06. 2014年10月28日 11:36:58
: nJF6kGWndY
なかなか頑張っているなhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41943 イスラム国の脅威:弱者は強国をどう倒す? 「非対称戦争」に関する一考察〜アメリカ空軍戦争大学で教えて(9) 2014年10月28日(Tue) 片桐 範之 イラクやシリアで活動を続けるイスラム国への空爆が始まって数週間が経過した。アメリカは中東や欧州の同盟国や友好国と共に空爆を続ける一方、地上部隊を限定的に用いて軍事的な解決を模索している。 イスラム国との「非対称戦争」 イスラム国はここ数カ月の間に台頭してきた、国家として認識されることのない、そして国家の機能を持たない暴力組織である。 まさに「国家」対「非国家」主体の戦争が始まろうとしている。この種の戦争は他の戦争と比べて戦う者同士が持つ資源の量、つまり力の量に顕著なギャップがあるため、非対称戦争とも呼ばれる。 国家と非国家主体の間の戦争は日本ではあまり馴染みのないものである。21世紀に入り対テロ戦争、イラク、そしてソマリアなどの作戦はまさにそれに当たるが、現地で行った自衛隊の活動はあくまで間接的なものであった。 結局日本の安全保障にとって重要なのは非国家主体との戦争よりも、中国との領土紛争や朝鮮半島の安定化と拉致問題の解決、そして日米同盟の維持である。 『Adapting to Win: How Insurgents Fight and Defeat Foreign States in War』(写真提供:筆者、以下同) しかし世界の情勢は変化し続ける。つい半年前までは聞いたこともなかったイスラム国のような新しい過激派グループも発生する。様々な種類の戦争も遥か彼方で起こり、国際社会の重要な一員であり続けるためにも、変わりつつある軍事環境を理解することは大切である。
今月、まさにその非対称戦争に関する著書『Adapting to Win』をアメリカで出版した。弱者は戦争においてどう強国と戦い、どうやって勝つのかという問題に正面から取り組んだ。 分析における事例としてはここ数年イラクやアフガニスタンなどで行われた戦争を扱っており、今回のイスラム国との戦いに関してもいくつか意味合いを引き出すことができる。 本稿ではその本を元に、今後考えられる国際安全保障の問題を検討したい。 また、12月19日の金曜日にアルカディア市ヶ谷で開かれる講演会(主催:国際地政学研究所)で、本稿の内容をさらにアップデートした形で説明するので、興味のある方にはぜひそちらにも足を運んでいただきたい(お問合せはこちらから)。 弱者が強国と「戦う」とき イラク戦争が行き詰った2006-2007年あたりにアメリカ国内で広まった憶測の中には、アメリカはイラクから撤退を強制され戦争に負けるのではないかというものがあった。 結果としてはそうならなかったが、アメリカのような強国も非正規軍には負けるかも知れないと思われる理由は幾つかある。 例えば9.11で見られたように、テロリストは比較的低いコストで多大なるダメージを相手に一気に与えられるのに対し、国家側は一発の攻撃を防ぐために常に防衛強化に多大なる資源を使わなければならない。 つまり結果として、国家側に対してコストの差が圧倒的に不利に働くのである。 また、国家の軍隊は戦うときに技術や火力や組織力に頼る傾向があるのに対し、弱者側は相手が嫌がる即席爆弾装置や民間人を武器として使う。それをすることにより彼らは軍事的な勝利を目指すのではなく、相手の戦闘意識をすり減らす事を目指す。ベトナム戦争などは良い例である。 これらの非国家主体との戦いは時間もかかり、コストが大きく、勝つのも難しいため、この種の戦争は一概に避けるべきだと主張する専門家もいる。 しかし歴史を見ると、基本的に強国が勝つ傾向が強いというのが明らかになる。過去200年の間に行われた「国家」対「非国家」主体の間で行われた150ほどの戦争のデータを集めて検証すると、ほぼ70%の確率で国家側の勝利に終わっている。 つまり、資源の面で優位で、総合的に力の強い側が勝つのである。ある意味当然のことである。 イラクやアフガニスタンでの戦争は長くコストの大きいものであったし、また状況が変わる可能性はあるが、歴史的な見地から見れば、ある程度楽観視することができるのである。 弱者が強国を「倒す」とき ここで我々の興味を引くことがある。過去70年ほどの間に行われた国家と非国家主体の戦争に注目すると、後者の勝つ確率は相変わらず低いものの、その成功率が徐々に上がってきていることである。 1960年代からアフリカや東南アジアなどで頻発した反植民地戦争では特に、国家としての独立と認識を目指すゲリラ部隊の多くが、長い年月を経て独立という最も大切な戦争目的を完遂させている。 過去200年の間では強国が勝つという状態が続いているが、なぜここ70年の間にその定式が変化したのだろうか? この問題に対する答えとして、ここ10年の間、特に9.11の後、アメリカの政治学では非対称戦争の研究が進み、多くの理論が生み出された。その中には例えばベトナム戦争などで見られたように、弱者が戦争で勝つのは強国よりも強い「意思」を持っているからであるという見方がある。 研究の過程で私が発見したのは、既存の理論とは一線を画すものであった。150ほどの戦争を研究して見つけたのは、強国を倒すためには弱者は常に「進化」しなくてはならない点である。 単にゲリラ戦術を使い続ける非国家主体の成功率は一概に低い。また、反乱軍の中には意外なことに正規軍のように軍隊を近代化させ、いわゆる「通常」の戦争をする場合も多くある。 それらの戦争は単純で進化しない場合がほとんどである。19世紀から20世紀前半の間の行われた、南アフリカのズールー族からマラヤ危機の共産党反乱軍、今日のベナンでフランスと戦ったダホメイ族からビルマのゲリラなどが失敗に終わった理由の多くはそこにある。 しかし対照的に、戦争に勝つグループというのは、一般的に最初は小さなゲリラ組織で始まるのだが、時間をおいて軍隊を立ち上げ近代化し、交戦の過程で徐々に国家基盤を形成する。 社会経済的なインフラや憲法、法の統治、教育機関などの政治的制度を整え、最終的に相手と同等もしくはそれを凌ぐ軍事力を得ることにより、独立という目的を完遂し、ほぼ同時期に相手を倒すのである。 例えば私が研究したギニアビサウの独立戦争では、ギニア・カーボベルデ独立アフリカ党(PAIGC)と呼ばれたゲリラグループが宗主国のポルトガルを10年以上かけて倒した。1974年に独立を手にした時には、PAIGCにはしっかり近代化された軍隊と国家の基盤が成立していたのである。 左の写真はポルトガルのリスボンにある海外歴史記録保管所「Arquivo Histórico Ultramarino」の入り口。右の資料には白馬に乗り植民地政策に戦いを挑むギニア人の姿が描かれている また、1940年代〜50年代に行われたインドシナ紛争も好例である。最初は小さなグループであったベトナム独立同盟会(べトミン)も、仏軍との戦いを通して陸軍を強化させた。その過程でインドシナ共産党を基盤として徐々に国家基盤を築きながら民間人の支持を得、ディエンビエンフーの戦いで劇的な勝利を収め、1954年に独立を勝ち取った。
この種の非対称戦争は大変な戦いで、それは両方の指揮官にも多大な圧力がのしかかる。ハノイの革命博物館で撮影した下の絵画は強敵に囲まれ悩むホーチミンの心理を上手く描写している。右はディエンビエンフーの戦いで使用された塹壕である。(写真:著者提供) ギニアビサウやインドシナの戦争で見られたように進化して勝利を収めるグループの数は非常に少ない。総合的に見れば非対称戦争は国家側が圧倒的に有利であるのは変わらない。ただ、弱者が進化を遂げる場合は、その戦略的力学が劇的に変化するのである。 この種の非対称戦争は大変な戦いで、それは両方の指揮官にも多大な圧力がのしかかる。ハノイの革命博物館で撮影した左の絵画は強敵に囲まれ悩むホーチミンの心理を上手く描写している。右はディエンビエンフーの戦いで使用された塹壕 イスラム国の脅威 この歴史的見解を現在の中東に当てはめる場合、限られた情報の中で、次のことが言える。 イスラム国が宣言したカリフ(イスラム共同体の元にある帝国)の建国は10月15日の時点で国際的には認識されておらず、イスラム国には国家としての基盤がなく、軍事力も分散されている。 人質殺害やメディアなどの情報技術を用いて欧米諸国に心理戦や情報戦をしかけているが、イスラム国の経済力はもっぱらイラク北部・シリア南部などで採れる石油に頼っており、資源へのアクセスが途絶されれば戦争遂行能力が減退する。 また、反米という目的では共闘する立場にあるはずのアルカイダとも距離があり、協力体制が整っておらず、近い将来アルカイダとライバル関係になる可能性さえもある。そうなるとイラクやシリア国民の支持を得るのがさらに難しくなり、反乱軍としてのサバイバルの可能性が低くなる。 また、重要な要素の一つである民間人からの支持母体も不明である。イスラム国が外敵を倒すためには少なくとも一定の軍事組織、政治制度、民間サポートを備える必要があり、その後に国家基盤を「進化」させる必要があるが、その可能性は現時点では低いのが現状である。 また、「ホラサングループ」というアルカイダの中東分派が組織する非国家主体も、同盟軍の空爆の対象になっていることもあり、ここ数週間の間で一躍有名になった。「ホラサングループ」は「イスラム国家」と似ている部分があり、シリアやイラク政府の攻撃対象になっており、それらの戦闘能力が今後も低下する可能性がある。 日本の出方 10月15日の時点で空爆に参加しているのは欧州と中東の限られた諸国のみで、日本を含む東アジアの国々は情感している。 そこで注目されるのが日本の出方である。イラクやアフガニスタンでの戦争に参加した自衛隊は今後、イスラム国に対する戦いに参加する可能性はあるのだろうか? 現時点で考えられるシナリオとしては、憲法の制約の元、極めて限定的な非軍事的な活動が日米同盟の枠組みの中で行われる可能性がある。その場合は近年見られたように、戦闘参加国への物資の提供や国連軍の一部として現地に渡り、後方支援を中心とした活動が考えられる。 もちろん、同時に外交・経済的な支援も考えられるため、中東や欧州諸国とのコミュニケーションを基に情報収集に努めながら、日本の国益の要でもある石油資源の輸出ルートの安定化を求むべく、近隣諸国と綿密な連携を進めながら経済的な安定を求める姿勢も期待されるだろう。 私は現時点ではこの一連の軍事行動に関して西洋諸国に優位なのではないかとの見方をしている。もちろん状況次第で変化する場合もあるため、今後もしっかり現状を見極めて分析する必要がある。 ※本稿の内容は筆者個人の考えに基づくものであり、必ずしもアメリカ政府、国防総省、およびアメリカ空軍戦争大学の政策を反映するものではありません。
|