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ナチスの宣伝を想起させる驕れる首相の賃上げ圧力 日本経済一歩先の真相/高橋乗宣
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/155868
2014年12月19日 日刊ゲンダイ
あり得ない光景だった。16日に首相官邸で開かれた政労使会議の場で、安倍首相は「来年春の賃上げについて最大限の努力を図っていただきたい」と経団連の榊原定征会長に要請していた。
榊原会長は「最大限努力する」と応じたが、社員の賃金は本来、民間企業が自主的に決めるべきものだ。その賃金が労働市場の需給に応じて決まることは、経済学のイロハのイである。すなわち、労働需給が逼迫してくると賃金は上がり、逆にだぶつけば下がる。
こうした経済原理を踏みにじって、時の政権トップが民間企業の給与水準にまで口を挟み、「賃金を上げろ」と迫る姿は異常だ。ロコツな政治介入を慎むことこそ権力者に求められる姿で、国家権力を背景にした財界トップへの賃上げ圧力は論外である。
そもそも経団連の参加企業には円安のメリットを享受し、輸出で収益を上げた大企業が多い。わざわざ政治介入という禁じ手を行使しなくても、ボーナスなどの労働支給を上げて当然の立場だ。安倍首相がメディアの前で経団連会長と会って、賃上げを求めたのは自己満足に過ぎない。「自分が賃上げを実現させた」と世間にアピールし、国民に「労働者の味方」と思わせたいだけだ。ヒトラーを「国民の救世主」に祭り上げたナチスのプロパガンダを彷彿とさせる。危うい政治パフォーマンスである。
もっとも安倍首相の賃上げ圧力に応じられるのは、体力のある大企業に限られる。中小・中堅企業や零細企業の多くは、無謀な異次元緩和がもたらした急速な円安に四苦八苦の状況だ。原材料の輸入コスト高騰分を価格に転嫁できず、身をすり減らして経営を維持するのが、やっと。賃上げする余力など残されていない。この惨状が「労働者の味方」を気取る首相には見えているのか。
先の総選挙でも安倍首相は自己満足に終始していた。アベノミクスに国民の信任を取り付けるべく、ひたすら「この道しかない」と連呼するのみ。異次元緩和の仕組みや効果、本当に今の日本経済に2%の物価目標が必要なのかなどについての説明は度外視で、国民に「この道」を丁寧に理解させる気など微塵も感じられなかった。
むなしい選挙から見えてきたのは、国民に「この道を黙って進め」と言わんばかりの安倍首相の驕り高ぶりだ。残念ながら自公326議席によって、権力者は驕慢な態度をますますエスカレートさせている。
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