http://www.asyura2.com/14/senkyo176/msg/103.html
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紹介する内容は、消費税増税の旗振りに精を出してきた日経新聞の紙面では滅多にお目にかかることができない消費税制度批判の論考である。
消費税(付加価値税)制度は、建前として、社会保障制度の維持や財政健全化などが掲げられているが、グローバル企業を中心とした輸出企業への“利益補填”を主たる目的として作られたものである。
消費税増税と同時に法人税減税が必ずといって言いほど出てくるのは、法人税税率が据え置かれたままだと、消費税増税のおかげで増えた利益が法人税として徴収されてしまうからである。
ともかく、消費税増税のたびに、低所得者対策が政策課題になるような税制が社会保障制度の維持に“効率的に”貢献するかどうかは、小学生レベルの思考力でも判断できる。
財務省を頂点とした官僚機構や自民党に代表される“国民政党”の政治家が、旧来の習わしからグローバル企業に依存したくなるのは理解できるが、グローバル企業への過度な期待や思い入れは、日本という国家社会を溶融させてしまう危険性をはらんでいる。
バブル崩壊の内在的引き金になった89年の消費税導入はともかく、財務省(大蔵省)の官僚たちは、97年の消費税増税が責任を回避できない万死に値する失政であったという自覚に欠けていると強く非難する。
さらに、財務省の官僚たちは、20%近くまで目指す今後の消費税税率引き上げがメディアの支援を受けることでスムーズにできるよう、新聞社や出版社さらには宗教団体や政党にまで“消費税利益”を提供する「軽減税率」制度の導入を容認してしまった。
新聞社や出版社が、消費税制度について、輸出企業と同じ利害関係を持つようになったのである。
89年の消費税導入も、97年の消費税増税も、今年の消費税も、円ドルレート推移を見ればわかるが、円高対策として立案されたものである。
今回の消費税増税は10年頃から画策されたが、皮肉なことに、消費税増税法案が成立した直後から円安傾向に転換したため、グローバル企業は、円安ボーナスと消費税増税ボーナスというダブルの“余剰利益”を手にすることになった。
それだけが理由ではないが、財務省もこのような認識をしているからこそ、来年10月に予定されていた消費税税率の10%への引き上げを1年半延期する判断を下したのである。
なお、論考の中に「10%の引き上げに際し、財務省を説得するための措置なのか、景気条項を削除するとし、いわば退路を断った形だ」とあるが、景気条項の有無は消費税税率引き上げを再延期する妨げとはならない。
※ 参照投稿
「経団連会長、賃上げ「一歩前に出る姿勢示すべき」:景気条項抜きの17年4月増税決定はこのような動きを誘うための策」
http://www.asyura2.com/14/senkyo175/msg/899.html
※ その他関連参照投稿
「消費税の税率が高くなればなるほど、「軽減税率」が導入されればなおいっそう、“ワーキングプア”が増加するという論理」
http://www.asyura2.com/14/senkyo175/msg/141.html
「社会保障、財源なき「充実」=かすむ争点−与野党:国債費は別でも20兆円は財源なき歳出:裁量部分を何に支出するかは一大争点」
http://www.asyura2.com/14/senkyo175/msg/746.html
「10%引き上げと同時の「軽減税率」導入表明は、選挙史上最大(金額規模)かつ最悪(国民の金を使って)の買収工作である!」
http://www.asyura2.com/14/senkyo174/msg/837.html
「国民の理解も得られず憲法違反の不必要な解散を行ってまで政権の4年間延命を図ろうとする安倍首相が隠したほんとうの目的」
http://www.asyura2.com/14/senkyo174/msg/835.html
「どうあがいても敗北が必至の野党は、議席確保でじたばたするのではなく将来を見据えた政策議論と個別の闘いに徹すべし」
http://www.asyura2.com/14/senkyo174/msg/709.html
「野党が勝っても、見た目は違う新しい安倍・新しい野田や菅が誕生するだけの話:政党は支持する対象ではなく利用するモノ」
http://www.asyura2.com/14/senkyo175/msg/134.html
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消費増税延期と財政
(下)社会保障別の財源模索を
伊藤周平 鹿児島大学教授
11月17日公表の7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質の前期比で2四半期連続のマイナスとなり、2014年度はマイナス成長となるおそれもでてきた。
安倍晋三政権の経済政策(アベノミクス)により円安が続き、生活必需品を中心に物価が上昇している。4月の消費増税が追い打ちをかけ、実質賃金は10月まで16カ月連続で前年比減少を続けている。これが家計を直撃し、GDPの約6割を占める個人消費が低迷している。日本経済は、増税によって景気後退局面に入ったとみてよい。
こうしたなかで、安倍首相は消費税率の10%への再引き上げを15年10月から17年4月に先送りすると宣言し、衆議院の解散・総選挙に打って出た。アベノミクスへの失望が広がって内閣支持率が大きく低下しないうちに、長期政権を狙い、早めの解散を決断したとみられる。しかも10%の引き上げに際し、財務省を説得するための措置なのか、景気条項を削除するとし、いわば退路を断った形だ。
もともと、今回の消費増税は社会保障の充実を名目にしていたが、安倍政権のもとでは、充実どころか、社会保障改革と称して、社会保障の削減が進められている。すでに13年8月から生活保護基準の引き下げが断行されており、同年10月からは年金給付や児童扶養手当などが減額されている。70〜74歳の医療費自己負担も2割に引き上げられ、後期高齢者医療保険料の特例軽減措置も廃止される。
15年4月には(1)要支援者の訪問介護・通所介護利用を段階的に保険給付から外す(2)特別養護老人ホームの入所資格者を原則、要介護3以上の高齢者に限定する(3)一定所得以上の保険サービス利用者の自己負担を1割から2割に引き上げる――といった内容の改正介護保険法が施行される。
政府は、消費増税の増収分をすべて社会保障の充実・安定化に充てるとしているが、大半は社会保障の安定化に使われ、充実に充てられるのは増収分の1割にすぎない。
その際、社会保障費の大半を国の借金で賄っているかのような説明もしているが、社会保障費は他の歳出項目と同様、国債を含めた歳入全体から支出されており、所得税や法人税などの税収によっても賄われている。歳入に占める国債の割合は4割程度で推移しているから、社会保障費のうち、借金に依存しているのも4割程度と推計される。
そして、社会保障の安定化に消費税収を用いるということは、これまで社会保障費に充てられてきた法人税収や所得税収が浮くことを意味する。いわゆる予算のすげ替えである。つまり消費税増収分の大半は、実質的には法人税減税による減収の穴埋めなどに使われていることになる。
実際に、消費税が導入された1989年以降の消費税収と法人税収の推移をみると、過去の消費税収のほとんどが、法人税の減収の穴埋めに消えてしまっていることがわかる(図参照)。
しかも安倍政権は、成長戦略の一環として、法人実効税率(12年に引き下げられ、現在約35%)を、15年度から5年間かけて20%台に引き下げるとしている。現在、地方税を含む法人税収は約18兆円だから、これが実効税率35%分に当たるとすれば、実効税率1%分は約5000億円に相当し、かりに25%にすると、約5兆円の減収となる。
しかし、日本には研究開発減税など多くの減税措置があり、これらを利用できる大企業の税負担率は表面上の税率35%よりはるかに低い。これ以上の法人減税が必要なのか疑問である。法人減税を中止すれば、消費税率10%への引き上げは不要ではないのか。成長戦略として法人減税を、また、経済対策として大型公共事業を推進する政策を継続する限り、いくら消費増税をしても、社会保障はよくならないし、国の借金も減らず、財政再建にもならない。
何よりも、日本の消費税は一部の例外を除いてほぼすべての商品やサービスの流通過程に課税されるため、家計支出に占める消費支出(とくに食料品など生活必需品)の割合が高い低所得層ほど、負担が重くなる逆進性の強い税である。しかも高所得者ほど、株式投資や預貯金などの金融所得が多く、所得比でみた消費税の逆進性はいっそう強まる傾向にある。
そして、消費税を社会保障の主要財源とすれば、逆進性の強さから消費税率の引き上げに対して国民の根強い反対があるため、政策的に社会保障の削減が選択されやすい。
また、消費増税は、輸出還付金の増加で輸出大企業に恩恵を与える一方で、企業による正社員のリストラや非正規化を促進しやすい。企業が正社員を減らし、必要な労働力を派遣などに置き換えると、人材派遣料などの経費が「仕入れ税額の控除」の対象となる。正社員への給与は控除の対象外だから、派遣労働の割合を増やすほど、消費税の納税額が少なくなるのだ。
消費税率が5%に引き上げられた97年以降、それに呼応するかのように労働法制の規制緩和が進み、非正規や派遣労働者が激増した。安倍政権のもとで雇用者が増えたといわれるが、増えたのは低賃金で不安定な非正規雇用であり(10月時点で昨年1月比157万人増)、正社員はむしろ減少し(38万人減)、労働者全体に占める非正規の比率は37.5%に高まっている。
このように消費税は、貧困と格差を拡大する特徴をもつ不公平税制といってよい。そして社会保障財源の主要財源を消費税に求める限り、貧困や格差の拡大に対処するために、社会保障支出の増大が不可避となり、消費税を増税し続けなければならなくなる。増税できなければ、社会保障を削減し、貧困と格差の拡大を放置するかしかない。消費税は社会保障の財源として最もふさわしくないのである。
そもそも社会保障費(現在は年金、医療・介護、子育て支援の社会保障4経費)のすべてを消費税収で賄うことなど不可能であり、そうしている国など存在しない。社会保障費は、あらゆる税収で賄われるのが当然だからだ。消費税の再増税の延期で、社会保障充実のための財源約4500億円が不足するとの報道がなされているが、待機児童の解消などの必要な施策であるなら、不要不急の公共事業費などを削り、社会保障費に回せば済む話である。
増税により景気後退局面に入った日本経済を立て直すには、消費税の再増税は延期ではなく中止とし、当面5%に戻すべきである。しかし、現状認識を誤っているアベノミクスの手法では、不況のなかで再増税のときを迎える可能性が高い。また、再増税先送りを名目とした社会保障の削減も加速すると予想され、そうなれば、年金削減や将来不安により個人消費はさらに低迷し、日本経済の長期停滞は避けられなくなる。
私見では、社会保障の財源は、消費税を増税することなく、現在の不公平税制を是正し、所得税や法人税の累進性強化、つまり富裕層や大企業への課税強化・増税によって十分捻出できると考える。
そして、不足している特別養護老人ホームや保育所を増設し、さらには公費を投入して介護職員らの待遇改善をはかることによって社会保障を充実させれば、従来型の公共事業や企業誘致よりも、雇用創出の効果があるはずだ。社会保障の充実により将来不安が払拭され、年金や手当が増額されれば、内需主導型の景気回復につながる。
社会保障財源は消費税しかないという呪縛を解き放ち、別の選択肢を示していくことがいま求められている。
〈ポイント〉
○増税でも社会保障は充実せず縮小相次ぐ
○過去の消費税収の大半は法人減税で相殺
○消費増税は社会保障の膨張招き悪循環に
いとう・しゅうへい 60年生まれ。東京大院修了。専門は社会保障法
[日経新聞12月8日朝刊P.19]
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