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Mohamad Bazzi
[15日 ロイター] - 1973年8月、当時のサダト・エジプト大統領はサウジアラビアのファイサル国王に会うため、首都リヤドをお忍びで訪れた。イスラエルとの戦争を準備していた大統領は、サウジに石油という最も強力な武器を行使してもらう必要があったのだ。
ファイサル国王はこの時点まで、「武器としての石油」を使うよう石油輸出国機構(OPEC)諸国に呼びかけることに二の足を踏んでいた。しかし74年10月にイスラエルと中東アラブ諸国との第4次中東戦争が勃発すると、アラブ諸国は石油生産を減らして価格を釣り上げるとともに、イスラエルを支持する米国を罰するため、石油の輸出禁止に踏み切った。サウジの協力がなければ、大規模な禁輸は不可能だっただろう。
サウジは今日、再び石油兵器を利用している。しかし今回行っているのは価格押し上げと供給削減ではなく、その反対だ。6月以来、国際石油価格が大幅下落したのを目の当たりにしながら、サウジは減産を拒んだ。相場を反転させようとするどころか、11月27日のOPEC総会では減産見送りの音頭を取った。
この政策は無視できない結果をもたらした。過去2年間、1バレル=105─110ドル前後で安定していた北海ブレント油は、6月の112ドルから60ドル近くまで下がった。ベネズエラのマドゥロ大統領は10月、「米国とその同盟諸国が石油価格の下落を望むのはなぜだろう」と問いかけた。答えは「ロシアを痛めつけるため」だろうか。
この答えは一部正しいが、サウジの策略はもっと複雑だ。同国が仕掛けた最新の「石油戦争」には標的が2つある。従来型石油と競合するには価格の高止まりを必要とする米シェールオイル生産者を市場から締め出すのが1つ。だがより大きな狙いは、シリアの内戦においてアサド政権を支えるロシアとイランを罰することにある。内戦が勃発した2011年以来、中東諸国と世界の列強はシリアを舞台に代理戦争を繰り広げてきた。
サウジとカタールがシリアの反体制派に武器を提供しているのに対し、イランと、それより程度は落ちるがロシアは、アサド大統領が権力を維持できるよう武器や資金を供与してきた。
米国がイラクに侵攻した2003年以来、アラブ世界の伝統的な中核国であるエジプト、サウジアラビア、その他湾岸諸国はイランの影響力拡大に神経を尖らせてきた。核開発の野望、イラク政府に対する影響力の拡大、イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラとイスラム原理主義組織ハマスに対する支援、シリアとの同盟関係などだ。
この紛争は今やイラン対サウジの本格的代理戦争へと発展し、中東地域全体に広がっている。双方ともこの戦いを次第に「勝者総取り」と見据えるようになった。レバノンにおいてヒズボラが優勢を確保すれば、同国でシリア反体制派のスンニ派が、ひいてはその保護者たるサウジがイランに敗北を喫することになる。イラクにおいてシーア派主導の政府が支配権を盤石のものとすれば、イランの白星はまた1つ増えるだろう。
サウジ王家は現在、バーレーン、イエメン、シリア、その他どこであれ、イランの魔の手が伸びる恐れがある国との同盟強化を急いでいる。そして伝家の宝刀、石油を使ってイランとロシアに巻き返しを図ろうとしているのだ。
ロシアとイランは石油価格の安定に大きく依存している。数多くの試算によると、ロシアが予算公約を守るには石油は1バレル=100ドル前後を保っていなければならない。西側諸国からの制裁と経済的孤立に直面するイランは、さらに高い価格を必要としている。イランは既にサウジの戦略によって経済的打撃を被った。OPEC総会の減産見送り決定を受け、11月30日にイランの通貨リアルは対ドルで6%近くも下げた。
サウジ自体は石油安の影響から身を守れると信じている。価格の下落分はいつでも生産増加によって補える。あるいは7500億ドルに上る外貨準備に少し手を付ければ、収益悪化の打撃を和らげることが可能だと。
とはいえ、サウジが危険な賭けを演じていることは確かだ。イランやロシアのような独裁的体制が経済圧力によって行動を変える保証はない。さらに悪い可能性としては、サウジの策略が裏目に出て、ロシア、そして特にイランが中東におけるサウジの影響力拡大に対し、いよいよ態度を硬化させることが考えられる。
シリアとイラクで代理戦争を繰り広げることにより、サウジはロシアおよびイランとの石油戦争を引き起こすリスクを冒している。短期的にはサウジが勝利を収めるかもしれない。しかし宗派間の争い同様、サウジの行為はだれにも制御できない大火に発展する恐れを秘めている。
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0JU0AE20141216?sp=true
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