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2014年7月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙
つい数カ月前には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を戦略の天才だと持ち上げることが1つの流行になっていた。
米国の右派は、プーチン氏の安定感と自国大統領のいわゆる弱さを対比させた。チャールズ・クラウトハマー氏は「オバマvsプーチンというミスマッチ」と題したコラムで、「この大統領の下では、ロシアの方が米国より断然上だ」と言い切った。
前ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニ氏は、プーチン氏の決断力を評価して「これぞリーダーだ」と持ち上げた。英国独立党(UKIP)を率いるナイジェル・ファラージ氏は、プーチン氏こそ最も素晴らしい世界的指導者だと思うと語っていた。
マレーシア航空のMH17便が撃墜された今、こうしたお世辞はすべて的外れに見えて仕方がない。
戦略の天才ではなく向こう見ずなギャンブラーであることが露呈
ロシアはウクライナの分離主義者の武装集団に地対空ミサイルを供与したと見られるが、この政策は単に非道徳的だっただけでなく、プーチン氏は戦略の面で天才的な人物だという見方が誤りだったことの証明にもなっている。今回の撃墜事故で、プーチン氏は自らの被害妄想と冷笑的な政策ゆえにロシアを経済的・政治的に孤立させつつある向こう見ずなギャンブラーだったことが露呈したのだ。
クレムリンのミニ・マキャベリは、分離主義者の武装集団とロシアとのつながりについてもっともらしい言い逃れを続けながらウクライナ東部を不安定な状況に置くことができると思っていた。
ところが、人形使いは糸をしっかり握っていることができなかった。300人近い無辜の一般市民が命を落とした後、この悲劇におけるロシアの関与に厳しい視線が向けられている。ロシア以外の国の人で、この件にロシアは関与していないという主張を受け入れるのは筋金入りのプーチン擁護論者だけだろう。
ロシア当局は今、非常に難しい選択に直面している。MH17便への残虐行為に関する国際的な調査に協力すれば、その結果は自分たちにとって極めて厄介なものになる公算が大きい。しかし、調査を妨害したり、陰謀論をぶち上げて隠れ蓑にしたり、あるいはウクライナ東部に派兵したりすれば、諸外国からさらに激しい反発を招くことになるだろう。
先週、この航空機の悲劇が起こる前でさえ、米国は制裁の強化を発表していた。欧州連合(EU)も今後、ロシアに対する姿勢を強化しそうだ。ロシアの大手企業の一部は、西側の資本市場へのアクセスを失いつつある。
政治的に孤立する可能性も高まっている。ロシアはすでに主要8カ国首脳会議(G8)から締め出されている。MH17便に複数の市民が搭乗していたオーストラリアは、11月にブリスベンで予定されている主要20カ国・地域(G20)首脳会議にプーチン氏を迎えたくないと述べている。2018年のサッカー・ワールドカップ(W杯)をロシアで開催することにも、遠からず疑問の声が上がることだろう。
プーチン氏が犯した間違いは、上空を通過する航空機を分離主義者の武装集団が撃ち落とせるようにしたという無責任な行為だけではない。この愚かな過ちの原因は、少なくとも4つの政策の失敗に求められる。
マレーシア機撃墜事故を招いた4つの政策の失敗
第1に、ロシアは、ウクライナがEUとの貿易協定に署名するかもしれないとの見方に恐ろしく過剰な反応を示した。EUはウクライナを何が何でも仲間に引き入れようとしているとの考えは、誇大妄想だった。実際には、EUは何十年も前から、ウクライナの参加を認めることにあきれてしまうほど消極的だった。
ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟も――これについてはロシア政府が、ロシアにとって大きな脅威になると声を上げていた――実現の可能性は同様に小さかった。NATOは2008年の首脳会議でウクライナに加盟への道を開くことを拒んでおり、その後もずっと、これがNATOの基本的な立場になっている。
ロシアの2つ目の失敗は、自国の責任を否定しながらウクライナの情勢を不安定にしていることだ。これは、冷笑的な観点からは賢明なやり方に見えたに違いない。実際、ことがクリミア併合に至った時は、世界は不意を突かれた。しかしウクライナ東部ではロシア政府の操作はそれほど効果的でなく、これを偽装することも難しくなっている。その果てに起こったのがMH17便の悲劇だった。
この結果、ロシアは二重の意味で最悪の状況に直面している。一方では状況を完全にコントロールできておらず、他方ではそうした状況の責任を問われているからだ。
それも当然のことだ。たとえ撃墜命令がロシア政府から出ていなかったとしても、この惨事が起こり得る状況をもたらしたのはロシアなのだから。
プーチン氏が自分のために仕掛けた3つ目の罠は、ますます露骨になっているナショナリズムのプロパガンダを通じたロシアの世論操作に関係するものだ。
世論操作はプーチン大統領の支持率アップという望み通りの結果をもたらしてきたものの、大統領はそれゆえに引くに引けない状態に陥っている。ウクライナの分離主義者を全面的に支援しなければ、ウクライナを支配している「ファシスト」(プーチン氏のメディアはそう呼んでいる)からロシア語を話す住民を守れていないとの批判を招いてしまうのだ。
4つ目の失敗は、西側の対応を一貫して過小評価してきたことだ。プーチン氏は、周囲の太鼓持ち――および彼らの意見に同調する国外の関係者――の話から、自分が一流の戦略家であり、西側は弱いと思い込んでしまったのかもしれない。
西側の対応は遅いこともあったが、本格的な制裁が決議されており、追加制裁措置は今後も続く。ロシアの企業経営者はこの状況に愕然としている。だが、今のところ、彼らは無力だ。
また、プーチン氏は不必要にして破壊的な西側との対立に自身が巻き込まれるのを許すことで、間違った問題に関与している。ロシア政府はNATOに大きな妄想を抱いているが、ロシアにとって真の戦略的な課題は中国の台頭だ。しかし、西側との対立にはまり込んだプーチン氏は、中国に懇願する立場に置かれた。このことは、ロシアが最近中国と調印した一方的なエネルギー協定からも明白だ。
世界にとって、そして誰よりもロシア自身にとって危険な政策
こうした失敗と判断ミスの実績を取り繕い、代わりにプーチン氏のことを敵意に満ちた世界に立ち向かう英雄として描くのが、従順なロシアメディアの仕事だ。世論調査は、このキャンペーンが今のところは功を奏していることを示唆している。
危険なのは、プーチン氏が度重なる失敗を覆い隠す唯一の方法が、危機のムードを一段と煽ることであり、ロシアが実際に次第に敵意を強める西側に直面するという自己成就的な予言を生み出す事態だ。この政策は世界にとって危険であり、誰よりもロシア自身にとって危険だ。
By Gideon Rachman
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41299
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