02. 2014年12月26日 21:52:59
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視点:成長と財政再建へアベノミクス「仕切り直し」の好機=竹中平蔵氏 2014年 12月 26日 17:49 JST 竹中平蔵 慶応義塾大学教授[東京 26日] - 消費増税先送りを受けて、国際公約でもある財政健全化目標の達成を危ぶむ声が増えている。しかし、竹中平蔵・慶応義塾大学教授は、アベノミクスを仕切り直し、もう一度、「3本の矢」を確実に放つことによって、成長主導で目標を達成することは可能だと指摘する。 同氏の見解は以下のとおり。 <30代問題と消費増税の設計ミス> 「TINA(ティナ)」という言葉がある。英国のマーガレット・サッチャー元首相が好んで使ったフレーズで、「There is no alternative(他に方法はない)」の略語だ。自民党も選挙スローガンで「景気回復、この道しかない」と掲げていたが、私もアベノミクスは「TINA」だと考えている。 こう話すと、2四半期連続のマイナス成長を指して、アベノミクスは正しくないのではないかと批判する人もいよう。ただ、思い起こしてほしいのは、アベノミクスは最初の1年半は非常にうまく行っていたということだ。日経平均株価は約70%上昇し、実質国内総生産(GDP)成長率も2012年度のプラス1%から2013年度にはプラス2.1%へと大きく改善した。 歯車を狂わせたのは、率直に言って、当初アベノミクスのメニューにはなかった消費増税(5%から8%への第一弾)を2014年4月に実施したことだ。安倍晋三首相も菅義偉官房長官もおそらく本音ではあのタイミングでの消費増税に反対だったと思うが、民主党前政権下で自公民の三党合意に基づき法制化されたものなので、やらざるを得なかった。そして実際に引き上げてみたら、案の定、景気は失速してしまった。しかも、マイナスの影響は予想以上に大きく、長期化することになった。 ただ、それによって、今後の政策課題として学べたこともあった。まず、若い世代の消費マインドが大きく落ち込んだことだ。消費増税後の消費動向を年齢階級別にみると、30代の支出の落ち込みが際立っている。この世代は就職氷河期を経験しており、非正規比率が高い。いわゆる30代問題だ。ここが見落とされていた。 また、日本の消費税の構造問題も改めて浮き彫りになった。例えば、7―9月期のGDPをみると、特に民間住宅投資の落ち込みがマイナス24%強(年率換算)と大きかった。実は、(日本の消費税に相当する)付加価値税が高い欧州では、住宅のような高額商品には低い税率が適用されている。イタリアでは、20%の付加価値税率(標準税率)に対して、4%。スウェーデンに至っては、同25%に対して、ゼロだ。日本は住宅にも一律8%を課しており、需要が伸び悩むのもそれが一因だろう。こうした課題が浮き彫りになったことを、今後の政策運営に生かしていかなければならない。 もちろん、全体を良くすることで、全員が良くなるわけではない。しかし、全体を良くせずして、全員が良くなることはありえない。全体を良くしようというアベノミクスのやっていることは正しいのだから、新たに見えてきた課題も踏まえて、もう一度、仕切り直せばいいのだ。 第1の矢(金融政策)については、日銀が先行して、10月31日に追加緩和を決めた。次は第2の矢(財政政策)についても、経済がいったん正常化するまでは追加で放てばいい。それによって成長を確実なものにし、中期的な財政再建を目指すことは可能だ。 <抜本的な所得税改革が必要> その財政再建については、安倍政権が10%への消費増税を2017年4月に延期したことによって、G20の場で国際的に公約した財政健全化目標の達成が難しくなったとの意見がある。しかし、そう決めつけるのは時期尚早だ。 かねてより主張してきたことだが、そもそも財政再建のために、消費増税はあまり役には立たない。小泉政権下の2003年から2007年の間に、国債費関連を除いた基礎的財政収支(プライマリーバランス)赤字額は28兆円から6兆円にまで減ったが、これは不良債権処理や規制緩和によって経済が活性化し、成長した結果である。 財政再建の本道は、経済を良くすることだ。そして、歳出を増やさないことである。日本の一般会計歳出は2000年から2008年までは80兆円台で安定していたが、今は約100兆円になっている。膨らんでしまった歳出を大幅に削ることは現実的には難しいが、せめて伸び率を抑える必要がある。それでも足りなければ、増税するというのが正しい政策の順序だ。だが、民主党前政権下で、まず増税から始めるという道筋を描いてしまった。アベノミクスはそこを書き直していく必要がある。その意味でも、このタイミングで10%への消費増税を先送りしたことは正しい。 ただ、税制改革をしなくていいと私は言っているわけではない。日本の税制には、いろいろと歪みが多く、それを正していくことは必要だ。その結果として、税収はもっと増えるはずだ。 目下、議論が不十分なのは所得税改革だ。日本の所得税の累進構造には、中間所得層の税率が先進国の中で極端に低いという大きな歪みがある。具体的には、所得税率10%かそれ以下の納税者は、英国の場合、約15%、ドイツや米国でも3―4割程度であるのに対して、日本では8割にも達する。格差是正の名のもと、高額所得者の税率をさらに高めるべきとの意見も耳にするが、所得再配分を重視するならば、本来は中間所得層に対する税率引き上げを行うべきだ。 また、格差是正のために税金を集めるわけだから、社会保障の財源にふさわしいのは消費税ではなく所得税である。所得税で負担能力に応じて払ってもらわなければ、社会保障のためという名目は成り立たない。 そもそも、すべての所得階層に同率で課される消費税は格差是正につながらないどころか、むしろ拡大させる。現在、それを解消する手段として、軽減税率が浮上しているが、これも全所得階層の負担が軽減されるわけで、本末転倒だ。 消費増税偏重の考えは改め、所得税改革を行い、そのうえで低所得者対策は給付付き税額控除(課税最低限度額以下の人にはマイナスの税率に相当する分だけ現金を給付する、いわゆる「負の所得税」)で行うべきだ。 百歩譲って、軽減税率が政治的に必要な選択肢であるならば、むしろ消費を喚起する目的で住宅などの高額商品に適用するのではどうか。低所得者向けの給付付き税額控除と、二者択一の政治判断である必要はない。 ちなみに、社会保障・税番号制度(マイナンバー)が2016年1月にスタートする予定であり、所得の正確な把握が前提だった給付付き税額控除の実現ハードルは下がる。せっかく消費増税を2017年まで見送ったのだから、ぜひこのチャンスを生かしてもらいたい。 財政健全化目標に話を戻せば、社会保障と税の改革を正しい方向で進め、また3つの矢を着実に放ち成長を実現していけば、達成は決して不可能ではないと考えている。足元の原油安も追い風だ。インフレ目標達成には若干の負の影響はあるかもしれないが、経済成長には明らかにプラスだ。財政健全化目標のうち、最初の関門(2015年度までにプライマリーバランス赤字を対GDP比で2010年度に比べて半減)は十分クリア可能だろう。一方、次の目標(2020年度までにプライマリーバランス黒字化)は確かに難易度が高いが、上述したような改革姿勢を進めることができるならば、達成が視野に入ってくるはずだ。 むろん、所得税のほかにも、実効税率引き下げを含む法人税改革も必須であるし、社会保障に関しては、年金支給開始年齢の段階的引き上げや高額所得者向けの年金見直しなど、痛みを伴う改革は避けられない。 アベノミクスはここまで社会保障と税の問題にはあまり踏み込んでこなかったが、2015年はこの分野での改革の本気度が問われることになろう。その意味で、2015年夏までに提示されるという財政健全化計画で、どこまで具体策に踏み込めるかが、注目される。 <新機軸はミニ地方政府とバーチャル特区> 一方、成長戦略については、細かく言えば重要なものは複数あるが、規制改革と官業の民間開放が成長戦略の基礎であるという視点に立てば、特に注目している突破口は次の2つだ。ひとつは、国家戦略特区の枠組みを使った岩盤規制の緩和。もうひとつは「コンセッション(運営権)」方式による官業の民間開放の加速だ。政府は民間への売却で得た資金を新しいインフラ投資など財政資金としても活用できる。また、法人税率引き下げや公的年金(GPIFなど)の運用改革、女性が活躍できる社会を作っていくことなども、規制改革や官業の民間開放がダイナミックに展開されるかどうかという点と、深くかかわってくる。 実はこうした改革項目の多くは、2014年1月にダボス会議で安倍首相が世界に向けて公約していたことだ。そして実際、6月末に閣議決定された成長戦略第2弾では、おおむねこのダボス公約が網羅されていた。GPIFの運用改革などすでに実行に移されたものも多い。 成長戦略第2弾に先立ってスタートした国家戦略特区についても、事業計画が相次ぎ認定されるなど、霞が関・永田町の常識に照らせば、異例の速さで取り組みが進んでいる。強力な推進システムの役割を果たしているのが、6指定区域(東京圏・関西圏・新潟県新潟市・兵庫県養父市・福岡県福岡市・沖縄県)ごとに立ち上げた「区域会議」だ。 従来の特区制度では、地方が何か規制改革を要求しても決めるのは国だったが、今回の戦略特区では、国・地方・民間の代表がそれぞれ対等の1票を有し、様々なことを決定できる。いわばミニ地方政府だ。地域と民間にやる気があれば、スピード感を持って、物事を進めることが可能だ。 また、戦略特区に「バーチャル特区」の考えを反映できたことも高く評価できる。地域限定の従来発想とは異なり、機能や分野別などでの地域を超えた横展開を意識したものだ。国全体の岩盤規制緩和にもこれで弾みがつくだろう。 あとは東京圏の特区にもっとがんばってもらい、新しいアイディアを出してほしい。2020年のオリンピック・パラリンピック開催に向けて東京で改革モメンタムが高まれば、それが他の特区にも波及していくことだろう。 最後にひとつ安倍政権に重要な注文を付けるとすれば、マクロ政策の方向性の議論は経済財政諮問会議が主導する形で行うべきだ。同会議の発議を経ずに、首相が消費増税先送りという決断に至ったことは、率直に言って、残念なことだった。この点もアベノミクス仕切り直しの際に重視すべきポイントだろう。 *竹中平蔵氏は現在、慶応義塾大学総合政策学部教授・グローバルセキュリティ研究所所長。1951年和歌山県和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)などを経て慶大教授に就任。2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣。 02年経済財政政策担当大臣に留任し、金融担当大臣も兼務。04年参議院議員当選。05年総務大臣・郵政民営化担当大臣。現在、政府産業競争力会議の民間議員、国家戦略特別区域諮問会議の有識者議員を務める。 *本稿は竹中平蔵氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0K30C920141226?sp=true
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