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もはや首相自体が「ネトウヨ」である──安倍“ヘイト”政権が誕生した日
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2014.11.26. リテラ
第2次安倍内閣が衆議院解散を決断し、来年に予定していた消費税の10%への引き上げを延期、国民に信を問うという。野党は争点も大義もない選挙だというが、本当にそうだろうか。
安倍晋三は11月18日夜のニュース番組で「自民と公明で過半数を割れば退陣する」と明言した。が、これは裏を返せば、たとえ議席を減らしても過半数を維持すれば安倍内閣が信任されたとみなす、という宣言でもある。
安倍内閣への批判はおもにアベノミクスの失敗、つまり経済政策に集中しているが、もうひとつ忘れてはならないことがある。それは、安倍内閣が持っていたヘイト体質だ。
安倍晋三のフェイスブックがいわゆるネット右翼のヘイトコメントで溢れかえっていることは有名だが、これはたまたまこうなっているわけではない。第1次安倍内閣が成立したのは2006年9月。この年の年末、在特会が結成される。そして福田内閣、麻生内閣、さらに民主党政権の3年を挟んで再び首相に返り咲いた安倍の改造内閣は、在特会やネオナチ勢力と閣僚や安倍自身の関係が取り沙汰されるなかで、国民に信を問わざるをえない局面に追い込まれた。
第1次安倍政権から第2次安倍政権にいたるこの8年間は、日本で排外主義とヘイト・スピーチが過去最大限に伸長した時期とぴったり符号している。
在特会によって火がついたヘイトの嵐は、自民党の麻生太郎から民主党の鳩山由紀夫に首相が代わるなかで、ネット右翼にとっては「反日」「親韓・親朝鮮勢力」である民主党という明確な敵を得て、自民党が下野している3年の間にモンスターのように成長した。そのエネルギーを十分に吸収する形で成立したのが、第2次安倍内閣だった。
2012年の12月15日、衆院選投票日前夜に安倍が、麻生とともに最後の選挙演説の場に選んだのは秋葉原駅前だった。その光景には、いまだに身の毛がよだつ思いがする。
林立する日章旗、マスコミに対して「売国奴!」「帰れ!」と罵倒する支持者たち、「大日本帝国万歳!」を連呼する老婆、「ぶっつぶせ朝日!」「朝鮮人を追放しろー」といった罵声。そこに展開していたのは、子供の頃から古いニュース映像で何度も見た、ナチスや大日本帝国そのままの光景だった。絵に描いたようなファシズムの姿である。
「ついにネトウヨが政権を取るのか……」
私は現場におらず、誰かのツイキャスでそのおぞましい光景を見ていただけだが、それでも暗澹たる気持ちになった。レイシストをしばき隊が活動を開始する約2か月前のことである。ネット右翼や「行動する保守」は、ネット上でも街頭でも向かうところ敵なしの状態で、最高に調子に乗っていた時期だった。
安倍や安倍内閣の閣僚、あるいは地方議員まで含めた自民党の政治家たちの発言がネット右翼のそれと大差ないのは、彼らがネット右翼に媚びているからではない。ネット右翼の思想そのものが、彼らの政治信条にそのままダイレクトにフィードバックしている。保守とネトウヨの境界は、いま限りなく曖昧だ。
私が第2次安倍内閣成立時からこれを「ネトウヨ内閣」と呼んできたのは、ネット右翼がこの15年ほどにわたって培ってきた思想をこの内閣が実に忠実に体現しているからだ。ネット右翼御用達のヘイト・デマまとめサイトの中でも最も悪質な「保守速報」を安倍自身がフェイスブックでシェアしてしまうことからも明らかなように、「首相それ自体がネトウヨ」という状態なのである。すなわちそれは、これを同時に「ヘイト内閣」とも呼べるということである。
リベラルな人たちが、昨今のヘイトスピーチ問題や嫌韓・嫌中本の大流行について「社会に不満を持つかわいそうな人たちが自らを慰撫するための一過性の流行にすぎない」といった感想を持っていることがよくあるが、そうした見解は間違いだと、私は思う。
地道にネットにデマを書き、歴史修正主義にもとづいて地方の役所に申し入れをし、排外主義にもとづいて議員にロビイングをまめに行い、少人数でも決してめげずにデモをつづける。こうしたことをおよそ15年にわたって地道に、マメに続けてきた成果が、第2次安倍内閣にはそのまま結実しているように見える。
この政治的傾向は昨日今日始まった突発的な流行ではなく、かつての新左翼とは別の立場から戦後民主主義を否定し、終了させようとするはっきりとした意志に基づく、日本の思想潮流の大転換なのである。
つまり彼らは厳密な意味では「保守」ではない。かつての新左翼と同様、日本という国家が依って立つ根本的な理念を転換させようとする極右革命勢力である。そして逆に言えば、「憲法を守れ」「人権を守れ」と、「守れ」ばかり言っているリベラルの側が、実質的には文字通りの「保守」なのだ。
その「革命」の第一の波は、1996年に設立された「新しい歴史教科書をつくる会」から始まっている。小林よしのりの右傾化もこの前後であり、彼はそのまま「つくる会」に参加して「新しい歴史教科書」の編纂に携わることとなる。そして翌年、日本会議が設立されるのだ。これは神社本庁からカルトまで多くの宗教団体を母体にした、一種の宗教保守勢力である。第2次安倍内閣の閣僚19人のうち、15人がこの日本会議のメンバーだった。
このように、昨今の日本の「右傾化」はおよそ20年前に始まっているのだが、当時まだインターネットはそれほど普及していなかった。1995年にウィンドウズ95が発売され、一般人が加入できるプロバイダーが増えたことでインターネット時代が始まったわけだが、当時のネット空間はおおむねリベラルな雰囲気が主流だった。
右派の多くはネットを使っておらず、ネットニュース(BBSやSNS普及以前の掲示板システムのようなもの)は大学関係者や研究機関、それもどちらかというと理系が利用者のほとんどを占めていた。一般人がネット上でできることといえば、「HP」という日本独自の略語で呼ばれる「ホームページ」すなわち自分のサイトをつくって、趣味の情報を発信するという程度のことだったのである。
その様相が一変したのは、完全匿名を実現した大規模な掲示板システムである2ちゃんねるが1999年にオープンしてからだ。この連載のタイトルが「15年」となっているのは、ネット右翼の思想史の起点を2ちゃんねるに設定しているからである。
それまでのインターネットは実名での利用が基本で、ハンドルを使う場合もIPアドレスやリモートホストどこかに表示されているのが普通だった。「ホームページ」のURLに含まれているユーザー名にfingerをかければ、本名や連絡先を簡単に知ることすらできたのである(fingerとは、ユーザー情報を表示するUNIXコマンド)。
当時のインターネット上では、権力の検閲からいかにユーザーの匿名性を守るかということがさかんに議論されていて、完全匿名でメールを送ることができるアノニマス・リメイラーや文書を暗号化してやりとりできるPGP暗号ソフトなどが開発されてきた。
これら暗号化を推進していた人々の多くはリベラルで、ときにアナーキスティックでさえあった。電子フロンティア財団(EFF)やフリーソフトウェア財団(FSF)を見てもわかるように、既存の法律が適用対象外であるネット空間において権力から市民的自由と民主主義を守るためにどうすればよいか、それが匿名技術や暗号技術あるいはコピー技術の開発と推進の目的であった。インターネットはグーテンベルクの活版印刷以来の大発明とされ、初めて民衆がメディアを手にしたユートピアだと考えられていた。
2ちゃんねるの完全匿名システムも当然にこうした流れの延長線上に登場したものだった。デフォルト「名無し」の匿名で投稿できるだけでなく、サーバーに投稿者のIPアドレスすら記録しない2ちゃんねるは画期的かつ、実験的なシステムだったのである。2ちゃんねるでは差別発言を投稿する自由すら認められていたが、膨大な量の言説によって「悪い」言説は自然と淘汰されていくはずだという楽観論が支配していた。また、そうあるべきだと誰もが考えていたのだ。
それから15年。
ネット上は2ちゃんねるのようなBBSだけでなく、ありとあらゆるSNS上において匿名ユーザーによるヘイトスピーチと悪意が蔓延するディストピアとなった。ネット右翼は、この悪意のシステムを利用して伸長してきたのである。そしてそれが、ついに政権中枢にまで影響を及ぼしているのが2010年代の日本なのだ。
大げさな話に聞こえるだろうか。
それが決して大げさな話でもなんでもなく、インターネット上のネット右翼の歴史を順番にたどっていけばごくごく当然に導かれる結論であることは、これからこの連載が進むにつれて明らかになっていくと思う。
その端緒として、次回は今年9月に相次いだ安倍内閣のツーショット写真騒動について詳述する。閣僚たちは「たまたま頼まれて写真に収まっただけだ」と一様に主張しているが、そこでネオナチや在特会メンバーと一緒にポーズを撮っている閣僚たちがこの15年間にどんな動きをしてきたか、詳細を知れば「たまたま写真をとった」とは決して言えないことがわかるはずである。
(野間易通)
■野間易通プロフィール
1966年生まれ。フリー編集者。首都圏の反原発運動を経て、2013年1月に「レイシストをしばき隊」を結成。排外デモへのカウンター行動の先陣を切る。13年9月にしばき隊を発展的に解散。新たに反レイシスト行動集団「C.R.A.C.」(Counter-Racist Action Collective)として活動を続ける。著書に『金曜官邸前抗議』『「在日特権」の虚構』(ともに河出書房新社)などがある。
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