04. 2015年2月03日 17:28:52
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コラム:ウクライナ情勢でかく乱、プーチン氏「真の狙い」は 2015年 02月 3日 11:20 JST Nina Khrushcheva[2日 ロイター] - 西側諸国との対立で孤立を深めるロシアのプーチン大統領。同大統領は世界を混乱の渦に巻き込み、油断のならない状態に陥れている。いかなる答えもプーチン氏の手中にある。 ウクライナ東部での戦闘はかつてないほど激化している。主要都市ドネツクとルガンスクでは、ロシアの支援を受ける親ロシア派勢力が支配地域を拡大すべく最新兵器を使用している。 一方、情報機関の報告書や衛星画像から十分な証拠があるにもかかわらず、プーチン大統領はロシアの関与を否定し続けている。米中央情報局(CIA)が誕生させたウクライナ現政権からの分離を求めて戦う反政府勢力に、自分は何ら影響力を持たないと言い切っているのだ。 プーチン氏には大げさに戦争を振りかざす「大義名分」がある。西側による経済制裁と石油価格の急落でロシア経済が破綻の危機にあるなか、戦争の脅威で自身の独裁政権が正当化できると考えたのかもしれない。同国経済が景気後退(リセッション)入りする懸念が高まっており、ロシア国民はクリミア併合の高い代償を支払うことを余儀なくされている。 支持率が80%を超えているプーチン大統領は、国民の愛国心に訴えるため経済制裁を利用しているようにも見える。 プーチン氏は力強く、決断力があり、ロシアの全権力を握っているというイメージを築き上げた。西側諸国がクリミア併合を受け入れなければ、同氏の好戦的な態度は弱まることがないかもしれない。 だが、西側がそれを受け入れる可能性は非常に低い。クリミア併合はあらゆる国際基準を無視しているからだ。それに西側の犠牲者であることは、プーチン氏にとってかえって好都合だと言える。 プーチン大統領は先週、アウシュビッツ強制収容所解放70年の追悼式典に出席しなかった。世界の指導者から冷遇され、代わりにプーチン氏はモスクワで大観衆を前に旧ソ連軍が1945年に成し遂げたこの功績を祝し、欧州がロシアの犠牲に感謝の念がないことを非難した。 プーチン氏はまた、先月にスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)年次総会も欠席した。代わりに閣僚らが送り込まれたが、譲歩を見せる閣僚もいれば、プーチン大統領を擁護する閣僚もいたりと、さらなる混乱を引き起こしただけのように見えた。 ドボルコビッチ副首相は、ロシアが世界、とりわけウクライナ情勢の安定に関心があるとし、西側とロシアの関係の前向きな「ターニングポイント」について語った。 その一方で、シュワロフ第1副首相は同じくWEFで、西側の対ロシア制裁はプーチン政権を打倒しようとするものだと非難。ロシア国民は自分たちの大統領を支えるため、経済的・軍事的犠牲を払う覚悟があると強調した。 混乱はこれだけではない。ロシアは、昨年9月のウクライナ政府軍と親ロ派の停戦合意を徹底させるべく、ベラルーシの首都ミンスクで先月末に行われた和平協議に参加したが、交渉は決裂した。親ロ派の指導者らはいかなる和平交渉からも撤退し、戦略的な港湾都市マリウポリとその周辺への攻撃を開始。もし親ロ派が占拠すれば、ロシアにクリミア半島への陸路を与えることになるかもしれない。 プーチン大統領は関与を否定しているが、親ロ派が自分たちでこのように大きな地政学的改造を始めたとは考えにくい。 一部の政治アナリストは、プーチン氏が行っていることはすべて、非対称的報復だと主張する。同氏は自分の権力が軽視されていると感じるたびに激しい反撃に打って出る。軍部隊の配備や過熱した反欧米的な発言やマリウポリへの攻撃は、ドイツのメルケル首相が、ロシアがウクライナの主権を弱体化させたと非難したことに対する「答え」なのだ。 この説に従うなら、プーチン大統領はより大規模な戦争の可能性という脅威を欧州と米国に感じてほしいと考えている。ロシアとの交渉のテーブルに欧米をつなぎとめることができるからだ。もし話し合いが失敗に終われば、大統領はロシアには軍拡しか選択肢がないと思わせようとするかもしれない。 一方、一部の専門家は、プーチン氏の真の狙いは戦争ではなく、交渉にあると指摘している。つまりロシアは、ウクライナ東部の親ロ派に支配地域の拡大を後押しすることで、近い将来の協議において手段として利用できる新たな既成事実をつくろうとしているのだという。 この場合、ロシアの関与否定と親ロ派の攻撃は、共にロシアの外交手腕を高めることに寄与する。親ロ派の勢力拡大を防ぐには、ウクライナ政府は連邦化に同意する必要に迫られるかもしれない。最終的には、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念せざるを得なくなる可能性もある。 プーチン大統領のことをどう思おうが、西側は今後も交渉のテーブルに着かなくてはならない。ドボルコビッチ副首相がWEFで示唆したように、同大統領が世界情勢で積極的な役割を果たすとする決断を貫く可能性はある。 そうすることで、ロシアは追加制裁の回避が可能かもしれない。ロシア経済はそのようなさらなる打撃に耐えることはもはや困難であり、すでに大量解雇も実施されている。国民の不満が高まれば、プーチン政権の存続も脅かされることになりかねない。 ウクライナ東部のいわゆる「ドネツク共和国」は、ウクライナの不安定化という目的をロシアが果たすのに一役買ったかもしれない。だが、298人が犠牲となった昨年7月のマレーシア機撃墜や約30人が殺害された2週間前のマリウポリ攻撃など、親ロ派の愕然(がくぜん)とするような行動の数々は、ロシア全土に不安を引き起こしている。 結局のところ、ロシアの閣僚に異なった発言をさせるのも、皆を混乱させておく戦略なのだ。そしてそれは、すべての答えを握る指導者としてのプーチン大統領のイメージをいっそう強固にするだけだろう。 *筆者は米ニューヨーク市にあるニュースクール大学の国際関係学教授で、旧ソ連の元最高指導者フルシチョフ氏のひ孫にあたる。著書に「The Lost Khrushchev: A Journey into the Gulag of the Russian Mind」など。 http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0L705920150203
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