01. 2014年11月27日 07:06:51
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「引きこもり」するオトナたち 【第222回】 2014年11月27日 池上正樹 [ジャーナリスト] 「食料品の消費税だけは上げないで…!」 総選挙に戸惑う“引きこもり”たちの悲鳴 「なぜ、いま解散なの?」と首を傾げた人も多いに違いない。 11月21日、安倍首相は衆議院を解散。12月2日公示、14日の投開票が決まった。 目の前には社会的課題が山積みになっている中で、今回起きた突然の解散総選挙に対し、いまも引きこもる当事者や、過去の引きこもり経験を生かして活動している元当事者は、どのように感じているのか。いろいろな状況にある人たち計十数人にメールや電話で聞いてみたところ、大半が「投票に行く」と答えながらも、いまの政治に対する失望と困惑、絶望感といったものに覆われていて、今後の日本に期待できないと思っていることがわかった。 元当事者の自助団体代表らも絶望 「今回の解散は“腹切り解散”だ」 「もう日本はダメだなーって、思います」 そう明かすのは、関西で当事者たちのために仕事を創り出し、事業活動を展開する自助団体を立ち上げた30歳代の元当事者。 「何か失敗すれば、すぐに辞職することで責任を取ったことになり、またそうすることを要求する国民全体の精神と雰囲気に、深刻な問題を感じました」 トラブルが起きて、その結果、人が傷つくような被害を被ったとき、加害者側はいまの組織を維持していくために、責任者が辞職することで、一歩先に進めようという「腹切り」的な責任の取り方が伝統的に行われる。 今回も、閣僚の相次ぐ辞任から、議席が減ることも覚悟して突っ込む、安倍首相の“腹切り解散”ではないかと彼はいうのだ。 「実際の責任の取り方には、時間がかかる場合があると思います。問題が起こったり、傷ついたりする人がいる場合、当事者の声に対して応答する、対応する体制を立て直すことが本質的には重要な責任だと思うのです。日本では何か失敗を1回でもすれば、すべてを捨ててその場を去る。自分の失敗と自己存在の否定が同時に生起しています。そんな極端な失敗に対するリスクを、国民全体が煽って作ってきたところがあるんじゃないでしょうか。英語では「責任」はResponsibilityですが、Response=応答する責任、という投げかけられた問いや疑問に対して自分なりに応答することが責任だと日本では考えられていると思います。その地位を捨てて、消え去ることではないと思います」 国のリーダーが「アベノミクス景気を後退させてもいいのか!」と力強く問い、潔く見える「腹切り解散」の雲の向こうには、基本的な生存権をも脅かしかねない、特定秘密保護法の施行や原発再稼働、消費税の引き上げなどが待ち受けている。 また、与野党で約束されたはずの議員定数の削減や歳費の節減はどうなったのか。公共事業費の無駄遣いの徹底的な見直しによって、新たな仕事を創り出すことができる政治家はどこにいるのか。 「危機感はありますが、何ともできないのが悔しいですね。若い人は、あきらめてなのか投票しない。このまま行くと、不安や貧困が増大、紛争とかになりそうです。わざわざ徴兵制をしなくても、貧困が進むとアメリカのように軍隊に行くしかなくなる。選挙や議会の仕組み自体を変えないといけないと思いますが、秘密保護法も施行されるので、逆に動いていますよね。引きこもり者は政治に関心がある人も多い感じですが、実際に投票に行くのは、名簿の確認で名前を聞かれる感じとか、投票中も見張られている感じとか、投票所で知り合いに会うのが怖くて行けない人も多そうです。ネット投票も実現は難しそうです。本当はもっと積極的に、政治に関わるべきなのかもしれません」 そう訴える別の自助団体の40歳代の元当事者は、各政党に対し引きこもりに関するアンケート調査の依頼を検討している。 「100点満点で期待は10点だけ」 生きていく方法が見つからない女性も 一方、女性当事者からの視点も紹介したい。 結婚したものの、人とつながれない状況は相変わらずで、夫も非正規のため、お互いに稼ぐことができずにいるという30歳代の当事者女性は、こう語る。 「望むことはいろいろあります。非正規の処遇の改善とか、女性が働きたいと思ったときに社会進出できる環境とか。でも、政治家が目を向けているのは、大企業の社員の処遇ばかり。投票には行くつもりですが、100点満点で10点くらいしか期待してない。政権交代のとき、時間かかってもいいから変革してほしかった。でも震災や原発対応に失望しました。大きな流れを変えるのは難しいし、ここで大逆転とか、もうあり得ない。新聞も購読できないので、情報弱者です。 今までは夢見心地なことも望んできたけど、それも諦めました。夫はいつ雇い止めになるかもわからない。不便でも車は買わないとか、ずっと我慢して生活してきました。これ以上悪くならないでというのが、現実に生きていくための感想です。とにかく食料品の消費税だけは上げないでほしい」 最近、とくに女性からのメールで多いのは、仕事に就くというよりも、生きていくための方法が見つからないという、最低限の叫びのような相談だ。誰もが生きていける環境を整えていかなければ、失職する男性ばかりか、女性やマイノリティの人たちは、社会から離脱して、より深刻な状況に追いつめられていく。そんな現実に、政治家たちはどこまで想像し、向き合えているのだろうか。 北海道、沖縄など…あえぐ地方、 生活困窮する人々を安倍首相は見ているか 北海道で、自助団体の活動を展開している40歳代の元当事者は、地方が置かれた状況についても考えほしいと訴える。 「北海道では小樽にカジノをつくる動きもあったりしますが、そんなことよりももっとやることがあるはずです。私たちはすでに40歳を過ぎ、両親もいない50代の当事者経験者の中には燃料代を節約するためにストーブをつけないで耐え忍んで生活している人もいます。彼らの生活問題や、セーフティネットのあり方については、何としても選挙の争点にしたいと思っています」 生活困窮の現実は、地方へ行けば行くほど深刻なのに、人目を気にするあまり、言語化されることなく、地域に埋没していく。生活保護や障害年金などのセーフティネットの谷間にいる当事者や家族をどのとうに見つけ出し、生きるための情報を提供できるのかは、いまの政治が最も向き合わなければいけない課題だ。 一方、つい先日、基地の移転問題を争点に知事選挙が行われたばかりの沖縄。30歳代の当事者は、引きこもっているため、選挙には働いているときにしか行ったことがないという。 「中国側が海洋でいろんなことをしているらしいですが、それも私は漁民(うみんちゅ)ではないので、影響下や家族での会話の中に話題に上がることはないですね。私の家は、兼業農家。TPPについては影響があるので、その話題は出ます。でも、延び延びになっているため、最近は話題に上がらなくなりました。影響が直接的でないと、あまり感心がわかないのです。いま関心があるのは、インターネットの接続の端末が取られたとか、家からで出ていけと親に言われるんじゃないかとか、インターネットやホームレス状態でどう稼ごうかと考えていることです」 こんな意見もある。30歳代の男性からのメールだ。 「いままでの公的な支援は無駄遣いが多かった。1人1人違う生い立ちで…答えのない…生の声を安倍さんには聞いてもらいたい。当事者目線で、現場に足を運んで、体当たりで受け止めてもらい、引きこもりや障害のある方や社会的弱者の意見に耳を傾け、政府からの大切な予算や人的財産で、ケアとセーフティネットを創りだしてほしいです。地域が1つ1つ変われば、やがて政治に依存しなくても、社会は変わると僕は信じています」 さらに、地方のアパートで生活困窮状態にあえぐ50歳代の当事者男性は、悲痛な叫びを上げる。 「僕は日本の政治にはつくづく失望させられています。今ではもうまったく信用もしていません。消費税は上げぬと、はっきりと公約しながら上げた。こんな政治屋らを選ぶ国民にも大きな責任はあります。我々のようにその日の食事にも事欠く者がいるのに、もう絶望的な気持ちです。投票には行きます。僕の1票など虚しい1票でしょうが、それでも、いつものように期日前投票に行く予定です。このまま黙って死ねるか!と思っています」 他にも紹介しきれなかったが、総選挙や日本の政治に対して、たくさんの思いを当事者たちから頂いた。 大きな流れにはならないかもしれない。でも、いつか大きな流れになる事を信じて、それぞれの思いを込めて、1票を入れるしかない。 http://diamond.jp/articles/-/62768
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