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チャイナ・プラス・ワンの行き着く先
有力候補地ベトナムは今、正念場に
2015年4月15日(水) 宮澤 徹
チャイナ・プラス・ワンが言われて久しいが、日本企業の海外投資にどんな変化が出ているのだろうか。産業立地に詳しい大阪市立大学商学部の鈴木洋太郎教授は、日本企業が最も注目していた国の一つであるベトナムが、正念場に立っていると指摘する。
(聞き手は宮澤徹)
鈴木洋太郎氏(すずき・ようたろう)
1960年生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科・商学部教授。一般財団法人アジア太平洋研究所(APIR)主席研究員。九州大学大学院経済学研究科経済工学専攻修了、博士(経済学)。専門分野は、産業立地論(国際産業立地研究)。主な研究テーマは「多国籍企業の立地展開と国際分業」、「グローバル化のなかでの関西・大阪の産業集積」、「日本企業立地先としてのアジア」。
日本企業の対中投資が大幅に減っています。チャイナ・プラス・ワンが本格的な動きになってきたようですが、現状をどう見ますか。
鈴木:チャイナ・プラス・ワンが言われ始めたのは10年以上前ですが、中国での反日デモなどを経て、日本企業がより本腰を入れてきたということでしょう。近畿地域の中小、中堅企業の海外進出のアンケートおよびインタビュー調査でも、その傾向は見て取れます。
そこでは、今後進出したい海外は、中国よりもベトナムとかタイと答える方が多いのです。中小、中堅企業は、中国リスクをかなり強く感じているようです。ただ、やはり中国マーケットは非常に大きいこともあり、大企業の中では中国から完全に手を引くという動きは恐らくないでしょう。
中国ではきっちりビジネスを行いつつ、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中でも後発のベトナムとかラオス、カンボジア、ミャンマーなどを狙っていこうという動きが強くなっています。ただ、産業分野によって事情は変わります。エレクトロニクス系の分野では、中国をマザー工場にして、ASEANの後発国を分工場的に使おうという動きもあります。それ以外の業種では、中国生産の完全な代替先として東南アジアを考えている企業もあるでしょう。
中国からの生産代替先の有力候補と期待されたベトナムは今、どんな状況でしょう。
鈴木:今でも、もちろんチャイナ・プラス・ワンの最大の候補ですが、正念場に立たされていると言っていいでしょう。2018年にASEAN域内の自動車関税が撤廃されます。今のままでは、自国内に自動車産業が育たないうちに、タイやインドネシアなどで生産された輸入車に市場を席巻されてしまう恐れが大きい。国内に自動車などの裾野産業が育っていないためです。自動車は産業の幅広い分野に関わってくるので、それが離陸できなければ、国の産業発展自体が足踏みしてしまう恐れが出てきます。
ベトナム政府もこのままでは国際競争力で後れを取ってしまうだろうという危機感を抱いています。対応策として、日系の中小企業誘致を積極的に始めています。部品などを作る金属加工業などが主なターゲットです。
ベトナムにある組立産業は、中国の華南地域から多くの部品を輸入していますが、それでは裾野産業は育たない。ベトナム政府としては、あまり中国依存を高めたくないという思いもあります。中国からの部品輸入が、貿易赤字を生み出す最大の原因になっているのです。
だから日系の中小企業などに来てもらい、現地生産をしてほしいのです。進出しやすくするために、レンタル工場などのインフラ整備にも取り組んでいます。
ベトナム側と日本側の思いは、中国への依存を減らしたいという点で、似ているところがあります。だから、日本にとってもベトナムが健全に発展することは、大事なことなのです。ベトナム経済が失速してしまうと、チャイナ・プラス・ワンの有力候補地を失ってしまうことにつながるからです。
人口ボーナスは長続きしそうにない
ただ、ベトナムなどでは人件費も急ピッチで上昇しています。中国に対するコスト優位性は保てるのでしょうか。
鈴木:生産コストが安いということは、もちろん今でもアジアに進出する場合に重要です。しかし、確実に人件費は上昇していきます。もう一つの問題が、ベトナムでは人口ボーナス、すなわち生産年齢人口の多さが経済成長を後押しする期間がかなり短いのではないかという点です。
ベトナムの人口は9000万人ぐらいですが、ハノイとかハイフォン、ホーチミンといった大都市部に住んでいる人は3割ぐらいしかいません。地方の農村部に7割の人が住んでいるのです。なおかつ、地方の農村が割と豊かなため、大都市部に出稼ぎ労働に来たいと考える人は多くありません。これが、中国とは違う点です。
中国の場合、内陸から沿岸部の都市へ向けた、出稼ぎ労働者の大規模移動が続きました。急速な経済成長を遂げた結果、本来だともっと早い時期に沿岸部の賃金が上昇するはずだったのが、思ったよりも賃金が上がらなかったのは、出稼ぎ労働者の流入が長期間、切れ目なく続いたためです。ただ、今は内陸でも工業化が進んで、わざわざ沿岸部へ行かなくても済むようになってきたこともあり、沿岸部の賃金が急速に上がってしまいました。
中国ではこうした仕組みにより、長期間人口ボーナスを享受することができました。一方、安い労働力だけを目的にベトナムなどへ進出した企業は、5年先ぐらいまでなら今のビジネスモデルで十分やっていけると思いますが、10年、20年先まで続けられる保証はありません。チャイナ・プラス・ワンで注目されているからといって、単に現在のコストを重視して、輸出拠点としてしか見ないようだと、安定的なビジネスは難しいという気はします。
ではどうすればいいのでしょうか。
鈴木:現地のマーケットを開拓できるような製品を作ることでしょう。工場労働者の人件費が上昇しても、それに伴って現地の購買力も高まり、マーケットが拡大して、売れるチャンスは大きくなっていくはずですから。それができないようだと、生産拠点を転々と移動させる、渡り鳥のような生き方しかできなくなります。
これからASEANの市場統合、関税撤廃が進むと、域内の産業立地もずいぶん変わるのでしょうか。
鈴木:ASEAN主要国の中で、賃金水準はフィリピンが低いですし、労働力も集めやすい。だからみんなフィリピンに産業立地するかというと、必ずしもそうはならないでしょう。それぞれの国に、既にどんな企業が集積しているかなどによって、ある部品はインドネシアで、別の部品はタイ、フィリピンで作るという分業が進むはずです。それだけではありません。現地のマーケットに合わせた製品を現地で開発し、地元のサプライチェーンを使い生産して消費者へ届ける。マーケットニーズが多様化する中で、地産地消的なモデルが一段と求められる可能性も高いのです。
このコラムについて
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