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コラム:飢きんが種まいた北朝鮮「資本主義」[ロイター]
2015年 04月 15日 14:28 JST
James Pearson and Daniel Tudor
[13日 ロイター] - 「共産主義」や「集産化」は、北朝鮮を言い表すには完全に時代遅れな言葉となった。同国経済は現在、個人同士が利益を出すことを目的に私有物を売買する取引に大きく依存している。
個人売買はここ数年、北朝鮮のあらゆる社会層、つまり貧困層から共産党内部や軍エリート層にまで普及した。しかし、ビクトリア朝時代の英国でセックスに関する問題がそうだったように、北朝鮮では資本主義に対するダブルスタンダードが存在する。誰もがしていることなのに、それを公に認める人は少ない。
北朝鮮にも何らかの形で市場は常に存在してきたが、経済活動における国家の役割が低下していることは、私的売買がかつてなく広がり、そして必要になっていることを意味している。その背景は至ってシンプルだ。かつてと同じ方法では、もはや国家は国民に物資を供給できなくなったのだ。ターニングポイントとなったのは、1990年代半ばに発生した深刻な飢きんだ。
飢きんの間、政府からの定期的な食料配給は事実上なくなり、二度と完全には元に戻らなかった。この経験から北朝鮮国民が学んだ教訓が、自立だ。それは北朝鮮の政治思想である「主体思想」で言う自立ではなく、むしろ、どんな手段を使ってでもという資本主義的な意味合いでの自立だ。
私有財産や私的売買は依然として違法だが、飢きん後の北朝鮮にとって、経済のルールとは「ルールに従わない」ことに他ならない。2010年の調査では、脱北者の62%が、北朝鮮では公式な職業以外の仕事にも従事していたと語った。非公式な為替レートを使っているグレーマーケットが、今ではエリート層にとってさえ、事実上の価格設定の場になっているという。
<システムの崩壊>
1940年代の建国以来、北朝鮮は長年にわたって食糧をほぼ自給自足してきた。公共配給システムの下、農家は収穫の大部分を政府に引き渡し、そこから国民に再分配されていた。金日成政権の初期から中期にかけては、北朝鮮の国民は裕福ではなかったかもしれないが、少なくとも集団で飢餓に陥ることはなかった。
そうした初期の成功には、もう1つ別の要素もあった。ソ連と中国からの支援だ。冷戦時代を通じ、北朝鮮はソ連と中国の不和を利用し、2国間でうまく立ち回ることができた。この三角関係に乗じ、北朝鮮は「クジラの間に挟まれたエビ」という弱い立場を強みにさえ変えていたのだ。
しかし1994年から1997年にかけ、公共配給システムはかつてない逆風にさらされた。基本食糧の配給量は1日450グラムから128グラムに減らされた。1994─1998年の深刻な飢きんで、北朝鮮では20万人とも300万人とも言われる死者が出た。
政府は国民を見捨てた。そして決定的に、誰もが自力で生きていかなくてはならなかった。平壌市内の有名大学の教授でさえ、生きていくためには市場活動に頼らなくてはならなかった。駅の外や大学の外で、妻と一緒に小麦粉と水で作った安いスープを売る人もいただろう。平壌のエリート階級の中には、急ごしらえの露店で家財道具を売る人もいただろう。こうして、飢きんにより、北朝鮮で市場経済の種はまかれたのだ。
<人民元への殺到>
北朝鮮政府は、この新たな経済秩序と難しい関係を強いられている。計画経済と公共配給システムがすでに崩壊していることを考えれば、「北朝鮮資本主義」の撲滅は、飢きん再発の可能性を大きく高めるリスクがある。もっと言えば、今では政権内部関係者の多くも、個人の富を作り出す手段として私的取引を行っている。もし全面的な市場改革が進めば、政権の立場を危うくする大きな社会的・経済的な変化につながるだろう。
北朝鮮にも改革志向の官僚は確かに存在するが、一方で指導層には変化に対する根深い恐怖心も存在する。エリート層に属する人間にとっては、完全な経済自由化は、ゆくゆくは特権的生活と禁錮刑や死刑の引き換えにつながるかもしれない。
北朝鮮政府は、個人的な取引の増加をコントロールすべく大抵のことはしてきた。例えば、市場の取り締まりも散発的だが行っており、2009年には通貨単位を100分の1に切り下げるデノミネーションを突如実施した。それまでの1000ウォンは10ウォンになり、旧札を新札に替える交換期限はわずか1週間だった。
デノミは実質的に、個人から国家への富の移転手段として機能した。それはなぜか。1世帯当たりの新貨幣への交換は旧貨幣で10万ウォン(当時の闇市場の為替レートで30─40ドル)という上限を設けたからだ。それ以上を持っていた人にとっては、例えば個人取引に従事していた人たちにとっては、ため込んでいた富が紙くず同然になったのだ。
この政策は長期的に見れば、北朝鮮国民を国家の経済統制のさらに外側に押し出すことになった。一般市民は今では、中国の人民元など他国の通貨を富の蓄積手段として求めるようになった。彼らは自国政府と自国通貨は信用すべきではないと学んだのだ。同時に、人民元での取引や貯蓄が、将来的に政府による財産収奪などから身を守る手段として使えることも学んだ。その結果、現在では北朝鮮での市場取引の大部分は外国通貨で行われていると推測される。その中で最も流通しているのが人民元だ。
そうなれば、グレーマーケットでの北朝鮮ウォンの非公式為替レートが下落しているのも、驚くには値しない。政府が設定する公式な為替レートは1ドル=96ウォンだが、本コラム執筆時点での「実勢」為替レートは1ドル=8000ウォン前後だ。北朝鮮ウォンはここ数年、通貨への信頼低下に伴って著しく下落している。
ウォンのブラックマーケットでの「実勢レート」は、普通の店やレストランでも一般的になりつつある。例えば、平壌市内の玩具店では、バスケットボールが1個4万6000ウォンで売られている。粗末な作りのボール1個の値段が400ドル以上だと本気で考える人はいないはずだ。
一方で、北朝鮮ウォンの二重レートは、興味深い側面も一部で生み出している。公共交通機関は今でも公式レートを反映した料金設定になっており、例えば平壌の地下鉄は5ウォンで乗ることができる。公式為替レートでもたったの5セントだが、実勢レートではただ同然だ。
<市場の裏側>
北朝鮮には2つの為替レートがあるのと同様、実質的には2つの経済がある。国の仕事に従事する人が国から給料を受け取る「公式」経済と、厳密には合法ではないが広く普及している手段で収入を得る「グレーマーケット」経済だ。現在の北朝鮮で本当に重要なのは後者だ。
「ジャンマダン」と呼ばれる北朝鮮の闇市場は、地方の住宅街の狭い路地裏や、時には市場活動用に特別に作られた建物内でも見ることができる。
市民がジャンマダンで露店を開くためには、共産党当局者に「使用料」を払わなくてはならない。つまり、市場経済化には国家も加担しているとも言える。一部の大規模な市場では、露店使用料の支払いを把握するための電子登録システムさえ導入されている。
ジャンマダンで露店を開いているのは、低中所得層の中年既婚女性が多い。儒教の影響が色濃い北朝鮮は男性優位社会であるものの、農村部などでは、男性ではなく女性が商取引に従事している場合が多い。
では、ジャンマダンで何が売買されているのだろうか。やはり中心となるのは生活必需品だ。国産たばこはかなり安いが、人気のある中国産やロシア産のたばこは、ブランドによっては2万ウォン(2.5ドル)で売られている。チョコレートは1枚3000ウォン(0.38ドル)前後で、コメは1キロ当たり5000ウォン(0.63ドル)前後だ。
米国の象徴とも言えるコカ・コーラさえ比較的簡単に手に入れることができる。1缶の値段は約6000ウォン(0.75ドル)で、諸外国のスーパーマーケットと大きな差はない。中国のビールは1缶4000ウォン(0.50ドル)、即席めんは1個7000ウォン(0.88ドル)、中国のインスタントコーヒーは1缶1万ウォン(1.25ドル)程度だ。ただ、北朝鮮通貨は値動きが激しいので、これらの価格は読者が当コラムを目にする時には大きく変わっている可能性はある。
中年女性がたばこや即席めんを小さな露店で売っている姿は、とても「洗練されている」とは言い難い。しかし、こうした女性たちが商品を買い付ける卸売業者の「経済理解度」は過小評価すべきではない。例えば、コメ業者は、海外からの支援物資到着の情報を事前に察知するため、外国の無線を(違法に)傍受している。もし物資が運ばれてくる途中なら、コメの市場価格は供給の増加を見込んで下落する。そこからは在庫を処分するために価格競争になる。
肥料が大量に北朝鮮に入ってくる時も、コメの生産量拡大が見込めることから、同様のインパクトを市場に与える。コメは北朝鮮人の生活にとって必要不可欠なため、その価格は大きな関心を集める。北朝鮮はコメの国内収穫量がまだ十分ではないため、不足分を補うためには支援や輸入に頼らざるを得ない。
こうした闇市場に関与しないことは、自身を危険にさらすことにもなりかねない。取引にあまり従事していないと考えられている中高所得世帯は、韓国に脱北した親類からの送金など、「(闇市場での取引)より許されない」収入源を持っていると疑われ、当局から調査を受けるリスクがあるからだ。これが、一部で皮肉な状況を生み出している。つまり、当局からの疑いの目を避けるために、「資本主義」に加担しているふりをする必要もあるということだ。
国家による管理と国家への忠誠が最も強い平壌市内でさえ、ほぼすべての世帯に、こうした取引活動に関与している人はいるだろう。たとえ何かを売っていなくても、その輸送や調達のほか、当局への賄賂には関わっているかもしれない。露店に立っているのは中年女性1人かもしれないが、その背後には複数の親類や友人が動いているとみられる。
<官民の「連携」>
北朝鮮の「新資本主義」に対する関心の中心にあるのは、ジャンマダンでの取引で生計を立てられるようになった市民である一方、そうした経済活動をしのぐのが「官民連携」とやゆされるビジネス形態だ。
1990年代半ば以降、北朝鮮政府は経済的には、ほぼ完全な失敗状況に追い込まれている。もちろん、特に平壌では依然として政治的には強い支配力を保っている。だが中央政府は、無数にある官僚組織や委員会を賄っていくだけの十分な収入や税収を得ることはできていない。
中央からの資金が十分ではないため、こうした政府組織は事実上、自主裁量に任された状態となっている。過去数年で市民に対する行政サービスはすでに著しく低下しているが、それでも最低限は機能させる必要がある。職員に対する給料も払わなくてはならず、もしくは、安月給の職員が生活していく術を見つけなくてはならない。自主裁量で場当たり的に問題を解決しなくてはならない状況が、こうした組織の下で疑似民間事業が生まれる下地になっている。
当然のことながら、こうした疑似民間事業をどう開始・運営するかについて決まったシステムなどは存在せず、「典型的」な例もない。ただ、成功例は概ね以下の通りだろう。特別な政治的コネを持ち、海外渡航が認められている政府組織の一員が、まず中国などで合弁会社設立や貿易の機会を模索する。食品や農産物、医薬品などが特に重点エリアだろう。いったん計画がまとまれば、依然として民間企業は違法とされているため、公式な国有企業が乗り出すことになる。
ただ、そこで生み出された利益は国家には一部しか入らない。北朝鮮にはまともな銀行システムがないため、企業は多くの現金を内部に貯めこむ傾向が強いからだ。
また、北朝鮮の経済システムは規則による支配が正しく働いていないため、疑わしい会計をやめさせる方法もない。このようにして、政府組織は予算の足しにすべく少しだけ利益をあげ、創業者は富を手にすることができる。ある情報筋によれば、こうした企業の管理職や幹部になれば、うまくいけば月収300─500ドルを得ることもできるという。
隣の韓国で管理職が稼ぐ額には遠く及ばないが、北朝鮮でこれだけの収入があれば、かなりの生活水準を手にすることが可能だ。
*筆者の1人ダニエル・チューダー氏は英エコノミスト誌の元ソウル特派員。もう1人はロイターのソウル支局で政治などを担当するジェームズ・ピアソン記者。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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