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東シナ海上空を飛行する中国の戦闘機(提供:防衛省/AP/アフロ)
日中関係の最悪ケース、全面戦争か局地戦争か 戦争に発展し得るという危機認識が必要
http://toyokeizai.net/articles/-/40149
2014年06月14日 高橋 浩祐 :ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー東京特派員 東洋経済
尖閣諸島を含む東シナ海の公海上空で6月11日、中国の戦闘機が自衛隊機に約30メートルという距離まで異常接近する事態が再び起きた。軍用機同士の異常接近は言うまでもなく偶発的な事故を招き、両国の緊張や対立を一気に高めかねない危険なものだ。しかも、5月24日に続き、一カ月も経たないうちの二度目の発生だ。日本政府は前回の異常接近後も、外交ルートを通じて中国側に厳重抗議したが、いまだ両国間では何らの再発防止策も取られていないことが浮き彫りになった。
古今東西、領土問題は数多くの戦争の原因となってきた。特に、戦争に発展し得るという危機意識を欠いた国はなかなか交渉に真剣に臨まず、のちに想定外に事態をエスカレートさせて戦争に突入するケースが目立つ。例えば、1982年のフォークランド戦争時のアルゼンチン相手の英国がそうだった。日中防衛当局間のホットラインが機能しないなか、日中の軍同士で小衝突や小戦闘が起こり、誤解や誤算から政治的、軍事的に対立がエスカレートして戦争に突入するリスクはないのだろうか。そして、いざ日中が戦争に突入した場合、それは全面戦争(total war)になるのか、あるいは限定局地戦争(limited war)になるのか。
実は、日本の官僚や軍事ジャーナリストの間では「現代戦争では、全面戦争ではなく、局地戦になる可能性が高い」との見方が根強い一方、海外の安全保障の専門家や外交官は、日中対立での全面戦争のリスクをより高く見積もっている論調が目立っている。
■両国の戦闘機が緊急発進を繰り返す
ここ数日の日中両国の発表によって、東シナ海上空では現在、日中双方の戦闘機が互いの偵察機や情報収集機に緊急発進(スクランブル)を繰り返し、一触即発の事態が続いていることが改めて確認できた。
防衛省は、5月24日、6月11日の2回の接近について、中国軍のスホーイ27(SU−27)戦闘機2機のうち1機が、航空自衛隊の電子測定機YS11EBに約30メートルという距離まで最接近した、と発表した。対する中国は6月12日、日本のF15戦闘機2機が中国軍のTU154情報収集機に約30メートルの距離まで接近し、「飛行の安全に著しい影響を与えた」と日本を批判した。中国がビデオを公開してまで反論に踏み切った背景には、南シナ海や東シナ海で領有権問題をめぐって自らの強硬姿勢のせいで孤立感が深まるなか、日本の主張を無視できず、己の正当性を国際世論にアピールする狙いがあったものとみられる。
そもそも異常接近の現場は、中国が2013年11月に尖閣諸島の上空を含む東シナ海に一方的に設定した防空識別圏内。日本の防空識別圏とも重なり合い、日米の強い抗議を受けてきた空域だ。6月11日、中国共産党機関紙、人民日報の国際版の環球時報は、5月24日の中国機の自衛隊機への接近について、中国の戦闘機が緊急発進して日本の偵察機に対応したことで、自らの防空識別圏の設置が初めてその成果を示したとする評論記事を掲載した。
中国空軍は2013年11月26日、米軍の戦略爆撃機B52が中国の防空識別圏内を飛行した際には戦闘機を緊急発進させていなかった。以来、中国国内での弱腰批判を踏まえ、強硬姿勢を貫きつつ、防空識別圏をめぐる既成事実をいくつも積み重ねて、最終的な権益を手に入れようとしている。こうした中国の手法は、「サラミ戦術」とも揶揄されるもので、南シナ海の西沙諸島や南沙諸島の領有権問題でも中国が見せている。
いずれにせよ、日中の防空識別圏がオーバーラップする空域では、中国が自衛隊機に対し、SU−27戦闘機を緊急発進させ、日本も従来通りF-15を対領空侵犯措置行動に当たらせている。戦闘機による無用な挑発(特に中国側)から、空中戦すなわち武力衝突に発展することが懸念される。
ちなみに、ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでは、自衛隊機に異常接近を仕掛けてきた中国のSU−27は、成都軍区の第33戦闘機師団第98航空連隊(重慶基地)に所属し、重慶から東シナ海からの飛行距離を踏まえると、尖閣諸島からは戦闘機でわずか十数分となる「目と鼻の先」の福建省の軍用空港を前線基地として利用している、とみている。同機はR-73 (AA-11 ア−チャー) 短距離空対空ミサイルを搭載しているとみられる。
■局地戦か全面戦争か
日本の防衛省や外務省、軍事ジャーナリストの中には、かりに尖閣諸島周辺で日中軍事当局の小競り合いや武力衝突が起きた場合でも、それは局地戦にとどまる可能性が高い、との見方が根強い。この根拠の一つには、現代戦争では、どちらかの国が核兵器など大量破壊兵器を使えば、すぐに報復の大規模な攻撃を受け、互いを滅亡させる力があるため、いわゆる「恐怖の均衡」から、核戦争や全面戦争にはいたらずに限定戦争にとどまるとの考えがある。
これに対し、欧米を中心に海外の識者や専門家の中には、歴史を振り返り、たとえ小規模な武力衝突や小競り合いであっても、本格的な戦争に至った事例をあげる人が多い。ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーでもそうした記事を多く目にする。
例えば、今月初めに私が取材したロシアの外交官は、以下のように、小さな事件から大戦争に発展するリスクを指摘していた。
「第一次世界大戦は1914年にサラエボで起きたオーストラリアの皇太子夫妻の暗殺事件がきっかけ。第二次世界大戦もドイツ兵がポーランド兵による偽装して起こした自作自演の1939年のグライヴィッツ事件から始まった。どちらも数カ月後に誰もが予期しなかった世界大戦につながった」
さらに、このロシアの外交官は、第一次世界大戦の犠牲者が約3700万人、第二次世界大戦の犠牲者が約6000万人と、犠牲者数が増えてきている事実を指摘し、日中が本格戦争に突入し、史上最大規模の破壊をもたらすような第三次世界大戦を何としてでも予防する必要性を説いていた。
振り返れば、日本も1931年の満州事変がきっかけで、太平洋戦争にまで突入するに至った。予見を欠いた甘い戦略から生じる戦争はあまりにも多く、数多くの長期戦や全面戦争が、短期間で局地的に終わるとの楽観的な見通しが始まっている。直近では、米国によるイラク戦争やアフガン戦争が最たる例だろう。
■東シナ海では日本が軍事的優位
戦争・紛争研究や安全保障学の研究で知られる青山学院大学国際政治経済学部の青井千由紀教授は、尖閣・東シナ海ではエスカレーションの可能性はないとする主に日本国内の省庁に根強い見方も、海外で取りざたされるエスカレーションの可能性はあるとの見方も、双方が正しい、と指摘する。
日中のエスカレーションの可能性がないという根拠としては、青井教授は「少なくとも東シナ海では、南シナ海と違って、現状では日本の軍事的優位があり、このことを日中ともによくわかっているため、現状のこう着状態が壊れてエスカレーションに至る可能性は少ない」と指摘した。
一方、エスカレーションの可能性があるとの根拠としては、軍事的なものだけではなく、政治的、準軍事的な要因を挙げた。
具体的には、日中間のホットラインなど危機管理システムが構築されていないことや政治対話が稀薄であること、日本挑発論(日本が挑発している側であるという中国側の論理)に利する歴史問題が解決されていないこと、さらには、東シナ海においても再三軍事的衝突に至りかねないような事態が起こっていることをみると、少なくとも中国の党や政府、軍の指導者層がこのような行動を禁止してはいないと思われることを青井教授は指摘した。
■政治家が交渉努力を怠るリスク
確かに、中国指導者層が民族対立や民主化の動きなど国内問題の行き詰まりによる国家の正統性を尖閣など領土問題で乗り切ろうとする動きを強めるかもしれない。内憂をそらすために、武力で領土を奪還する動きは手っ取り早い方法だ。日本側の問題としても、政治家の危機回避の交渉努力の欠如が心配される。また、中国相手の高まるナショナリズムに便乗し、早期に中国を一気に叩いて勝利しておこうとするエスカレーション戦略を訴える政治家が出てこないとも限らない。
青井教授は、「日本側が純粋に軍事的な均衡を中心とした議論を繰り広げる傾向があるのに対して、中国側は、歴史問題などを含め、政治から準軍事までより幅広いアプローチでもって日本側に揺さぶりをかける準備があるように理解している。日本としても、政治、準軍事、それこそ市場の相互依存まで範疇にいれた包括的な戦略を立てることが急務」と話している。
強硬姿勢を見せ続ける中国を相手に、いかにして対立のエスカレーションを予防し、収束させていけるか。その打開策が今ほど問われている時はない。
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