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朴政権 3年目の憂鬱
(上) 崩れる岩盤支持層 政策・人事に「独善」批判
25日で就任3年目に入る韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領(63)が試練の時を迎えている。
「新年が再出発の機会になっていない」
「党が青瓦台(大統領府)に一言、言うべきじゃないか」
1月14日、与党セヌリ党が開いた幹部会議で朴氏の不人気を危ぶむ声が相次いだ。「何があっても40%は堅い」といわれた支持率は2月第2週時点で30%に沈んだ。
中高齢層が失望
「岩盤といわれた支持層の離反が起きている」と大手世論調査会社、韓国ギャラップの許珍宰(ホ・チンジェ)理事は分析する。背景には朴氏を支えてきた保守的な中高齢層の失望がある。
ソウルに住む70歳の男性は「高度成長を導いた故朴正熙大統領の時代に育ったから(娘の)朴氏に票を入れたけど、最近はがっかりすることばかりだ。福祉拡充の公約を(一部)守らなかったのに謝罪もしない。人事も理解できない」と話す。
2月第2週の支持率で50歳代は44%、60歳以上は52%と1年前に比べ約30ポイント下がった。19〜29歳の若者の支持は実に12%にとどまる。
逆風は朴氏の元側近が国政に介入したという疑惑を示す政府文書の流出事件から強まった。疑惑を否定した検察に対し「捜査が不十分」との批判が噴出。けじめをつけるべきだとの批判を受け朴氏は金淇春(キム・ギチュン)大統領秘書室長の更迭を決めたものの、責任論が出た古株の秘書官3人は今もかばう。
「密室で決定し、決めたら変えない」「忠告できる人物がいない」。就任以来、朴氏に独善との批判がつきまとう。「年末調整大乱」と呼ばれる事件が象徴的だ。
今年1月、韓国のサラリーマンの多くが激怒した。2014年実施の税制改正を受けた年末調整で政府の説明や推計以上に負担を迫られる例が相次いだからだ。
「今年は地方税法の改正はしません」。1月25日の行政自治省(総務省に相当)の発表にも戸惑いが広がった。住民税や自動車税など増税の方針を発表した2時間後の撤回だったからだ。
税収不足1.2兆円
14年の税収不足は景気の減速で11兆ウォン(約1.2兆円)に達し、大統領選で公約に掲げた福祉の充実に増税は避けて通れないはずだった。一連のドタバタ劇には朴氏のもう一つの公約である「増税なき福祉拡大」との整合性を気にした政権中枢からの圧力があったとの見方がもっぱらだ。
「増税なき福祉拡大など不可能だ。国民を欺いてはいけない」。セヌリ党の金武星(キム・ムソン)代表は3日の国会演説で朴氏の方針に異議を唱えた。しかし朴氏は「税収が足りないからといって増税するのが政治のやることか」と青瓦台の会議で反論した。
金氏は「増税は最後の手段」とトーンダウンしたが、来春に迫る総選挙を意識する与党内でも不満は隠しきれない。韓国の歴代大統領で一度落ち始めた支持率が再浮上した例はほとんどない。
[日経新聞2月25日朝刊P.7]
(中) 「原則外交」で自縄自縛 南北・日韓、改善見えず
今年に入り南北朝鮮の指導者がお互いに対話を呼びかけた。
「最高位級会談もできない理由はない」。まず金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が元日の演説で言及すると、朴槿恵(パク・クネ)大統領は1月12日の記者会見で「北朝鮮はこれ以上ためらわず対話に応じるべきだ」と強調した。
2人の言葉は宙に浮く。昨年10月、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長ら金氏の側近3人が突如訪韓した際に合意した高官級の協議すら実現していない。
経済が疲弊する北朝鮮の狙いは外貨収入につながる金剛山観光事業の再開など、韓国独自の制裁の解除だ。しかし朴政権は2010年の韓国哨戒艦沈没事件への謝罪などが先だと改めて主張し、膠着状態が続く。
秘密接触もなし
韓国の歴代政権は表向き鋭く対立しつつも、北朝鮮との意思疎通の道を保つよう腐心してきた。李明博(イ・ミョンバク)前大統領は回顧録で、関係が悪い時期もシンガポールなどで秘密接触をくり返したと明かす。
これに対して朴政権の元政府高官は「首脳会談の準備はしていない。秘密接触も一切ない」と断言する。朴氏は就任来の金看板である「原則外交」にこだわるあまり、自縄自縛に陥っているようにもみえる。
「首脳会談後に関係が逆戻りする懸念があるなら、大統領は絶対に金氏と会わないだろう」と先の元高官は予測する。朴氏自身も「当局で話し合いをしてこそ、制裁解除の議論もできる」と段取りを重視する。
なかなか腹を割ろうとしない姿勢は日本との関係にも浮かぶ。「従軍慰安婦問題の解決に最善を尽くすのが第一歩になる」。13日、朴氏は訪韓した自民党の二階俊博総務会長にクギを刺した。
現在、日韓のパイプは外務省局長級協議にほぼ限られる。青瓦台に探りを入れる日本側は「朴氏の真意がなかなかわからない」(外務省幹部)と嘆く。3月末にソウルで予定する日中韓外相会談が、近い将来の日韓首脳会談につながるかどうかは見通せない。
米中のはざまで
一方、韓国外交は「安保は米国、経済は中国」と使い分けてきた。呼応するように米国はアジア回帰を進め、中国は地域の盟主をめざす。かみ合ってきたように映った韓米中の三角関係にもきしみが聞こえてきた。
「この問題で中国との関係を壊すのは極めて望ましくない」。11日、最大野党である新政治民主連合の文在寅(ムン・ジェイン)代表が国会で迫った。在韓米軍が検討している「戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を慎重に考えるべきだとの訴えだ。
THAADは高性能のレーダーを使って弾道ミサイルの動きをつかみ、はるか高い上空で撃ち落とすシステムだ。表向き北朝鮮対策だが、中国側は「我々へのけん制でもある」と警戒を強める。韓国の政界は「米韓同盟派」と「中国配慮派」に二分されかねない。
米国が環太平洋経済連携協定(TPP)の妥結に動く一方、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立準備を通じて韓国に秋波を送る。朴氏は1月12日の記者会見で「韓米同盟をきっちりと維持しながら、韓中の関係をさらに充実させたい」と述べ、米中双方の顔を立てた。二大国とは波風を立てたくない朴氏に踏み絵が続く。
[日経新聞2月26日朝刊P.7]
(下) 「輸出主導の成長」限界 中小育成も財閥頼み
昨年12月、韓国南東部の慶尚北道亀尾市を訪れた朴槿恵(パク・クネ)大統領は上機嫌だった。「結婚式で息子や娘を送り出すようなうれしい気持ちだ」。朴氏は自らの肝煎りで準備してきた「創造経済革新センター」の開所式に臨んだ。
17カ所で育成
同センターは昨年9月の大邱を皮切りに、今年6月までに全国17カ所に開く中小・ベンチャー企業の育成拠点だ。1997年の通貨危機の後、韓国の重点課題であり続けた「脱財閥経済」を推し進める原動力として期待が高まっている。
中小企業を育てる取り組みは長く必要性が叫ばれながら、遅れてきた。朴氏は結果を出すため、奥の手と言える仕掛けを用いた。財閥を中心とする大企業に17のセンターをそれぞれ受け持たせ、技術開発や販路開拓を手ほどきする仕組みだ。
大邱と慶尚北道はサムスングループ、南西部、光州は現代自動車、釜山はロッテが担い、主な支援業種も各財閥の得意分野により違う。財閥同士のプライドや政権への忠誠心を競わせる狙いだ。慶尚北道のセンター長にはサムスン電子出身の金鎮漢(キム・ジンハン)氏が就いた。
朴政権が中小・ベンチャーの育成をテコに内需拡大をめざす背景には、財閥による輸出主導の成長モデルの限界がある。ウォン高で現代自は日本勢との競争に苦しみ、サムスンは中国でスマートフォンのシェアを奪われた。韓国貿易協会によると、14年の輸出は前年比1.5%減の603兆ウォン(約63兆円)と2年連続で前年割れとなった。
地位乱用の悪弊
目先の雇用吸収力が弱まるだけでなく、急速な少子高齢化が将来の危機感を増幅する。韓国の生産年齢人口(15〜64歳)は17年に減少に転じる見通しだ。1990年代から日本が長く経験してきた人口減による低成長のワナから逃れるには、1人当たりの稼ぐ力を高めるほかない。
一方で中小企業の育成を財閥に頼む皮肉な構図には限界も浮かぶ。
「契約書を作らずに口頭で納品を要求し、報酬を払おうとしない」「強引に資料を持ってこさせて技術を奪う」。韓国で中小・ベンチャーが育たなかった主因は、優越的な地位を乱用した財閥による搾取の現実がある。朴政権が旗を振ってもすぐに悪弊が改まる保証はない。
さらに17カ所のセンターの職員には公務員や財閥の関係者が多く、斬新な発想や起業の意識を高められるのか不安がつきまとう。朴氏を支えるはずの政府関係者から「財閥は節目節目で成果を演出するだけだ」「政権が代わればセンターは尻すぼみに終わる」と冷ややかな声が早くも漏れる。
「国民はこの2年の朴政権の経済政策が完全に失敗したとの評価を下した」。最大野党の新政治民主連合は朴政権のかじ取りを激しく批判する。昨年8月には非正規労働者の数が初めて600万人を超えた。中小・ベンチャーの育成には時間がかかる。国民の不満を希望に変えられるかどうかが、朴政権の残り任期3年を左右する。
内山清行、小倉健太郎、加藤宏一が担当しました。
[日経新聞2月27日朝刊P.7]
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