01. 2014年8月06日 09:53:29
: nJF6kGWndY
米国世論の変化が、イスラエルの衰退につながると見るのが妥当だろうが今後、どう影響していくかも注目だな http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140805/269670/?ST=print 「アメリカ現代政治研究所」 米国はなぜイスラエルを擁護するのか 2014年8月6日(水) 高濱 賛 7月8日に始まったイスラエルの軍事作戦で、パレスチナ自治区ガザでは民間人を中心に1360人以上が死亡、6500人以上が負傷した。イスラエル側では兵士56人、民間人3人が死亡したとされる(7月31日現在)。米国、エジプト、国連などが一時停戦を提案しているが、実を結ばないままだ。イスラム原理主義組織ハマスは、軍事力に勝るイスラエル軍からの大規模な攻撃に対し徹底抗戦する構えを見せている。戦闘は長期化する様相だ。 欧州をはじめとする各国で、人道上の立場から「ガザ市民の殺傷やめよ」と叫ぶ反イスラエルのデモが巻き起こっている。だが、米国内ではそうした動きは広がりを見せていない。 イスラエル軍は30日、国連パレスチナ救済事業機関(UNRWA)が運営する学校に砲弾を撃ち込み、多数の死傷者を出した。同校はガザ北部にあり、パレスチナ人が避難所として使っていた。米国務省も、さすがにこの行為に対しては、「非難」の声明を出した。だが 米メディアは依然としてイスラエルを擁護する論調を続けている。 ("Moral clarity in Gaza," Charles Krauthammer, Washington Post, 7/17/2014) ("Zionism and Its Discontents," Roger Cohen, New York Times, 7/29/2014) 米国人にも当てはまる判官贔屓 米国は、なぜイスラエルの肩を持つのか――。 この疑問を数人の米知識人(いずれもユダヤ系でない米国人)にぶつけてみた。彼らの回答を整理すると―― イスラエル国家建設は、ヒットラーが1933〜45年に行ったユダヤ人虐殺に対する「政治モラル上の贖罪的行為」(an act of political morality)だと米国人は考えてきた。 米国人は伝統的に国際社会における「負け犬」(Underdog)に味方する傾向がある。特に勇気を持って自らを守り、自力で戦う「負け犬」を支持し、応援する傾向がある。10億のアラブ人に周囲を囲まれた人口600万人のイスラエルは伝統的な「負け犬」と言える。 同様の意味で、相次ぐ中東戦争で、数で勝るアラブ軍を敵に回してイスラエル軍が軍事的勝利を収めたことを、米国人は称賛した。特に1976年、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)とドイツの革命分子によって捕らえられて人質になったイスラエル人たちを救出した行動を高く評価してきた。 米国のキリスト教徒、特に中西部・南部に多く住むエバンジェリカルズ(キリスト教原理主義者)は、ユダヤ教徒と同じルーツを共有していると考えている。これは欧州のキリスト教徒とはかなり異なっている。旧約聖書を共通の経典とし、同様の道徳律を持ち、諸問題についても同じ哲学的なアプローチを取ってきている。 イスラエルは米国とは、条約による同盟関係にはないが、中東問題では事実上の同盟国関係にあったし、現在もそうだ。 イスラエルと米国は、政治的、社会的、さらには家族構成で緊密な関係にある。ゴルダ・メイヤー元イスラエル首相は米国育ちだった。ベンヤミン・ネタニヤフ現首相は米国で勉強し、米国で働いたのちにイスラエルに戻っている。現在のロン・ダーマー駐米イスラエル大使は米国生まれ。成人後かなり経ってから米国籍を捨ててイスラエル国籍を取得している。このほか、歴代駐米大使の中には大使になるまで米国との二重国籍を持っていた人物も少なくない。 こうした例は数限りない。ユダヤ系米国人の中には息子や娘をイスラエルのキブツで働かせたり、イスラエル軍に入隊させたりする者もいるくらいだ。今回のガザ戦闘では少なくとも2人のユダヤ系米国人が戦死している。 米国の政界、経済界、言論界を牛耳る「ユダヤ人パワー」 むろんこの6つが「米国がなぜ、イスラエル贔屓なのか」を説明する理由のすべてではない。 前述の非ユダヤ系米知識人たちはあえて触れようとしなかったが、強力な「ユダヤ人パワー」(Jewish Power)の存在がある。ユダヤ系米国人(成人)はざっと420万人。全人口の1.8%にすぎない。だが、彼らは政界、経済界、マスメディア、学界などへ多数が進出し、影響力を発揮しているのだ。 政界では、米連邦議会に席を置くユダヤ系議員が上院に12人、下院に22人いる。上院にいる12人は、11人が民主党、1人が無所属だ。下院は、21人が民主党、1人が共和党である。以下の各氏はご存じの読者も多いだろう。 上院のジョセフ・リーバーマン国土安全保障・政府問題委員長 同カール・レビン軍事委員長 同チャールズ・シューマー議事運営委員長 同ダイアン・ファインスタイン情報特別委員長 同バーバラ・ボクサー環境公共事業委員長 下院のエリック・カンター共和党院内総務(6月の予備選で落選。8月18日付けで議員辞職すると発表) ("The Jews Who Run Capitol Hill, " Real Jew News, The Brother Nathanael Foundation, 2011) 経済界でも主だった企業のCEO(最高経営責任者)にユダヤ系が名を連ねる。IT産業で言えば、コンパック、デル、フェイスブックのCEO。マスメディアでは、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、ワシントン・ポスト、テレビの3大ネットワークのトップ、ハリウッドの20世紀フォックス、パラマウント、ディズニー、ユニバーサルなどのCEOはすべてユダヤ系だ。 特にコラムニストとして、チャールズ・クラトハマーやディビッド・ブルックス、リチャード・コーエンらユダヤ系が親イスラエルの論陣を張って世論形成に一役買っている。 カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院のトム・ゴールドスタイン元院長は筆者とのインタビューでこう答えた。「米国の新聞の90%はユダヤ系が所有したり、経営したりしている。米国人に対して、親イスラエルのスタンスを新聞、テレビ、映画を通じて知らず知らずのうちに植えつけてきた」。同氏もユダヤ系だ。 イスラエルの軍事行動を巡って人種的に国論を二分 ガザ地区での戦闘が始まったあと、ピュー・リサーチが世論調査を実施した。「戦闘の責任はハマスにある」と答えた米国一般市民は40%、「イスラエルにある」と答えた者は19%、「双方にある」と答えた者は14%という結果が出ている。 支持政党別に見ると、民主党支持者は「ハマスに責任がある」29%、「イスラエルに責任がある」26%、「双方に責任がある」18%。共和党支持者は「ハマスに責任がある」60%、「イスラエルに責任がある」13%、「双方に責任がある」10%。無党派は「ハマスに責任がある」42%、「イスラエルに責任がある」20%、「双方に責任がある」13%。 共和党支持者の多数が責任をハマスに押し付けているのに対し、民主党支持者では「ハマス」と「イスラエル」が拮抗している。民主党支持者の方が国際世論に近いことが分かる。連邦議会には民主党所属のユダヤ系有力議員が多いにもかかわらず、民主党支持者において、今回の戦闘の責任について「ハマス」と「イスラエル」が拮抗している点について、世論調査の専門家の一人はこう指摘している。「民主党支持者の中で、黒人、ラティーノ、アジア系が近年急増していることが影響しているものと見られる。民主党支持者全体から見ると、ユダヤ系は少数にすぎないからだ」 イスラエルによる大規模な攻撃について「ほぼ適切な攻撃」(about right)と答えた者は35%、「やりすぎ」(excessive)と答えた者は25%、「もっとやるべき」(not gone far enough)と答えた者は15%だった。イスラエルによる大規模攻撃を正当化するものが3割以上いたわけだ。支持政党別に見ると、正当化している者は共和党支持者で46%、民主党支持者では31%(「やりすぎ」と答えたものは35%)となっている。 注目されるのは、人種別で見た「イスラエル支持率」だ。イスラエルの軍事行動を「正当化」する、つまり「適切」と答えた回答者は、白人層では40%いるのに対して、黒人層では27%、ラティーノ層では28%にとどまった。逆に「やりすぎ」は白人層で22%、黒人層で36%、ラティーノ層で35%。非白人層はイスラエルの行動を批判している。 ("Hamas Seen as More to Blame Than Israel for Current Violence," Pew Research, Center for the People & the Press, 7/28/2014) 「もはや米国とイスラエルは共通の見解を持たなくなった」 冒頭、米国人がイスラエルを支持する理由を挙げてくれた知識人の一人、米国人の元外交官は、米国一般市民のイスラエル観が分裂し始めたことについて、筆者にこう指摘した。 「確かに、イスラエルに対する米国人一般の考え方は変化している。イスラエル観は悪い方向に変化している。米国人はもはやイスラエルに高いモラルや正当性があるとは見なくなっている。かってのような『負け犬』ではなく、隣国を苛める国と映っている。それと並行してイスラエル人が抱く米国観も悪化し始めている。米国とイスラエルは、中東問題をはじめとする国際問題全般で、共通の見解を持つ国同士ではなくなっていると、米国人もイスラエル人も考え始めている」。 米国とイスラエルは、圧倒的な影響力を持つ「ユダヤ人パワー」のバックアップもあって強固な「同盟関係」を培ってきた。だが、パレスチナ問題やイラン核問題を巡る意見の食い違いが表面化する中で、2国間関係は「疲労骨折」(stress fractures)し始めたといった論調が出ている。 ("Why Tensions Are Climbing Between Israel and the United States," Gerald F. Seib, Wall Street Journal, 7/28/2014) 米世論調査に垣間見られる、米国人のイスラエル観における「変化」が、秋の中間選挙、さらには2016年の米大統領選挙にどう表われるのだろうか。 このコラムについて アメリカ現代政治研究所 米国の力が相対的に低下している。 2013年9月には、化学兵器を使用したシリアに対する軍事介入の方針を転換。 オバマ大統領は「米国は世界の警察官ではない」と自ら語るようになった 。 2013年10月には、APECへの出席を見送らざるを得なくなった 。 こうした事態を招いた背景には、財政赤字の拡大、財政赤字を巡る与野党間の攻防がある。 米国のこうした変化は、日本にとって重要な影響を及ぼす。 尖閣諸島や歴史認識を巡って対中関係が悪化している。 日本にとって、米国の後ろ盾は欠かせない。 現在は、これまでに増して米国政治の動向を注視する必要がある。 米国に拠点を置いて20年のベテラン・ジャーナリスト、高濱賛氏が米国政治の最新の動きを追う。 |