03. 2014年12月18日 07:42:21
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オープンな米軍、秘密主義の自衛隊、 こんなに異なる「軍事情報」保護の考え方 2014年12月18日(Thu) 北村 淳 毎年開催されている日米共同演習「ヤマサクラ」は今年も12月8日に開幕した。日米同盟は堅固だが、日米間には軍事情報に対する基本的意識の違いがある。(写真:米陸軍) 先週の12月10日から特定秘密保護法が施行されたのを受けて、防衛省はおよそ4万5000件の情報を指定対象にしたと報道されている。 これまで、日本には「反逆罪」の規定や「スパイ防止法」に類する独立した法律が欠落していることや機密情報漏洩への対処の緩さなどから、米軍関係者たちは、機密度の高い軍事情報を日米間でやり取りすることに危惧の念を抱いていた。この法律が施行されたことによって、彼らも少しは安堵しているようである。 ただし、軍事関連情報だからといって「なんでもかんでも『秘』指定にしてしまうことは決して好ましい傾向とは言えない」との危惧の念を口にしている人々も少なくない。 日米の実務現場で発生している機密指定の齟齬 特定秘密保護法が成立する以前も、米軍機関で防衛省・自衛隊と直接やり取りをしている部局では、日本側が「何でもかんでも『秘』指定にしてしまう」ことに当惑したとの話を幾度か聞いたことがある。すなわち、米軍内では“Official Use Only”程度の情報や場合によっては公開指定がなされた情報を会議やセミナーなどで日本側に手渡したところ、日本側ではアメリカ側での取り扱いよりも高度な何らかの機密指定を付してしまう場合がしばしば生じたという。 例えば、米軍では何ら「秘」扱いではなく公開情報である文書や図版を日本側が入手して、それらを「秘」指定してしまった場合、アメリカと日本で同一の情報が異なった取り扱いがなされることになってしまう。日本との整合性をとるためにアメリカ側においても再度「秘」指定にすることは、すでに公開情報になってしまっているため、もちろん不可能である。したがって、同盟国が「秘」指定をした情報をどう取り扱えばよいのか、戸惑いを隠せない現場の将校が少なくなかった。 また、軍関係シンクタンクなどにおいても、米軍内部で「秘」指定が解除された資料を日本側当局者とのセミナー等で使用する際に、日本側の便宜を考えて日本語訳資料を作成して配布することも昨今では珍しくない。このような場合、アメリカ側の原本資料には「公開」指定がなされているのだが、日本側が持ち帰った翻訳資料には後から「秘」指定がなされてしまった、というちぐはぐな状態が考えられなくもない。 実際に、幅広くメディア関係者に伝達されるであろうことを想定してアメリカ国防総省が実施した日本側当局とのセミナーの内容が、日本側メディアには全然伝わっていなかったという事例もあり、「何でもかんでも『秘』指定にしてしまう」傾向には危惧の念が持たれている。 もっとも、このような“現場レベル”での実務的情報に関しては、日米間による具体的取り決めによって上記のような齟齬は解消可能である。現に日米間の合同演習の機会の増大や親密化に伴って、訓練や会合などでの情報資料の取り扱い状況の行き違いは改善しつつあると思われる。 レベルが高いほど秘密は少なくなる ただし、より高度な軍事情報についての取り扱いとなると話は別である。ここで「高度」というのは、例えば最新潜水艦の詳細な性能に関する情報や、使用されている鋼板をはじめとする技術情報といった機密度が高いという意味ではない。「戦略〜作戦〜戦術」ヒエラルキーでの位置を意味している。 そのヒエラルキーは具体的には以下の通りにレベルが分かれている。 ・国家戦略レベル ・安全保障戦略レベル ・国家軍事戦略レベル ・各軍の戦略レベル ・作戦レベル ・戦術レベル 最も高度なのは国家戦略レベルであり、戦術レベルが最も低いということになる。 注意しなければならないのは、「高い」あるいは「低い」といっても、それはヒエラルキーでの位置を示しているだけであって、情報が持つ価値の高低や、機密度の高低を示しているわけではないことである。 そして、しばしば戦術レベルで必要とされる兵器や装備に関する技術情報には、極めて機密度が高い情報が数多くある。アメリカ国防当局の考え方によれば、むしろ戦略レベルの情報には極秘情報はほとんど存在しないのである。 ある米陸軍大将の指摘 この点に関して、アメリカ陸軍のある大将(すでに退役)が筆者に語った興味深い話がある。この陸軍大将はオーバルルーム(大統領執務室)で直接大統領にブリーフィングをする要職にあった軍人である。 彼が中国人民解放軍の将軍たちと懇談した際に、解放軍の将軍が「我々はアメリカが公表している国防戦略や各軍の戦略などには惑わされない」と真顔で大将に語りかけたという。その将軍は「アメリカが公表している国防戦略や各軍の戦略概要などはプロパガンダや謀略情報の類であり、真の軍事戦略は秘密にしているのは当然のこと」と信じきっており、大将が「アメリカが公表している各種戦略には嘘偽りはない」と言っても、決して信じることはなかったという。 実際にアメリカ国防当局は以下のものについては公表しており(中国語版はないが)人民解放軍でも自由にダウンロードできる。 ・アメリカ国家運営の基本方針の1つとしてホワイトハウスが策定する「国家安全保障戦略」(National Security Strategy) ・それを受けて国防総省が策定する「国家軍事戦略」(National Military Strategy) ・それを補完するためにやはり国防総省が策定する「4年ごとの国防戦略見直し」(Quadrennial Defense Review) ・各軍(海軍、海兵隊、陸軍、空軍それに沿岸警備隊)がそれらの上位戦略に適合させて策定した各軍の基本戦略 上記の大将によると「このような戦略レベルの情報は基本的には公開すべきものである。というのは、アメリカ国民に国防の基本方針を知らせることは当然の義務である。そのうえ、公開することにより多くの専門家たちの批判や提言を得ることが可能になり、基本戦略がより改善されることになるからである。もちろん、敵に味方の手の内を知らせない、という考え方は理解できるが、少なくとも戦略レベルにおいてはアメリカの戦略を相手方に知らせたからといってアメリカとその同盟国がダメージを受ける事態は考えられない」とのことである。 似通っている日中の軍事情報保護の感覚 大将は次のようにも指摘した。「残念ながら、中国軍人は根本的にこのような考え方には賛同していないようである。あくまで、戦略レベルから戦術レベルまであらゆる軍事情報は秘密のベールで覆っておくべきであり、敵方の公開情報などは欺瞞情報とみなすべきである、との考えで凝り固まっているようだ」 さらに彼は、以下のような日本人にとって興味深いことを口にした。 「私が日本で何回か勤務したり、日本の国防当局者たちと接触した経験から受けた感触だが、日本でも中国同様に軍事情報は(戦略〜作戦〜戦術の全てのレベルにおいて)原則として秘密にするべきと考えているだろう? この点が、同盟国である我々が『軍事情報といえども基本的には公開すべきであり、本当に特別なものだけが秘密情報』と考えているのとは大きな違いだ」 確かに、このアメリカ陸軍大将が指摘するように、「軍事情報といえども基本的には公開情報である」というアメリカ国防当局の考え方よりも、「全てのレベルにおける軍事情報は基本的には秘密である」との考え方のほうが多くの日本国民にとってはしっくりするものと思われる。 極めて皮肉なことに、軍事情報に関しては、「同盟国である日米間には、対抗関係にある日中間よりも開きがある」という大将の指摘が当たっているようだ。 【関連記事です。あわせてお読みください】 ・「秘密保護法は軍事小国・日本の「必要悪」」 ( 2013.12.05、井本 省吾 ) ・「キーワードは「拡大抑止」と「特定秘密保護」、オバマ訪日の隠れた成果を総括する」 ( 2014.04.30、古森 義久 ) ・「日本のメディアは国家権力と闘ってきたのか?」 ( 2013.12.05、池田 信夫 )
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42465 |