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日経新聞経済教室3日連載の論考だが、共通して言える物足りなさは、朝鮮半島統一の視点が欠落していることである。
「日韓の未来」も、朝鮮半島統一問題の枠組みのなかで考えなければ答えは出てこないはず。
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国交正常化50年 日韓の未来
(上)水平的関係踏まえ対応を
木村幹 神戸大学教授
日韓基本条約と一連の付属協定が締結されてから50年。この記念日に当たる6月22日前後には、日韓両国をはじめ世界各地で記念行事が開かれるが、お世辞にも「盛り上がっている」とはいいがたい。
もちろん、最大の理由は現在の日韓関係の著しい停滞にある。2012年8月、韓国の李明博(イ・ミョンバク)前大統領による竹島訪問後の日韓両国は、単独の首脳会談さえ開けない状況になっている。首脳会談の不在は日韓自由貿易協定(FTA)など両国間の懸案の多くを後回しにさせた。それから3年近くを経ても、打開の糸口さえ見いだせない状況にある。
とはいえ、日韓基本条約締結50周年とそれにまつわる一連のイベントが深いかげりに満ちたものとなった理由は、必ずしも日韓両国政府間の短期的な関係悪化のみにあるのではない。より重要なのは、今日の両国における、この条約とそれにより打ち立てられた「日韓基本条約体制」に対する理解が全く異なるものとなっていることである。
日本では従軍慰安婦問題をはじめ日韓間の植民地支配の「過去」を巡る問題は、少なくとも法的には、すべてが解決済みとされている。これに対し現在の韓国ではこの見方は共有されていない。より具体的には、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権以来の韓国の行政府は、従軍慰安婦、原爆韓国人被害者、サハリン残留韓国人問題の3点について、日韓基本条約の締結過程では念頭に置かれていなかった、として「日韓基本条約体制」のらち外に置いている。
より強硬なのは韓国の司法部、すなわち裁判所だ。一連の徴用工を巡る判決から明らかなように、今日の韓国の司法部は、日韓基本条約の締結過程で考慮されたことが外交文書などから疑いのない戦時下の労働者動員についてさえ、日韓基本条約で最終的な「解決」をみていない問題だという判断を下している。この韓国司法部の判断は、世論の大きな支持を獲得し、行政府は自らの判断と司法部の判決の板ばさみになっている。
だが、この日韓基本条約を巡る両国の溝の拡大は、1965年の条約締結当初からあったわけではない。事実、80年代までの韓国政府は日本政府と同じく、日韓間の植民地支配の「過去」を巡る問題はすべて日韓基本条約およびその付属協定により、解決済みという立場をとっていた。
韓国政府の立場が変化するのは、92年の従軍慰安婦問題激化を受けてからのことである。従軍慰安婦問題が突破口となり、韓国政府の立場はその後も、条約の規定と、植民地支配への日本政府からの直接の補償を求める世論との間で揺れ動き続けている。
明らかなのは、この50年間、韓国側の日韓基本条約に対する姿勢が変化してきたということである。とはいえ、この韓国側の変化を、何かしらの韓国人の民族的特性に求めるのはもちろん適切ではない。
なぜならば少なくとも65年から80年代までの韓国は、植民地期を実際に経験した人々を数多く抱えながらも、日韓基本条約に関わる理解を日本と共有していたからであり、文化的特性ではこの「安定」を説明できないからだ。この80年代以前の「安定」を崩した要因が何かを考えなければ、その後の韓国の変化を理解することは不可能だ。
過去の本欄でも幾度か述べたように、この変化の背景にあるのは韓国の日本に対する依存度の大幅な後退である。
50年前、日韓基本条約締結当時の韓国は、1人当たり国内総生産(GDP)が100ドルにも満たない発展途上国であり、経常収支は常に大幅な赤字だった。北朝鮮との分断下、厳しい軍事的緊張に置かれた韓国は、経済的のみならず軍事的にさえ、日本との協力なしには、国家を維持することさえ困難だった。ゆえに日本との国交正常化交渉の過程でも、自らの要求水準を大幅に下げねばならなかった。
そうした韓国からみた日韓基本条約とそれによる「日韓基本条約体制」は、当時の非対称な日韓関係のなか、不本意にも押し付けられたものであり、だからこそ人々は当初から強い不満を抱えていた。
にもかかわらず、その後80年代に至るまで韓国がこの条約体制に甘んじた理由は、非対称的な日韓関係がその後もしばらく継続していたからにほかならない。つまり当時の韓国はこの体制に対し、不満の意を公にすることすら難しい状況にあったわけである。
だが、この状況は韓国が劇的な経済成長を果たし、冷戦が終えんする頃になると変化した。つまり日本への依存度が経済的にも軍事的にも低下した結果、韓国は自らの不満を正面から日本にぶつけるようになったのである。その最初の表れの一つが90年代初頭の従軍慰安婦問題であり、以後、韓国の政府や世論は自らの国力増大に合わせる形で少しずつ日本に対する要求水準を上げていくことになる。
今日の状況の背後にあるのは、かつては垂直的な関係にあった日韓両国が、国際環境の変化と韓国自身の経済成長により水平的な関係に移行しつつある、ということである。
この説明には疑問を呈する人もいるであろう。経済成長しても韓国の国力は日本には遠く及ばず、日韓関係が完全に水平的な関係になることはない。だから、韓国はその現状を考慮して、現実的な外交へと立ち戻るべきだし、また、いつかは立ち戻ることになるだろう、というわけだ。
とはいえ、日韓関係の現状は多くの日本人が考える状況よりも大きく変化している。日本の1人当たりGDPは名目ベースで現在世界27位で、韓国はさほど変わらない31位につけている。そして日韓両国の経済水準の接近は、両国の経済関係のみに影響を与えるわけではない。それを典型的に示すのは、両国の軍事費を巡る状況だ。中国ばかりが注目される北東アジアの軍備競争だが、韓国の軍事費も着実に伸びている(図参照)。
注目すべきは、それが必ずしも韓国政府の意図的な軍備拡張の結果ではないということだ。北朝鮮の脅威を抱える韓国は、以前からはるかに多くの経済的資源を軍事費に投じており、その水準はGDP比3%弱で推移する。日本の防衛費は同1%でほぼ固定されているから、両国のGDP全体の格差が1対3以下に縮小すれば、韓国政府が意図的に軍事費の割合を下げない限り、金額ベースで自動的に日本を上回る。
そして、両国の人口比は現在1対3より接近しているから、「その日」は韓国の1人当たりGDPがわが国を上回る前に訪れる。中国の背中を見送ったばかりのわが国の軍事費が、韓国に追い越される日が訪れる可能性も出てきているのだ。
重要なのは、我々がこうした状況を前提としてしか、今後の韓国との関係を考えることはできないことだ。強大化する中国に加えて、「大きくなった隣国」をいたずらに敵に回すことは、控えめにいっても得策ではないだろう。
50年間の構造的変化を経た今、日韓関係がかつてのような「べったりとした蜜月関係」に戻ることは難しい。だとすれば、考えるべきは、いかにして対立を最低限に抑えていくかである。不用意な発言で彼らを挑発せず、状況を冷静に観察して、一つ一つの問題に柔軟に対処する。それこそが、我々に求められていることなのではないだろうか。
<ポイント>
○基本条約巡る日韓の溝は90年代以降拡大
○韓国が現実的な外交に戻ることは期待薄
○いずれ韓国の軍事費が日本抜く可能性も
きむら・かん 66年生まれ。京大博士(法学)。専門は朝鮮半島地域研究
[日経新聞6月3日朝刊P.26]
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