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イラクで今月、イスラム教スンニ派の過激派組織「イラク・レバント・イスラム国(ISIL)」が大規模な侵攻を始め、シーア派主導のマリキ政権との攻防が続いている。ISILは内戦下のシリアでも支配を拡大し、中東にテロの温床となる過激派の一大拠点ができる恐れもある。オバマ米政権は国際社会への脅威になるとして警戒を強めるが、イラク撤退から2年半で再び介入することには慎重だ。周辺国の思惑も絡み、イラク・シリアを舞台とした紛争は激化の一途をたどっている。
ISILの侵攻はイラク政府の虚を突いた。今月5日、イラク第2の都市、北部モスルや中部サマラで一斉に軍事作戦を始めた。10日までにモスルを制圧し、11日にはフセイン元大統領の故郷ティクリートも掌握。バグダッドの北約60キロのバクバまで進み政府側との攻防が続く。
「政府軍は何も抵抗をしなかった」。モスルに住む貿易商、アフマドさん(52)は毎日新聞の電話取材にこう語った。シーア派の軍幹部は北部のスンニ派地域を守る意欲に乏しく、戦線を離脱。部下は武器を捨て逃走した。ISILの急進に、フセイン独裁政権時代の与党でスンニ派中心のバース党残党が大きな役割を果たした可能性がある。
「マリキ首相はシーア派で権力を独占し、北部の開発も怠った。これはスンニ派の革命だ」。バース党元幹部は電話取材にこう語った。バース党の残党など八つの武装組織がISILに加勢したという。シーア派(人口の約60%)偏重のマリキ政権に不満を抱くスンニ派(約20%)勢力も協力している。北部はスンニ派の割合が高く、ISILが容易に制圧できた。
一方、バグダッド以南のシーア派居住地域では、ISILへの警戒心が強まり宗派間の緊張が高まっている。「戦える者は武器を取れ」。シーア派の聖地カルバラへの侵攻を示唆したISILに対して、イラクのシーア派最有力指導者シスタニ師は13日、全面抗戦を訴えた。数千人が政府軍やシーア派民兵組織に加わり、隣国のシーア派国家イランから義勇兵が参戦したとの報道もある。
宗派対立の激化はISILには好都合だ。シーア派の攻撃を恐れるスンニ派住民の支持を得て、北部や西部のスンニ派地域で基盤を築きやすくなるからだ。オバマ米大統領はこうした情勢を把握し、マリキ首相に宗派対立解消を再三、求めている。だがマリキ首相はスンニ派の盟主サウジアラビアがISILを「支援している」と非難し対立をあおった。こうした姿勢に身内のシスタニ師から「幅広い支持」を得るよう批判され、クルド自治政府のバルザニ議長ら反マリキ派からは首相退陣論が出ている。
「独り勝ち」状態なのが少数民族クルド人(人口の約15%)だ。政府軍撤退後に北部キルクークの油田地帯を掌握。トルコなどにまたがって約3000万人が暮らすクルド人にとって、イラク、シリアの混乱は独立実現の好機だ。
シリアではアサド政権が14〜15日、ISILが支配する北部ラッカを空爆。ともにイランから支援を受けるマリキ政権と協調しISILと対決する姿勢を示した。また米欧が支援する反体制派も敵対するISILの勢力拡大を懸念している。
イラクのシンクタンク・共和国治安研究所のモアタズ・モヒ所長は「隣国のイランやサウジアラビアは、混乱の波及を避けたいのが本音だ。マリキ首相が退陣を受け入れれば、サウジがスンニ派勢力に働きかけて挙国一致体制を作り、(同じスンニ派でも過激な)ISILを孤立化させる方向に進む」と分析している。【カイロ秋山信一】
◇米、限定的空爆に慎重
「米国の戦闘部隊がイラクに戻って戦うことはない。最終的にはイラク人が解決しなければならない問題だ」。オバマ米大統領は19日発表したイラク危機の当面の対処方針に関する記者会見で、地上部隊を派遣しないことを明言。マリキ首相らイラク政治指導者に「違いを克服し、結集してほしい」と強く呼びかけた。共和党などに配慮してパキスタンなどで行う無人機による空爆の選択肢は残しつつ、「軍事より政治・外交」を優先する対処方針を明示した。
オバマ大統領は5月に米陸軍士官学校で軍事力の使用基準を示す重要演説を行った。この中で、米国民に対する直接的脅威など「核心的利害」が関わらない国外の紛争では「同盟国との連携や外交的手段や制裁などの模索をまず行う」という方針を打ち出した。昨年、シリア攻撃を直前で回避したオバマ大統領の思想を色濃く反映した演説で、イラクに関する判断は、この基準の初適用例と言える。
オバマ政権の軍事面での消極姿勢の背景には2003年にブッシュ前政権が始めたイラク戦争で約5000人の将兵が死亡したことによる、根強いえん戦感情がある。世論調査の結果でもイラクへの関与を許容としたのは20%にとどまった。「イラクとアフガニスタンの戦争の終結」を旗印に政権を取ったオバマ大統領にとって、イラク紛争への空爆も含めた軍事関与は、可能な限り回避したいシナリオだと言える。一方、米国がシリア内戦に関与をして安定化に努めていればISILが勢力を伸ばしてイラクを混乱させる現在の事態にならなかったとの指摘もあり、後手に回るオバマ政権の外交政策への批判もある。
◇イランは容認か
同じシーア派が主導するマリキ政権を支援するイランは、米国の空爆検討について支持も反対も表明していない。こうした反応は限定的空爆に限り容認しているようにも映る。核開発で米欧と対立してきたイランは穏健派ロウハニ政権が昨年誕生して以降、米国との関係改善も進みつつある。ただ米国が隣国イラクに再び拠点を設けるような事態だけは避けたい。オバマ大統領が「地上軍は派遣しない」と明言したことで限定的空爆であれば容認するという流れに傾きつつあるとみられる。【ワシントン和田浩明、テヘラン田中龍士】
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■ことば
◇イラクの宗派間対立
2003年に米軍などが侵攻したイラク戦争で約24年間続いたフセイン独裁政権が崩壊した。独裁下で抑圧されたシーア派は米軍に積極的に協力し、実権を掌握。スンニ派は不満を強めた。06年に中部サマラで起きたシーア派聖廟(せいびょう)爆破事件を契機に宗派間抗争が激化。06〜07年には5万人以上が死亡した。米軍は08年以降、スンニ派部族の協力を得てISILの前身組織などの過激派を掃討、治安は回復傾向を見せた。11年の米軍撤退後、マリキ政権がシーア派を優遇したため、再び宗派間対立が激化。昨年は約1万人、今年も約8000人がテロや武力紛争で死亡した。
http://mainichi.jp/shimen/news/20140623ddm003030183000c.html
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