http://www.asyura2.com/14/warb14/msg/104.html
Tweet |
8月20日、米国人ジャーナリストが「イスラム国」のメンバーにより殺害されるシーンが世界中を駆け巡った(写真:Newscom/アフロ)
「処刑」だけではない、戦場記者の受難 ソーシャルメディアで戦場報道は変わった
http://toyokeizai.net/articles/-/46410
2014年08月29日 津山 恵子(Keiko Tsuyama) :ジャーナリスト 東洋経済
欧米メディアは、イラク、シリア、イスラエル、パレスチナ暫定自治区ガザ地区など、「戦地」を追い掛けた報道で埋め尽くされている。多くの戦場記者やカメラマンが、各地で展開しているが、米国が限定的な空爆を始めたのをきっかけにイラクの「イスラム国(ISIS)」は、米国人ジャーナリストを処刑した。逆に、シリアの武装組織に拘束されていたほかの米国人ジャーナリストが約2年ぶりに解放されている。
常に危険、そして時には死と隣り合わせという状況で報道を続ける戦場記者だが、その在り方が大きく変化し、彼らの中でこれまでにない「葛藤」を生んでいる。
それは現在進行中の紛争で戦場記者が、現場からの目撃証言や、生の写真、ビデオを、リアルタイムでソーシャルメディアに流すケースが急増したからだ。テレビ放送や記事といった通常の「報道」に先行し、生の情報が現場から発信されることで、時に報道機関内で混乱をも引き起こしている。今後、戦場からの報道そのものが変わる可能性も秘めている。
■一緒に遊んでいた少年が目の前で即死
米ネットワークテレビ局NBCの戦場記者エイマン・モヒェディン氏(35)は、その混乱に巻き込まれたベテランの一人だ。エジプト生まれの同氏は、中東最大のニュース専門局アルジャジーラで、2012年のエジプトの民主化革命を取材し、その後NBCに抜擢された。
NBCは、米4大ネットワークテレビで最も古く、今春、プライムタイム(日本のゴールデンタイム)で18―49歳層の視聴率で10年ぶりに首位を奪回し、波に乗っている局だ。
2014年7月16日、ガザ地区のホテルに滞在し、パレスチナ側の報道を続けていたモヒェディン氏は、近くの海岸で4人の少年とサッカーボールを蹴っていた最中、イスラエル側からの砲撃で少年らは即死した。
この惨事は、モヒェディン氏だけでなく、米紙ニューヨーク・タイムズのベテランカメラマンも目撃した。ホテルで写真を送信していた同紙のタイラー・ヒックス氏は、1発目の爆発音を聞き、窓から海岸を見やると、少年が一人、砂埃の中で逃げ惑っていた。2発目が炸裂した瞬間、少年は死亡していた。
ヒックス氏はこの事件をツイートしたほか、タイムズは、ヒックス氏が撮影し、両足が切断されたかのようにばらばらの方向を向いて、砂浜にうつぶせになっている少年の遺体の写真を朝刊一面に掲載した。遺体が映った写真を載せるのは、同紙としては極めてまれだ。オンラインにも、同記事は掲載されている。
タイムズは、ヒックス氏が一人称で書いた記事も掲載し、彼は現場の様子をこう描写した。
「電気も水もなく、日が照りつける海岸の桟橋にある掘建て小屋など、ハマスが頻繁に訪れてイスラエルが標的とするような場所には見えない。身長120センチあまりで、夏服を着て、砲撃から逃れようとしていた少年たちも、ハマスの戦士たちの出で立ちとはあまりにほど遠い」
状況を淡々と書いているが、行間に感情を忍び込ませた。
同時に、ヒックス氏は、カメラを下げて海岸に駆け付ける際、カメラが武器と見間違われて、自分も犠牲者になるかと、逡巡したこともにおわせている。
「もし、子供でさえ殺害されてしまうなら、僕を守ってくれるものはあるのだろうか」
NBCのモヒェディン記者は、現場にいたにもかかわらず、ニュース番組に登場せず、別の記者がリポートした。これに先立ち、モヒェディン記者は砲撃の直後、現場の様子や、遺族が駆け付ける様子をフェイスブックやツイッターに次々に投稿したようだ。
■NBCは記者をガザ担当から外した
ニューヨーク・タイムズによれば、ツイートの一つには「#恐怖」というハッシュタグも含まれていたのだという。しかし、これらは、すぐに削除された。
直後、NBCがモヒェディン氏をガザ担当から突然外し、他の記者を派遣したことが明るみに出た。これを報じたのは、新興のニュースサイト「ジ・インターセプト」の元英ガーディアン記者、グレン・グリーンウォルド氏だ。同氏は昨年、元米中央情報局(CIA)従業員の告発を受け、米情報当局が市民や外国人の通信を一網打尽に傍受しているという記事を書き、米国のピュリッツアー賞を受賞。ジ・インターセプトの創立メンバーとなるため、昨年ガーディアンを退職した。
グリーンウォルド氏によると、NBC関係者はモヒェディン氏の「配置換え」について「安全上の懸念から」と説明。しかし、グリーンウォルド氏は、独立の米報道機関「デモクラシー・ナウ」に出演し、モヒェディン記者が「ガザ住民の、人間としての面を世界に知らせた途端に」、ガザ担当から外すという行為は、「NBCの信頼性にとっては不名誉なことにみえる」と指摘した。
フェイスブックやツイッターでもよく知られているモヒェディン氏がガザからいなくなったことに対し、NBCに対する批判の声が上がり、数日内に、同氏はガザに復帰した。
NBCは、モヒェディン氏復帰の際、 声明を発表している。「モヒェディン記者は、過去17日間、ガザでの紛争が激しくなる中、25本ものリポートをものにしてきた類いまれな記者だ。その中には、かけがえのない、優れた記録となる4人のパレスチナ少年の死亡のリポートもある」。しかし、同時に紛争地における記者の配置は、常に見直しを行うと付け加えた。
モヒェディン記者のケースで問われているのは、アラビア語に達者で、2008年からガザ地区を取材してきたキャリアを持つ同記者が、放送されるテレビリポートになる前の生の映像によって、自分自身の率直な感想をソーシャルメディアに発信したことの妥当性だろう。モヒェディン記者はソーシャルメディアにシェアすることで世界にガザ住民の恐怖を伝え、市民を狙ったとしか思えないイスラエルに対する批判を暗に表現した。これがNBC内で問題視された可能性が大きいが、映像が「現実」を示しているというのも事実だ。
■放送波に流れなかった映像を公表
もう一つのケースは、英公共放送「チャンネル4」のニュースキャスターによる、オンラインビデオの公開だ。ベテランジャーナリストでキャスターのジョン・スノー氏(66)は、ガザ地区での取材を終えて、英国に戻り、放送波には流れなかった映像とナレーションを編集した「ガザの子供たち」(約3分半)を同局公式サイトとYouTubeにあえて発表した。
「ガザ地区で私が見たものは、今でも私の頭を蝕んでいる。住民の平均年齢は17歳で、約25万人が10歳前後だ。病院で見た2歳半の女の子は、頭蓋骨と背骨、鼻の負傷で、両目の周りがパンダのように赤く腫れていた」(スノー氏)。
ビデオでは、女の子の目の周りは赤紫の円形に腫れ、目は直線でしかなく、まるで赤くなった「E.T.」の目のようにみえる。
http://www.channel4.com/news/the-children-of-gaza-jon-snow-video
ニュースを読むというキャスターの立場を離れ、スノー氏の語りは続く。「子供たちの死に関しては、私たちは何らかの責任を共有しているということを知るべきだ。このビデオを見てくれているということは、あなたが何かをしようとしている表れだ。このままでは、いいはずはない。力を合わせれば、変化を引き起こすことはできる」。
しかし、英紙ガーディアンによると、このビデオが放送に流された場合は、「中立性」を欠くとして、英国の通信・放送事業の規制当局である英国情報通信庁(Ofcom)が、調査にのり出す対象になるという。チャンネル4とスノー氏は、これを承知で、規制の対象外のインターネットにビデオを流すことに踏み切った。
これに対し、賛否両論の声が上がった。英紙ガーディアンの若手、ジェームズ・ボール氏は賛意を表明する。「ジョン・スノーにも意見がある」というタイトルのオピニオン記事でこう指摘した。 「ジョン・スノーがガザについて意見を述べたいと思った時に、YouTubeに行かざるを得ないというのはおかしい」。
■「報道は読者の感情的反応を優先すべきではない」
逆に、同じガーディアンのベテラン、デイビッド・ロイン氏は、懐疑的だ。「ジョン・スノーのガザからの訴えは、報道をプロパガンダになり下がらせる」というコラムを書いた。
http://www.theguardian.com/commentisfree/2014/aug/03/jon-snow-gaza-appeal-reporting
「感情はプロパガンダであり、ニュースは反プロパガンダたるべきだ。報道とは、感情的に反応するのを読者側に任せるべきであり、ジャーナリストを甘やかすものではない」。
ジャーナリストが、報道と自分の感情や意見のバランスをどうコントロールするかという問題は、今の時代に始まったことではない。しかし、ソーシャルメディアで、実際にガザ地区、イスラエル、ウクライナ、シリアといった「戦場」から、非ジャーナリストの市民がリアルタイムで情報を発信しているのと、ジャーナリズムが競合関係になっているという事実は否めない。
例えば、16 歳のファラーという女の子が、ツイッターを通じてガザ地区から刻々と現状を発信し、話題になっている。
https://twitter.com/Farah_Gazan
「私たちのスクールバスが砲撃された」
「涙が止まらない」
こうしたツイートが数時間途絶えると、心配になってしまうような時代だ。
シリアでもウクライナでも同じようなことが起きている。一次情報がソーシャルメディアであふれているのだ。従って、現場にいる戦場記者がソーシャルメディアを使い、市民の恐怖、怒り、困惑を簡易に伝え、「証言者」たり得たいと思う気持ちを抑えるのは難しいだろう。問題は、どこまで読者、視聴者に真実を伝えるというジャーナリズムの原則を保証できるかということだ。戦場記者らは、過去数十年間になかった激変に直面している。
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。