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国交正常化50年 日韓の未来
(下)関係改善、国際的視点から
陳昌洙 世宗研究所所長
日韓両国の市民の間では、両国関係は悪いという認識が定着しているようだ。そしてその原因については、日本では朴槿恵(パク・クネ)大統領、韓国では安倍晋三首相にあるとみられている。しかし日韓関係の悪化は、指導者個人の資質といった単純なものではなく、両国関係が主に3つの構造的な変革期に入っていることによるものだ。
第1に、韓国では新しいパラダイム(枠組み)による相手国への対応が強く求められている。具体的には元慰安婦および徴用工の補償について、日本国内では解決済みであり、もはやそれについての要求は受けられないとの判断がある。しかし、韓国国内では政府は1965年の日韓基本条約体制の維持を基本としているが、司法の判断では異なる対応を求める流れがある。これは社会から要求が出ていることの表れでもある。韓国では市民団体の影響が強くなり、外交当局が国内政治をコントロールできていない。これは日本でも同様だと思う。
第2に、両国関係が垂直から水平、つまり競争の関係になった。なお日本の経済が強いとはいえ、韓国経済も拡大し、国際社会における発言力も向上してきた。これまでは日本が余裕をもって対応していたが、今や両国とも譲る気持ちがなくなっている。
第3に、対中政策が異なる。韓国は北朝鮮のことを考えねばならず、また対中輸出が対日・対米輸出合計より大きくなった。一方、日本はむしろ中国との対立が拡大している。
以上の3点を理由に、いずれ政権が変わったとしても、日韓関係の改善は容易ではない。両国関係を調整するシステムづくりが必要である。
中国への対応を巡っては、日本からは韓国が中国に傾斜しているとの声が聞かれる。実際に、韓国の世論調査では、経済的なつながりから中国を重視する傾向がみられるようになっている(図参照)。
しかし中国の韓国に対する要求水準は高まっている。例えば米国主導の戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備構想に関して、韓国は米国と「要請がない、議論しない、意思決定しない」という方針をとっている。だが中国は明確に拒否すべきだと、韓国の態度に不満をみせ始めている。中国は北朝鮮と韓国をバッファーゾーン(緩衝地帯)にしようとしており、韓国の安全保障を担ってくれるわけではない。そのため韓国では次第に対中警戒感が出ている。
そうした状況の中で、日韓の問題は、政府間の信頼関係がなく、市民間の感情レベルでも嫌悪が広がり、両国関係の重要性が明確でなくなっていることだ。政府間では、首脳同士のパイプ役になる人材や機能が不足している。韓国の世論調査では、日本の歴史への態度に対して80%が嫌悪感を示している。日本からはそうした韓国の態度に対して、今や韓国人自身に対する嫌悪感が広がっている。
日本では、日中関係が改善すれば、韓国は孤立してついてくるとの考えが出てきている。しかし、日中韓3カ国の関係はゼロサムゲームではない。両国は改めて日韓関係の重要性を認識し、関係改善を図るべきだが、現状では、それぞれが相手側にボールがあるとして動きだせなくなっている。両国の選挙など政治日程のタイミングがずれていることも絡んで、関係改善をより困難にさせている。
65年の基本条約締結以降、日韓関係を支えてきた根幹が大きく揺らいでいると考えられる。この50年は、日本の植民地支配に対する反省と謝罪に基づく歴史認識の進展、自由民主主義の基本価値を共有する国家としての協力、そして日韓関係が何よりも重要であるという戦略的判断を基にして発展してきたといえる。
しかし最近、日韓間では、日本の植民地支配と侵略を謝罪した95年の村山談話や、慰安婦問題を記述した93年の河野談話に関する認識の差が浮かび上がっている。また日本の外交青書では、韓国と自由民主主義および基本価値を共有するという内容が削除された。一連の動きをみると、日韓関係の65年体制が危機を迎えているのは間違いない。
安倍首相の歴史認識は韓国人に衝撃を与えた。首相就任前には「日本はあまりにも謝罪しすぎだ」と発言し、韓国や中国に“引きずられる外交”はやめるべきだと主張した。侵略については「国際的定義は確立していない」というのが持論だ。4月22日のアジア・アフリカ会議(バンドン会議)首脳会議と同29日の米議会演説では、村山談話のキーワードである「植民地支配と侵略」「心からのおわび」に言及しなかった。2度の演説で首相が念頭に置いた聴衆は、北東アジアではなく米国と国際社会であることが明白になった。戦後70年談話も「アジアに対する苦痛」や「痛切な反省」というキーワードが中心になると予想される。
韓国人の立場からすると、日本が戦前・戦中の過ちを正さないのであれば、韓国では戦後の日本を肯定的に評価することはできないと考える。
また、日本が外交青書で韓国と基本価値を共有するという内容を削除した点を考えると、日本には日韓関係を改善させる意志があるのか疑わしい。産経新聞前ソウル支局長の起訴も削除の一因とみられる。今こそ日韓関係改善が必要な時期であるにもかかわらず、国際社会に向けて韓国は自由民主主義国家ではないと批判しているようなものだ。
さらに米国に向けては、韓国は中国と近い国になったので、日本だけが米国と基本的価値を共有していると主張する陣営の論理に悪用される余地もある。日本が韓国と中国を同一視して米国の代弁者として名乗り出ることが、北東アジアの平和と安定につながるのかという疑問を持たずにはいられない。日本が戦略的に考えるのであれば、日韓関係の資産を増進させ、両国が北東アジアの公共財としての役割を果たす方向で進むべきだということは明らかだ。
加えて、日韓関係の重要性への意識も低下している。日本は韓国を“飛び越し”、韓国は日本を無視している。日本政界では、日中関係がうまくいけば日韓関係もおのずと改善されるはずだとの認識が広まっており、日韓関係改善に対する熱意が高くないのが実情だ。しかし日本は日中関係を回復させるためにも、日韓関係をまず改善させなければならない。中国が日本孤立戦略を実行するには韓国が必要だが、韓国が日本との関係を改善させれば、中国も日本との関係改善を戦略的に考慮せざるを得なくなるからだ。
これからの日韓関係を安定的に管理するには、第1に、日韓は国内政治よりも、国際的かつ長期的な視点から日韓関係を見据えるべきだ。国際関係が変化する中で、韓国と日本が協調しなければならない理由について、戦略的に検討すべき時期に来ている。
第2に、日韓間をつなぐ政治家、企業人、学者など官民の政策パイプづくりを早急に進めるべきだ。両国の政界では、相手国を理解する政治家が激減しており、関心も低下している。日韓関係を未来志向的に発展させるには、日韓の政策パイプの構築が当面の課題として挙げられる。
第3に、過去の歴史問題では日韓が自国の主張を貫く姿勢を改め、互いに配慮し、争点を管理する知恵が求められる。50周年という今年のタイミングを関係改善に活用することが極めて重要である。
ポイント
○両国関係悪化の背景に3つの構造的変化
○65年の日韓基本条約体制は危機的状況に
○日中関係改善にはまず日韓の改善が必要
チン・チャンス 61年生まれ。韓国・西江大卒、東京大政治学博士
[日経新聞6月5日朝刊P.25]
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