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1年半以内に景気回復へ、ハードルは高い photo Getty Images
朝日新聞はまもなく3度死ぬのか!? 2014年私の3大ニュースの今後を読むhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/41554
2014年12月26日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
年末を迎え、ことし最後のコラムである。そこで、私の2014年重大ニュースを振り返ってみよう。政治分野では、なんといっても最大のトピックスは抜き打ちの解散総選挙と安倍晋三政権の圧勝だ。
■消費税を5%に戻すのがよいが・・・
とはいえ、それで話は終わらない。先週のコラムで指摘したように、実は安倍政権はこれからが正念場である。というのは景気が思わしくない中、どう景気を回復するかといえば、正直言ってこれがなかなか難しいからだ。
安倍首相は解散に当たって2017年4月に消費税を10%に上げると約束した。ということは準備期間を考えると、遅くとも増税1年前の16年春ごろには、景気を回復していなければならない。いまからわずか1年半後である。
そんな短い期間に景気を良くしようと思ったら、経済政策の常識では財政金融政策を発動する以外にない。ところがご承知のように、安倍政権は第1の矢(金融緩和)と第2の矢(機動的な財政政策)として、財政金融政策はとっくに発動済みである。
だから、いま以上に財政金融政策を上積みするとなると、まず余地があまり残っていないうえ、政策効果も限定的になる。それから世間的には「もう十分やったじゃないか」という批判を覚悟しなければならない。
具体的に言えば、金融政策は10月末に追加緩和に踏み切ったばかりだ。すると残るは財政出動だが、いま盛んに報じられているのは3.5兆円程度の補正予算編成である。これで十分かといえば、私はまったく十分とは言えないと思う。
というのは、4月に消費税を3%引き上げた結果、何が起きたか。1%が2.5兆円と考えると、単純計算で7.5兆円の民間所得を国と地方が吸い上げた形になっている。それを3.5兆円程度の補正予算で埋め合わせできるかといえば、足りないのはあきらかではないか。
しかも、よく知られているように、補正の規模というのは事業規模であって、本当の財政支出を伴う部分、いわゆる真水の支出はもっと少ない。となると、4月増税の7.5兆円の所得吸い上げを3.5兆円程度の補正予算で埋め合わせるには、まったく力不足なのだ。
では、どうすべきか。
もっとも経済政策の道理に合っていて即効薬になるのは、4月増税をチャラにする、つまり消費税を5%に戻す政策である。だが、将来の再増税を約束したくらいだから、税率を5%に戻すなどというのは、とても政治的に不可能だろう。だからこそ残された選択肢が少なく、打つ手に乏しい状態なのだ。
そんな中で、試金石は来年4月の賃上げである。安倍政権は総選挙結果が出た翌々日の12月16日、政労使会議を開いて賃上げに向けて「最大限の努力」を促す合意文書をまとめた。賃上げがはかばかしい結果にならないと、その後の政権運営に響くという危機感の表れである。
4月の賃上げで目に見える成果を上げ、その後の夏のボーナス、冬のボーナスに続ける。そして16年春を迎える。そういうシナリオが実現しないと、増税の約束を果たすのが難しくなる。一言で言えば、安倍政権はこれから3回、賃金ハードルを越えなければならない。このハードルはけっして低くない。
■民主党は分裂すべき
さて以上を確認したうえで、では野党が攻勢をかけられるかといえば、こちらも別の意味で正念場を迎えている。野党第1党である民主党の行く末が決まらないのだ。年明け1月18日に代表選を実施して、新しい代表を決める予定だが、早くも党内は分裂の気配を漂わせている。
細野豪志元幹事長は代表選出馬を表明したが、枝野幸男幹事長は不支持を明言している。両者はいま激しい批判の応酬を繰り返し、亀裂は深まる一方だ。岡田克也元代表や蓮舫元行政刷新相らも出馬する見通しだが、この調子だと、だれが代表になっても、もはや民主党が1つにまとまるのは難しいのではないか。
私はかねて民主党は分裂すべきだ、と唱えてきた。それは肝心の経済政策と外交安保政策をめぐって左右両派の対立が解消しそうにないからだ。2012年衆院選、13年参院選と負け続けているのに、いまだに党の基本政策がはっきりしない。
今回の総選挙結果は3度めの正直である。細野氏は完全な敗北と総括しているが、左派が「負けたわけではない」と思っているなら、左派だけでまとまってもらったほうが、有権者にも支持者にもはるかに合理的ではないか。
来年が路線論争に決着をつける最後のチャンスだ。民主党が左右で分裂すれば、維新の党は右派と一緒になる可能性が出てくる。野党再編はそこから動き出す。
■中国の冒険的行動に準備が不可欠
次に国際関係だ。ウクライナに侵攻したロシアは苦境が鮮明になってきた。ルーブルは半年で5割も下落した。ロシアの輸出の7割は原油と天然ガスだ。もともと世界に売れる工業製品がほとんどないうえ、ルーブル安で外国商品は割高になった。
プーチンは最近の会見で「クマは決して許しを求めない」と強気を装った。だが苦境はあきらかだから、日本にとってはチャンスである。日本は米欧の隊列から一歩後ろに下がった位置を続けるべきだ。そうすれば日ロ関係は来年、大きく動く可能性がある。
中国の習近平は、いよいよ権力闘争にとりつかれてきた。周永康・前政治局常務委員の摘発に続いて、胡錦濤・前国家主席の側近だった令計画・党中央統一戦線工作部長も「重大な規律違反」で摘発された。
習近平は「反腐敗」の御旗を掲げてライバルの幹部を次々と摘発しているが、本質は権力闘争である。「習近平が腐敗していない」などと信じる中国人はいない。米国の通信社、ブルームバーグが習近平の親族の巨額蓄財を報じたが、圧力がかかったのか、中断してしまった。ニューヨーク・タイムズは温家宝元首相の巨額蓄財も報じている。
中国の共産党幹部はだれもかれもが腐敗しているのだ。そんな中で習近平が権力闘争に勝利すると、東アジアや日本にどんな影響があるか。いいとか悪いとか言っても始まらない。日本は中国が冒険的行動に出ても対抗できるように、十分な準備が必要だ。集団的自衛権の法制化はその一環である。
■朝日新聞の第三者委員会報告には驚いた
それからマスコミである。2014年は朝日新聞問題に火がついた1年だった。朝日は12月23日の紙面で、慰安婦報道や池上彰氏のコラム掲載見送り問題について第三者委員会の報告と提言を大々的に報じた。これをどうみるか。
私は、新聞が自分の問題点を検証する仕事を第三者委員会に丸投げしたこと自体が、報道機関の責務を放棄している、と考える。「報道と論評の独立・自立」を売り物にする報道機関が紙面の検証を第三者に丸投げして、ご意見を拝聴しているようでは独立も何もない。これは原理原則の問題である。
そういう視点から、私は『月刊Voice』11月号で「朝日は有識者による第三者委員会で『2度死ぬ』羽目になる」と書いた。今回の報告と提言を見て「やっぱり2度死んだ」と思った。謝るだけで、自分たちの考えはないに等しかったからだ。
本来なら、第三者に指摘される前に自ら検証し「ここが問題だった」と分析して、改善策を講じなければならなかった。そういう努力の形跡がない。自分の仕事を他人に丸投げしたからだ。
第三者委員会報告の要約版を掲載した紙面を見ても「どうなっているのか」と思う部分があった。委員の1人、田原総一朗氏は「謝罪することで朝日の批判勢力をエスカレートさせてしまう恐れがある、と報告書が書いている」と紙面で指摘していた。
「どういうことか」と思って、私は紙面を探してみたが、要約版にそんな箇所はない。そこで朝日のサイトにある報告書全文(http://www.asahi.com/shimbun/3rd/2014122201.pdf)をチェックしてみると、たしかに次のように書いていた。
ーーーーー
謝罪することで朝日新聞の記事について「ねつ造」と批判している勢力を「やはり慰安婦報道全体がねつ造だった」とエスカレートさせてしまう恐れがある、朝日新聞を信じて読んでくれている読者の信用を失うといった意見から、謝罪文言を入れないゲラ刷りも作成された。
(中略)経営上の危機管理の観点から、謝罪した場合、朝日新聞を信じてきた読者に必要以上に不信感を与える恐れがあること、朝日新聞を攻撃する勢力に更に攻撃する材料を与えること、「反省」という言葉で表現することで謝罪の意を汲んでもらえるとする意見などにより、結局、謝罪はせず、他方、吉田氏にまつわる16本の記事については記事そのものを取り消すという対応をすることとした。
ーーーーー
この部分には本当に驚いた。報告書は池上コラムの不掲載を決めたのは、実質的に辞任した木村伊量社長の判断だったと認めたが、批判を受け入れない姿勢はここでも一貫している。朝日は自分の批判勢力を利さないかどうか、を紙面作成の判断基準にしていたのだ。
■朝日新聞は3度死にかねない
そうだとすれば、自分の意見、主義主張が第1で、客観的事実は2の次という話である。これは報道機関がすべき判断ではない。主義主張を唱えるプロパガンダ機関の判断である。
ここを読んでしまったら、あとの部分はすっかり読む気が失せた。とっくに朝日は死んでいたのだ。間違った報道で1度死んだが、そもそも紙面掲載の判断基準が間違っていたのだから、初めから死んでいたのである。つまり2度死んでいた。
この先、これから「自分たちはこうする」という話をしないと、朝日は生き返らないだろう。再生策が示せない限り、朝日は2度どころか3度死ぬはめになる。12月26日に記者会見を開くそうだから、いまはそこに注目したい。
もうひと言。この話は実は朝日だけの話ではない。私は自分が所属する東京新聞について、このコラムやテレビやラジオでも言いたい放題、言ってきた。ただ残念ながら、東京新聞紙上で言った覚えはあまりない(もしかしたら1回くらいはあった)。
だが、本来は新聞紙面で言うべきなのだ。私は自由な異論を唱えられる新聞こそが自由で独立した新聞なのだ、と信じている。私自身の来年の課題である。
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