01. 2014年9月03日 05:53:58
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ロシアの領土略奪への対応で割れるNATO加盟国 2014年09月02日(Tue) Financial Times (2014年9月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)MH17墜落現場への部隊派遣は「非現実的」、オランダが計画中止 (写真はウクライナ東部ドネツク市内を走る親ロ派武装勢力)〔AFPBB News〕 今年3月の終わりごろ、ポーランドのドナルド・トゥスク首相は北大西洋条約機構(NATO)に1つの要請を行った。1万人の兵力をポーランドに常駐させるよう求めたのだ。 しかし、ポーランドやバルト諸国で多くの人が驚いたことに、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は先週、NATOの兵士を東欧諸国に長期間駐留させる構想を一蹴した。 ロシアが3月にクリミアを併合し、ウクライナ東部への軍事的関与も続けているこの状況にNATOはどう対応すべきかという議論は、この同盟を分裂させかねないほど熱を帯びたものになっている。 「ウクライナがやったことは、ロシアの政策との関連で解釈される。この問題は、欧州安全保障の基本原則をひっくり返しかねない」。英国王立防衛安全保障問題研究所(ロンドン)のマイケル・クラーク所長はそう指摘する。「新たな冷戦に、あるいは新たな1930年代に入りつつあるというような見方も一部にはある」 首脳会議の焦点は東欧とバルト諸国への戦力配備 NATOは今週行われる首脳会議(隔年開催)で、新しい「即応性行動計画」を披露することにより、意見の分かれる加盟国間の橋渡しをしたいと考えている。各国の大使がブリュッセルで何週間も協議を重ねて練り上げた計画だ。 この計画は、まだ最終決定されていない。またタカ派からは、立派な言葉が踊るだけで中身のない代物に堕してしまう恐れもあるとの警告も発せられている。 膠着状態に陥っている最も重要な議論は、欧州通常戦力条約(CFE条約)とその後の文書で定められたルールをNATOは見限る――あるいは曲げる――べきか否かというものだ。このルールは、兵力の恒久的な配備を「新規に」実施することを禁じており、東欧とバルト諸国に基地をつくることを事実上不可能にしている。 ロシア自身は2007年にCFE条約のモラトリアム(履行停止)を宣言したが、ドイツなどNATO加盟国は、NATO側は引き続きこの文書の精神に従うべきだと考えている。 従って、NATOは新しい方針の策定にあたり、兵力配備に関することには慎重に取り組んできた。 「恒久的駐留にかかわる用語は一切使用しない。口頭でも同様だ」。あるNATO高官はそう言い切る。「我々は『適切な駐留』について話し合うのだ」 どこまでが「適切な駐留」になり得るのかは意図的にぼかされている、とこの高官は言う。 NATOにとって重要な言葉遣いの変化が行われるのは、即応性行動計画がNATOの「フロンティア」、すなわちバルト諸国と東欧にどのように注力するかにかかわる部分である。この計画は、戦力配備を迅速に行う能力を高めることや、フロンティア諸国での軍事演習や部隊の派遣を増やすことによってNATOを強化することを求めている。 「(フロンティア諸国という)『どちらの支配下にもない国々』にNATO軍を進めることはしないというロシアとの取り決めは、維持できなくなっている」。英国議会インテリジェンス・セキュリティ委員会のマルコム・リフキンド委員長はこう語る。「NATOのアセットは、それを必要とするすべてのNATO加盟国に配備されなければならない」 エストニアのスベン・ミクセル国防相は本紙(フィナンシャル・タイムズ)の取材に対し、「安心と抑止の一手段として、我が国への連合軍の駐留」を望んでいると語った。ただ、「冷戦時代のような、非常に大規模で固定的な駐留を望んでいるわけではない。師団単位の話をしているわけではない」とも付け加えた。 NATO加盟国、ウクライナ危機を受けて取り組みを強化してきたが・・・ NATOの即応性行動計画には、数時間で展開できる即応性の高い部隊の新設と、バルト海に面したポーランドの都市シュチェチンに恒久的な司令部を置くことが盛り込まれることになろう。 計画の中には、すでにNATOが進めている事業に関連するものも入るだろう。例えば、米国は新しい「欧州行動セット」の配備を始めている。今年6月の演習で初めて利用された、大隊規模の車両・装備の備蓄のことだ。ドイツのグラーフェンヴェーアで管理されるため、ポーランドへの移送や彼の地での補充・再生や増強も比較的容易にできるだろう。 即応性行動計画でこれ以上に重要なのは、部隊の派遣や軍事演習を増やすことだ。NATO加盟国はすでに、ウクライナ危機の発生を受けて取り組みを強化している。 例えば米国は、第173空挺旅団の隊員600人を4等分してポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニアの基地に派遣している。またデンマーク、フランス、英国はジェット戦闘機をエストニアとポーランドに派遣している。 圧倒的に規模が大きいロシアの軍事演習 しかし、NATO最大級の演習でさえ、ロシアがその国境付近で行っているものの規模には到底及ばない。NATOが今年5月にバルト海で行った過去最大の演習「春の嵐」には6000人の兵士が参加したが、ロシアが2月にウクライナやバルト諸国との国境付近で行った緊急軍事演習には15万人の兵士が参加していた。 「東西冷戦のころには、フルダ・ギャップ*1の両側で何百万人もの兵士が参加した演習が行われたが、そういう状況に戻ることはないだろうと思っている」。昨年までNATOの連合軍最高司令官の職にあり、現在は米タフツ大学フレッチャー・スクールのトップを務めるジェームズ・スタブリディス氏はこう語る。 しかし、ここ10年間で縮小されてきた軍事演習の規模は今後かなり大きくなるとも予想している。「こちら側から送らねばならないメッセージは、2語にまとめるなら、結束と能力である」と同氏は話している。 *1=旧東西ドイツの国境線が走っていた地域の渓谷のこと By Sam Jones in London http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41627 制裁強化で強まるロシアと中国の絆 欧米製に取って代わる石油掘削設備、軍事的つながりも強固に 2014年09月02日(Tue) W.C. ウクライナ東部の武力紛争と、それを取り巻く関係諸国の動きは相も変わらず目まぐるしい。積み重なる連日のメディア報道に接していると、多数の無辜の犠牲者を出したマレーシア航空機撃墜事件ですら、不謹慎ながら随分と昔の話であったような錯覚に陥ってしまう。
ロシアへの制裁を強める西側諸国 露・ウクライナ首脳会談、大きな成果なく終了 ベラルーシの首都ミンスクで会談、握手するロシアのプーチン(左)、ウクライナのポロシェンコ両大統領〔AFPBB News〕 この撃墜事件では犯人の特定がなされないままに、ロシア犯人説の米国と世論に押されてか、それまでロシアへの制裁に慎重だったEUも、特定人の入国禁止や資産凍結から一歩進んでロシアの金融・産業を制裁の対象にし始めた。 ロシアはウクライナ軍によるミサイル誤射やその戦闘機による撃墜説を持ち出すが、欧米はこれを奇想天外・荒唐無稽で片づけている。 万が一、実はロシアの言い分の方が正しかった、などということにでもなろうものなら、天地が引っ繰り返って欧米の政府の一つや二つくらい潰れかねないから(米国とて例外ではあるまい)、「悪いのはロシア」という結論は維持されるしかない。 他方では、事件以来の制裁合戦はもうやめにすべしという健全な考えから、ドイツやベラルーシはロシアのウラジーミル・プーチン大統領とウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領の8月26日の会談を斡旋した。 ウクライナ東部の問題がこうした1回の首脳会談で片づくべくもないにせよ、彼の地で続いてきた武力紛争を鎮める方向でこれから双方が協議する出発点にはなった、と報じられ、多くが何となくほっとした気にさせられた。 ところが、それも束の間で、「ロシア軍がすでにウクライナ東部に軍を入れており、これは侵略だ」と会談直後にポロシェンコ大統領が声明を発表し、北大西洋条約機構(NATO)もこれを裏づける証拠写真らしきを公表して砲列を揃える。 そして、ロシアが紛争に直接手を出していることが明らかになった、かくなる上は、で米国もEUもさらなる対露制裁を実施することを明言し始めた。 まとまりかけた、と見える傍から話がぶち壊れるという、これまでのパターンの繰り返しである。アルベール・カミュも黄泉でさぞ呆れているだろう。 米国に言わせれば、過去1カ月近くの間にロシアは1000人単位の軍や兵器を動員してウクライナへの直接的な軍事介入を強めている。ロシアはこれまで同様に、ロシアの正規軍がウクライナ領内に侵攻した事実はないと主張する。 東部の「親露派」関係者が、「ロシアから武器を送られ、ロシア正規軍の有志も戦いに参加してくれている」などと喋ってしまったのでは、参謀本部の指令に基づいた軍の動きではなかったにしても、どうにもロシアに分が悪い。 だが、米国が言い張る証拠写真にしても、ロシアに捏造云々で反論されるとなぜか二の矢が飛ばないから、どこかはっきりしない点が残ってしまう。 戦況が二転三転するウクライナ東部戦線 親ロシア派、ウクライナ東部で猛反攻 米、露が「直接関与」と非難 ウクライナ東部ドネツクの中心部で、砲撃を受け炎に包まれる学校〔AFPBB News〕 ウクライナの東部での戦況がどうなっているのかは、確かに不明点だらけだ。つい最近までは、ウクライナ政府軍が反乱分子の「親露派」を都市部に追い詰めて、全土平定ももはや時間の問題とか言われていた。 士気が上がらず、ロシア領への逃亡や脱走も多いと言われるウクライナ軍が、どうやってそこまで持ち込めたのかも不思議ではあった。一部の財閥が私兵を雇い入れ、それが政府軍として活躍したとの説もある。それが8月に入ってからは、今度は反政府軍に押し戻されかかっているという。 米国やウクライナの現政権から見れば、ロシアが本格的に自軍を投入し始めたことがその理由としか考えられない。 「親露派」を壊滅させて東部への主権を確立した後は、戦勝側としてロシアに降伏文書まがいへの調印を迫り、ウクライナの“戦後”復興と経済回復に必要な資金の供出で落とし前をつけさせる、とかの皮算用だったのかもしれない。ならば、その可能性を土壇場で引っ繰り返されたのでは元も子もなくなる。 ロシアが限りなく軍の直接投入に近い(と思われる)動きになぜ走り始めたのか、については、劣勢になった「親露派」(反ウクライナ政府派武装集団)をもはや見殺しにはできないとの思いが極まりそのテコ入れに踏み切ったとも、和平交渉での有利な立場確保のための一手ともメディアでは評されている。 だが、これは当初のロシアの狙いがもはや実現不可能になったとプーチン大統領が見切りをつけたから、という可能性もひょっとしたらあるのではなかろうか。 ウクライナ問題で譲れない線をロシアは3月の段階から明示してきた。ウクライナがどのような軍事同盟にも加盟しないこと(中立政策)と、ウクライナ国内での少数派保護であり、前者は言うまでもなくNATOへの加盟阻止、後者はロシア語の公的使用の自由とそれを保証するウクライナ憲法の改正(連邦制の採用)である。 これを追求するための条件整備(西側とウクライナの現政権からの抵抗をできるだけ減らす)を考えて、ロシアは「親露派」の反乱への援助を表立って行うことを避けてきた。ロシア政府寄りの有力評論家ですらが、ウクライナへのロシア軍投入はロシアを徹底的に叩くことを目指す西側の罠に嵌まるだけ、として今は隠忍自重が必要だ、とメディアで訴えていた。 にもかかわらず、過去1カ月の間にロシアが自らにとっても危険極まりない本格的な軍の投入もどきに踏み切ったとするならば、それはこれまでの政策の大転換ということになる。 ウクライナのアルセニ・ヤツェニュク首相は、8月28日の国防会議でNATO加盟への方針が決定され、関連法案を議会に提出する、と発表した。ロシアが直接介入を始めたから、そうせねばならない、という理屈になる。 NATOの役割を変える意図も見え隠れ NATOは他国との紛争を抱える国の加盟を認めていない。従って、今のウクライナ情勢から見れば、その加盟は本来ならあり得る話ではなかろう。だが、もしこれが従来のようなウクライナの一人相撲と思いつきから出た話でもなく、米国がNATOの持つ役割や意味合いを大きく変えようとし、その延長線上にウクライナを置くようになったとしたならば、全くの与太話でもなくなるかもしれない。 親ロシア派、ウクライナ東部で猛反攻 米、露が「直接関与」と非難 ウクライナ東部ドネツクで、焼け焦げた車を前に電話で話す親ロシア派戦闘員〔AFPBB News〕 そして8月26日のポロシェンコ大統領との話し合いで同大統領がこうした動きを抑える側には回らない、あるいは回れない、とプーチン大統領が最終的に見切ったとしたなら、これまでの自重政策は撤回せざるを得ないという結論にもなる。 こうした推測を断定に持ち込むには、まだ分からないことが多過ぎる。それでも、事態を今のままで膠着させてこれ以上放置したらロシアにとって危険、という判断はプーチン大統領の方針変更を後押しするだろう。 ロシア政府も多くのロシア国民も、ウクライナ問題で先に手を出したのは西側、という見方を変えていない。今年2月のウクライナ西部の「民族派」による非合法政権奪取と、それを初めから援助した西側の動きが、深刻化した問題のそもそもの発端ということになる。 この点に対して、西側の主張や批判は「ロシア性悪説」の枠を超えていない。このインターネットの時代に、プーチン大統領であろうと誰であろうと共産主義時代宜しく嘘八百のプロパガンダを張れば、底が直ぐに割れてロシア国民の反発を買うはずだ。 その国民がプーチン大統領を支持してきたのは、愛国主義に洗脳された向きもいようが、西側の論を読んでもどれも説得性に欠けてしまうものばかり、と映るからでもあるのだろう。 だが、最新の世論調査では、ロシア軍のウクライナ問題への直接介入への反対意見が急速に増えた。ロシア自らが行った対露制裁国からの農産品輸入禁止で、食品を中心に物価は既に上昇を始めている。 ことを長引かせれば、経済状況への不満からロシア国民の厭戦気分も拡大してこようから、それが西側の対露制裁を緩和させることにはならなくても、国民が納得できる具体的な成果を示したうえでの決着の形をそろそろ作らねばならない。 また、米国に対する疑心暗鬼の拡大も、ロシアを動かす要因になっていることは想像に難くない。ウクライナ問題でのロシアの外交目標は上述の通りなのだが、一方の米国はいったい何を目標に動いているのかが見えてこない。 ロシアの目標に対してどこで妥協するつもりなのか、あるいは妥協など論外でウクライナ全土をNATOの防衛圏に含めることまで考えているのか。 狙いはプーチン政権打倒か? ウクライナで拘束のロシア兵10人、兵士交換で帰還 ウクライナの通信社UNIANが公開した、同国東部で拘束され、首都キエフでの記者会見に引き出されたロシア空挺兵らの写真〔AFPBB News〕 果ては、話はウクライナだけに終わらず、米国はプーチン政権打倒まで突き進むつもりではないのか、という憶測まで出てくる――「ロシア性悪説」が西側の政治家や世論の本音なら、問題解決にはその根源を断つしかない、という結論に行き着く道理ではないのか・・・。 こうなると、もはやいくら話し合ってもバラク・オバマ政権が続く限りは無駄だろう、という見方が浮上してきてもおかしくなはない。 内政もそうだが、オバマ政権の外交政策全般が内外の批判に晒されていることは周知の事実で、対ロシア政策でも米国がその最終目標を描けていないと評されている。これまでの動きが、大統領やその補佐官、それに国務長官、国務省の地域担当、ペンタゴンの間のどのような連携プレーに基づいているのかすらも、どうにもはっきりしない。 相手が考えていることがよく分からなければ、ロシアにとってはやり難い。そして、米国ももし本気でプーチン政権打倒まで考えているのなら、それはオバマ政権がそれだけプーチン大統領を恐れていることの裏返しということになる。 NATOがウクライナの加盟を表立って進めるようになるのか(今週のNATO首脳会議で何らかの動きが出る?)、それがもはや避けられないことと諦めてロシアがウクライナ東部の分離独立に向かって動くのか、を巡って、事態は予断を許さない形でこれからも進むことになるのだろう。 その中で、米国もEUも対露制裁のさらなる強化には踏み切ることをほぼ決めたようだ。マレーシア航空機撃墜事件を契機に、西側はロシアの金融と石油産業を狙った制裁の実施を始め、今後それらが一層強化されるような雲行きである。 となれば、制裁で立ち切られる西側からの資金と機器の調達をある程度まで埋めてくれるのは、対露制裁に同調しない方針を明示している中国しか当面はいないということになる。 これまでは、露中が連携しても、根底では互いに信頼し合えず、警戒を伴った仲にならざるを得ない、という見方が、特に国際政治や軍事の専門家の中での見方の主流だった。双方が大国だけに、長い目で見れば恐らくこの見方は間違ってはいないのだろう。中には、ロシアと西側が政治的に対立すれば、結局は中国に漁夫の利を得させるだけ、という論もある。 だが、背に腹を代えられなくなれば、短期・中期的な露中関係緊密化の可能性は排除できなくなる。 1939年にソ連は、反共を唱え領土拡大に動くドイツに対抗すべく、英仏との軍事同盟を何度も働きかけたが受け入れられなかった。そして、その結果が同年8月の驚天動地(日本では「複雑怪奇」)と言われた不倶戴天の敵同士の独ソ不可侵条約だった。腹を決めたら何をやってもおかしくないのがロシア、と言うべきだろうか。 中国製品に置き換えられる石油掘削設備類 中露ガス契約、露経済や欧州市場への影響は限定的 アナリスト 中国・上海で行われた合意文書署名の式典に出席したロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席〔AFPBB News〕 現在欧米が対露輸出禁止に指定した対象(北極海などの大陸棚での原油開発に用いられる鋼管類、掘削機、ポンプ、洋上生産でのプラットフォームなど*1)は、少なくとも鋼管類でかなりの部分が中国の代替供給で埋められるだろう*2。 中国には欧米に取って代わるだけの技術がまだないとの見方もある。それが当たっている部分もあるだろう。だが、中国がこれまで先進国からの技術移転を急速に消化してきていることも確かだ。 十年余前に中国が自力で基幹ガスパイプラインの建設などできるはずがない、と言われていた中で、機器の供給も含めて国内を横断する西気東輸を独力で完成させてしまったことを我々は忘れるべきではあるまい。 制裁のもう1本の柱である、ロシアの金融機関の欧米市場での資金調達制限措置についても、やはり完全にとまでは言えないものの、(香港当局が北京の意向に従えば、との条件付きで)ある程度は時価総額でロンドン市場の7割を超える規模までに成長してきている香港市場によって賄うことができるだろう。 ただ、そうは言っても米欧がロシアの商銀や企業のドル決済をさらに締めつけてきたなら、香港ドルの世界だけでロシア経済を持ち堪えさせることはいささか無理ではあろう。 これらを超えてロシアが大きく対中傾斜に踏み切るかは、エネルギー資源で東シベリアの油田・ガス田開発権を中国に与えるかどうか、また極東開発での外資誘致で中国企業の大幅な進出を認めるかどうか、で判断していくことになる。 不明瞭な部分を多々残しながらも、10年以上にわたるロシアからの対中パイプラインガス輸出商談が本年5月にようやく一応のまとまりを見せたことは記憶に新しい。それに関連して、ロシアの足元を見た中国がロシア領内の石油・ガス開発の権益を強腰に要求した場合に、ロシアはどのような対応を行うのか。 また、現在進められている新たな極東開発計画は、外資の製造業が誘致に応えて極東に参集してくれることがその実現の大前提になっている。対露制裁の中で欧米や日本の企業が動きにくくなれば、非制裁国からの資本導入に向かうしかなくなり、中国資本が最有力候補にのし上がってきかねない。 それをそのまま放置できないと言うなら、ロシア極東での韓国の地位が上昇するかもしれないし、その韓国だけでは中国とのバランス上で不安、ということになれば、何とか日本を欧米の対露制裁から引き離そうという策を続けることになるだろう。 長期戦略にならざるを得ない軍事の分野では、さすがに露中関係が今以上に急速に緊密化することは予想されない。せいぜいが安保理事会で米国に対抗しての相互擁護の姿勢強化という程度にとどまるだろう。中国は、南シナ海や東シナ海で抱える諸問題での潜在的味方を得たとして、それを最大限に活用しようとするだろうが。 しかし、欧米に追われたロシアがひたすら中国に縋るという図式だけで物事が終わるのだろうか。ロシアの対中懸念は、ロシア東部が中国経済に呑みこまれてしまうという惧れだけではなかろう。今の習近平政権が今後も安定した国内統治を政治・経済の両面で続けられるかどうかに対して、一抹の不安を抱いているかもしれない。 数年前までの破竹の進撃の中国経済と異なり、最近はその不調や先行きの不安についての言説が飛び交う。国内での格差是正、2009年の4兆元の大盤振る舞いや不動産バブルの後始末をやり遂げて、民心慰撫ができるのか。そして、軍や党での綱紀粛正が山場をすでに越えたと言い切れるのか。 11月に北京で開催されるAPEC首脳会議でプーチン大統領は、予定される習近平国家主席との会談で露中友好を演じつつ、習政権が置かれた実情を全力で読み取ろうとするだろう。 *1 詳細は、米商務省産業安全保障局(Bureau of Industry and Security)、およびEUの以下ウェブサイトに記載。 これらの邦訳はJOGMEC/本村眞澄のこちらを参照 *2 ロシアの通関統計によれば、欧米が制裁対象に指定した鋼管類を2013年にロシアは16億ドル近くを輸入し、その中で中国からは金額で19〜26%、重量で22〜34%を占めている。また、掘削機やポンプは輸入総計46億ドル(通関統計コード: 8207、8413、8430)での中国からの買いつけ比率は12〜16%となる。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41622 ロシアよりも火山よりも厄介なもの 企業に損失、利用者に不便を強いる“高給取り”のストライキ 2014年09月03日(Wed) 川口マーン 惠美 今回、日本に無事飛べるのかどうかと、大変ハラハラすることが多かった。
まずロシアが、EUの飛行機にロシア領空を飛ばせないと言いだした。EUから受けている制裁に対する報復の1つだ。まずいことに、私はルフトハンザを予約していた。真っ先に飛行許可を取り消されるはずの飛行機会社だ。 航空機の運行を乱す国際紛争と自然の脅威 それに続いて、アイスランドで火山が噴火しそうだというニュース。2010年、やはりアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル山が噴火して、1カ月間も飛行機が飛べなくなったことは記憶に新しい。それに加えて、8月22日、ルフトハンザのパイロット組合がストライキを予告した。これだけ揃えば、目の前が暗くなる。 旅行社に問い合わせると、ロシアが制裁を実行し、ルフトハンザがロシア上空を飛べなくなった場合、経路を変更するしかなく、4時間ほど長く掛かるだろうとのことだった。 そうでなくても長時間飛行なのに、そのうえプラス4時間というのは、聞いただけでウンザリ。ただし、この報復制裁は現在に至るまで実施されていない。そんなことをすると、ロシアは飛行料が入らなくなり、大幅な損失だ。まずは脅しだけなのかもしれない。 火山噴火を警戒、住民の避難開始 アイスランド 噴煙を上げるアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山(2010年5月5日撮影) ©AFP/HALLDOR KOLBEINS〔AFPBB News〕 さて、アイスランドの火山のほうはどうか? 2010年のとき、エイヤフィヤトラヨークトル山はモクモクと火山灰を吹き出し続け、4月半ばより1カ月にわたり、ヨーロッパとつながる世界中の航空路線が大混乱した。 上空に漂う火山灰は目に見えないほど細かい粒子だが、そこに飛行機が突入すると、ボディやフロントグラスがあっという間に砂やすりをかけられたようになって、パイロットの視界が失われたり、機体の外側にくっついているセンサーがやられて高度も速度もコースも分からなくなったりする。 そのうえ、エンジンがストンと止まり、飛行機は墜落する危険がある。だから、10万便の飛行機が欠航し、800万人の乗客に影響を与えた。 日頃、世界を飛び回っていたビジネスマンたちは地上に釘付けになり、ゼロストック作戦といって、部品は倉庫に貯め込まず、なるべく組み立ての直前に直接ベルトコンベアのところへ納品させることを旨としていた合理化優先の最新工場はラインがストップし、ヨーロッパに運ばれるはずのバラの切花はナイロビ空港ですっかり枯れ、ブラジルのマンゴーは届かず、ニューヨークにいたメルケル首相は、リスボンに着陸し、ローマまでは何とか繋いだものの、その先はベルリンまでバスで2日も揺られ、また、アフガニスタンの戦闘で重傷を負ったドイツ兵たちは故郷に戻れず、イスタンブールの病院に運ばれた。 そして、フランクフルト空港のロビーは、行き場のなくなってしまったトランジットの人たちのために仮設ベッドが並んで、広大な野戦病院のような風景になっていた。 今回も、それと同じようなことが恐れられたが、火山はグズグズしていた。ようやく29日の未明に本当に噴火したが、火山灰の危険は思ったほどではなく、今のところ、飛行に制限はかかっていないという。 パイロット組合が経営改革で競争力向上を図る会社側に反発 問題は、ルフトハンザのパイロット組合のストだ。火山の噴火は天災なので仕方がない。ロシアの報復制裁も、国際紛争と思えば理解はできる。しかし、パイロットのストだけはただの私利私欲で人に迷惑をかけるのだから、絶対に許せない。 実は、今年の4月にもパイロット組合はストをした。ルフトハンザは4月の2日から丸々3日間、ほとんど飛ばなかったのだ。しかも、乗客は空港に行って、初めてストを知り、足止めを食らうという卑怯なやり方だった。 旅客機だけではなく貨物も同様で、計3800本が欠航、ルフトハンザのベース空港であるフランクフルト空港は、3日間ゴーストタウンのようになり、その影響は世界の42万5000人の乗客に及んだ(「利用客に犠牲を強いる『労働者』に正義はあるか?」)。しかし、それでもどちらも妥協しないまま、その後も交渉が続き、今、再び決裂したらしい。 ルフトハンザのパイロットの年収は、いろいろな手当を含めると、新米のパイロットで7万3000ユーロ(1022万円)、ベテランになると25万ユーロ(3500万円)だそうだ。つまり、賃金水準の高いドイツでも、高給取りに属する。その彼らの要求は、10%の賃上げと、優遇された定年制度の保持だ。 これまで、ルフトハンザ社とパイロットとの間には、パイロットが55歳になった時点で、いつ定年退職するかを自分で決めることができるという取り決めが結ばれていた。そして、辞めたあと、年金を貰える年齢になるまでの繋ぎとして、最終の年収の約60%が支払われる。 ところがルフトハンザ社は、格安航空会社の台頭する中、競争力を保つため、2年前より経営改革に着手している。そこで、緊縮財政にちなんで、パイロットが引退するかどうかを決められる年齢も5年遅らせて、60歳までに引き上げようとした。それに対してパイロットは、勝手にそんなことをされては人生設計が狂うと言って、怒っているのだ。 彼らの言い分はというと、次のようなものだ。パイロットは過酷な職業である。暑いところへ行ったり、寒いところへ行ったりしなければならない。また、不規則な睡眠時間は体に負担が掛かる。80%のパイロットが飛行中に居眠りをしたというアンケート結果もある。 つまり、55歳で辞められるようにしておかないと、危険は乗客に降りかかる。辞めてから年金までの繋ぎの収入は、自分たちの月給の中から積み立ててきたお金である、etc。 どうも、パイロットはエリート集団のため、一般民衆のことが目に入らなくなっているらしい。過当競争が激しくなった昨今、パイロットと同じくらい、いや、それ以上に過酷な労働条件で働いている人は、世の中にいくらでもいる。しかも、パイロットの10分の1ぐらいの給料でだ。 仮にその人たちが仕事中に居眠りしたなら、過酷な労働条件が悪いといって居直ることはできない。解雇されるのが落ちだ。しかも、命を預かる職業はたくさんある。医師も看護師もそうだし、バスの運転手もそうだ。彼らは皆、仕事中に居眠りをしないよう努力しているのではないか。 いまやストライキは特権階級の特権を肥大させるものに? パイロットたちが賃上げや労働条件の改善を求めて会社と労働争議を起こすのは、彼らの自由だ。しかし、たった数百人ほどの高給取りが、そのために何万もの罪のない人々の弱みに付け込み、人質のように扱うのは許せない。 旅客機が飛び始めてから、少なくともバブルの時代ぐらいまでは、パイロットは花形の職業だった。しかし、彼らが今でも、自分たちには何でも許されると思っているとしたら、かなりの時代錯誤だ。 しかも、航空会社は公共の性格を持つ。乗客は、大切な仕事やら、楽しみにしていた休暇のために前々から飛行機を予約していたのだ。それを突然キャンセルされては、代替の交通機関はやすやすとは見つからない。大枚を払って、違う航空会社のチケットを買ったり、ホテルを取ったりと、全く関係のない人たちに無駄な出費が発生する。 赤ん坊を連れている人、老人、体調の優れない人が空港で足止めされれば、どれだけ困るか。それらのことを、パイロットたちがどのように正当化しているのかが分からない。しかも、困らされた多くの人は、ストライキをしているパイロットより、たいてい貧しい人たちなのだ。 昔、搾取されていた労働者が、身を切るようにして行ったストは、権利主張のための唯一の手段だった。しかしパイロットには、会社と交渉する他の方法があるはずだ。 そもそも、近年は先進国でも貧富の格差が広がっている。パイロットが10%の賃上げを要求し、特権階級の特権がこれ以上肥大するなら、そのしわ寄せはどこに行くのか、彼らはそれを考えたことがあるのだろうか。 しかし、ドイツでのストライキ騒動は、これだけでは終わらなかった。時を同じくして、ドイツ鉄道の運転手たちの組合もストをすると言いだしたのだ。 「鉄道のストとルフトハンザのストが同日になると、国内線の乗客を鉄道に振り替えることもできなくなるだろう」とニュースは言い、それを聞いた途端、今度は、ルフトハンザのストには反応しなかった娘たちが、急にいきり立った。「何? ドイツ鉄道がスト? そうでなくても、暴利をむさぼっているくせに!」 おそらく、この二重ストのニュースには、怒った人たちが多かったのだろう。その2日後、ルフトハンザと鉄道は、“乗客の利便を考慮して”同日ストをしないことを決定したというニュースが流れた。なんだか恩に着せられたようで、再び腹が立った。乗客の利便を本当に考えるなら、ストなどするな! 29日、ルフトハンザのパイロットは、本当にストに突入した。まず、欠航したのは、ルフトハンザの子会社のジャーマンウィングズだ。ジャーマンウィングズは、ルフトハンザの正規料金よりも料金がだいぶ安い。 本家ルフトハンザのほうのストも、回避される見込みは今のところない。いつ突入してもおかしくない状況らしい。ちなみに、4月の3日間のストで、ルフトハンザは3000万から4000万ユーロの損失があったと言われている。しかも、交渉は全く物別れに終わり、それを今、繰り返そうというのだから、不毛な話である。 そうこうするうちに、私は、26日、数々の障害の間隙をすり抜けて、日本に戻った。今回ほど日本は遠いと思ったことはなかった。 現代のせわしなさを吹き飛ばす大航海時代のエピソード 日本へ来たその夜、偶然手にした『地中海世界を見た日本人』という本をめくっていた。天正少年使節から明治の岩倉使節団に至る記録を基にした歴史エッセーだ。 天正少年使節とは1582年、織田信長の時代、肥前長崎、肥前島原、豊前豊後の3国の大名たちが派遣したキリスト教使節。選ばれた4人は、皆、13歳か14歳だった。だから少年使節というのだが、当時の子供たちは、信じられないほどしっかりしていた。 一行は長崎を出て、マカオ、ゴア、モザンビークなどに寄港しながら、2年半もかかって、ようやくポルトガルのリスボンに着いたが、その間に信長はすでに斃れていた。帰国は出港から8年半も経った1590年だ。 サン・ファン・バウティスタ号の復元船(ウィキペディアより) 天正少年使節より30年遅れて1613年、伊達正宗の家臣、支倉常長率いる慶長遣欧使節もヨーロッパに向けて旅立つ。こちらは、なんと太平洋を横断して、メキシコのアカプルコ経由で、イベリア半島に辿り着いている。帰ってきたのが1620年だから、やはり7年かかっている。
そのときの船、「サン・ファン・バウティスタ号」の復元船が、宮城県の石巻の海に浮いている。今年6月に見たのだが、これで太平洋と大西洋を越えていったとは、はっきり言って信じられない。 読み進むと、「一行は帰国の途中、ゴアで11カ月も船待ちしたので」などという記述があっさり出てくる。それを読んだとたん、その雄大さに夢が膨らみ、飛行機が遅延しようが、欠航しようが、どうでもよい気分になった。「そうだ、次回は船で来よう!」というのは冗談。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41619 |