教科書は悪魔が爪を隠すように巧妙な表現をしている。教師用の指導書は完全に左寄りである。教科書の執筆陣選びから学校が採択する過程まで、すべてに左派がかかわっている。だから国定教科書にすべきだ」と発言した。 10月16日付の世界日報は「歴代の国定教科書に政権が与えた偏向は深刻」という見出しの記事を掲載した。1974〜2006年まで7回発刊した歴史国定教科書は、その時々の政権の正統性を擁護するため、現代史の記述を政権が代わるごとに変えていた。例えば1961年5月16日、朴正煕陸軍少將(後の大統領)と陸軍士官学校出身軍人らが起こした516軍事政変について、1974〜1982年の歴史教科書は「5月革命」と記述していた。一方、民主化運動が起きた1996年以降の歴史教科書は「516軍事政変」と記述しいる。 世界日報は国定教科書こそ客観的でも中立的でもないので、教育部とセヌリ党の「偏っていない正しい歴史教育を行うために教科書を国定化する」という主張は波紋をもたらすだろうと分析した。 10月15日付のニューシス(インターネット新聞)も、「70年代から90年代まで軍事政権は全て、『正しい歴史教育』をするために国定教科書が必要だと強調した。ファン・ウヨ副総理も『正しい歴史教育』を強調している」として、「正しい」の意味は何かと追求する記事を掲載した。 歴史に対する唯一の解釈を求めるのは民主主義か 教育部は16日、海外メディアの記者を対象に歴史教科書国定化について説明する記者会見を開いた。この会見を取材したメディアオヌル紙やキョンヒャン新聞の10月17日付報道によると、教育部学校政策室のキム・ドンウォン室長は「一部教科書には韓国戦争の責任は韓国にあると北朝鮮の宣伝文句をそのまま引用している。このような教科書をそのまま放っておいては統一に備えることはできない」「教育部は明白な事実誤認と偏った理念を正すため(検定教科書の執筆陣に)修正勧告・命令をしたが、一部の執筆陣は正当な修正命令を拒否し、訴訟を起こして学校を混乱させた」として、国定教科書の必要性を説明したという。 しかし複数の韓国メディアの報道によると、検定教科書を発行する複数の出版社は修正をしなかったわけではない。これらの出版社は、教育部の修正命令に従い、執筆陣の意見を聞くことなく記述を書き換えた。これを不服とした執筆陣が、教育部の修正命令は不当であると訴訟を起こしている。 会見に集まった海外メディアの記者らは納得いかないとして質問を繰り返したという。 「歴史に対する唯一の解釈を求めるのが自由民主主義といえるのか? 人々が多様な意見を持つのが当たり前だと思わないのか」 「検定教科書を検定し認めたのは教育部である。現行の検定教科書に問題があると主張するのは教育部の責任を認めるということなのか。検定基準を変えればいいだけの話ではないか」 「どの教科書の何ページに北朝鮮の体制を賞賛する記述があるのか。具体的な資料を見せてほしい」 このような記者らの要求に対し、キム室長は「教科書を持っていない。後で(政府側の主張を)証明する」と答えたが、18日の時点で、記者らに資料は届いていない。 大学教授らは国定教科書の執筆を拒否 韓国史を専攻する教授ら280人あまりが10月18日、国連の歴史教育指針に違反するとして国定教科書の執筆に参加しないと宣言した。教授らは「歴史教科書の国定化は民主的な市民の養成を妨げ、憲法精神を否定し、国連が勧告する歴史教育指針に違反するため、国定教科書の執筆及び制作に一切参加しない」。 「これまでの国定歴史教科書はすべて、独裁政権が自身を合理化するために出した歴史本であった。国定歴史教科書は政府が主張する『客観的』で『正しい』歴史教科書にはならない。国定教科書では、韓国社会と民主主義の発展に必要な創意的で批判的思考力を持つ世代を育成できない」 2000人近い現役教師が会員になっている「全国歴史教師の集い」も同日、国定教科書執筆に参加しないと宣言した。 2013年の国連総会で決まった歴史教育指針は以下の内容である。 歴史教育は愛国心を高めようとしたり、民族同一性を強調するなど特定の政治的理念に従う若い世代を育成する目的で行ってはならない。 幅広い教科書が採択され、教師が教科書を選択できるようにすべきである。 教科書の選択は特定のイデオロギーや政治的必要に基づいてはならない。 歴史教科書の内容は歴史学者に任せるべき。政治家など歴史学者以外が意思決定に参加することは避けるべきである。 「安倍首相のことを批判することはできない」 野党の新政治民主連合は、歴史教科書の国定化に反対する立場を示している。新政治民主連合のムン・ジェイン代表は18日、教育熱が高く名門大学への進学率が高いソウル市江南地区の保護者を対象に懇談会を開催し、なぜ歴史国定教科書に反対するかについて説明した。この場でムン代表は、「(朴大統領とセヌリ党のキム・ムソン代表は)父親が独裁と(植民地時代の)親日行為に関わった人なので、子孫として歴史を美化し父親の行為を正当化しようとしている」と話した。 ムン代表は、国定教科書にすれば大学入試の勉強がしやすくなるというセヌリ党の主張に対し、「教科書が1種類になれば出題範囲が狭くなるので些細なことまで出題するしかない。大学入試の負担はもっと大きくなる」と反論した。 加えて、「歴史国定教科書はナチドイツ、軍国主義当時の日本、北朝鮮、そして韓国の独裁政権時代にしかなかった制度。画一化した教育で国民の考え方を統制するためのものだ。それを朴槿恵大統領がしようとしている。朴大統領は日本の安倍晋三首相が歴史を歪曲していると批判するが、もう批判する資格はない」とも主張した。 このコラムについて 日本と韓国の交差点 韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。 趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。 中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか? http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/215834/102000019/ |