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ドイツ、停戦へ地ならし急ぐ
首相、ウクライナを訪問 対ロシア強硬派けん制
緊張緩和 道筋は見えず
【キエフ＝田中孝幸】ドイツのメルケル首相は23日、親欧米派が政権を握った２月の政変以降初めてウクライナの首都キエフを訪れ、ポロシェンコ大統領らと会談した。同国東部で続く戦闘を終結させ、ロシアとの関係悪化を避ける外交努力の一環で、22日には米ロ首脳とも電話協議した。ただ、ポロシェンコ政権は親ロシア派武装勢力の掃討を目指す方針を変えておらず、緊張緩和に向けた道筋は見えていない。
「ウクライナの立場を強く支持する」。メルケル氏は23日のポロシェンコ大統領との会談で欧州連合（ＥＵ）統合を目指す親欧米政権を後押しする考えを表明した。東部情勢を巡ってはポロシェンコ氏が６月に打ち出した地方分権を柱とする和平計画を軸に早期停戦を目指すことで一致した。
メルケル氏は会談後の共同会見で「我々は外交的解決を見いだすために何でもする」と強調した。「軍事力だけに頼ることはできない」とも述べ、軍事的解決を目指すポロシェンコ政権内の強硬派をけん制した。
26日にはロシアのプーチン大統領とポロシェンコ氏がベラルーシの首都ミンスクで会い、東部情勢を協議する。今回の訪問はその地ならしとの位置づけで、メルケル氏は22日のプーチン氏との電話協議を踏まえ両者の妥協点を探ったもようだ。
積極的な仲介努力の背景には欧州各国で対ロ関係正常化を求める声が強まっていることがある。欧米とロシアの制裁合戦は欧州経済に影響し始めており、ＥＵによると欧州産食品禁輸による生産者の被害額は年52億ユーロ（約7200億円）に上る。
ドイツにとっても天然ガスの需要期である冬が近づくなか、ロシア産ガスの供給が細る事態は避けたいのが本音だ。ＥＵ内からも対ロ制裁について「無意味だ」（スロバキアのフィツォ首相）との意見が出ていた。
一方、ポロシェンコ氏は会談後の会見で、ＥＵから５億ユーロの復興基金設立などの大型支援を得ることになったと強調した。ＥＵとの連帯姿勢をアピールしたが、親ロ派との停戦に向けた新たな方策は示さなかった。
政府軍は７月以降、東部で親ロ派を追い詰めつつある。ポロシェンコ氏にとっては秋に想定される総選挙を前に、不人気な親ロ派との融和策に一気に転じるのは政治的に難しい。東部での軍事的優位を確立したうえで、対ロ交渉を有利に進める思惑もあるようだ。
プーチン政権は親ロ派の全面的な敗北を容認しない姿勢の一方、出口戦略も探っているもようだ。ウクライナの同意なく同国に入国していたロシアの人道支援団は23日、早々に撤収した。ウクライナ軍によると支援団は帰途にロシア軍が重視するドネツク州の軍需生産設備を持ち出したといい「ロシアが東部から手を引く準備」（欧州外交筋）との見方も出ている。
欧州「新冷戦」を懸念
【ベルリン＝赤川省吾】ドイツを中心とする欧州勢がロシアとウクライナの仲介に本格的に乗り出した。緊張が増す東部ウクライナで両軍が武力衝突し、「新冷戦」になることへの不安が背景にある。そうなれば欧州景気が失速するだけでなく、安全保障政策を全面的に見直さざるを得ず、莫大なコストがかかる。
1989年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終わると欧州は競って軍縮に取り組んだ。この25年間で国内総生産（ＧＤＰ）に占める国防費は多くの国で半減し、徴兵制もなくなった。「鉄のカーテン」がなくなって欧州統合が勢いづき、成長を運んできた。
ロシアとウクライナが直接交戦すれば、それが根底から揺らぐ。「仮想敵国ロシア」に対して戦車などの正面装備を再び配備する必要がある。これはロシアに地理的に近いドイツや中・東欧にとって巨額の負担となる。
安全保障で米国に過度に依存するのも好ましくない。欧米が対等なパートナーではなく、従属関係となり、「米国への対抗軸」となるはずの欧州統合が色あせる。負い目のできた欧州は自由貿易協定（ＦＴＡ）の対米交渉などで強気の姿勢に出にくくなる。
［日経新聞８月２４日朝刊Ｐ．５］
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