04. 2014年11月19日 07:34:35
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「イスラム国VSオバマ」 「攻撃目標」が見つけられない米空軍
シリア反政府運動を混乱させる米軍の介入 2014年11月19日(水) 菅原 出 11月7日、オバマ大統領は最大で1500人の米兵をイラクに追加派遣することを承認した。既に1400人を越える米兵がイラクに派遣されており、主に首都バグダッドとクルド自治政府の首都エルビルにあるイラク軍基地に配属されているが、今後はそれ以外の北部や西部の激戦地にある基地にも派遣されることになる。そのうち630人がイラク軍やクルド人部隊ペシュメルガの訓練にあたるという。早くも11月10日には50人の米兵がイラク西部アンバル県にあるアル・アサド基地に到着したことが報じられた。 11月9日に放送された米CBSの人気番組「Face the Nation」でインタビューに答えたオバマ大統領は、イスラム国に対する軍事作戦が「新たな段階」に突入したことを説明した。 「我々はイラクに挙国一致政権をつくらせ、ISIL(イスラム国のこと)の勢いを止めるという第一段階を通過した。この段階ではISILの能力を劣化させ、彼らの前進を食い止めるために空爆が効果的だった。しかし次の段階で必要になるのは、ISILをさらに後退させるための地上部隊、イラク軍部隊である」 オバマ大統領はこのように述べ、これまでは攻勢をかけてくるイスラム国ISILの前進を止めてこの過激派集団の軍事能力を破壊することに焦点が置かれていたが、今後はイスラム国ISIL に対する攻勢作戦に転じるため、イラク軍の支援・訓練を強化するために、訓練要員として米兵を追加派遣する必要があるのだと説明した。ただこれらの米兵はあくまでイラク人の訓練や助言にあたるだけで、彼らが自ら戦闘に従事する訳ではなく、米軍の任務に変更はないことを強調した。 ターゲットはどこにある? 既に本コラムの「今後確実に数年間はつづくイスラム国とオバマの戦争」で指摘したように、米軍が空爆で破壊してきたのは、イスラム国の持つ車両や砲台や訓練キャンプなど、上空から見えるターゲットばかりである。11月9日の『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、初期の段階ではこうした目に見えるターゲットを攻撃してきたものの、その後空軍部隊は叩くべきターゲットを見つけることができず、出撃しても4回に1回程度しか爆弾を落としていない状況だという。 本来であれば地上部隊が敵の拠点に急襲をかけ、そこで押収した資料などから敵の重要な軍事拠点を見つけて新たな攻撃をかける、という具合に地上作戦と航空作戦が相互にリンクして敵のネットワークを潰していくのが理想だが、現在は、米空軍がイラク軍という「地上のパートナー」と実質的な連携のないままに、見つけたターゲットを潰しているような状況なのである。当然これでは限界がある。 そこでオバマ政権は、イラク軍部隊の訓練を急ピッチで進める計画だが、優秀な地上部隊を育成するのには相当の時間が必要であり、「新しい段階」の攻勢作戦が軌道に乗るのはまだ先のことになるだろう。 オバマ大統領が説明している通り、派遣される米兵の主任務は訓練になるため、彼らが直接戦闘作戦を実施する訳ではないが、最前線のイラク軍部隊の基地に派遣されて訓練や戦術支援にあたる米軍の要員が増えれば増えるほど、彼らに対するリスクが高くなるのは間違いない。米兵のいる最前線の基地がイスラム国の攻撃を受けたり、米兵が捕虜にされるような事態も今後は出てくる可能性がある。そうなれば特殊部隊を送り込んで救出作戦を行う必要が出てきて、さらに米軍が地上作戦の泥沼に嵌まっていってしまうだろう。 出口の見えないシリアでの軍事作戦 しかしそれでも、イラクには米軍の地上のパートナーがいるだけましである。それさえいないのがシリアである。シリアでは、米軍は既に初期の段階でイスラム国の訓練キャンプや軍事施設など固定された「目に見える」ターゲットはほぼ破壊してしまい、それ以上の攻撃目標は探せないでいる。先の『ニューヨーク・タイムズ』の記事によれば、米軍の空爆数は、イラクとシリアを合わせても平均で1日5回程度。ちなみに2011年のNATO軍によるリビア攻撃では、最初の2カ月間で1日50回の攻撃が行われ、2001年のアフガニスタン戦争では1日85回、2003年のイラク戦争では800回だったというから、その少なさが想像できるだろう。 しかもシリアの攻撃目標の70%は、現在クルド勢力とイスラム国が激しい戦闘を展開しているシリア北部コバニだという。ここではクルドの民兵やシリア反政府勢力がイスラム国の戦闘員たちと地上戦を展開しており、どこに敵がいるかが比較的判別しやすい。しかしそれ以外の広大なイスラム国支配地域で、どこにイスラム国の指導者や戦闘員が隠れているのか、米軍は分からないので攻撃出来ずにいるのだ。 さらに複雑なことに、米軍はシリアにおいてはイスラム国だけでなく、アルカイダと関係を持つ「ヌスラ戦線」や「コラサン・グループ」などほかのイスラム過激派組織に対する攻撃も行っている。シリアを、<アサド政権VS 反政府勢力>という対立軸で分けてみると、「イスラム国」も「ヌスラ戦線」も「コラサン・グループ」も皆<反政府勢力>の一部である。この<反政府勢力>の中には、「自由シリア軍」のように米国など西側諸国が「穏健」だと認めて武器支援をしているグループも存在する。 しかし、<アサド政権>からすれば、自分たちの敵である<反政府勢力>の一部である「イスラム国」や「ヌスラ戦線」を米軍が叩いてくれることは非常にありがたいことである。アサド政権は残りの<反体制派>である「自由シリア軍」などを攻撃すればいいからである。 このような状況であるため、「自由シリア軍」などこれまで米国をはじめとする西側諸国からの支援を受けてきている<反政府勢力>から、「米国はいったい誰と戦争をしているのだ」と米軍の作戦に疑問を唱えている声が強まっている。 過激派と穏健派の分類 米政府は彼らの基準で「過激派」と「穏健派」を分類しており、攻撃目標も彼らの基準で選定している。そこに様々な<シリア反政府勢力>との調整や連携はなされていない。米国が「過激派」「敵対勢力」と位置付けているグループが、一方で米国が「穏健派であり味方」と位置付けている組織と連携していることもあり、米軍の攻撃が大きな反政府勢力の動きを混乱させてしまっているのだ。 シリア反政府組織同士の関係は、米国が考えるような白か黒かの関係ではなく、より複雑なのだと考えられる。「ヌスラ戦線」についても、シリア国内の反政府勢力の中での位置づけは、米国が主張しているような「危険なアルカイダ系過激派」という単純なものとは相当に温度差があるのだと考えられる。「アサド政権憎し」と思っている人たちにとって、ヌスラ戦線が、一定の支持を得ている事実も無視できない。 米国がシリア国内での空爆を実施して以来、シリア国内で反米感情が強まっており、それを受けてヌスラ戦線は米国非難を強調することでますます市民からの支持を獲得しているという。ヌスラ戦線は、「米国を中心とする連合軍の攻撃は我々の革命を阻止するためのものであり、アサド政権を助ける目的で行われている」との説を流布して支持者を増やそうという広報作戦も展開しているようだ。 米軍が、イスラム国と同時にヌスラ戦線や他のイスラム過激派組織に対する攻撃を開始したことで、現実的にはシリア反政府勢力の中で最も強力な組織ばかりが攻撃されている形となっている。そしてそれにより反政府派がベースとしている地域の住民を含めて反政府勢力全体で反米感情が強まるという負の効果が生れてしまっている。 そもそもオバマ政権は、シリアにおいては政治的な落としどころの描けないまま軍事作戦に踏み出してしまっている。オバマ大統領は最近のインタビューで、「シリアは(イラクと比べて)より問題が多い状況だ」と述べ、対シリア作戦は困難な状況であることを認めている。 イラクではかろうじて政治的な解決に向けた方向性を見出すことが可能だ。その実現にはいくつもの大きな障害があり、非常に困難で長期にわたる道のりであることは間違いない。しかし、シリアに至ってはその政治的な方向性さえ全く見出すことができない状況である。今回の軍事作戦は、この状況をさらに複雑にさせ政治的に困難な状況を生み出すことになるだろう。イラクには米兵を派遣できても、シリアではそれすら出来ない状況が続いており、その出口も全く見えてこない。 【Source】 “Obama to Send 1,500 More Troops to Assist Iraq”, The New York Times, November 7, 2014 “Obama Authorizes Up to 1,500 More Troops to Deploy to Iraq”, The Wall Street Journal, November 7, 2014 “Iraq Situation Report”, Institute for the Study of War, November 10, 2014 “Obstacles Limit Targets and Pace of Strikes on ISIS”, The New York Times, November 9, 2014 “Obama Acknowledges U.S. Erred in Assessing ISIS”, The New York Times, September 28, 2014 “ISIS advances on Syrian Kurdish enclave despite air strikes”, Financial Times, September 26, 2014 “Iraq’s sectarian war rages on as world focuses on ISIS”, Financial Times, September 26, 2014 “Department of Defense Press Briefing by Secretary Hagel and Gen. Dempsey in the Pentagon Briefing Room”, September 26, 2014 “Local Dynamics Shift in Response to U.S. ?Led Airstrikes in Syria”, Syria Update, ISW, October 2, 2014 “Secretary of Defense Testimony”, Statement on Iraq, Syria, and ISIL Before the House Armed Services Committee, September 18, 2014 このコラムについて イスラム国VSオバマ
米国が再び対テロ戦争に乗り出した。今度の敵はイラクとシリアにまたがる広大な地域を支配下に置き、カリフ制国家の樹立を宣言したイスラム国。イスラム教スンニ派の一過激派集団が巨大な軍団に成長し、中東のど真ん中に国家を樹立したことで、中東の秩序が激しく揺れている。オバマ政権は国際有志連合を率いてイスラム国壊滅のための軍事作戦を開始したが、空爆だけでは大きな効果を挙げることができず、シリア情勢はますます混乱の様相を呈している。イスラム国の出現は、もともと矛盾に満ちた中東秩序を破壊させる起爆力を秘めているのか?米国は再び泥沼の地上戦に引きずり込まれるのか?イスラム国とオバマの新しい戦争の行方を追う。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141117/273917/?ST=print |