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トルコとの国境に近いシリアのコバニでは攻防戦が続く(ロイター/アフロ)
「イスラム国」との戦いは第3次イラク戦争だ 畑中美樹・インスペックス特別顧問に聞く(上)
http://toyokeizai.net/articles/-/50287
2014年10月12日 中村 稔:東洋経済 編集局記者
シリアとイラクで活動する過激派「イスラム国」への米国主導の空爆拡大によって中東情勢は混迷の度を増している。戦闘は長期化が必至とされ、イスラム国による報復テロ多発も危惧される。今後の中東情勢の行方と原油価格やビジネスへの影響、テロから身を守る対処法などについて、中東情勢を長年ウォッチし、中東全域に豊富な人脈を持つ畑中美樹・インスペックス特別顧問に聞いた。インスペックスは中東・北アフリカ治安情勢の助言や情報提供を行う情報・コンサルティング会社。
■フセイン時代の共和国防衛隊やバース党員が共闘
――「イスラム国」とはどのような組織か。
イスラム国の全容はまだはっきりとはわかっていないが、イスラム国の元メンバーのインタビューなどが先進国の専門機関を通じて行われており、多少輪郭がわかってきている。
一般のマスメディアでは、アルカイダと同様、イスラム原理主義の過激な国際テロ組織ととらえられているが、実態はそうではなく、本当に「国」をつくろうとしている人たちの集まりである。イラク戦争で米国に敗れたサダム・フセイン政権下の旧軍人や、当時イラクの与党であったバース党の党員らが中核としてイスラム国を支えている。
6月に(イラク北部の都市)モスルを制圧した時などの軍事作戦を見ていると、どう考えても素人による作戦ではない。モスル制圧の後、首都バグダッドに進軍するが、落とせないとなると今度は北部のクルド人地域を攻撃。その過程で油田や製油所、ダムといった、国家にとってのライフライン、収入源になる施設をしっかり押さえている。
こうした組織的、計画的な動きは、単なるテロリスト、過激派集団が行っているのではなく、軍事的経験のある旧軍人や政権を担ってきたバース党員たちがバックにいることを示している。
そのため、私は今のイスラム国の動きを「第3次イラク戦争」と呼んでいる。
第1次が1991年1〜3月の湾岸戦争。米国はこれでサダム・フセイン政権を叩いたが、大量破壊兵器を持ったまま生き残ったという疑いを理由に2003年3〜5月にイラク戦争を行った。これが第2次。結果としてサダム・フセイン政権は崩壊し、フセイン大統領も処刑された。
しかし、米軍がバグダッドに進攻した時に、フセイン大統領を守る強力な軍隊と言われていた共和国防衛隊の大半が忽然と消えてしまった。一方、バース党員はイラク民主化の過程で追放された。彼らが、台頭してきたイスラム国の指導者と嫌米、反米で一致し、戦術的な共闘を組んだ。したがって強力になったと考えられる。
米国のヘーゲル国防長官の議会証言などを聞いていても、イスラム国は単なるテロ組織ではなく、準国家組織のような言い方をしている。米国はその辺をよくわかっているのだと思う。空爆だけでは解決できず、数年以上かかると言っているのは、最終的には地上での戦闘で駆逐しない限り勝てないと考えているからだ。
■問題はシリア、自由シリア軍はあてにできない
畑中美樹(はたなか よしき)●1950年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。富士銀行、中東経済研究所カイロ事務所長、国際経済研究所主席研究員、国際開発センターエネルギー・環境室長、同研究顧問などを経て現職。中東や北アフリカ諸国の王族、政治家、政府関係者、ビジネスマンに知己が多く、中東全域に豊富な人的ネットワークを有する。(撮影:尾形文繁)
――米国中心の有志国連合が、イラクからシリアへとイスラム国に対する空爆を拡大しているが。
空爆だけでは終わらないことはわかっている。したがって、イラクについては、イラクの正規軍を米国の軍事顧問団によって訓練し、新たな軍備も供与して、イスラム国と地上で戦闘させている。
問題はシリアだ。米国はシリアのアサド政権とも敵対しており、同政権を支援するわけにはいかない。となると、サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国や米欧が支援してきた反アサド政権組織の自由シリア軍を中心に、やはり武器を与えて、戦術・戦略も教えて支援していくことになろう。ただ、イラク正規軍とは違い、自由シリア軍は過激派組織で、人数も少数なので、イスラム国と対等に渡り合える戦力になるかははなはだ疑問だ。
――最終的に米国自身が地上軍を派遣する可能性は。
オバマ政権が続く2016年までは米兵の地上軍派遣はないだろう。ただ、イラクにはすでに1600人の軍事顧問団が入っており、イラク正規軍が最前線で戦っている時にその一部が後方で指示を出したり作戦を供与したりすることはあるだろう。それでもイスラム国は駆逐されないと見られ、次の大統領が就任する17年以降に米国の世論がどうなっているかによって、場合によっては地上軍派遣がありうるかもしれない。
オバマ大統領は、本心としては中東にあまり手を染めたくないと考えているようだ。それよりも、国内の経済問題を中心に政策努力を集中し、米国経済を再生することに最大の関心がある。ただ、今年の中間選挙を控え、中東問題でこのまま何もしないと選挙に大敗しかねない。それを食い止めるためにも、空爆の決断をしたということだろう。11月の中間選挙後にオバマ政権がどう動くかはよく見ていく必要がある。
日本人はテロに巻き込まれないよう警戒を
――米国などの世論を動かしたイスラム国による欧米人の公開処刑や無差別テロ、諸外国からイスラム国への大量参加といった動きがさらにエスカレートする恐れは。
空爆が始まったことにより、イスラム国は逆に自分たちは被害者だと広報宣伝活動を強めるだろう。彼らが主張しているのは、今のイラクやシリアの国境線は20世紀初頭に当時の大国が勝手に引いたものであり、そうした外国勢力の庇護下にある政権を倒し、すべてをイスラム国にすべきだというものだ。
そうした主張に共鳴する人たちの間では、空爆開始を機に、イラクやシリアに入ってイスラム国に加わろうという動きが強まるかもしれない。また、欧米で、あるいはアジアも含めて、欧米系の経済権益や人々に対するテロ攻撃が起きる可能性がある。
――日本人がターゲットになる可能性も高まっているといえるか。
彼らの考える費用対効果から言えば、日本人を直接ターゲットにする可能性は低いだろう。彼らのいちばんのターゲットは、空爆を始めた米国や、イラクで空爆に加わったフランス、武器供与や人道支援をしている英国やドイツ、軍事作戦参加を表明した豪州やカナダ、オランダなどの人たちだろう。
欧米以外では、今回の空爆に参加したサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーン、ヨルダンの人たちや石油を中心とした経済施設、さらには欧米の外交施設、欧米系のホテル、ショッピングモールなどでテロの警戒を要する。
日本人はおそらく直接の対象というより、昨年9月にケニアのショッピングモールで起きたように、テロに巻き込まれる二次被害のほうが可能性として高いのではないか。
――中東に展開する日本企業のビジネスマンたちへのアドバイスは?
これまで比較的安全と思われていた湾岸の産油国もこれからは報復の対象になるため、これまで以上にテロの発生を意識した警戒的行動をとる必要がある。特に気をつけなければならないのは、米国、英国、フランス、ドイツなどの外交施設やそれらの国の公共施設に行くときには細心の注意が必要だ。
また、欧米系のホテルやショッピングセンターに行くときも気をつけなければならない。さらに、産油国なので油田施設などへの出入りも注意を要する。
■現地のホテルでチェックすべきこと
――畑中さんご自身が中東にいるとき、心がけていることは?
なるべく欧米系のホテルは避けるようにしている。特にユダヤ系の資本が入っていないホテルを選ぶ。ホテルに泊まる時も、なるべく3階から7階ぐらいの部屋にしている。なぜなら、自動車爆弾が地下の駐車場や1階で爆発したときに、大きな影響を避けられるからだ。7階ぐらいまでというのは、消防車のはしご車が届く範囲を考えてのものだ。
また、部屋では二重にロックをするのに加え、窓のカーテンは二重に閉めておく。爆破されても、ガラスの破片が飛んでこないようにするためだ。寝るときにも、枕元にパスポートや現金などを入れたビニール袋を置いておき、緊急時にさっと持って逃げられるようにしている。また、部屋に入ったら必ずホテル内の案内図を見て、自分の部屋の位置や逃げる経路を頭に入れておくよう心がけている。
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