01. 2014年8月04日 15:20:03
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これまでの勢力均衡が崩れそうな予感はあるhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41396 古い秩序が崩壊し、部族と宗派が中東を支配 2014年08月04日(Mon) Financial Times (2014年8月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」のジハード戦士たちが6月にシリア東部から飛び出し、イラクの北部と中部に攻め込んだ時、彼らはカリフ制国家の樹立を宣言しただけでなく、オスマン帝国のアラブ領地を分割し、全く異なる宗派と民族を欧州式の国民国家に投げ入れた1916年の英仏秘密協定「サイクス・ピコ協定」を破棄したと述べた。 だが、自らの帝国の利益を拡大するために第1次世界大戦後に英国とフランスが作り出したイラクとシリアは、すでにバラバラになり始めていた。 2003年の英米の侵略によって粉々になったイラクの事実上の分離もかなり進行していた。2011年に自身の専制政治に対する反乱が起きてから、バシャル・アル・アサド政権が自国民に無慈悲な戦争をしかけてきたシリアは、すでに宗派の線に沿って分解しつつあった。 1世紀前に逆戻りしたように見える中東世界 それはあたかも中近東が1世紀前に逆戻りし、新たなオスマン帝国の形になったかのようにも見える。広大なオスマン帝国がアラブの臣民に比較的まとまりのある民族宗教的な単位の中で一定の自治を認めたミレット(宗教自治体)制に回帰したかのように見えるのだ。 ISISの自称カリフは、欧州の帝国主義者たちが描いたレバントのキャンバスを引き裂き、国境をブルドーザーで整地して、当時の大シリアとメソポタミアだったものを一体化する意図を宣言している。だが、燃え盛るこの地域では、いかなる種類の統一の見通しも立っていないように見える。 ユーフラテス川流域の国境を跨ぐ「ジハーディスタン(聖戦地域)」で立場を固めたISISは、国家の不在、国民的物語の喪失、大国の貧弱な影響力を特徴とする3次元の空白とも言える状態に実に機敏に入り込んだ。シリアとイラクでは、国家の制度機構が崩壊し、市民が宗派と民兵、氏族、部族の腕の中に放り込まれている。 これは部分的には、ずっと以前に独裁政治のアリバイになっていた汎アラブ民族主義というイデオロギーが崩壊した結果だ。シリアとイラクのバース党は、多くの点でアラブ版のファシズムだった。バース党政権は少数派の体制でもあった。シーア派の教義を持つ密教的な分派である、アサド一族のアラウィ―派と、サダム・フセインの(スンニ派の)ティクリート派を中心に築かれていた。 こうした体制の崩壊は、イスラム教スンニ派とシーア派との古くからの分裂を再燃させて国境を破壊する炎に変え、スンニ派ワッハーブ派の神権政治を行うサウジアラビアとシーア派(でペルシャ)の神権政治を行うイラン・イスラム共和国を敵対させている。 だが、中東における現在と1世紀前との大きな違いは、超大国の相対的な重みだ。英国とフランスは、当時まさに帝国の衰退期に入ろうとしていたが、中東地域を形作ることができた。地域を分割したり、再び縫い合わせたりする力があったのだ。 今は、イラクでの失態や米国と西側によるシリア問題への誤った対処――パレスチナに関してイスラエルに影響力を行使できない米国政府の無力さは言うまでもない――の後で、米国は中東地域を形作るため、あるいは管理するために外交的な影響力や軍事力を行使できないのではないかという現実の不安がある。 その結果、相対的に劣る超大国のロシアが信じがたいほどよく見える。だが、ロシアは、ソ連時代でさえ、中東で壊し屋以上のものにはなれなかった。 冷戦の終結とデジタル革命 だが、中東とほどの血まみれの混乱状態を本当に説明できる物語は存在しない。中東の現在の状況は、1914年の余波だけでなく冷戦の終結にも端を発している。冷戦の終結は、しばしばイデオロギー的な違いをアイデンティティーに基づく分裂に置き換えた。ユーゴスラビアでの戦争がそうだったし、現在のレバントでの宗派的な大虐殺もそうだ。 折しもテクノロジーが世界的に部族を勇気づける独特の力を生み出した矢先に、思いがけない地政学的な幸運によって冷戦は終結した。 レバノン出身のフランス人作家アミン・マアルーフ氏がその著書『Disordered World(混乱した世界)』で指摘したように、デジタル革命は、アイデンティティー政治が解き放たれ、米国の誤りを犯しがちな唯一の超大国としての勝利が世界的レベルで正当性の疑問を提起し、部族的な物語や代々受け継がれた忠義を強化した時に到来した。 さらに、「スターリン主義の地域的、民族主義的なブランド」によって形を失ったアラブ・イスラム世界では、西側諸国が専制政治に対する支援と、アフガニスタンのムジャヒディンのような宗教に触発された運動との戦術的連携を組み合わせたことは「冷戦が終結した時点でイスラム主義者が勝ち組の側にいたことを意味していた」とマアルーフ氏は主張する。サイクス・ピコ協定の世界よりはるかに複雑な世界だということだ。 By David Gardner in Beirut
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/41394 エネルギー自治目指すクルドに大きな障害 2014年08月04日(Mon) Financial Times (2014年8月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 米テキサス州の海岸から60マイル離れた沖に停泊中の1億ドル相当の原油を積んだタンカーが、天然資源を生産・販売するクルド自治政府(KRG)の権利を巡り、イラクの中央政府とKRGの最新の舌戦の的になっている。 クルド地区には、イラク南部のような巨大な油田はないが、もし活用すればクルド地区をエネルギー市場で新たな主要プレーヤーにする可能性を秘めた未開拓の莫大な資源基盤を持つ。 イラク政府は7月末、ユナイテッド・カラバーフタ号に積まれた100万バレルの原油は準自治が行われているクルド地区から許可なく密輸されたものだと主張し、テキサスの裁判所に訴えを起こした。 判事は当初、原油の差し押さえを命じたが、その後、タンカーが停泊している岸からの距離を考えると、米国には管轄権がないと述べた。KRGは、原油は合法的に生産、出荷、輸出されたものだと主張している。 裁判所が審理を続ける中、政治的、経済的な自治を確立しようとするKRGの最新の試みは、クルド地区の主都エルビルはエネルギー大国として正当性があることを世界に納得させられるかどうかという疑問を再燃させている。 「この原油の販売が大詰めだ」。クルドおよびイラクの石油産業アナリスト、シュワン・ズラール氏はこう語る。「この論争は2006年の探査から始まり、油田の発見に至り、その後、パイプラインが建設された。これはバクダッドの中央政府の権威に対する究極の挑戦だ。石油の販売こそが、彼らがずっと待ちわびてきたことだ」 独立目指して先走りすぎたKRG イラク国内の他地域よりも治安状況と投資環境が良いことで知られるKRGは、数多くの石油探査・生産会社を引き寄せてきた。過去2〜3カ月というもの、イスラム原理主義の武装勢力との戦いでクルドの民兵組織「ペシュメルガ」の方がイラク政府軍の兵士より強いことがはっきりすると、KRGの立場は強まった。 バグダッドにとって腹立たしいことに、KRGは宗派間の戦闘を、新たな領土に勢力を拡大し、石油の輸出に踏み切り、イラクの石油収入から得る分け前を増やす機会として利用した。 だが、クルド地区は石油産業の開発に対する障害に直面する。ロンドンに本拠を構えるコンサルティング会社エナジー・アスペクツのリチャード・マリンソン氏は言う。「KRGはこの1カ月で、独立した存在を確立しようとして先走りしてしまった。最近の石油輸出の試みは、バグダッドとの関係を一段と悪化させたこと以外に何の成果も上げていない」 KRGの石油産業は活況に沸いているが、生産量はまだ日量20万バレルを若干上回る程度だ。 KRGは年末までに輸出量を日量40万バレルに引き上げる目標を掲げているが、そのような輸出増加には、パイプライン容量の拡大と販売面の制約の克服が必要になる。 中央政府との関係悪化は障害となっている。契約と支払いを巡る論争は、2011年以降、パイプライン経由の原油輸出の停止につながった。 バグダッドの中央政府は今年初め、クルド地区への予算配分をカットした。クルド地区がトルコのジェイハン港につながる最近完成したパイプライン経由で国際市場に直接石油を売り始めたからだ。 KRGによると、バグダッド――中央政府はイラクの天然資源に対する唯一の権限を主張している――は1月以降、70億ドルの予算の配分を見合わせており、クルド地区はそれで独自収入を生み出そうとする意思を強めたという。 高い輸出目標は達成困難 クルド地区は失われた予算を埋め合わせるために高い輸出目標を掲げているが、アナリストらは、クルド地区からの輸出は、現在トラックで輸出されている日量5万バレル未満の水準から増える可能性は低いと話している。 「KRGは本当に、債務を返済するために石油輸出収入を得るのに必死になっている」。ブルッキングス・ドーハ・センターの客員研究員で、イラク連邦議会のアドバイザーを務めるルエイ・アルハティーブ氏はこう言う。「信頼できる買い手を見つけ、国際市場向けの持続的な原油供給を生み出すことができなければ、問題にぶつかるだろう」 ユナイテッド・カラバーフタ号の積荷は、KRGがトルコから出荷した100万バレルの船荷4隻分のうちの1つにすぎない。それ以前は、大半の輸出は連邦政府が管理するパイプライン経由で行われており、バグダッドが流通コストとして収入を受け取っていた。 アナリストらによると、イラクはクルド産原油を買わないよう石油商社を脅し、各国政府に外交的な圧力をかけてきたという。これでタンカー1隻分の積荷しか販売されていないことに説明がつく。 クルド産原油に対する国際社会の曖昧な態度は、大きな障害だ。米国は長らく、地域の政情不安を高めかねない事態を恐れ、イラクからの石油輸出はバグダッドの指揮下で行われるべきだとの立場を維持してきた。 トルコとイランがクルド独立という考えを受け入れるかどうかは、また別の話だ。両国の態度が和らいだことを示す兆候はあるものの、ユナイテッド・カラバーフタ号に積まれた原油が米国で販売される可能性は薄れつつあり、独立国として国際的に認識されようとするKRGの努力を台無しにする恐れがある。 By Anjli Raval
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