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【ペトロパブリブカ(ウクライナ)】マレーシア航空MH17便が撃墜される以前でさえ、ウクライナ軍と親ロシア派との戦闘は、この小さなペトロパブリブカ村の村長に多くの難題を突き付けていた。
村長の名前はナタリャ・ボロシナ氏(43)。彼女は村役場職員の給与も、年金も、公共料金も払えない状態だった。キエフにあるウクライナ政府からの資金が凍結されたためだ。高校時代からの恋人である夫が働く炭鉱は閉鎖同然で、戦闘は徐々にこの村に迫ってきていた。
そんななか、旅客機が撃墜された。村役場の向かいの木には、落ちた旅客機の客室の2列目の手荷物入れがはさまっている。正方形の窓がある小屋の庭と裏庭には、旅客機に積まれていたスーツケースと衣服がある。
墜落の時、村人たちはとっさに地下に逃げ込んだ。爆撃かと思ったのだ。近隣の村の住人は世界の終わりが近づいていると思い、教会に逃げ込んだ。ボロシナ村長の同僚は、落ちてくる旅客機の貨物倉に当たりそうになって叫び声を上げた。数日後、村長はオフィスのとなりの低木地で男性の下半身を見つけた。それ以降、村長はほとんど眠れなくなった。
ボロシナ村長は「私は、力強く、自信を持ち、落ち着いているように見せる必要があると分かっている。村民のためでもある」と述べた。彼女の手はあれから1週間たっているにもかかわらず、まだ震えていた。彼女は「しかし、仕事中でないときは、自宅で枕に顔を埋めて泣いている」と話した。
MH17便ボーイング777型機の撃墜は、乗員と乗客298人が死亡したことで世界に衝撃を与えた。また撃墜は地政学的な危機のきっかけにもなった。しかし、この撃墜事件はロシアとの国境から30マイル(約48キロメートル)ほど離れたウクライナの3つの村に恐怖にもたらし、村々をまひさせた。その後、外部から、村人たちに救いの手を差し伸べに来た人はほとんどいない。
墜落現場から大半の遺体は撤去されているものの、3つの村の合計約6500人の村人たちは、見た光景にショックを受けて心に傷を負い、村々に散乱している航空機の残骸や乗客の持ち物に圧倒されたままだ。他の人々の生の断片が、村人たち自身に亡霊のようにつきまとっているのだ。
ペトロパブリブカ村から約3キロ離れたRozsypne村には、同機のコックピットと数十の遺体が落下した。遺体の一つは、ある村民女性の自宅の屋根を突き破った。近くの野原では、座席に固定されたままのパイロットが客室乗務員の横で息絶えていた。
3番目のグラボベ村の近くには、エンジン、着陸装置、それに翼のこげた残骸が火の玉になって落下した。それとともに少なくとも70体の遺体が一斉に落ちてきた。
墜落後1週間たった25日の時点でさえ、グラボベ村とペトロパブリブカ村の間の野原では、「くまのプーさん」のぬいぐるみが置き去りになっている。ツルゲーネフの小説「父と子」のオランダ語版のページは太陽の光で色あせてきている。
地上の村人に死者は出なかったが、彼らは次に何を目の当たりにしてしまうかと思い、恐怖を感じている。残骸をどうすべきかをボロシナ氏ら3つの村の村長に伝えてきた事故処理の専門家は一人もいない。
キエフにいるウクライナ政府当局者は、親ロシア派との戦闘のためにおおむね連絡が途絶えている。地元の当局者や警察は、親ロシア派が乗っ取ったために混乱しているし、外国の政府当局者は動きが遅いか、連絡が取れないかのどちらかだ。カネもない。オランダ主導の事故調査チームはまだ現場に到着していない。
ボロシナ村長は「われわれは何をすべきか、どう行動すべきかを尋ねたが、誰も何も言ってこない」と話す。同村長は、ペトロパブリブカ村で育った元数学教師だ。同村長は、フォーマルな紫色のドレスを着て、墜落現場近くに立ち、途方に暮れていた。しかも、自分自身をコントロールしているイメージを見せようと努力しながら、だ。
ボロシナ村長は、ボランティアを募ったほうが良かったかもしれないと言う。墜落現場の一部を封鎖し、乗客の持ち物を特定の方法でまとめ、航空機の残骸を1カ所に集めるなどの作業のためだ。だが同時に、専門知識がないため、何か悪いことをしてしまうのが怖い、と彼女は話している。
彼女は、地元の住民が犠牲者の持ち物の一部を盗んだことが示唆ないし報道されたことに腹を立てている。彼女の夫は、炭鉱労働者たちの仲間と一緒にボランティアで遺体を探していた。彼らは紫色の手袋をはめ、担架のようなもので遺体を運び、袋に収めていた。
ボロシナ村長は「夫にとって、(そうした遺体収容作業の様子を)話すのもつらいことだ」と述べ、「彼は大きくて力強い人だが、いまだに目に涙を浮かべる」と話した。
24日には、ある老女が涙を浮かべてボロシナ村長のオフィスに現れ、人形を村長に手渡した。人形のシャツにはピンク色の糸で「エマ」という名前が刺しゅうされていた。ジャガイモの収穫をしようとしたところ、ジャガイモの代わりにこの人形が出てきたという。
ボロシナ村長は、人形を紫色のポリ袋に入れ、乗客の持ち物が積まれた大きな山の一番上に置いている。乗客の持ち物は毎日見つかる。スーツケース、財布、USB(周辺機器接続)コードなどだ。
ボロシナ村長は「私たちは保管している。待っている」と述べた。彼女は、エマを持ち主の家に帰してあげようと心に誓っている。
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