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安倍総理が突然衆議院の解散に踏み切った。総理は経済の好循環がようやく動き始めたと言っていたが、そうであれば、アベノミクスの効果が出た時に解散した方が有利ではないか。安倍総理も内心では、アベノミクスに自信が持てないのではないだろうか。
ここでは、日本大学の水野和夫氏のインタビューを紹介する。これを読めば、金融緩和に効果がないことがわかるだろう。
『月刊日本』12月号
水野和夫「日銀追加緩和でもデフレは脱却できない」より
http://gekkan-nippon.com/?p=6419
追加緩和をしても物価は上昇しない
―― 10月31日、日銀の黒田東彦総裁が電撃的な追加緩和政策を発表しました。これにより、市場は一気に株高、円安に動きました。今回の追加緩和をどのように見ていますか。
【水野】 黒田氏は日銀総裁に就任した直後、2年間で長期国債の購入量を2倍にし、マネタリーベースを2倍にすると発表しました。これは今回と同様、市場に大きなサプライズを与え、「バズーカ砲」とまで呼ばれました。
しかし、もし当時の異次元緩和が「バズーカ砲」だったのであれば、あれから1年半も経つのだから、既に効果が出ているはずですし、追加緩和も必要ないはずです。今回日銀が追加緩和に踏み切ったということは、日銀が想定していたほど物価が上がっていないということです。つまり、異次元緩和は「バズーカ砲」などではなかったということです。
実際、総務省の発表によれば、今年9月の消費者物価指数は前年同月比で3%上がっていますが、その内2%は消費税増税によるものなので、その分を除けば1%しか上がっていません。日銀が掲げていた2年間で2%の物価上昇には到達できていません。
もっとも、この総務省の統計にしても、本当に実態を反映したものであるかどうか疑わしいところがあります。総務省は測定値を計算する際、例えば食品については、定期的に同じスーパーに行き同じ品目を調べるというやり方をとっています。その際、特売品は例外として計算対象から除外しています。
しかし、スーパーで働いている人たちに話を聞くと、消費者は毎日同じスーパーに行くのではなく、チラシを見て特売を行っているスーパーを探し、そこに行くそうです。消費者にとってはむしろ特売日こそが通常の姿であって、定価で売られている方が例外なのです。総務省の杓子定規な計算ではこうした側面が反映されません。
この点については、東大の渡辺務教授たちが発表している「東大日次物価指数」が参考になります。これは、スーパーのPOSシステム(スーパーのレジで商品の販売実績を記録するシステム)に基づき日々の物価指数を計算したものです。こちらの物価指数は2014年6月から再びマイナスとなりました。
もちろん、ガソリンや乳製品など、代替品のない一部の物が値上がりしていることは間違いありません。家計にとっては非常に迷惑な話です。日銀が行っている生活意識に関するアンケート調査でも、物価上昇は困ったことだと答えた人が2013年6月以降5割を超え、2014年9月では63%にも達しました。物価が上昇して困っているからこそ、特売を行っているスーパーに行くわけです。
日銀の専門家たちは、民意に反することを行っても選挙で落ちて辞めさせられるわけではありません。しかし、そうであるならば、それだけ一層国民の声に耳を傾けるべきです。国民の多くが物価上昇は困ったと言っているにも関わらず追加緩和を行うのであれば、国民に納得のいく説明をすべきです。しかし、黒田総裁は何の説明もしていません。
結局、今の日銀は政府のための日銀であって、政府の金庫番に過ぎないということです。今回の金融緩和は、日銀は一体何のために存在するのか、我々国民がそのことを考えるきっかけにすべきです。
量的緩和が物価上昇につながらない理由
―― 水野さんは『資本主義の終焉と歴史の危機』などの著書で、量的緩和では物価を上昇させることはできないと主張されています。なぜ量的緩和は物価上昇につながらないのでしょうか。
【水野】 日本やアメリカなどの先進国では、生産が過剰に行われています。それは、例えば日本で見られる空き家や食品ロス(まだ食べられるのに捨てられている食べ物)などについて考えればわかると思います。
物が過剰に生産されれば、当然物の値段は下がります。また、これ以上投資の余地がないほどに実物投資が行き渡れば、いくら実物に投資しても高い利潤を得ることはできません。
先進国は既に1970年代からこうした状態にありました。このような問題を解決するためには、新たなマーケットを開拓するしかありません。
ところが、1975年にアメリカがベトナム戦争に敗れたために、先進国が新たに市場を拡大することは困難になりました。そこでアメリカが考え出したのが、「地理的・物的空間(実物経済)」に代わる新たな空間を創出することです。それが「電子・金融空間」です。
「電子・金融空間」とは、ITと金融自由化が結合して作られた空間のことです。これにより、資本は瞬時にして国境を越え、キャピタル・ゲインを稼ぎ出すことができるようになりました。
このように、先進国では既に「地理的・物的空間」が飽和しているため、いくら量的緩和を行っても、お金は「地理的・物的空間」ではなく「電子・金融空間」に流れてしまいます。それ故、株価は上がりますが、物価上昇にはつながらないのです。
また、グローバリゼーションの現代では、お金が国内に留まるとは限りません。量的緩和によって物価が上昇するというのは、お金が国境を超えて自由に動かない場合にしか当てはまりません。(以下略)
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