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民主主義国家であろうと戦争が始まれば人権が奪われます」
戦争の焼け跡が創作意欲の原点
作家 森村 誠一さん
「戦争で怖いのは敵よりも権力の弾圧です。民主主義国家であろうと戦争が始まれば人権が奪われます」 pic.twitter.com/8XVkLVKI5u
― The daily olive news (@olivenews) 2014, 12月 19
あの人に迫る 森村 誠一 作家 戦争の焼け跡が 創作意欲の原点
2014.08.10 東京新聞 朝刊 13面
あなたに伝えたい
青春とは未知数の多いこと。若者は未知の狩人です。未知を追い続けることが人生です。
特定秘密保護法の制定、従軍慰安婦をめぐる河野談話の検証、集団的自衛権の行使容認…安倍政権の発足以後、日本の右傾化が進んでいる。
『人間の 証明』などのヒット作を次々と世に送り出す一方で、旧日本軍七三一部隊を題材にしたノンフィクション『悪魔の飽食』などで戦争の「悪」を告発してきた森村 誠一さん(81)。よわいを重ねても衰えぬ創作意欲の原点は、少年時代に味わった戦争の辛酸だという。(岡村淳司)
戦争を体験した作家がどんどん減ってゆく中、護憲派の論客として意欲的に発言しています。
終戦の日に埼玉県熊谷市で空襲を受けて、地元の川が死体で埋まったのを目の当たりにしました。それを書きたいと思ったのが作家としての原点です。当時十二 歳でした。戦後焼け跡にバラックを建てて父と暮らしました。徐々に電気が通うようになり、光の点が夜ごと増えてゆくんです。人間のたくましさに感動しまし た。
戦争で怖いのは敵よりも権力の弾圧です。民主主義国家であろうと戦争が始まれば人権が奪われます。僕は幼いころから本が大好きだった けど、戦時中は男女の恋愛を描いた金色夜叉なんかは規制されて伏せ字だらけになりました。体力があるやつばかり威張って、本を読む子どもは「文弱」ってい じめられて。悔しかったな。父がタクシー会社を起こして割に裕福でしたが、商売道具の車が軍に徴用されて失業しました。
そのころは満足に 飯を食べられず常に腹をすかせて下ばかり向いて歩いてた。何か食い物が落ちてないかって。芋の切れ端とか案外見つかるんですよ。戦争が終わって何年かして 初めてごはんに生卵が載っかったとき「夢じゃないか」と思いました。妊婦と病人しか食べられないものだったから。最近の若者は戦争体験を聞く機会が減っ て、戦争をおとぎ話のように感じている。危うさを覚えます。
安倍内閣が集団的自衛権の行使を容認し、社会がきな臭くなっています。
時代がここまで来たかと衝撃を受けました。憲法という城を攻めたいけど、内堀も外堀も埋められないから解釈変更という地下トンネルを掘ったようなもの。明 らかなルール違反です。憲法は国家の土台であり表看板です。いくら支持率が高くても、こんなやり方をする政府に正当性はありません。特定秘密保護法を強引 に成立させた時、安倍晋三首相は「もっと丁寧に説明すべきだった」と発言した。あの反省はどこにいったのか。言行不一致も甚だしい。周囲をイエスマンばか りで固めていることにも腹が立ちます。
多くの作品で戦争を題材にしました。特に『悪魔の飽食』は社会に大きな波紋を広げました。
七三一部隊が登場する『死の器』という小説を出版した際、元隊員から電話をもらったんです。「あなたが書いたのは実態と違う。もっと掘り下げるなら協力し ます」と。それで興味を持って執筆を決意しました。調査に力を入れ、人間の証明で得た収入のほとんどをつぎ込みました。人を使って膨大な資料を集めました が、結果的に事実誤認の写真を載せてしまい、激しい批判を浴びました。
あの時は抗議団体が家まで来て「筆を折れ」と迫られました。「身の 安全は約束するから表に出てこい」とかね。作家が筆を折るのは武士が刀を折るのと同じこと。絶対に譲れなかった。僕はこの仕事が好きだし、これを奪われた ら何もできない。一部のミスで全てが否定されるのも我慢ならなかった。だからへこたれずに続編を書いたんです。
特定秘密保護法などで言論を締め付けるムードがあり、もの言えば唇寒しのご時世。何かを主張するには勇気が要ります。
そうですね。でも僕の場合、もの言えば唇が熱くなる。ますます燃えてくるんですよ。文句を言ってくるのって匿名の人間が多いでしょう。つまり自分の言葉に責任を持っていないということです。そういうのは気にしなくていい。そんなのにひるむようでは表現者といえません。
作家になって半世紀。著作は四百を超えました。満足感はありますか。
いや、全然。僕は欲張りなんです。どれだけ過去にヒットしても、今忘れられたら意味がない。若い人に読まれるような作品を書きたいです。特定少数じゃなく て不特定多数を自分の作品世界に招き入れたい。僕は読者を楽しませることが第一のエンターテインメント志向。常に勉強してマーケットリサーチもしてます。 今も連載を四本抱えてるんですよ。世の中は変化が激しくてついてゆくのが大変。作品を酷評されることもありますが、「何くそ、次で見返してやる」ってファ イトが湧いてきます。
最近はすぐに消えてしまう作家が多いですね。この仕事を長く続けるにはメンテナンスが重要です。ソロホームランでは だめ。インターバルを置かずに書き続けなきゃ生き残れません。僕はピークのころ、十五の作品を同時に書き進めてました。作家は知名度が武器になります。昔 は書き手が少ないから名前が売れましたが、今はライバルがたくさんいる。これからの人は本当に大変だと思います。
若者の読書離れが進んでいます。本の魅力とは。
僕は戦争が終わったとき「やっと自由に本が読める」とうれしくなりました。高校は仮病で一カ月休んで図書館で世界文学全集を読みふけり、大学は読書と登山 ざんまいで留年しました。それほど欠かせない存在でした。本は人類が蓄積した精神財産の倉庫です。それに目を向けないでゲームやスマホをしているのはもっ たいない。
僕らの時代は背伸びして難しい本を読んだものです。青少年から大人になるための「洗礼の書」として、志賀直哉の『暗夜行路』や 夏目漱石の『こころ』などが挙げられていました。今の若者は自分の身長以下の本を選びがちですよね。選択肢がたくさんあるから、ややこしいことや難しいこ とを避けるのでしょう。自分の欲しいものを手に入れるには努力が必要なのに、早々に楽をすることが当たり前になっている。精神的にも飢えていないのです。
昔は情報を得るのにお金が必要でした。無駄な手間も掛かりました。それに比べれば今は何でも簡単に得られます。その結果、便利さの奴隷になって成長の機会 を奪われている。僕はそういう人を「便奴(べんど)」と呼びます。青春とは未知数の多いこと。若者は未知の狩人です。未知を追い続けることが人生です。
日中関係が悪化しています。
今の中国を脅威に感じ、このままではいけないという意見は理解できます。でも日本が兜(かぶと)を硬くすれば、中国は刀を鋭くする。結局いたちごっこにな ります。挑発に乗るべきではありません。ここ最近の対立だけに目を向けるのは間違いです。日本は魏志倭人伝に書かれた時代から中国と付き合ってきました。 仲たがいしているのは長い歴史の中でほんの一瞬なんです。今や経済や文化を通じて切っても切れない関係。互いに分かり合えるはずです。人間の証明は、あの 国で日本の三倍も売れたのですから。
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もりむら・せいいち
1933(昭和8)年、埼玉県生まれ。青山学院大文学部を卒業、ホテル業界で9 年間働いた。ホテルニューオータニのフロント主任時代に執筆したエッセー『サラリーマン悪徳セミナー』で文壇デビュー。専業作家になり『高層の死角』で第 15回江戸川乱歩賞、『腐蝕(ふしょく)の構造』で第26回日本推理作家協会賞を受賞した。その後刊行した『人間の証明』や『野性の証明』が映画化され全 国的なブームに。人気絶頂の81年に『悪魔の飽食』を刊行。続編の写真誤用が発覚しシリーズが回収・絶版となったが、内容を改訂して再出版した。2011 年には『悪道』で吉川英治文学賞を受賞。ミステリー、時代物、俳句など幅広い分野の作品を執筆している。
インタビューを終えて
人間の証明が出版されたのは筆者が生まれた翌年。学生時代に夢中で読んだことを覚えている。今回あらためて悪魔の飽食を読ませてもらったが、多くの資料と 証言による生々しい記述に圧倒された。書斎には八トンもの書籍や資料を収めた本棚があった。今もガラスペンにこだわって執筆する指は長年の酷使で曲がって いた。それらは人気作家であり続けるための「努力の証明」なのだろう。
長いインタビューの間、小気味いい政権批判を繰り返しつつ、庭に迷い込んだ猫の様子を気にしていた。あまたの作品と同じく、強者に厳しく弱者に優しいまなざしが印象的だった。
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