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「増税延期なんて、とんでもない!」東大出エリートが最後の抵抗 籠絡 説得 恫喝……財務官僚が今、この瞬間にやっていること 急転直下!いざ年内総選挙へ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41191
2014年11月26日(水) 週刊現代 :現代ビジネス
■死んだふり作戦
東京・霞が関の中で、未明まで照明が消えない不夜城として知られる財務省庁舎。戦中の'43年に建築された地上5階、地下1階の趣ある建物で、最上階には全国の徴税部隊を指揮する国税庁が陣取る。東大法学部卒を中心としたエリートたちが昼夜を問わず働く、まさに日本の中枢だ。
既定路線といわれた消費税の10%への税率引き上げに暗雲が立ちこめはじめた11月初旬。そんな庁舎内はさぞやバタバタとしているかと思いきや、「不気味なほどの静寂」(全国紙経済部記者)に包まれていた。
時の総理をも「格下」とバカにし、自分たちの掌の上ですべてが回っているかのように我がもの顔で振る舞う。そんなプライドの固まりの英才集団が、悲願である消費増税が延期されかねない危機に沈黙しているのにはワケがある。
「死んだふり作戦です」
財務省OBが言う。
「財務次官の香川俊介氏は安倍晋三総理からも菅義偉官房長官からも信用されていない。というのも、この4月に消費税を8%に増税するのをためらっていた官邸を、『増税しても景気は大丈夫だ』と財務省が説得して実現に導いた経緯があるからです。しかし、蓋を開ければ景気はどん底に落ちた。官邸は怒り心頭で、『財務省は増税のために官邸を欺いた』『財務官僚の言うことだけは信じない』と恨みを買ったのです」
いま声高に増税延期反対を叫べば、官邸の気持ちを逆なでしてしまう。安倍総理が増税延期に傾いているのは間違いないが、まだ決定したわけではない。財務省がその「最終判断」を後押しすることだけは避けたいし、できれば増税延期は回避したい。だから死んだふり、というわけだ。
財務省の内情に詳しい経団連関係者も言う。
「10月半ばに香川さんが、ある経済系シンポジウムにパネリストとして出席した。そこで、このままでは『財政が回らなくなる』と日本の財政危機を訴えて、消費増税の必要性をアピールしていた。ただ当時は、今年4月の消費増税による景気悪化が、当初想定よりひどくなっていることがわかってきた時期。そんな折にまた財務次官が堂々と変なキャンペーンをやっていると、官邸は不信感を一層強めた。そうした『前科』があるので、同じ失敗は二度とできない」
言うまでもないが、財務官僚たちは内心では「増税延期に腸が煮えくり返っている」(中堅キャリア)。民主党政権時代、当時の勝栄二郎事務次官が中心となって野田佳彦総理を籠絡して道筋をつけた経緯があるだけに、それを反故にされるのはもってのほか。安倍政権誕生後も、麻生太郎財務相を説得して味方につけ、なんとしてでも消費税10%を実現させようと奔走してきた。
「だから、増税延期なんてとんでもないと怒り狂っている」(古株キャリア)
とはいえ、表だっては動けない。そこで財務官僚たちがいまやっているのが水面下での裏工作—。すでに雌雄は決した感が強いが、あの手この手で増税を実現させようと最後の悪あがきを続けている。
「いま財務官僚たちは手分けして、ひっそりと議員会館回りをしています。『先生の選挙区には特別に予算をつけますから』と媚薬を嗅がせているのです。その効果が少しずつ出てきて、自民党内で増税に慎重なグループが勉強会を開いても人数が集まらなくなってきた。総選挙が近いとなれば、なおさらのこと議員は籠絡できるとわかっている。ここへきて財務官僚の説得はさらに勢いが増しています」(政治部デスク)
■土壇場の大逆転にかける
官邸工作にも余念がない。中でも財務官僚たちが最も力を入れているのが、増税に消極的な菅義偉官房長官をいかに落とすか、だ。
「いま菅官房長官は、増税を延期した際に長期金利がどれくらい上昇するかを気にしている。長期金利が上がれば住宅ローン金利などもつられて上がり、景気が下振れする危険性があるからです」(菅氏に近い人物)
その情報を財務官僚は掴んだ。とはいえ、財務官僚が自ら「ご説明」にいけば、その思惑が見透かされて逆効果なのは目に見えている。
しかも、財務省は最近、ある財界大物を使って、安倍総理や菅官房長官を説得してもらおうと試みたが、その財界大物に「財務省に頼まれた」とばらされて官邸の怒りに火をつけたという失態をおかしている。
「なので、今回はその手が使えない。そこで考え出したのが、海外の要人を使って金利上昇リスクを大きくプロパガンダさせるという手法。官邸は外国人にまで財務省の息がかかっているとは疑わないと踏んでいるのです」(財務省関係者)
メディア対策にも乗り出している。
直近では、「財研」(財務省の記者クラブ)の記者を集めた勉強会を開催したばかり。特に雇用指標を取り出して、やたらと景気は良くなっていると強調。「実体経済が立ち上がってきているのだから、増税しても経済が冷え込むことはないと必死にアピールしていた」(前出・経済部記者)という。
そんな中、いま永田町の一部では「矢野が動き出した」との話が駆け巡っている。
矢野とは、菅官房長官の秘書官を務める矢野康治氏。秘書官になる前には財務省主税局総務課長を務めていた財務官僚である。
「矢野氏は、次期次官がほぼ決定している財務省主計局長の田中一穂氏とは師弟関係。田中氏は第一次安倍政権時に首相秘書官を務めた『安倍派』でしたが、最近は『元秘書官のくせに財務省の言いなりなのか』と官邸から距離を置かれている。そんな田中氏に代わって、『弟子』の矢野氏がどう動くかが注目されていた中で、矢野氏が主要メディアの論説委員などを手なずけて、『増税延期反対』の記事を書かせていると評判になっています」(前出・政治部デスク)
使えるものは何でも使う。財務官僚たちは全員が一丸となって、増税延期反対へ向けた工作で、土壇場の大逆転に望みを紡ぐ。
もちろん、世論操作にも乗り出している。
増税延期が一躍クローズアップされ始めた時期、財務省はある統計を発表した。「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」。今年の9月末時点での「国の借金」がどれくらいになっているかをまとめたものだ。
発表によれば、9月末の借金残高は約1038兆円で、6月末時点より約5000億円も減っていた。ただし同時に財務省は、'15年3月末時点での借金額が約1143兆円になるとの見通しを据え置いた。
一見、なんの変哲もない統計発表。しかし、「姑息な狙いが隠されている」と、霞が関を長く取材する経済ジャーナリストは言う。
「借金が減ったのは税収が上振れしているからなのに、財務省はそれを言わない。代わりに'15年3月末の予想を据え置いて、日本の財政はいまだ悪化し続けているとアピールしているのです。財務省の予測通りならば、これから半年で借金が100兆円も増えることになる。しかし、ここ1~2年の実績値を見ると、'12年は31兆円、'13年は33兆円しか増えていない。国民を欺いているも同然です」
■「次善の策」を仕掛けた
財政危機を煽り、だからこそ増税が必要だと世論誘導するのは財務省の常套手段だが、ここへきて手段を選ばなくなっているのが恐ろしい。
たとえば財務省はいま、公立小学校1年生の「35人学級」を「40人学級」にするよう提言している。喫緊の課題ではないはずなのに、あえて教育業界の反発を受けるような提言をこの機に持ち出したのは、財政危機を煽るのが本当の狙い。消費増税をしないと「40人学級」になって、教育がヤバいことになるぞと、恫喝しているのだ。
「それだけではありません。ここへきて矢継ぎ早に財務省は、生活保護費の減額、介護報酬の引き下げ、配偶者控除の廃止などを打ち出しています。いずれもこれまで庶民の生活を支えていた制度を『改悪』しようとするもので、増税しないとこんな制度も維持できなくなると脅しをかけているわけです」(前出・経済部記者)
いま、財務官僚が最も恐れているのが、「グリーンカード・ショックの再来」だ。
グリーンカードとは'80年の所得税法改正で導入が決まったもので、別名は少額貯蓄等利用者カード。架空名義口座を使った脱税防止の目的で、預貯金の本人確認のために利用される予定だった。
しかし、導入が決定すると預金が流出するなど大混乱が発生。カード導入の反対運動が巻き起こる中で、当時の大蔵省(現・財務省)は導入の必要性を主張したが、結局は延期が決定。最終的には延期ではなく、制度の導入自体を廃止する結末に至った—。
「財務省史の中で衝撃的な敗北として語り継がれています。グリーンカードを導入すれば実体経済にどんなことが起きるのかを当時の大蔵官僚が読み切れていなかった。これに金丸信さんが大蔵省はけしからんと怒って、一気に廃止に持ち込まれたのです。
いまあの悪夢が再び、といわれているのは、今回の消費増税においても官邸を中心に財務官僚への不信感が異常に高まっているから。ここでさらに怒りを買えば、増税延期どころか廃止に持ち込まれかねない。それを一番恐れている」(前出・財務省OB)
財務省が考える最善のシナリオは、増税延期を阻止し、来年10月に消費税を10%に引き上げると総理に決断させることであるのは間違いない。しかし、それが叶わなかった場合には、次善のシナリオも用意している。増税延期はやむなしとしても、いまいわれている「1年半の延期='17年4月に10%に増税」を政府に確約させるというのがそれだ。
「増税延期となれば、増税先送り法案を可決しなければいけない。財務省としてはその法案に延期時期は『'17年4月まで』と書き込ませたい。安倍政権が『'17年4月以降に』とやってくる可能性がある中で、そこが財務省としての最終防衛ラインとなっている。まずは総選挙の自民党のマニフェストに、『'17年4月まで』といかに書かせるかが勝負。財務省は増税賛成派の野田毅氏や谷垣禎一氏などの重鎮たちを使って、露骨な攻勢を仕掛けようとしています」(前出・経済ジャーナリスト)
しかし、そんな財務省の動きを官邸も目を凝らして観察しているはずだ。そこで安倍総理が「奥の手」を使ってくれば—。
「増税延期に反対する党内議員を抵抗勢力と名指しして公認しない。それが安倍総理が手の内に持っている奥の手です。あるいは同時に、安倍総理が『消費税10%を白紙に戻す』と宣言し、それを争点にぶち上げたら……。そうなれば、小泉政権時の郵政解散時よりも歴史的な解散劇に発展する。安倍自民が圧勝する選挙になる可能性も秘めている。そんな爆弾を安倍総理が握っているということを、財務官僚たちはわかっていない」(安倍総理を古くから知る人物)
予算編成権と徴税権力を武器に、権力をほしいままにしてきた財務省。しかし、いまその組織が歴史上かつてない危機に直面している。
財務省が完膚なきまでに敗北する—もしかしたら、そんな日が近づいているのかもしれない。
「週刊現代」201411月29日号より
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