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「イスラム国」敵失で延命
有志連合、「寄り合い」意思決定遅く
中東地域で勢力圏を広げる過激派「イスラム国」と、米軍を中心とする有志連合との攻防が続いている。イラク西部地域を手始めに米軍の攻撃が始まって既に4カ月以上が過ぎたが、イスラム国を弱体化するにはほど遠いのが現状だ。
「イスラム国らしき武装した車列を見つけた。攻撃してよいか」「味方の地上部隊かもしれない。確認するまで待て」。イスラム国の支配地域上空を飛ぶ有志連合の戦闘機が「攻撃許可」を求めると、カタールの米軍基地内に置かれた連合航空司令部からこんな返事がきた。地上にはイスラム国と戦うイラク政府軍やクルド人部隊もいる。連合司令部が確認のうえ「味方でないことがわかった。攻撃を許可する」と伝えたが、すでに車列は市街地の中に消えていた。
米軍の任務限定
イラク・シリア一帯ではこんな「攻撃不発」が相次いでいる。8月8日に米軍が開始したイスラム国への攻撃作戦には、その後、英仏やサウジアラビアなど欧州や中東から10カ国以上が加わり、後方支援など具体的行動を始めた「有志国」は日本を含む約40カ国に及ぶ。それでも「イスラム国の勢力範囲を狭めることはできていない」(宮坂直史・防衛大学校教授)。「寄りあい所帯」故に迅速な意思決定をできないことが作戦難航の第一の理由だ。
連絡が不十分なために、クルド人部隊向けに空から投下した軍事物資が別の勢力に奪われる事態も起きている。本来なら、作戦の中心的役割を担う米軍部隊がわずかでも地上にも展開して攻撃や物資投下の誘導、攻撃の効果測定などをすることが合理的ではある。しかし米国のオバマ政権は約3100人派遣予定の米軍地上部隊の任務を、イラク軍やクルド部隊の司令部での助言、イラク軍の訓練などに限定したままだ。
その結果として、イラク軍やクルド人部隊が地上作戦を任されているわけだが、彼らの士気や練度が貧弱なのが作戦難航の2番目の理由だ。イスラム国の部隊を見たイラク軍兵士が恐怖のあまり武器を捨てて逃げ出したり、米軍がイラク軍に供与した車両がイスラム国に奪われたりする事態も頻発。米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長も「イラク軍の半分は味方として失格。残りの半分も訓練し直す必要がある」と語る。イスラム国は「敵失」で延命している。
作戦難航の三つ目の理由が、空からの攻撃にうかつに踏み込めない事情があることだ。シリア領のイスラム国は携帯式の地対空ミサイルを保有。これに撃墜される事態を恐れる米軍は、対地攻撃機や戦闘ヘリの投入に慎重で、秋に予定していたイラク軍へのF16戦闘機の供与も延期した。
参加部隊間の調整の悪さといった事情は、どれも「戦術レベル」の問題であり改善の余地はある。ただ、イスラム国との戦いでは、より高度な「戦略レベル」での深刻な問題がある。
前例のない事態
「ソーシャル・メディアなどで自分や家族の行動予定を開示しないように」――。米軍は最近、兵士たちにこんな呼びかけをした。米欧社会に潜むイスラム国の共鳴者らが米兵や家族を誘拐・殺害する事態を危惧しているのだ。米軍の過去の戦争ではなかった異常事態である。米軍事紙ミリタリー・タイムズが米軍の将兵2200人以上を対象に実施した調査では、イラクでの戦闘にこれ以上関与することへの反対を表明したのが全体の70%に達した。
オバマ政権は「作戦には数年間を要する」としているが、「数年間」で済む保証はまったくない。作戦が長期化すれば、現在は人道支援を担う日本などにも、軍事面での寄与や負担を求める動きが出てくる可能性がある。「対イスラム国作戦という泥沼に米国がはまり込んで国力をそがれれば、中国やロシアを喜ばせるだけだ」と懸念する声も米欧では出始めている。
(編集委員 高坂哲郎)
有志連合とは
安全保障条約に基づく軍事同盟が固定的な連合体なのに対し、「有志連合」は各国がその時の状況や目的に応じて参加を判断する緩やかな連合体だ。既存の軍事同盟が機能しない場合の代替策となる。米国はイラク戦争のころからこの形態での軍事作戦をとるようになった。ソマリア沖海賊取り締まり活動のように、中国やロシアも参加する幅広い顔ぶれになる場合もある。ただ参加国が多彩になるほど、武器や通信システムの違いも大きくなり、作戦調整に手間取ることにもなる。
[日経新聞12月16日夕刊P.2]
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