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今週水曜日発売の『ニューズウィーク日本版』2014−7・29は、当然のようにMH17便撃墜事件の特集である。
メインの記事は、「撃墜事件とプーチンの悪夢」というタイトルで、親露勢力による撃墜という見方を示しつつ、だとする確たる証拠はなく、ロシア・プーチン政権の関与も不明の「誤射」だろうという落とし所のいい内容になっている。
(表紙には、「意図的な攻撃か、誤爆か」という表現もある)
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『ニューズウィーク日本版』2014−7・29
P.
「撃墜事件とプーチンの悪夢
紛争:ウクライナ東部上空での旅客機撃墜事件を機に欧米とロシアの関わり方はどう変わるか
許し難い蛮行と言うほかない。今月17日、乗客・乗員298人を乗せてオラングのアムステルダムを飛び立ったマレーシア航空17便が、ウクライナ東部の上空を飛行中に撃墜された。
現場は、ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力の戦闘が続いている一帯だ。マレーシア航空機を撃ち落としたミサイルは、親ロシア派支配地域から発射されたと、バラク・オバマ米大統領は18日の緊急記者会見で明らかにした。
真相究明はこれからだが、今回の悲劇に関してロシアが非難されるべきだという点では、世界の多くの見方が一致しているように思える。問題は、アメリカと国際社会がどのような対応を取るべきかという点だ。
米共和党の重鎮であるジョン・マケイン上院議員は、ウクライナ政府に武器を提供すべきだと主張する。ウクライナ問題に関してロシアのウラジーミル・プーチン大統領の考えを改めさせるには、ウクライナ軍の強化が不可欠と考えているのだ。
「ウクライナの指導者たちが求めてきた対戦車兵器や対空兵器も含めて、武器の提供を直ちに開始すべきだ。ウクライナのパートナーが必要とし、要求してきた軍事能力の提供を(アメリカの)現政権が拒み続けているのは恥ずべきことである」との声明を発表した。
マケインいわく、ミサイルを発射したのがロシア軍か親ロシア派武装勢力かは関係ない。「両者は一心同体だ」と、テレビ出演した際に述べている。
とはいえ、ウクライナ東部で起きていることをすべてプーチンの責任にするのは誤りだと、元米外交官であるエール大学ジャクソン国際情勢研究所のトーマス・グレアム上席研究員(ロシア問題)は指摘する。「プーチンの指揮命令下にない多くの武装勢力が存在している」
それでも、アメリカでは対ロ強硬論が勢いを増していくだろう。オバマ政権は抑制的な態度で臨みたいようだが、犠牲者にアメリカ人が1人含まれていることも分かり、プーチンに罰を与えるべきだという声はますます強まりそうだ。
カール・レビン上院軍事委員長(民主党)は、今回の旅客機撃墜を「戦争行為」と呼び、断固たる対応を取るべきだと主張した。「誰であれ、実行した者はそのツケを全面的に払わされるべきだ」
ヒステリックな非難も
事実関係の解明はそっちのけで、こうしたヒステリックなロシア批判ばかりが強まりつつあるように見える。
フォーブス誌は先週、「プーチンが大量殺人者だと明らかになつた以上、西側メディアは彼を擁護するのをやめるべきだ」と題したコラムを電子版に掲載(その後、記事のタイトルはトーンダウンしたものに変更された)。コラムを寄稿したジャーナリストのグレッグ・サテルは、ロシアを「テロ支援国家」とまで呼んでいる。
過激な表現がまき散らされることは、真相究明の足を引っ張りかねない。「(ロシアへの)非難の大合唱だが、それを裏付ける証拠はまだほとんどない」と、グレアムは指摘する。「真相を明らかにしたいというより、思い込みで物を言っているように見える」
マレーシア航空磯を撃墜したのが誰かは、まだ分かっていない。しかしさまざまな証拠を見る限り、ミスが生んだ悲劇だつた可能性が高い。多くの専門家のみるところ、マレーシア航空磯を撃ち落としたのは、親ロシア派武装勢力が発射した地対空ミサイル「BUK(ブーク)」だったらしい。親ロシア派は、ロシアからこのミサイルの提供を受けていたようだ。
「BUKはレーダー誘導型のミサイルなので、標的を人間の目で確認せずに発射されたとしても不思議はない」と、ロシアの安全保障問題に詳しいニューヨーク大学のマーク・ガレオッティ教授は言う。「しかも武装勢力は広範なレーダー綱を持っておちず、旅客機と軍用機を識別できる要員も擁していない」
では、ロシア政府の関与はあったのか。「ロシア治安機関の下級職員は武装勢力と連絡を取り合っていた」ようだが、「(撃墜事件で)ロシア政府がどのような役割を果たしたかははつきりしない」と、サウスフロリダ大学のケース・ボーターブロエム教授(ロシア史)は言う。
「ロシア政府が武装勢力をどのくらい統制できているかは定かでない。少なくとも、プーチンがあらゆる武装勢力のリーダーに毎日電話をして、『調子はどうだい』と尋ねるような関係ではない」
ロシアがマレーシア航空機撃墜に関与しているにせよ、いないにせよ、事件が親ロシア派武装勢力の犯行と明らかになれば、ロシア政府は武装勢力と距離を置こうとするだろう。もし民問航空機への攻撃に関わっていると見なされれば、ロシアは国際社会から一層孤立し、さらに厳しい制裁を科されることが避けられない。
「自国と何らかの形で結び付いているとされる武装勢力が民間人を殺害したというのは、ロシアにとって歓迎すべきことではない」と、ボータープロエムは言う。「何人か秘密警察関係者のクビが飛ぶだろう」
だがマケインに言わせれば、ミスだったかどうかは関係ない。
「親ロシア派またはロシアの行為がウクライナの軍用機と勘違いした結果だったとしても、彼らは代償を支払うことになるだろうし、そうなるべきだ」
ロシアは「不変の大国」か
いずれにしてもこの悲劇をきつかけに、欧米はウクライナの内観をあおるプーチンとの対決姿勢を強めることになりそうだ。ロシアの政府要人や企業の一部に対するこれまでの制裁は、ロシア経済に深刻な打撃を与えるものではなかった。アメリカの制裁はより厳しい内容だつたが、対ロシア貿易の規模が小さいため、ほとんど象徴的な意味しかない。
一方、ヨーロッパはロシアとの経済関係を危うくする制裁には消極的だった。その背景にあるのは、ウクライナはロシアの勢力圏内にあり、欧米が口を出す問題ではないという考え方だ。
米ブルッキングズ研究所のクリフォード・G・ガディーとバリー・イキーズは最近の論文で、ウクライナ危機は90年代のNATO(北大西洋条約機構)拡大が間接的にもたらした結果だと指摘した。当時のロシアは対抗手段がなかったが、伝統的な大国である彼らが影響力の低下を防ぎ、国益を守ろうとするのは必然だと、2人は主張する。従って欧米にとって最善の解決策は、ロシアの脅威にはならないと保証することだという。
この論理の根底には、プーチンはロシアの国益を最大化するために行動しているという前提条件がある。だが本当は国益ではなく、国内での権力強化を図っている可能性もある。実際、プーチンの動きはロシアの国益を損なうものが多い。民主主義と自由な経済競争の制限、汚職の黙認、欧米に対する挑発と衝突、隣国との武力紛争……。
ロシアへの対応をめぐる議論では、ロシアは「不変の大国」で、その意思に反することはすべきではないかのような論調がある。だが多くの点で、現実のロシアは極めて狭狩でシニカルで身勝手な1人の「独裁者」に操られた国家にすぎない。
歴史はしばしば偶発的要素によって決定される。ロシアがボリス・エリツィン大統領時代の「欧米化」に背を向けたのは必然ではない。何よりもプーチンの指導力がもたらした結果だ。
欧米は犠牲を払う覚悟を
同様に、アメリカのウクライナへの関与をめぐる議論も、国益の観点だけで考えるべきではない。もちろん、アメリカ外交の目標は国益の追求にあるが、民主主義と言論の自由、開かれた社会といったウクライナに直接恩恵をもたらす目標もある。
ロシアと正面から対立するのは危険過ぎるという考え方は、冷戦時代を彷彿とさせる。プーチンは10年以上かけてそれを証明しようとしてきた。ウクライナやシリア問題に欧米がうまく対応できなかったことを考えれば、その試みは成功したようだ。
ロシアに自国の国益を守る権利がないというのではない。だが、ここで重要なのはロシアの国益ではない。ウクライナという主権国家の国民が、普遍的権利、民主主義、開かれた社会を実現するために闘い、自らの将来を決定する権利があるかどうかだ。ウクライナの人々には、間違いなくその権利がある。
一方、プーチンは策略を巡らせて国内の権力を強化し、世界を大国中心の19世紀的秩序に引き戻そうとしている。しかもこの世界秩序の条件は、ベルリンの壁を建設したソ連を公然と称賛する男の意思に大きく左右されるようになっている。欧米は分断された世界を次の世代に残してはならない。
ロシア国内では抑圧と熱狂的愛国主義が強まり、政府はウクライナ人の大量殺戮に手を貸している。この戦術が植え付ける憎悪と政情不安は、少なくとも数十年間にわたり深刻な影響を及ぼすだろう。既にウクライナの親ロシア派は、世界中から集まった数百人の乗客を運ぶ旅客機を撃墜するところまでいってしまったようだ。
ロシア政府は、真相解明のための徹底した国際的調査への協力を迫られるだろう。だが、それだけでは不十分だ。欧米では、あらゆる合理的手段を使ってプーチンの暴走を止める圧力が強まるはずだ。それには、プーチンが理解できる唯一の言語、つまり力の行使も含まれる。
例えばウクライナ政府軍への本格的な軍事訓練と武器の提供、ロシアに対する全面的な経済制裁、そして追加の措置をちらつかせて圧力をかけ続ける―。ロシアがさらに国際社会から孤立を深めた場合、制裁だけでは済まないだろう。.これまでも、脅しを受けたプーチンはますます強硬になり、紛争を激化させてきた。
ソ連は深刻な経済的苦境によって崩壊した。欧米がその気になれば、プーチン体制も同じ運命をたどるだろう。そのために必要なのは、「歴史の必然」を待つことではない。プーチンのような個人が及ぼす影響力の大きさを理解し、世界の向こう側でまともな暮らしを願う人々のために犠牲を払う意思を示すことだ。
ジーン・マッケンジー、ビクトリア・べキエンビス、グレコリー・フェイファー」
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