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「不都合な真実」を語り始めた日米当局者たち[日経新聞]
編集委員 高坂哲郎
2014/12/25 7:00
2014年は、ロシアによるクリミア半島奪取や、中東での「イスラム国」の勢力拡大など世界を揺るがす悩ましいニュースが相次いだ1年だった。日本周辺でも中国の軍拡に伴う摩擦が続いた。そんな中であえて「前向き」な動きがあったとすれば、一部の心ある日米の安全保障当局者たちが、日本の防衛をめぐる「不都合な真実」をストレートに語り始めてくれたことが挙げられる。
■中国軍に与えられた「新たな任務」
「中国軍は短期間かつ鋭利な戦いで日本の自衛隊を粉砕し、尖閣諸島または沖縄諸島南部を奪い取る新たな任務を与えられた、と我々はみている」――。今年2月、米海軍太平洋艦隊情報部長だったジェームズ・ファネル大佐が米サンディエゴで開催されたシンポジウムでこう語った。米軍に介入の余地を与えずに素早く日本の領土を奪い取ることを中国軍が本気で考えている、との厳しい現状を認めた発言だった。
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中国軍は弾道ミサイルの同時大量発射で日米のミサイル防衛(MD)網をすり抜けられる態勢を構築中だ(日本列島を射程に収めるDF21弾道ミサイル)=AP
その後、大佐が情報部長のポストから異動になったことが今年11月初めに公になった。時あたかもアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が北京で開催される寸前で、異動は、中国を刺激する発言をした大佐を事実上更迭することでオバマ政権が中国に配慮したものと受け止められた。米国の論壇には大佐への強い同情論もあった。
もう一つのストレート・トークは今年11月上旬にあった。ある日本政府幹部が都内での会合で「私は米軍のエア・シー・バトル(空海戦闘、ASB)構想に若干懐疑的だ。ASBでは、(米軍が)どう反転攻勢に移るのか、どこを攻撃するのかがあいまいで、米側に聞いてもはっきりした答えは返ってこない」と打ち明けたのだ。
ASBとは、中国が将来、奇襲的な軍事行動に出た場合、米軍がいかに反撃し最終的に戦争に勝利するかを考えた戦略構想だ。
中国軍は核兵器も搭載できる中距離弾道ミサイルの大量配備などに動いており、その気になれば米軍や自衛隊のミサイル防衛(MD)システムでも迎撃し切れないほどの大量のミサイルを発射する「飽和攻撃」が可能だ。そのため、情勢緊迫時に在日米軍は、奇襲攻撃を受けての全滅を避けるためオーストラリアなどへ「戦略機動」という名の一時退却をする(米軍の退却の素早さは、11年の福島原発事故の際の米兵家族の日本脱出の際にも確認されている)。その後、態勢を立て直した米軍は、機をみてステルス戦闘機や潜水艦発射の巡航ミサイルなど空軍や海軍主体の反撃を開始し、中国の軍事基地などを攻撃し屈服させる、というのがASB構想の概要だ。
ただ、同構想をめぐっては「米軍が中国本土の基地を攻撃すれば、中国は逆上し、核兵器の撃ち合いを含む大戦争になってしまう。そんな戦略が本当に実行可能なのか」との批判が米国内で浮上している。また、最近では日本国内からも「米軍は一時退却できるからいいが、日本国民はどこに逃げたらいいのか」としてASB構想は「日本人見殺し」を前提にしているとの声が出始めている。
■「安保のプロたち」に欠ける精神
(写真略)
米軍は中国のミサイルの射程外への兵力分散を進めている(オーストラリア北部のダーウィンに到着した米海兵隊部隊)=AP
日本では「日米安保条約が日本の安保政策の基軸」と長らく言われ続けるうちに、いつしか「米国との良い関係の維持」が自己目的化し、米政府や米軍幹部に不都合なことについては黙り込んだり、思考停止したりする悪しき慣行が日本の政官産学各界に広がってしまった。その結果として、飽和攻撃を受けたらたちまち弱点が露呈するMDに多額の出費を続ける一方で、より確実に国民を守れるシェルターや避難訓練の普及が進まないというゆがんだ現状がある。それは、中国にとっては、日本を脅迫しやすい便利な状況が続くことを意味する。
日本の安保当局者OBの中には「いったん日米と中国の戦争が始まったら、国民の犠牲をゼロにするなんてできないですよ。戦争なんですから」と割と平然と語る人もいる。そこには、ひとりでも多くの国民を守ろう、せめて子供たちだけでも確実に守れる体制を築こうという「最善を尽くす」精神がほとんど感じられない。
国民が「安保のプロたち」に丸投げしているうちに、気がつけば日本人の安全は根元から浸食されている。
そんな中での「ASBに若干懐疑的だ」との日本政府幹部の発言は、米軍が中国の奇襲攻撃を受けた後、反撃に出るに出られず、日本が満身創痍(そうい)になった末に中国に屈服するという最悪の展開もありうるとした「勇気ある警鐘」と受け止めるべきなのだろう。そうした声に耳をすまし、日本と国民をより確実に守るため本当に必要なことは何かを、より多くの人々が自分の問題として考え、行動を始める。そんな2015年になってほしいと切に願う。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO81196520S4A221C1000000/?dg=1
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