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全国農政連が衆院選の候補者に「踏み絵」を踏ませるため作った文書(右)。安倍晋三首相は選挙後、農協改革に闘志を燃やしている Photo:REUTERS/アフロ
JAが迫った候補者への踏み絵 首相激怒で選挙後の対立必至
http://diamond.jp/articles/-/63410
2014年12月9日 週刊ダイヤモンド編集部
JAグループの政治団体が、第47回衆議院選挙で推薦する候補者と締結するために作った政策協定書が波紋を呼んでいる。農村票を使って、農協改革を骨抜きにしようとする意図を察した安倍晋三首相は、JA全中が文案を考えたとみて激怒。「選挙後、徹底的に改革する」と、鼻息を荒くしている。
「こんな内容の政策協定を結んだ候補者は自民党の公認候補にしない」
安倍晋三首相は、全国に約700ある地域の農協を束ねるJA全中などの政治団体「全国農政連」が作成した「農政課題に関わる政策協定書(例)」なる文書を読み、こう声を荒らげたという。
この文書は、全国農政連の下部組織である各都道府県の農政連が、衆議院選挙の候補者に、推薦の条件として、署名、捺印を求める「踏み絵」として活用していた。
安倍首相を刺激したのは、この文書の農協改革に関する部分だ。政府は6月、アベノミクスの成長戦略として、規制改革実施計画を閣議決定。全中をはじめとする農協中央会の廃止を軸にした農協改革も盛り込んだ。政府はこの改革を実現するため、来年の通常国会で農協法改正を目指すが、全国農政連の文書は、この政府の方向性と逆行するものだった。
政府の規制改革会議は首相官邸の意向を受け、11月12日に、(1)全中に農協法で認められた地域農協への指導、監査権限をなくし、一般社団法人化する、(2)JA全農を株式会社化する──ことなどを提言した。全国農政連の文書は、この提言を、「JAグループの組織の解体につながりかねない極めて問題のある内容」と指摘。これが安倍首相の逆鱗に触れたのだ。
ただ、安倍首相も最終的には、公認候補が農政連と政策協定を結ぶことを認めた。というのも、農政連は歴史的に、日本医師会などと並ぶ自民党の有力支持団体で、農政連の票を拒否するのは、選挙上、得策ではないと考えたためだ。
農政連が、安倍首相の反応や地元の候補者との力関係を踏まえ、政策協定や候補者への質問状の表現を和らげたことも影響した。
一方で、自民党への怒りが簡単には収まらない地域もある。農協の政治力が強い熊本県では、政策協定の表現が和らげられるどころか、逆に強まった。
熊本県農政連は11月28日、衆院選の推薦候補者を決める予定だったが、判断を保留した。
その背景には、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加などに対する反発がある。自民党は、交渉入りに反対する農政連の支援を受けて前回の衆院選を戦い、政権を奪還した。だが、それから3カ月後には、安倍首相が交渉参加を表明した。
同県農政連は推薦の判断保留から2日後、衆院選の小選挙区と比例代表で、自民党前職5人と次世代の党前職1人の推薦を決めた。
委員長を務めるJA熊本中央会の梅田穰会長は会見で、「2年前の(TPP交渉参加の)ような形で、なし崩し的にしてもらっては困る」と述べ、政策協定が守られなければ、次の選挙では支援しないことを強調した。
政策協定には「(農協の理事会といった)ガバナンス制度・(全中の一般社団法人化など)組織形態の転換などは、強制しないこと」という、全国農政連の文書を、具体的にした要求が並んだ。
■集票力発揮は不透明。むしろ反感買う恐れ 相互に不信感募る
しかし、こうした地域レベルの政治運動にもかかわらず、農政連の「踏み絵」戦略が、全中の権限維持につながる可能性は低そうだ。
自民党関係者は、「協定は努力目標だ。政治に100%の達成はない」と言い切る。
規制改革担当相として農協改革をまとめた稲田朋美政調会長に至っては、政策協定の締結を拒否しつつ、福井県農政連の推薦は受けるという離れ業をやってのけた。
安倍首相は現在、党首討論など公式の場では、農協改革を含む規制改革について「(業界団体を)説得し、了解を頂きながらしっかりと前に進めたい」と慎重な言い回しをしている。
それが政府内では一転、農協改革に並々ならぬ熱意を持つ菅義偉官房長官らと、全中の廃止に向けて「選挙が終わったら徹底的にやる」と決意を固めているという。
農政連が集票力で、自民党に恩を売れるかも不透明だ。牛肉や乳製品、砂糖といった農業の重要品目を生産する北海道、九州・沖縄には、TPP交渉参加で、自民党に裏切られたと考える農家も多い。
米価の低迷や、政府主導の農協改革への反発も強く、農協職員の集票活動に力が入るかも疑問符が付く。集票力を発揮できなければ、農政連の「踏み絵」戦略は、農協シンパの国会議員を増やすどころか、政府・与党の反感を買っただけ、という結果にもなりかねない。
ただ、衆院選後、農協法改正案の議論が間延びすれば、全中にもチャンスがある。来年4月には、農政連の政治力で政権に再び揺さぶりを掛ける好機となる統一地方選挙があるからだ。農協改革をめぐる政府と全中の攻防は、議論のスピードが鍵を握ることになりそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)
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