09. 2014年12月24日 13:57:16
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米軍が日本から退却する日自衛隊に決定的に欠けている能力とは何か。それは盾と矛の「矛」、つまり剣である。 1国の防衛には常に盾と矛が必要である。盾とは相手の攻撃から自らを守る兵力であり、矛とは、相手の攻撃力を根本から破壊し、攻撃を止めさせる兵力である。いくら盾で相手の矛から身を守っても、相手が矛を持つ限り、延々と攻撃を受けることになり、いつかは隙を突かれて自らの体は相手の矛で貫かれる。自らを守るには、自らの矛を以て、相手の手から矛を落とし、攻撃を止めさせるしかないのである。 現代の防衛力に当てはめ、極めて単純化したイメージで説明すると、日本を攻撃するミサイルを撃ち落とすイージス艦、攻撃機を撃墜する戦闘機は盾である。我が国の領土領海を侵略する敵部隊を追い払う兵力も盾である。しかし、それだけでは絶えず攻撃を受け続けることになるため、そのミサイルや攻撃機、敵部隊が2度と日本に来ないように、その基地を破壊しなければならない。そのために必要なのが弾道ミサイルや巡航ミサイル、爆撃機といった矛である。現在の憲法解釈と日米共同体制の柱である「盾と矛」の任務分担を基本とする自衛隊には、その矛はない。それを持っているのは米軍である。 よく「日本の平和は米国の核の傘に守られた平和だ」という指摘がなされるが、日本の平和は、核兵器だけではなく、米国の通常兵器の矛があって初めて成り立っている。この核兵器と通常兵器を合わせた矛のことを「戦略的打撃力」とも呼ぶ。 日本も、支援戦闘機という名目で攻撃機を持つなど矛になり得る兵器もあるが、その量は極めて限られ、現実的には中国やロシアを相手にする時、その矛を失わせるレベルではない。米軍の矛を「戦略的打撃力」とすれば自衛隊のそれは「戦術的攻撃力」と定義できる。その本質は盾としての力でしかない。これは憲法9条による「専守防衛」の原則で防衛力整備をしてきた結果である。だからといって、現在の日米共同体制や自衛隊の態勢を否定的に捉える必要はない。この考え方は自衛隊と米軍の戦略的任務分担から考えれば合理的な選択であり、これに基づく防衛力整備上の資源を防勢作戦機能に集中したことにより、自衛隊は世界第一級の戦闘集団に成長したとも言えるのである。 もちろん米国のアジア戦略は、我が国そのものの防衛と、その結果として在日米軍基地を防護する自衛隊という盾を前提に成り立っているのであり、日本が全てを一方的に米国に依存しているわけではない。米軍から見れば、この前提があるからこそ、アジア、中東、オセアニア地域で高い柔軟性を持って、軍事力を展開できるのであり、その両国の相互補完関係こそが日米安全保障条約に基づく日米同盟の本質と言えるだろう。 中国の軍事力整備から見た戦略「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)、中国が、アジア・太平洋地域からの米国排除を目的に、自らの兵力展開の自由度を確保するため、南西諸島を中心にした日本の国土を侵略する危険性がある。中国の侵攻を抑止あるいは排除して領土領海を守るため、盾としての自衛隊の防衛力のあるべき姿、あわせて矛としての能力、つまり戦略的打撃力を有する総兵力52,000人の在日米軍をも防護する重要性を論じるべきである。 危機から有事にかけて、展開済みの在日米軍に加えて、米国本土などから増援する米軍部隊を自衛隊がいかに守るかも重要である。 この増援は米海軍の空母部隊、米海兵隊、米空軍の航空機、物資弾薬の補給、場合によっては陸軍の部隊の投入も考えられ、かなりの大規模になることが予想される。核戦争になる場合を除けば、この増援を成功させれば、その矛を以て、中国本土の基地や主要施設に打撃を与え、中国の矛を無力化することができる。あるいは、この能力を確立することにより中国の冒険主義を抑止することができる。しかし、これに失敗すれば、米軍は在日米軍も含め増援兵力を得られなくなり、結果的にせよ自国領であるグアム、ハワイまで後退に追い込まれる恐れもある。 その時は、矛なき日本の安全保障は破綻し中国から「撃たれっぱなし」の状況に陥り、最悪の場合、日本から小笠原諸島までの第2列島線までは、中国が自由に軍事力を運用できる勢力圏となる。日本の領土である南西諸島、さらに小笠原諸島まで中国に奪われることになるのである。小笠原沖でのサンゴ密漁対処の混乱は図らずもその恐れを裏付けた。 中国の目的は米国侵略ではない 米軍の来援支援の確実な維持という自衛隊のもう1つの重要任務は、日本の存亡に関わり、米国のアジア戦略の根幹にも関わる重要なことでもあるにもかかわらず、今日の日本では、尖閣・南西諸島防衛の陰に隠れ、そのことがほとんど論じられなくなってしまった。冷戦時代には当たり前のように考えられてきたことであるが、尖閣・南西諸島防衛にのみ目を奪われてしまい、今や省みる者は皆無である。増大を続ける中国の脅威を前にして、日本人は、島嶼防衛と共に一刻も早く米軍来援を支援し、確実にするための環境を整えなければならない。 中国の軍事力整備から見た戦略「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)は、米国の領土・領海を侵略するための戦略ではない。単純に言えば、世界中どこでも、自国が望む所に自由に行き来し、影響力を行使できるグローバル・リーチこそが中国の目的であり、これと対立し、中国の活動を妨害する米軍の影響力排除を目的にした軍事力整備の戦略である。 換言すれば、中国は米国と互いの国家の存亡をかけて戦おうとしているのではなく、太平洋からインド洋にわたる広大な地域から米軍の影響力を排除しようとしているだけである。万が一、戦争となっても、太平洋、インド洋で米国と戦って有効な一撃を加え、米軍を自国領域まで退却させればいいと考えている。 これを米国から見た場合、自国の領土まで下がればいいということは、太平洋からインド洋までの勢力圏を失うことにはなるかもしれないが、同時に固有の領土領域を失うわけではないということを意味する。残念ではあるが、現状では、これは米国、特に米国の政治にとっても全く非現実的なオプションではなくなりつつある。深刻なシリア情勢に直面したオバマ大統領は「米国はもはや世界の警察官ではない」とし、米国の限界を認めている。ただし、筆者の接するワシントンやハワイの米軍関係者はこの立場ではなく、対中戦略と作戦に強い自信を持っている。このような心強い側面はあるものの、真のシビリアンコントロールが機能する米国のことであり、我が国は引き続き米国の動きに強く注目する必要がある。 逆に、この米国の動きは、それが米国政策のごく一部としても日本にとっては死活問題だ。米軍がハワイ、グアムまで退却すれば、盾の機能しか持たない日本は、当然、中国の矛に一方的に撃たれるだけの存在となり、その勢力圏に落ちざるを得ない。ロシアが米国の空白を狙うことも考えられるが、中国ではなくとも、やはり民主主義とは水と油の関係となる専制的な国家の勢力圏に落ちることには変わりない。 このような攻勢的特質を有する中国の「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)への切り札となる常続的な米軍のプレゼンスの維持、特に危機から有事へわたる米軍の増援基盤を確保することへの関心が薄れているのが我が国の現状である。そして、この偏った認識こそが、日本にとって危機的な状況を作りかねないものであるということは、話を進める前に認識しておかなければならない。 対艦弾道弾ミサイルの脅威 対中有事にあたって、日本に来援する米軍の中核となるのは、やはり空母打撃部隊だろう。自衛隊にとってはイージス艦を中心とした艦艇部隊が、その防護に当たることが最も重要な来援支援となる。これに対して中国が、今最も期待をかけているのが開発中の対艦弾道弾(ASBM)のDF-21Dである。 ASBMは弾道弾(BM)の一種で、目標の艦隊近くまでは通常の自由落下の物理的法則を利用した弾道飛行をするが、最終段階では空母などの目標艦を識別して、弾道を修正した誘導で狙った目標に命中させることのできるミサイルである。弾道弾であるため巡航ミサイル(CM)よりも遥かに高速だが、命中精度は精密誘導兵器であるCM並みに高いと見積もられている。日米には極めて大きな脅威である。 これは、まだどこの国も持たない人類が初めて手にする兵器システムで、日米ともに、このASBMを迎撃する技術を持っていない。日米のイージス艦は無論、通常のBMやCMなら迎撃できるが、BMと誘導弾を組み合わせたこの兵器には、現状武器体系では対応できないだろう。高々度から高速度で飛来するBMの特長と、最終段階では高い命中精度があるCMの特長を兼ね備えたASBMを迎撃する技術は、未だ確立されていないのである。中国は、冷戦時代に米国から流出したパーシングミサイル(誘導精度を特に高めた準中距離弾道弾の一種)の誘導技術を応用して、開発を進めていると言われる。 ただ、ASBMはまだ100%完成はしていない。実用化は5〜10年後と予測されており、イージスシステムのBMD機能の改良などで対処能力を開発しなければならない。また、それが可能なのはBMD能力を有するイージス艦を運用する日米の2国しかないのである。 しかも、この迎撃技術の開発は決して米国任せにしてはならない。むしろ日本が先行して開発すべきものである。なぜなら米来援部隊の防護が我が国の防衛と並ぶ自衛隊の大きな任務であることは言うまでもないが、何よりDF-21Dの射程は約2000kmで、中国本土から小笠原諸島周辺海域までと推定されるからである。これはつまり、米国本土防衛に対する脅威ではなく、日本の国土防衛に対する脅威に他ならないということなのだ。 同時にASBMの本体の迎撃・破壊能力に加え、ASBM発射データを収集する中国の監視偵察衛星等の指揮管制機能を無力化する能力構築も日米の協力で進め、ASBMに対抗する総合的な艦隊ASBM防衛(FASBMD:Fleet ASBMD)の確立を急がなければならない。 日本では、イージス艦について北朝鮮の弾道ミサイル対策ばかりで議論されるが、イージス艦の重要な任務には、西太平洋における来援する米軍の防護もある。北朝鮮のミサイルに対してイージス艦が有効であることは論を待たないが、しかし、それだけの専用兵器ではないのである。現状の6隻では明らかに足りない。防衛力整備計画ではこの点を、より真剣に議論しなければならない。 2014年7月の報道によれば、当時の防衛大臣はイージス艦をさらに2隻建造し、8隻体制とする方針を示した上で、これも「北朝鮮のミサイル実戦配備を意識したものである」との認識を示した。これはBMDの観点からは意義があるが、自衛隊のもう1つの重要任務である米軍来援基盤維持任務への配慮に欠けており、ある意味で偏った認識にとどまっていると言わざるを得ない。我が国土の防衛と米軍の来援支援双方を念頭に入れた防衛力整備・運用計画を早急に立て直さなければならない。 空母喪失=戦意喪失 中国の対艦弾道弾(ASBM)の最大のターゲットは、明らかに米海軍の空母である。空母は海軍において最重要兵器であるとともに、米軍のシンボル的な存在でもある。中国は、米国が空母を1隻でも失えば、米国民、特にワシントンの戦意が揺らぐ可能性があり、数隻を失えば戦意を喪失する可能性が高いと、考えている節がある。そして、この考えは決して非現実的なことではない。 中国の軍事力整備から見た戦略「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)の真の狙いは、ワシントンの意思決定機構の戦意を喪失させることである。米軍の最高司令官である大統領、そして連邦議会、国家安全保障会議、国防総省、国務省の意思決定を行う最高幹部達に、米国が積極的にアジアに関わるという意思を弱くさせるのだ。そうすることにより「戦わずして勝つ」または「自らに有利な戦略環境を作ることができる」と北京は考えているのである。 空母の喪失は、米国大統領と上下両院議員たちに、中国の強大な力を見せつけることになる。米国民に「空母を失ってまで、他国のために海外に軍隊を派遣する必要があるのか」という疑問と世論を起こさせれば、ワシントンの意思はさらに弱まる。ましてや、その際に日本・自衛隊が何もしなかった、あるいは極めて不首尾な防護作戦しかできなかったとなれば、その結果は火を見るより明らかである。そうすれば、米国が我が国の防衛や当地域の安定のための軍事作戦を続けることはできなくなると、北京は考えるわけだ。 これは何も新しい手法ではない。大日本帝国海軍の山本五十六連合艦隊司令長官が真珠湾攻撃を決行した時、米艦隊撃破に加えて、米国民に大きなショックを与え、ワシントンの戦意を挫くことが大きな目的だったー実際には、山本長官の目論見は外れて結果は逆になったのだが。 加えて軍事的に見ても、空母を1隻でも失うということは、いかに世界一の軍事大国といえども、計り知れない打撃を受けることになる。米国の空母は現在10隻体制(今後1隻増やし11隻体制に戻す予定)であるが、実戦に即応できるのは、実は3隻程度である。まず原子力エンジン整備などで10隻のうち1隻はドックに入っている。さらに多数の航空機を搭載し、発着艦をさせる空母は整備や訓練を繰り返さなければならず、また護衛部隊との高度な連携および熟練の飛行甲板クルーや精鋭パイロットも必要とする。これらの要素を考慮すると残る9隻のうち3隻は整備直後から基礎訓練の段階であるから、即座に実戦に使用することはできない。さらに残る6隻のうち3隻は、基礎訓練から実戦配備の中間段階となる。つまり即座に運用できるのはわずか3隻ということになる。 このうち1隻はペルシャ湾、1隻は大西洋・地中海に展開するから、西太平洋に常時展開するのはただ1隻である。有事には中間段階の3隻を急遽、実戦配備するとしても西太平洋に振り分けられるのはせいぜい、現在の1隻と合わせて計3隻だろう。わずか3隻しか展開できない空母を1隻でも失うことは、米軍にとっては耐えられない大損失なのである。中国は米国本土を侵略しようというのではないとすれば、米国人にとって自分たちの存亡を揺るがすような脅威ではないのである。「なぜ、そこまでして他国を守る必要があるのか」という世論が巻き起こることは想像に難くない。繰り返すが、その際に自衛隊の態勢が不十分であればなおさらである。 ちなみに来援部隊の空輸については、中国の現在の空軍力では、日本列島、南西諸島という第1列島線を越えて、太平洋で空輸部隊を妨害することは難しいと考えられる。航空自衛隊の防空網もあるし、中国戦闘機の航続距離などから考えても現実的ではないため、有事の際には、日米にとって空輸が有効な場合もある。 では、空輸妨害目的のための中国海軍の空母投入の可能性はどうであろうか。中国軍は現在わずか1隻(20年後でも3〜4隻)しか保有しない空母は、よほど追い込まれない限り、米軍来援の阻止で使うことは考えにくい。なぜなら中国にとっては、空母は米国以上に、米国と対等になったという国力の象徴であり、かつ軍の権威のシンボルという要素が強いため、失うことができないからである。空母が出撃すれば、日米の攻撃機(支援戦闘機)、潜水艦が激しい攻撃を加えるのは明らかで、これを失えば、全軍の戦意の大幅な衰退、中国人民解放軍の指揮権を握る中国・中南海の大混乱にも繋がる。空母を使うとすれば、米軍の介入の恐れがない環境と海域を選び、優位にプレゼンスを広げるために使用すると考えるのが合理的である。 これらのことから、中国にとって、より簡単な空輸への対抗手段は、米航空機が日本側に着陸する場所となる航空基地、民間空港施設・滑走路などを弾道弾(BM)、巡航ミサイル(CM)などで破壊することだろう。滑走路長などを考慮すれば、我が国には有事、戦時に自衛隊や米軍の戦闘機・大型輸送機が使用可能な空港が60カ所以上存在するが、中国のミサイルがそれらを狙うのである。これは国土防衛の問題であり、この対策が不十分である。 米軍の来援を阻止するために、中国は日本の主要4島に所在する各種施設に加え、南西諸島から遥かに東にある太平洋上の小笠原諸島の滑走路や施設などを破壊、占領を一時的に図る可能性もあることを考えなければならない。南西諸島の宮古島等への自衛隊部隊配備が議論されているが、小笠原諸島は配備部隊規模はおろか、配備自体の議論も皆無である。伊豆諸島から小笠原列島そして米国領のマリアナ諸島につながる島弧は日本にとっての戦略線である。この列島線の一部の島であれ、失うことは日米共同体制にとって大きな痛手となる。そうであるからこそ当該列島線を、中国の軍事力整備から見た戦略「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)体制の観点から「第2列島線」と呼称するのである。 南西諸島防衛の陰に隠れているが、同列島線に対する中国の特殊部隊の一時的な上陸・占拠や中型爆撃機によるミサイル攻撃もあり得るのだ。しかし、小笠原列島の防空態勢、警戒監視態勢も全く整っていない。レーダーサイト1つないのである。 低下した日本の対潜能力 ただ、航空機では、輸送できる部隊や兵器、物資弾薬の量は、海上に比べて限られるためやはり、海上からの来援の重要性は高く、この防護が自衛隊の支援作戦の中心に据えられるべきものである。次に論じるべきは中国の潜水艦対策である。対艦弾道弾(ASBM)とともに潜水艦は大きな脅威である。機動力と航続力に優れる原子力潜水艦(SSN)は中国からは遠隔海域の小笠原列島付近において、米軍来援部隊に攻撃を加えられるほか、FASBMD(艦隊ASBM防衛)などで米軍と共同行動する海上自衛隊の艦艇部隊への攻撃も行う公算が高い。 また、西太平洋や南西諸島付近では、航続距離に限界があり、長くても50日程度しか連続活動できない在来型潜水艦(SS)も待ち受け、ASBMやSSNの攻撃をかいくぐった日米部隊に対して、反復攻撃を仕掛けるだろう。 潜水艦からの攻撃としては、対艦ミサイルも考えられるが、やはり魚雷が大きな脅威である。ほとんどの軍艦は鉄製であり、水面下に穴をあけられれば浸水して沈むのであり、沈没させるために最も有効で単純なやり方は、今でも魚雷攻撃なのだ。 仮に50隻の中国の攻撃型潜水艦が行動しているとすると、海中音を探知する対潜戦の限界からそのうち20隻程度は行動を捕捉することはできていないと考えるべきである。水中で隠密行動をする潜水艦の行動は音で探知するしかないが、どうしても行動を捕捉しきれない潜水艦が相当数残る。だからこそ潜水艦は弱い海軍が強い海軍に対抗する上で最大の武器となるのである。第一次、第二次両世界大戦で米英に対してUボートで成果を上げたドイツの時からその原則は変わらない。 逆に言うと、今日、中国の潜水艦能力を日米で封じ込めることが重要となる。日米は冷戦時代、ソ連潜水艦の捕捉に力を入れて大きな抑止力効果をあげたが、冷戦終焉から25年が過ぎ、この間に生起した一時的な潜水艦脅威の減衰により、日米のその能力は低下している恐れがある。失われた可能性が高い能力の再構築を急速に図らなければならない。 探知手段を音に頼る潜水艦はその活動実態の全体像を捉えることは極めて難しいが、まず平時の監視能力の向上が必要であることは明白である。 潜水艦の監視は、まず中国のどこの基地に、どの潜水艦が何隻停泊しているか人工衛星の写真等で把握し、基地から姿を消したら、それを追うところから始まる。日本にはその能力はないが、スパイ情報で食料搬入や乗員の行動を把握することでも、出港を確認できる。出港すれば、P-3CやP-1といった哨戒機や護衛艦が潜水艦の音を探知したり、他の情報部隊も動員して各種の情報を集める。こうして日頃から中国潜水艦の位置が、概略でも把握できていれば、日常の行動を抑圧し、有事にはその攻撃も容易となる。 それでも捕捉しきれない、日米の探知網をかいくぐった潜水艦は、攻撃任務を達成するために近づくだろうから、これは米軍部隊の近傍で防護作戦に当たる海自の護衛艦に搭載された対潜ヘリで対処し、海域が日本近海であればP-3CやP-1も使える。自衛隊は攻撃型SSNを持たず、保有する在来型SSでは中国のSSNを追尾して攻撃することはできないが、東シナ海から太平洋への出入り口となる南西諸島海域のチョークポイント(自由な流れをせき止める狭い地域)で、海自SSに待ち伏せさせる方法は可能だ。中国からすれば、対潜戦能力に優れる海自部隊への攻撃が空母等の主要目標に先立ち行うことは戦理・兵理の常道であり、有効な対潜戦実施のための海自部隊の自隊防護が必要なことは言うまでもない。その際、中国側は、対潜部隊にとって最もやっかいな巡航ミサイル(CM)攻撃を多用する公算が極めて高く、この対処のためにイージス艦が必要となる。ここに、BMD、FASBMD(艦隊ASBM防衛)、そして本来の海上作戦(米軍来援基盤の維持)という、イージス艦に対する3つの競合する所要が発生するのである。その軽減の観点から、地上発射型の高々度BMDシステム導入の必要性を指摘したいのである。 いずれにしろ、中国の最大のターゲットは米空母である。中国の潜水艦は、より静かに潜航できるようになっており、その監視レベルを向上させることが以後の米軍来援基盤維持のための作戦の大前提となる。 核爆発による電波遮断 米国が世界中で作戦を行うことができるのは同盟関係にある各国の基地使用に加え、宇宙や空中、水中などを利用して電波、サイバー領域を自由に使っているからであるが、中国がこれを遮断すれば、日米の作戦は大混乱を来す。ワシントンとハワイの軍中枢、前線展開部隊の神経系統を遮断するのである。指揮管制情報機能(C4ISR)を無力化するこの方法を、領域利用拒否(Domain Denial=DD)という。 中国のサイバー攻撃は現在でも大きく新聞などで報道されているが、有事には大きな脅威となる。例えば、アフガニスタンで行われるテロとの戦いでは、無人機が多用されているが、コントロールは衛星通信(複数の通信衛星を使用)を使って米国本土から行っている。もし神経系統を遮断されれば無人機は無力化されてしまい作戦効率は大幅に低下する。 有事、中国はまず冷戦後期にソ連軍も使用を検討していたと言われる電磁パルス(EMP)で電波通信を遮断することが考えられる。EMPは低高度大気圏外で起こされる核爆発によって発生する。数十時間にわたって、その領域の無線通信は不可能になり、携帯電話も使えなくなる。仮に中国が小笠原諸島上空でEMPを試みた場合、中国側の兵力はほとんど東・南シナ海にいるからその影響は受けず、太平洋中部で日米側の通信だけを麻痺させることができるのである。これに対処する技術開発など日本は全く進められていない。 海底の光ファイバーケーブル網破壊も簡単に行ってくると予想される。中国は、日本の有人潜水調査船「しんかい6500」を超える性能の新型有人潜水艇を完成させている。平和目的としているが、軍事目的への転用はいくらでもできる。海中で活動するロボット技術と合わせ、海底ケーブルを切断するのだが、恐らくこの破壊活動を発見して妨害するのは難しい。 複数箇所を切断されても通信が遮断することのないように海底ケーブル網を広く張り巡らせるなどのインフラ整備や、本作戦実施部隊の妨害、中国側の当該作戦司令部の米軍による攻撃など、所要の対策を研究しておかなければならない。 人工衛星の破壊能力も、中国軍は有している。中国は2012年、自国の衛星破壊に成功したが、その時、米国は強い危機感を抱いた。しかし、この点については、日本では関心が薄く、ほとんど何も検討がなされていないのが実情である。少なくとも日米側の衛星が破壊されることを想定した対策の選定は必要である。 軍事的行為であるサイバー攻撃を、日本では主に警察事業として対応しようとしているのも問題だ。米軍は陸海空軍、海兵隊ともにサイバーコマンドを持つのに対して、我が国の対応の遅れが甚だしい。自衛隊にもサイバー防衛を所管する部隊が新設されたが、調査・研究活動としてサイバー活動を行っているに過ぎない。 これは現行法上、防衛出動命令がない限り、自衛隊はそれ以外の行動を取れないからである。サイバー戦は平時から始まるというか、四六時中行われているものであり、平戦時の区別さえつけがたいものであり、それに対して自衛隊による本格的な対応ができないというのは欠陥も甚だしい。法的整備が急務である。サイバーという、伝統的な武力行使とは異なる概念の侵略、すなわち防衛出動等の命令を伴わない自衛隊の常続的な任務遂行に関する早急な検討が求められる。サイバー防衛部隊の秘密性は高く、規模も公表はされていないが、米国や中国と比べても大幅に劣っていることは想像に難くない。 集団的自衛権なしでは守れず 日米が領海外の西太平洋の公海上でも共同で行動することが我が国の安全保障上極めて重要である。日本国外においても、来援する米軍への攻撃は、すなわち日本への攻撃として捉えて対処しなければならないし、そもそも米軍への攻撃なのか、日本への攻撃なのか、区別することなど出来ないのである。 安倍晋三首相が集団的自衛権の行使を限定的にせよ容認する方針を表明しただけで、マスコミは大騒ぎし、「米国の戦争に巻き込まれる」などという反対論が国中を席巻したが、あまりに現実を見ない空論である。集団的自衛権の行使が認められなければ、実際には日本を守ることなど出来ないのである。集団的自衛権は、米国のために行使しなければならないのではなく、日本のために行使しなければならないのである。 中国の軍事力整備から見た戦略「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)に対抗するためには、中国本土への戦略的打撃力が不可欠である。それを持つのは米国しかないし、国民の選択として盾と矛という相互補完的任務分担を受け入れたのである。その米軍の打撃力を健全に発揮させるためには、日米同盟に基づく強固な協力態勢が不可欠である。これは米中が核戦力を使わないことを前提としても変わらない。いや、中国が核兵器を使えば、むしろ米国は圧倒的に優位な核戦力で中国本土を攻撃することができる。核が使われないからこそ、自衛隊の重要性は増すのである。我が国の防衛のためには、米国の矛、つまり中国本土への打撃力が不可欠であるが、それは自衛隊の盾としての機能があってはじめて実効性を持つのである。 日米同盟は、日米という異なる国が、互いに一致する利益、目的に向かって取り組むものであり、米国に頼るだけでは成立し得ない。残念なことではあるが、オバマ政権は明らかにアジア、ヨーロッパから退潮傾向を示し、経済面を重視して中国寄りの姿勢まで見せることすらある。さらに日本が米軍来援基盤の維持という責任を放棄すれば、あるいは軽んじたとしても、米国が日本を守ることなど絶対になくなるだろう。現在、日米の役割・任務・能力(RMC)の考え方についての議論を通じ、日米の防衛協力の指針(ガイドライン)の見直しが進められようとしているが、これはまさに、盾と矛の具現化の作業である。 日本には憲法9条があり、それによって「専守防衛」という枠組みがあるのだから、自衛隊が矛としての機能を持てないのは、ある意味止むを得ないし、国民の選択でもあった。しかし、ならば、本当に必要な時に矛としての米軍が戦略的打撃力を発揮できるように、早急に様々な環境を整えなければ、差し迫った中国の脅威から、領土を守り、地域の安定を確保することなど、本当に出来ない。それが盾としての我が国そして自衛隊の究極の責任であろう。現下の我が国の防衛論議において、国民の目前で展開している尖閣諸島・南西諸島案件は高い注目を浴びているが、中国の軍事力整備から見た戦略「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)の主目標であり、我が国にとって戦略的重要性が高い「米軍の来援基盤維持」が論議の対象とさえなっていない現状に強い危機感を抱くのである。
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