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なぜテレビは本当のことを報道しなくなったのだろうか?〈dot.〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141229-00000007-sasahi-ent
dot. 12月29日(月)16時6分配信
2014年夏、集団的自衛権の行使を認めるという憲法の解釈変更が閣議決定された。戦後という一時代に区切りをつける大きな出来事であったにもかかわらず、この前後でテレビ各局が時間を割いて報道していたのは、東京都議会の「セクハラ野次」問題と、公費の不明瞭使用が発覚して記者会見で泣き出した兵庫県議会の「号泣議員」のニュースだった。
「面白映像に飛びつき、そのニュースが本来持つ意味や重要性を意識せず、軽重を問わない。こんな事例が珍しくないほど、『本当に大事な問題』がテレビでは報じられない傾向が広がっている」(水島宏明著『内側から見たテレビ』より)
自著『内側から見たテレビ』(朝日新書)の中でこう警鐘を鳴らすのは、法政大学社会学部教授の水島宏明氏だ。水島氏は大学卒業後、地方局でドキュメンタリー番組の制作に携わり、海外特派員を歴任後、在京キー局に入社。ドキュメント番組ディレクターと報道番組の解説キャスターを兼務するなど、30年以上、テレビ業界に従事してきた。
水島氏は、テレビが視聴率至上主義になったことで報道はますますバラエティー化し、視聴者のクレームに過敏になりすぎて「誰でも言えるスタジオトーク」だけを展開していると指摘。テレビは一種の思考停止に陥っているのだという。
「『号泣議員』のような“小さな物語”で他局に勝つことに汲々とし、『解釈改憲』のような“大きな物語”を伝えようとする問題意識を失う。ジャーナリズムとして権力に敗北し続ける。残念ながら、それがテレビの現在の姿だろう」(同書より)
水島氏はまた、権力側のテレビ報道に対する「牽制行為」についても疑問を投げかけている。
たとえば参議院議員選挙がまさに始まろうとしていた2013年6月26日、TBSのニュース番組『NEWS23』が放送した中身をめぐって、自民党がTBSに対して「公平性を欠く」として抗議し、自民党幹部への取材や番組への自民党幹部の出演を全面的に拒絶した事件。長年、テレビ記者をやってきた水島氏は、政権与党のこうした行為に懐疑的だ。水島氏は、問題となった番組について「どこがどう偏っているのかピンとこない」「見る人間によって評価や受け取り方が分かれる報道」と語った上で、こう持論を展開する。
「そういう微妙な報道だった点を考えると、細かい報道の中身までを政権党が問題視して、選挙公示日になって特定のテレビ局にだけ取材・出演拒否をするという行為が、民主主義が進んだ国での政党と報道機関のあり方として良いのかは問われるべきであろう」(同書より)
この問題について、特にネット上などでは、TBS側の報道姿勢を問題視する向きも強い。しかし、こうした“世論”が、テレビの信頼失墜に乗じた、権力側の過剰介入という側面を後押ししていることも忘れてはいけない。
他方、この事件をめぐるTBS側の対応にも水島氏は首をひねる。TBSは本件に関し、自民党に「事実上の謝罪」をしている。こうした対応について、水島氏は「自局の選挙報道に与える不利益を計算したその場しのぎの反応に思える」(同書より)と語る。
「TBSは『報道における公平公正をどう考えるべきか』を自民党と徹底的に議論したり、『政権与党ならば、番組内で堂々と反論してほしい。そのための時間は差し上げます』などと強気に出たりすることもできたはずである。自分たちに若干の落ち度があると感じたならば、番組で検証をやっても良かったと思うが、そうした思い切った対応もしなかった。要は中途半端なのだ」(同書より)
テレビが誕生して60年超。劣化する巨大メディアに多くの国民は関心を失いつつある。「テレビに命を吹き込み、かつてのような『夢』を持てるまでに回復させるには、人間の感受性や理性を込めて放送していくしかない」――同書の中でこう語った、著者の言葉は、“中の人”に届くであろうか。
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