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西日本新聞『デンマークやスウェーデンでは負担は重いが給付が断然厚い。米国、イタリア、韓国などは負担は薄く給付も薄い。一方、日本は給付は薄いが、負担は軽くない。低所得者が最も冷遇されている国といってよい−と日本学術会議提言は指摘した。
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アベノミクス なぜ回復実感が乏しいか
西日本新聞 2015年01月05日(最終更新 2015年01月05日 10時51分)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/137170
■戦後70年 新たな時代へ■
安倍晋三首相が自らの経済政策「アベノミクス」の成果をいくら誇っても、世論調査ではなお景気回復の実感がないとの声が多い。
むしろ、先行き不透明感が強まっているようにも見える。回復の実感はなぜ広がらないのか。きちんと分析し、適切な対応を講じないと、今年も多くの国民が実感を抱けないままになりかねない。
▼政権の掛け声と裏腹に
回復の実感が広がらない原因の一つは経済格差である。大手企業と中小企業、都会と地方、正規と非正規の労働者の間と、さまざまなところで格差が拡大している。
安倍首相も先刻承知だ。第3次安倍内閣の発足直後に打ち出した基本方針にも、それを意識した文章がある。「高齢者も若者も、難病や障害を抱える人も『誰にでもチャンスあふれる日本』を創り上げる」「景気回復の実感を必ずや全国津々浦々にまで届ける」と。
決意は良い。問題は格差是正で政府にどんな手段や仕組みがあるかだ。具体的には税・社会保障制度を通じて所得の再分配を行い、格差の緩和を図ることになる。
だが、日本の制度は、この再分配機能が弱く、ワーキングプア(働く貧困層)の増加や子どもの貧困率の上昇を止められずにいる。
再分配機能の弱さは、政府の2009年度経済財政白書でも検証された。では、その後、貧困解消や格差緩和に向けた制度の抜本見直しが政府によって行われたか。
昨年9月、日本学術会議が提言を発表した。同会議は日本の科学者約84万人を組織する代表的な機関である。その重みがある機関が出した提言とは、国際的に見ても貧弱な日本の貧困対策、社会政策の改善を強く求めるものだった。
提言では、所得額による分類で所得が低い方から20%の層に対する負担と給付を国際比較した。
デンマークやスウェーデンでは負担は重いが給付が断然厚い。米国、イタリア、韓国などは負担は薄く給付も薄い。一方、日本は給付は薄いが、負担は軽くない。低所得者が最も冷遇されている国といってよい−と提言は指摘した。
1990年代から増え続けてきた非正規労働者の問題も大きい。
独立行政法人労働政策研究・研修機構は昨年5月、35〜44歳の壮年となった非正規労働者に関する調査研究報告をまとめた。
壮年では正規労働者との所得格差が青年期よりも広がる。一方、正社員に登用される可能性は下がる。これに老親の介護などが重なれば状況は極めて厳しくなる。
景気回復の実感を津々浦々に届けるためには低所得層の底上げと格差緩和の具体策が不可欠だ。
難しいのは格差是正だけではない。アベノミクスの要である成長戦略もそうだ。首相が決意を語るほど進んでいるように見えない。
目玉の一つに「女性が輝く社会」の実現がある。あらゆる分野で指導的な地位を占める女性の割合を大幅に増やす目標を掲げた。
仕事と家庭の両立は簡単ではない。日本生産性本部が昨年末に公表した新入社員の秋の意識調査では「管理職になりたいか」との問いに男性の約65%が「なりたい」と答えた。一方、女性は政府の掛け声と裏腹に約27%にとどまる。
▼痛みを伴う改革難しく
成長戦略は安倍首相の専売特許ではない。幾多の政権が掲げたが、目に見える成果があったとは言い難い。改革には抵抗がある。既得権の壁がある。それを打破して実を結ぶまでに時間がかかる。
女性の進出を促し、仕事と家庭の両立ができる環境を整えるには社会の意識を変える必要もある。
安倍政権の成長戦略の多くが実るまでに、どのくらいかかるのだろう。その間、大胆な金融緩和と積極的な財政出動が続くのか。
首相は円安・株高を演出し、日本は変わったと印象付け、国民の期待感を高めた。だが、昨春の消費税増税以降は停滞感が強い。
国民の期待をつなぎ留めるために、首相は一段と目先の景気を重視するようになったと思える。
すると、痛みを伴い、一時的に景気を冷やす歳出削減や規制改革に二の足を踏む可能性もある。
結果、財政再建は進まず、異次元の金融緩和もやめられない。財政破綻の最悪の筋書きも頭をよぎる。首相は悲観論を一掃する説得力のある将来像を提示すべきだ。
=2015/01/05付 西日本新聞朝刊=
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