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ロシアのウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News〕
ウクライナとロシアと欧米:長い闘い
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41674
2014.09.08 The Economist :JBpress
(英エコノミスト誌 2014年9月6日号)
悲しい現実だが、ウクライナではロシアのウラジーミル・プーチン大統領が勝利を収めつつある。欧米は長期戦を覚悟しなければならない。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、宣戦布告も正当な理由もないままウクライナで忌まわしい戦争を進めている。この戦いで、大統領はいくつかの有効な強みを持っている。
言い争いが絶えないせいでプーチン大統領の抑え込みに失敗している欧米の指導者たちとは違って、プーチン大統領は自分以外の者に行動を説明する義務を負っていない。
プーチン大統領には本当の意味での同盟者がいない。そして、隣国への主権侵害と同様の無慈悲さで自分への批判の声を抑え込んでいるため、国内の制約もほとんどない。
羞恥心に縛られていないことも明らかだ。その証拠に、ウクライナの戦闘におけるロシアの役割について信じ難いほどの嘘をつき、MH17便が自身の代理人により撃墜された後でさえ、さらなる戦車と部隊を送り込む決定を下した。
何よりもプーチン大統領は、欧米の指導者たち以上に結果を重視している。プーチン大統領の地政学的な被害妄想、冷戦終結時に失った領土への執着、勝利に懸けた個人的な名声を考えれば、そうなるのも当然だ。そして、大統領には、使うことを厭わない現代的な軍隊がある。
ロシアと欧米のこうした姿勢の違いの結果、プーチン大統領は勝利を収めつつある。少なくとも、プーチン大統領の歪んだ論法に沿えば、勝利を収めているように見える。
だが、そうした行動により、プーチン大統領は、ごく最近まで、長すぎるほど握ってきた別の強みを失った。欧米の一部で、プーチン大統領を理性的な対話者、場合によってはパートナーとさえ見なしてきた騙されやすい連中が、そう考えようとしなくなったのだ。今では、どんなに鈍い人でも、プーチン大統領の本性を知っている。政治家というよりは山賊であり、パートナーではなく敵だということを。
それが明らかになるのが遅きに失したとはいえ、欧米はそうした明快な事実を踏まえて、ウクライナを巡る闘いを進めるべきだ。そして、欧米の指導者たちは、ロシアとの長く大がかりな対立が待ち受けていることを覚悟しなければならない。その対立は、ロシア国境全域に広がる可能性がある。
■ハイブリッド戦争を覆う霧
9月初旬に生まれたウクライナ停戦の希望は、ロシアは交戦当事国ではないというプーチン大統領のばかげた主張のせいで台無しになった。だが現状では、どのような停戦でも、プーチン大統領の思うような形にできるはずだ。
ロシアの正規軍の支援を受けた寄せ集めの分離派が圧倒的な力でウクライナ軍を押し戻したことから、ウクライナ軍幹部の関心は、反政府勢力の制圧よりも、むしろ全面的なロシアによる侵略の阻止に向けられている。「2週間もあればキエフを落とせる」というプーチン大統領の荒っぽい大言壮語には、恐ろしいほどの説得力がある。
恐らく、依然としてプーチン大統領の狙いは、ウクライナに連邦制を導入し、東部をロシア政府が支配するというものだろう。もしくは、それに失敗した場合には、断続的な低強度紛争も視野に入れていると思われる。いずれの場合でも、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)に加盟するというウクライナの夢は砕かれる。
欧州の一部の者は、わずかな和平の気配が漂うだけでも、プーチン大統領をこれ以上罰する必要はないと主張することだろう。プーチン大統領が紛争への関与を否定していることを口実に、言葉を濁してきた者たちがいたのと同じことだ。だが、それは許しがたい過ちとなるだろう。
ドイツのアンゲラ・メルケル首相が言っているように、隣国に侵攻し、欧州の国境を変えたロシアを何の咎めもなく許すことは、到底できない。米国と欧州では対策が協議されているが、その内容は、クリミア併合に対する弱腰の反応をはじめとする過去の制裁よりもはるかに厳しいものにする必要がある。
ロシアの臆病な議会、保安当局、政府に属する全員に対して、ビザの発給停止と資産凍結の措置を取るべきだ。私腹を肥やす上級官僚の国外資産についても、特定して差し押さえるべきである。エネルギーおよび防衛分野には圧力をかけなければならないし、ロシア国債に手を出さないようにする必要もある。欧米の金融機関は、プーチン大統領の戦争挑発行為に資金を提供すべきではない。
そうした諸々の措置の狙いは、1つには、遅かれ早かれ始まることになる交渉の席で、ウクライナの立場を強めることであるべきだ(急速に悪化する経済を立て直し、エネルギー代金の支払いを支援するために、もっと気前のいい財政援助をする必要もある)。
また、プーチン大統領に圧力をかけることにも狙いを置くべきだ。ウクライナでの戦争やプーチン大統領に対するロシア国民の支持率は、ロシア国営のテレビ局が流すプロパガンダのおかげで保たれている。だが、通貨ルーブルが下落し、モスクワから資本が流出し、ロシア兵士の遺体袋が密かに帰還してくる中、プーチン大統領の政治的な問題は膨らんでいくはずだ。
そして、欧米の制裁が短期的にはプーチン大統領の行動を改められないとしても、将来的にプーチン大統領を(恐らくその後継者も)手なずけることを根本的な目標に据える必要がある。なぜなら、ウクライナだけで終わらないのは間違いないからだ。
■キエフとその先
プーチン大統領の第1の選択肢は、侵攻せずにウクライナを手中に収めることだった。だが、武力行使を厭わない姿勢を示すことで、プーチン大統領は恐怖の種をまいた。そしてプーチン大統領にとって、恐怖は政治上の基準通貨だ。
足並みのそろわない弱腰な対応は欧米の力を奪った。プーチン大統領の目には、欧米はロシアの弱体化と封じこめに躍起になっているように映っている。プーチン大統領にすれば、ソビエト連邦崩壊後のロシアの歴史は、米国により与えられた屈辱の連続で、それを逆転させることが自分の使命なのだ。
プーチン大統領はロシア国民の繁栄以上に、隣国の弱体化を望んでいる。同盟者ではなく服従者を求めている。
そうした世界観――ソ連国家保安委員会(KGB)的な冷笑主義と、救世主信仰色を強めるロシア国家主義の有毒化合物――が、プーチン大統領をウクライナへと駆り立てた。その冒険主義がウクライナ東部のドンバス地方で終わると考えるのは、2008年にロシア軍がグルジアからアブハジアと南オセチアを奪った際に、これでプーチン大統領も満足するはずだと主張した者たちに劣らず世間知らずだ。
9月初め、プーチン大統領はカザフスタンを威嚇した。カザフスタンは現在でも高齢のヌルスルタン・ナザルバエフ大統領が治めている。後継者争いが起きれば、プーチン大統領にとって恰好のチャンスになるだろう。エストニア、ラトビア、リトアニアといった旧ソ連の小国には、プーチン大統領が「保護」を約束したロシア語を話す少数の人々がいる。
バルト三国は2004年にNATOに加盟している。仮に、これらの国でロシアを資金源とする分離運動が起き、いずれかの政府がそれを侵略行為だと主張し、NATOの同盟国が支援を拒んだらどうなるのか? 相互防衛の約束という同盟の根幹が砕け散るだろう。
したがって、プーチン大統領の失地回復政策は、ウクライナで食い止めなければならない。米国のバラク・オバマ大統領は9月初め、英ウェールズで開催されたNATO首脳会議へ向かう途中でエストニアを訪問し、バルト海沿岸の同盟国に対する米国の支援を約束した。米軍の一旅団を派遣すれば、さらに心強いだろう。
NATOは、これまでよりも迅速に動ける緊急部隊の創設を承認する予定だ。緊急部隊の軍備は、ポーランドにあらかじめ配備される。だが、NATOがバルト三国に軍隊を配置しないというロシアとの約束を反故にすべき時は、すでに来ている。その約束は善意の時代に結ばれたもので、それを踏みつぶしたのは、ほかならぬプーチン大統領だ。
■何もしない代償の方が大きい
欧州はロシア産の天然ガスから脱却するために、もっと多くのことをしなければならない。例えば、供給源の多様化や、欧州でのエネルギー貿易のための新たな規則とインフラの導入などが考えられる。プーチン大統領は良好な商業パートナーではない。
最終的に、そうした措置の効果が積み重なった結果、プーチン大統領が自らの無謀さを反省するかもしれないし、ロシアの国民やエリートがプーチン大統領に対する見方を変えるかもしれない。もちろん、欧米も代償を払うだろう。だが、闇に包まれた哀れなウクライナが示しているように、何もしない方が常に大きな代償を払うことになるのだ。
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