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[創論]集団的自衛権でどう変わる
米と同等のリスクを 元米統合参謀本部議長 リチャード・マイヤーズ氏
安倍政権は憲法解釈を見直し、禁じられてきた集団的自衛権を行使できるようにした。米国などが攻撃されたら、日本は自分が攻撃されていなくても応戦できるようになる。自衛隊と米軍の協力はどう変わるのか。7月に発足した日米制服組の元首脳らによる定期対話(主催・日本再建イニシアティブ)で、中核メンバーを務める二人に聞いた。
――日米の元制服組トップによる初の定期対話は、どんな議論になりましたか。
「現役だったときより、かなり率直に話し合えた。安全保障環境がどう変わり、日本による集団的自衛権行使の容認がどういう意味を持つのか。米国の(外交の軸足をアジアに移す)リバランスや、中国、北朝鮮、ロシア、韓国をめぐる情勢も取り上げた。互いの共通認識が高まったと思う。できれば毎年1回、東京とワシントンで相互に開いていきたい」
――日本が集団的自衛権を行使できるようになった結果、米国がいちばん期待する協力とは何ですか。
「まさにいま、日米両政府がその議論を進めている最中だ。両国は平時から一緒に戦略を練り、作戦計画をつくり、そのための訓練をしなければならない。ところが日本の集団的自衛権が禁じられていることが、大きな足かせになってきた。中国軍が台頭し、北朝鮮は挑発を繰り返している。ロシアの行方も予測しづらい。日本が集団的自衛権を使えるようになれば、こうした情勢への日米の対応力は必ず、高まる」
――容認反対を唱える人々の中には、米軍は強大なので、日本の集団的自衛権容認をさほど必要としていないという見方もありますが。
「それは誤っている。もし米軍に青天井の予算と能力があるなら、そうした議論もあり得るが、現実はそうではない。日本の防空ひとつとっても、米軍だけでは対処できない。たとえば、北朝鮮は大量のミサイルを持っている。在日米軍やグアムをミサイル攻撃から守るうえでも、自衛隊の協力が期待されている」
――日本は安全保障面で、もっと大きな役割を果たす時期にきている、と。
「日本は同盟国として米国と同等に努力し、リスクを負うべきだという声がある。米軍だけが最前線で大きな脅威に向き合うのでは、公平とはいえないだろう。米国の多くの同盟国のうち、集団的自衛権を行使できないのは日本だけだ。もちろん、これには歴史的な経緯がある。昔はそれが正しい選択だったのだろう。だが、現在、米国だけが大きな重荷を担うというのは、理にかなっていない」
――では、日本が貢献を増やさず、いまの状態が続いたとしたら、日米同盟は弱まると思いますか。
「そうした予想はやや極端だ。米軍の運用などを担っている人々からは、『日本はもっと早く普通の国になってほしい』という不満が出るかもしれない。だからといって、米国が、日本との同盟関係に嫌気がさすとは思わない。米政府や米軍の対日担当者は、(憲法上の制約が)日本にとってどれほど大きいのか、理解しているからだ」
――たとえば、朝鮮半島で紛争が起きたとしましょう。集団的自衛権の行使も含め、米国は日本にどんな支援を期待しますか。
「ひとつは後方支援だ。在日米軍基地の一部は、朝鮮戦争の休戦協定にもとづき、国連軍の施設にも指定されている。朝鮮半島で有事になれば、ここから物資を運んだり、日本を経由して部隊が朝鮮半島に移動したりもする。こうした後方の支援に加えて、自衛隊が日本周辺の空を守ってくれれば、米空軍は韓国の防空に精力を注ぎ込める。ただ、朝鮮半島の戦闘に参加するよう、自衛隊に要請することはないだろう」
――朝鮮半島から退避する民間人を乗せた船を、自衛隊が護衛するシナリオも、日本政府は想定しているようですが。
「とても現実味があるシナリオだと思う。北朝鮮が戦争に勝つ見込みはないにしても、彼らの攻撃によって、民間人に多くの死傷者が出かねない。朝鮮半島から脱出する人々を乗せた船を護衛するのは、とても意義ある貢献だ」
――中国も軍備増強を加速しています。長い目でみて、日米はどう対応していくべきだと考えますか。
「中国軍はあまり近代化されていない。南シナ海や東シナ海で米軍や米国の同盟国に対抗できるようになるまでには、長い道のりだ。中国自身もそれは分かっている。だから、(米軍が中国近海に近づけないようにする)接近阻止・領域拒否(A2AD)の能力に力を入れている。しかし、米軍にはそれに対抗する手段もある。もっとも、米中が戦争することなど、想像できない。中国もそれは望んでいないだろう」
Richard Myers 在日米軍司令官などを歴任。2001〜05年に米軍の統合参謀本部議長としてイラク戦争などを指揮。72歳。
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共同訓練や演習に幅 元統合幕僚長 斎藤隆氏
――日米制服組の元トップによる対話が始まりました。成果はどうでしたか。
「現役の時には、制服組は互いに大きな組織を背負っている。軽々に何かを約束することはできない。今回、現役時には言えなかった本音をぶつけ、日米の共通認識を培うのに役だったと思う」
――とくに印象に残っているやり取りは何ですか。
「ひとつは国家安全保障会議(NSC)をめぐる議論だ。NSCは放っておけば肥大化するという指摘があった。米国のNSCはうまくいっていると思っていたが、やはり米国も試行錯誤しているようだ。ただ、米国はここが問題だと思えば、大胆に改革していく力もある。米側の経験から学ぶことは多い」
――日本が集団的自衛権を行使できるようになると、自衛隊と米軍の協力は、具体的にどう変わるでしょうか。
「いちばん大きい変化は、米国やその他の国々と実施できる共同訓練や演習の領域が広がることだ。これまでは集団的自衛権の行使に触れるような訓練や演習には、参加できなかった。さまざまなシナリオを想定した演習に加われるようになれば、想定外の事態への対応力も強まる」
――実際に集団的自衛権を行使する事態が起きるかどうかにかかわらず、それも想定した演習ができるようになることで、危機への備えが増す意味がまず大きい、と。
「そうですね。日ごろから訓練しておかなければ、いざとなったときできない。オリンピックで選手がメダルをとれるのは、練習を積んでいるからだ。各種訓練を通じて、頭で考えていただけでは気づかない、さまざまな問題点が浮き彫りになる」
――集団的自衛権の行使容認によって、日米は新たにどんな共同訓練が必要になるのでしょうか。
「新たに可能になる後方支援や、これまで認められなかった戦闘時の船舶の強制検査などへの対応もある。朝鮮半島は休戦状態であり、朝鮮半島で何か起きれば、米軍だけでなく、国連軍としてオーストラリアなどの部隊が、日本の基地を利用するかもしれない」
「仮に、日本が集団的自衛権を発動するとしたら、自衛隊はどう協力するのか。そこも米国や他の関係国と協議し、準備していかなければならない。細かいことでいえば、連絡を取りあうため、通信ネットワークも共有しておく必要がある」
――朝鮮半島で戦争になったとき、いちばん自衛隊に求められるのはどんな支援だと思いますか。
「これは集団的自衛権とは直接関係ないが、まず大切なのは日本国内の重要施設や米軍基地をしっかり守ることだ。また朝鮮半島で有事になれば、ミサイルの攻撃に対処するため、日米はイージス艦を日本近海に配備するだろう。その上空に敵機が迫ってくることも考えられる。その際には、集団的自衛権にもとづき、自衛隊が米軍のイージス艦を守ることも期待されるだろう」
――尖閣諸島で日中の緊張が続いています。どこまで米国が防衛に関与するか、不安を抱く向きもあります。
「オバマ大統領は尖閣諸島に日米安全保障条約第5条を適用すると明言した。今回の日米対話に参加した元米軍トップから『最高指揮官の大統領が守れといえば、米軍人は命をかけて尖閣を守る、しかし米国は単独で守るつもりはない』との厳しい指摘があった。まさに、日本の強い防衛意思があってこそ、初めて日米で共同対処できる」
――尖閣諸島をめぐっては、有事にはいたらないものの、情勢が緊迫するグレーゾーン事態への備えも急務です。この面で、日米の連携をどう考えますか。
「いちばん厄介なのは、尖閣諸島などの離島に武装漁民等が不法上陸し、占拠してしまうことだろう。こうした事態が起きれば、むろん、日本が一義的に対処する。ただ、日ごろから日米で警戒監視や共同訓練をしっかり重ねて、このような事態にならないように事前に抑止しなければならない。一方で、不測の事態がエスカレートしないように、日中の緊急連絡体制づくりを急ぐ必要がある」
――それでも尖閣諸島で紛争が起きたら、日米は具体的にどう協力しますか。
「それは分からない。仮に分かっていても、言うべきではない。言った瞬間に、相手に火をつけかねない」
さいとう・たかし 1989〜90年、米海軍大学留学。海上自衛隊幕僚長などを歴任。2006〜09年に自衛隊の統合幕僚長。66歳。
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〈聞き手から〉 「行使でなく抑止」 胸中に
集団的自衛権が使えるようになることを、どう受け止めるか。文民統制の原則への配慮から、自衛隊の幹部は多くを語らない。内政干渉をさけるため、米軍も踏み込んだ論評はしていない。
斎藤、マイヤーズの両氏に登場してもらったのは、現役の制服組が明かさない、そんな本音を聞き出すためだった。二人が一致したのは、日本の決定はアジアの危機を防ぎ、日本を守るのにとても役立つというものだ。これは予想どおりだったが、興味深かったのはその理由だ。
集団的自衛権を行使できるようにする意義が大きいのは、それを使う機会が多いからではない。むしろ逆だ。危機を未然に抑え、使わないですむようになるからだ――。両者の含意を大ざっぱに意訳すれば、こうなるだろう。
マイヤーズ氏は日米同盟の重みを熟知する知日派だ。将来、この同盟が細るようなことがあったら大変だ……。日本に「公平な負担」を求める胸中には、こんな思いがあるにちがいない。
(編集委員 秋田浩之)
[日経新聞8月31日朝刊P.11]
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