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[写真]「アベノミクス解散」は自公連立政権の圧勝に終った(ロイター/アフロ)
2014年の日本政治を振り返る ─総選挙を中心に─ 内山融・東京大学大学院教授
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141226-00000005-wordleaf-pol
THE PAGE 12月28日(日)9時0分配信
2014年の日本政治について、12月に行われた衆議院議員総選挙を中心として振り返ってみたい。
今回の総選挙の特徴をひとことで言えば、「選択なき選挙」ということになるだろう。そもそも総選挙というのは、各党が政策プログラムを提示しつつ国民の支持を巡って競争し、より多くの支持を勝ち得た政党が政権に就いてその政策プログラムを実行するという仕組みである。すなわち、政党間の政策競争を通じて、国民が政権と政策を選択するというのが本来の姿である。しかし、そのような「選択」が今回の総選挙で本当になされたか、疑問なのである。
安倍首相は、「この解散はアベノミクス解散であります」と断言し(11月21日記者会見)、争点はアベノミクス継続の是非であるとした。結果は周知のとおり与党の勝利であったが、それは国民の主体的な選択が示された結果だといえるのだろうか。
選挙論戦では、株高や企業収益増加などアベノミクスの成果を強調する与党側に対して、民主党を始めとした野党陣営は、その恩恵が地方や中小企業には行き渡っていない点などを指摘し、アベノミクス批判を行った。しかし、野党側が経済政策について現実的かつ有効な対案を提示できていたかというと、心許ない。たとえば民主党はマニフェストで「国民生活に配慮した柔軟な金融政策」を訴えたが、それが何を意味するのか今ひとつよくわからなかった。この点で、経済政策について国民に十分な選択肢が与えられていたとは思えない。
さらに大きな問題は、アベノミクスが強調されるあまり、他の争点が陰に隠れてしまったことである。安倍首相は、消費税引き上げ延期について国民の判断を仰ぐという言い方もしていた(11月18日記者会見)。多くの論者が指摘するように、消費税引き上げ延期は国民の中に大きな対立を生み出すような性質のものではないので、それ自体は争点にはなりにくい。しかし、実はここには隠された争点があった。もともと、消費税引き上げによる増収分は社会保障の充実に向けられる予定であった。であれば、消費税引き上げを延期した分、社会保障充実も先送りにされるはずである。すなわち、与党側は、本来であれば、消費税引き上げ延期と社会保障充実の先送りをセットにして提示し、それについて国民の判断を仰ぐべきだったのである。この点を曖昧にし、アベノミクスの成果と消費税引き上げ延期だけを強調したのは、有権者への責任ある態度だったであろうか。
他の争点としては、集団的自衛権、憲法改正、原発などもありえた。集団的自衛権に関しては、安倍内閣は7月に閣議決定による憲法9条の解釈変更を行った。これは戦後政治史上の画期的な出来事だったので、選挙論戦でもっと関心を集めてもよかったと思われる。しかし実際は、この争点もアベノミクスの陰に隠れてしまっていた。集団的自衛権については野党陣営内でも態度が分かれており、統一した代替案が出せなかったのが大きな要因であろうが、政権側の巧妙さも無視できない。安倍首相は2月の国会答弁で、「(憲法解釈の)最高の責任者は私だ。政府答弁に私が責任を持って、その上で私たちは選挙で国民の審判を受ける」と述べている。しかし選挙戦中、集団的自衛権について国民の判断を仰ぐ旨が安倍首相により正面から訴えられていたようには思われない(安全保障に関しては「切れ目のない安全保障法制を整備する」といった言い方が中心であった)。
憲法改正や原発についても、同様に、政権側から明確なメッセージが発せられていたとはいえない。一方の野党側も、陣営内での意見集約が困難だったこともあり、的確な代替案を提示することに必ずしも成功しなかった。
要するに、今回の総選挙では、経済政策や安全保障などの各争点において、有権者に対して有効な選択肢が与えられていなかった。選挙の結果により政権の路線が「信認された」というためには、有権者が十分な選択の機会を持つことが前提のはずである。その前提が満たされていないのであれば、選挙で勝利したといっても、国民は本当に政権を信認したのか、政権に何を信託したのか、曖昧であると言わざるを得ない。今回の選挙を「選択なき選挙」と名付けたゆえんである。
このような事態となったのは、主に、政権による争点設定の巧妙さと、野党陣営の合意形成不足のためである。特に、野党陣営内部で(政党間だけでなく同じ党の中でも)安全保障政策や原発に関する意見のばらつきが大きく、明確で現実的な代案についての合意を形成するのが困難だったことが大きい。今回、多くの選挙区において野党間の候補者調整が行われたのは注目すべきだが、政策調整までは手が回らなかったのである。
加えて、選挙制度の問題も指摘しておきたい。よく知られているように小選挙区制は二大政党制を生み出しやすいが、ある選挙区で、有効な(つまり泡沫でない)候補者が二大政党のそれしか存在しなかったら、有権者は、それらのうちどちらかを選ばざるを得ない。そして、ある有権者がA党を選んだら、A党の提示する政策のうち支持できないものがあっても(たとえばA党の経済政策は支持するが安全保障政策は支持できないといった場合でも)、それを受け入れざるを得ない。つまり、小選挙区制では各政党が様々な政策を「セット販売」することになる。気に入らない政策がセットに含まれていても、有権者はそれを購入せざるを得ないのである。
その点、比例代表制はそうした問題が少ない。多党制を生み出しやすい比例代表制では、単一の争点に絞った政党(たとえば環境政党など)が存在できる余地がある。その場合、有権者は、自分の重視する争点に基づいて政党を選ぶことができる。いわば、政策の「ばら売り」が可能なのである。現在、衆議院議長のもとに置かれた「衆議院選挙制度に関する調査会」で選挙制度に関する検討が進められているが、多様な民意の表出を尊重する立場からは、比例代表制の一層の活用も考慮に値するように思われる。
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内山 融(うちやま ゆう)
東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など。
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