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日経新聞連載:
広がる国際武器取引
(1) 中ロが輸出拡大 新興国の伸長映す
世界の武器取引が活発になっている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の調査によると、主な通常兵器の国際取引は冷戦後期の1980年代初頭にピークに達した後は減少基調が続いていたが、2000年代前半から再び増加に転じた。
同調査によると、09年から5年間の主な武器輸出国は1位が米国で、全体の29%を占める。戦場で性能が実証されたものが多い米国製武器は各国の軍に人気がある。
2位以下はロシア(27%)、ドイツ(7%)、中国(6%)と続く。前の5年間と比べると、ロシアがシェアで米国に迫り、中国が英仏を抜き4位に浮上したのが目を引く。
買い手の動向を地域別にみると、1位はアジア・オセアニアで全体の47%を占める。以下、中東(19%)、欧州(14%)、米州(10%)、アフリカ(9%)となっている。前の5年間と比べると、アジアやアフリカの比重が増している。
国別では買い手の1位はインドだ。以下、中国、パキスタン、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアと続く。武器輸出国としての存在感を増す中国だが、軍用機用エンジンなど自力で製造できないものも多い。
いつの時代も各国が武器を輸入するのは、自国周辺に安全保障上の脅威を感じ、自国製の武器だけでは満足できないためだ。近年の国際武器取引の増加、特に買い手としてのインドや中国などの台頭は、新興国の経済力増大が世界の軍事バランスを着実に動かしつつあることを示している。
(編集委員 高坂哲郎)
[日経新聞9月22日朝刊P.21]
(2)欧州、輸出競争激しく 自国産業 維持狙う
米国に次ぐ武器輸出国であるロシアは、石油や天然ガスなどと並ぶ外貨獲得源として武器を位置づける。プーチン政権は国営武器企業に信用保証など様々な支援をしている。2014年度版防衛白書は「ロシアは、軍事産業を自国の軍事組織の一部と位置づけ、航空機企業の統合を図るなど、その充実・発展に取り組んでいる」と指摘する。
ロシアはかつて自国製戦闘機を中国に無断でコピーされて外交問題になったが、その後も同国への戦闘機輸出はやめていない。大口顧客だったインドが米国製武器に関心を強めていることもあり、ロシアとしては中国との取引関係の維持に腐心しているようだ。
欧州諸国も近年、武器輸出に熱心だ。金融危機後、国防費が強く制約され、国内企業の生産基盤や研究開発力を維持するため、官民一体で武器輸出に取り組んでいる。
ヘイグ英外相(当時)は7月のインド訪問時、英独などが共同開発した戦闘機ユーロファイターを売り込んだ。インドは既に次期主力戦闘機としてフランス機を選定していたが、英国はインドの政権交代などを踏まえてなおも売り込む余地があると判断したようだ。欧州内の輸出競争は実に激しい。
フランスがロシアと強襲揚陸艦の輸出契約を結んだ背景にも、自国の武器産業の維持という狙いがある。ロシア海軍は発注した揚陸艦2隻のうち1隻を極東に配備する方針だ。最終的に輸出されるかは流動的だが、この一件は、一部の武器輸出国は他地域の軍事バランスの変化に無頓着であることを浮き彫りにした。
(編集委員 高坂哲郎)
[日経新聞9月23日朝刊P.25]
(3) 関係構築のカードに 米中ロが売り込み
食料や資源、衛星・ロケットなどの国際取引には、単にビジネスにとどまらない国際政治上の意味合いが込められているが、武器取引も同様だ。
米国は世界最大の武器輸出国だが、米国の軍需企業にとっては米軍が最大の顧客であり、欧州のように輸出が死活的に重要なわけではない。それでも米国が武器輸出に熱心なのは、同盟国や友好国の軍事力を高め、現在の米主導の国際秩序を維持・強化しようという戦略的意図があるためだ。
米国の新型戦闘機F35は、日本や欧州諸国などにも輸出される。装備を共通にすれば修理などで互いに都合がいいし、米国にとっては部品供給で同盟国の対米依存を続けさせる効果もある。
米国のヘーゲル国防長官は8月、インドを訪問し武器の共同開発で合意した。インドは伝統的にロシアを主な武器供給源としてきた。米国には武器取引を通じてインドを引き寄せ、中国に対抗しようとする思惑がある。
これに対抗するかのようにロシアのプーチン大統領が同月、歴史的に親米国であるエジプトのシシ大統領と会い、ロシア製武器の輸出拡大で合意した。ロシアはブラジルやイラクにも武器を売り込んでいる。性能面では米国製兵器に劣るが、価格が手ごろなロシア製武器には一定の需要がある。
米国防総省の中国軍に関する2014年版年次報告書は「アフリカや中南米諸国は、中国を(人権尊重など)政治的条件を付けずに安い武器を輸出する国とみている」と分析。中国が武器輸出を資源確保などの手段としていると指摘した。
(編集委員 高坂哲郎)
[日経新聞9月24日朝刊P.11]
(4)中東などの紛争助長 移転規制 強化急げ
武器は、各国が安全保障上の必要から調達するものだが、その結果として軍事バランスがかえって不安定になってしまうこともある。
米国が2004年以降にアフガニスタンに供給した小火器約47万5000点のうち、20万点以上が所在不明になっていることが米政府の調査で判明した。多くが闇市場に流れ、一部は敵対勢力に渡っている懸念もある。
米軍事専門誌ディフェンス・ニュースは、命中精度の高い誘導ミサイルなど「スマート兵器の市場規模が13年の約36億ドルから、18年には約53億ドルまで伸びそうだ」と指摘した。中東向けに絞ってみると、13年の3億5000万ドルが18年にはほぼ倍増する見通しだ。地域紛争を抱える中東地域に兵器が流入し、それがさらに紛争を助長させる構図が見えてくる。
通常、国家はまず国防計画を立て、それに従って武器を調達する。しかし中国軍に関しては「欲しい武器を次々と買って自信を強め、手に入れた武器を使ってどんな作戦ができるかを後になって考える傾向がある」との専門家の分析もある。
紛争拡大を食い止め、また強権国家が一方的な軍事行動に走らないようにするためにも、国際武器取引に様々な歯止めを講じることが必要だ。
ただ、現在ある武器取引規制には拘束力のない紳士協定も多い。「対人地雷禁止条約」などのように、対象兵器の大半を保有する米中ロなどが参加しない「善人の手だけを縛る条約」もある。時間はかかっても、実効性のある武器移転規制の道を探ることが必要だ。
(編集委員 高坂哲郎)
[日経新聞9月25日朝刊P.27]
(5) 日本、輸出解禁に動く 注文獲得 道険しく
日本政府は今年4月、従来の「武器輸出三原則」を見直し、新たに「防衛装備移転三原則」を閣議決定し、武器輸出を解禁した。既にインドが日本の飛行艇に、オーストラリアが潜水艦にそれぞれ関心を示している。
これまで日本製武器の買い手は自衛隊だけだったため、製造数が限られ、海外でつくられる類似の武器よりも単価が高くなりがちだった。防衛費圧縮の長期化で自衛隊の武器調達の減少も続き、国内防衛産業は窮地に陥っていた。政府による武器輸出解禁の決定の背景には、こうした窮状を打破する狙いもある。
米欧などは武器を輸出するだけでなく、その使い方を教える顧問団も派遣して相手国の軍と交流し、その地域の軍事情報の収集などにつなげている。日本が今後、武器輸出を通じて、自前の情報収集能力を高めることができるかも注目される。
国際武器市場への日本の参入を歓迎しない国や企業が妨害工作をしかけてくる可能性もある。輸出推進には重層的な体制づくりが必要となる。
英誌エコノミストは、日本製武器は実戦で性能が証明されていないため「外国からの注文獲得は容易ではない」と指摘した。日本の防衛産業からは「武器輸出の枠組みはできたが、日本政府の支援はまだ心もとない」との声も聞かれる。
武器輸出問題に詳しい佐藤丙午・拓殖大教授は「日本の武器輸出解禁には自衛隊武器の単価低減などの目的があるが、輸出実現に至るプロセスの検討が十分ではない」と指摘している。
(編集委員 高坂哲郎)
=この項おわり
[日経新聞9月26日朝刊P.31]
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