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[地球回覧]東南アジアも「新常態」へ
労働力不足、経済に影
東南アジア諸国はハイペースの成長を続けてきた。中国が経済の質を重視し成長鈍化を容認する「新常態(ニューノーマル)」にかじをきったいま、世界経済の新たなけん引役として期待が高まる。だが、成長のカギを握る人口増加のペースはタイなどで失速気味だ。15〜59歳の生産年齢人口が減少に転じた中国と同じく、労働力不足が経済に影を落とし始めている。
タイの首都バンコク郊外のマハチャイ。河口に面したこの港町には水産加工業などに従事する20万〜30万人のミャンマー人が住む。ミャンマー料理を出す露店が並び、隣国を歩くような錯覚を覚える。
「くにに帰る気はないね。こっちの方が実入りが多いからさ」。タイ国境に近いミャンマーのダウェーからやってきたアイミンさん(31)は「iPhone(アイフォーン)4S」を片手にニッと笑った。「本物だよ。1万5千バーツ(約5万5千円)もしたんだから」
夕方から早朝まで近くにある魚の缶詰工場で働く。日給は300バーツ。ダウェーにはミャンマー政府の肝煎りで巨大な工業団地が造成される予定だが、給料が高いタイにとどまるつもりだ。妻と2人の子どもを故郷に残してきた。インターネットで連絡をとる。
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地域市場の一体化を目指す東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体の発足を年末に控え、国境を越えた労働力の移動が本格化し始めたといえば聞こえがよい。ところが、タイにある企業が迫られるのは目先の人手確保だ。昨年のタイの実質成長率は政情混乱で0.7%にとどまったが、失業率は0.8%で完全雇用に近い。タイ人だけで経済は回らないため、200万人以上のミャンマー人が働く。
国連推計(中位)によると、タイの生産年齢人口は2010年から15年にかけて2万人増えただけで、5年以内に減り始める。労働力不足を補うため、すでに外国人労働者は総人口6700万人の6%にあたる400万人を超えるといわれる。
経済成長は労働力、資本の増加、生産性といった要素で決まる。なかでもタイのような新興国では労働力(人口)が大きな意味を持つ。働き手が増えれば生産が伸び、豊かになった労働者が中間層として消費を引っ張るからだ。
このシナリオを体現した中国は10年までの20年間、ほぼ2桁成長を続けた。原動力は人口増だった。1970年代から90年代にかけて8億人から12億人に増えた。90年以降は毎年2千万人の新規労働者が労働市場に流入した。しかし、90年代後半になると人口増にブレーキがかかった。
一人っ子政策に加え、豊かになった家庭がたくさんの子どもをほしがらなくなったのだ。生産年齢人口は12年から前年比マイナスだ。並行して潜在成長率も低下した。
中国の習近平指導部が唱える「新常態」は、人口動態からみれば自然な発想だ。李克強首相は今年の実質成長率の目標を7%前後に据える。国際通貨基金(IMF)は16年以降の中国の成長率をさらに低い6%台と見積もる。
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東南アジアはどうか。国連の予測をみると、タイの人口はまったく増えない。ミャンマーの人口は現状で5千万人ほどで、50年になっても6千万人を超えない。9千万人のベトナムは30年までにやっと1億人を上回る。例外はインドネシアとフィリピンの島しょ部だ。30年以降も増える。
人口動態に注目すれば東南アジアの潜在成長率は全体に低下していく。高い成長を続けるには労働力の「輸入拡大」が必要になる。カンボジアやラオスのような小国は賃金の高い国に多くの労働者を奪われれば、経済で浮かび上がれなくなる。高成長の終わりを意味する「新常態」が東南アジアにも迫っている事実を忘れないようにしたい。
(アジア総局編集委員 村山宏)
[日経新聞4月5日朝刊P.12]
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