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解散総選挙なんか、やっている場合か?よくわからない安倍首相の決断に募る疑心暗鬼
http://diamond.jp/articles/-/62597
2014年11月25日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■争点は消費税かアベノミクスか?やはりわからない解散・総選挙の意味
今回の安倍首相の衆院解散・選挙の判断はよくわからない。衆院で与党は圧倒的多数を占めているにもかかわらず、議席を減らす選挙を突然行う。専門家の中にも首をかしげる人がいるという。知り合いの政治評論家の1人は、つい最近まで「解散総選挙は絶対にあり得ない」と言っていた。その筋の人たちでも難解な出来事なのだろう。
安倍首相は「選挙で国民に信を問う」と繰り返し述べている。首相は、何について信を問いたいのだろう。消費税率の再引き上げの延長について国民の意見を聞きたいのなら、どの世論調査を見ても「延長に賛成」が過半数を占めている。しかも、与党と国会で対峙する野党も基本的に延期に賛同している。
何も選挙をしなくても、多くの人々が消費税率の再引き上げ延長に賛成なことは明らかに見える。むしろ、経団連などの意見を入れて引き上げを断行するために選挙を行うのであれば、それなりに筋は通るかもしれない。
次に考えられるのは、安倍首相の経済政策(アベノミクス)の信を問うということになるだろう。しかし安倍政権は、本当の意味でアベノミクスを実行しているのだろうか。
景気対策としての財政出動や、黒田日銀総裁の異次元の金融緩和策は実施された。問題は、アベノミクスの本丸とも言うべき成長戦略が期待通り推進されていないことだ。まだ本格的に実行してもいない政策について、600億円以上の費用をかけて国民に信を問うのだろうか。
まずアベノミクスを本格的に実行してみたところ、政策を遂行するのが難しいほど抵抗圧力が強いというのであれば、その時点で国民に信を問うべきだ。政策の核心である成長戦略を本格的に実行する前に国民の判断を仰ぐというのは、どう考えてもおかしい。足もとの経済状況を考えると、「そんなことをしている場合ではない」と言いたくなる。
■今後の国民の反発を見据えている? 突然解散・選挙を決めた本当の理由
安倍首相の唐突な決断の背景にある本当の理由について、政治に詳しい友人何人かにヒアリングしてみた。
彼らの話を総合すると、これから安倍首相にとって、「集団的自衛権の本格的な議論や社会保障制度の改革など、国民からの反発が予想される案件が目白押しで、そうした問題に本格的に取り組む前、それなりの議席数を維持できる可能性の高い時期に選挙を行うことが、有利に思えたのだろう」ということだった。
特定秘密保護法の制定以降、政権支持率が低下傾向を辿っていることも重要なファクターと見られる。内閣改造によって一時的に支持率は盛り返したものの、小渕経済産業大臣、松島法務大臣の相次ぐつまずきがマイナス要因になったことだろう。
また、突然の選挙戦によって、野党側の体制が整う前に選挙戦に持ち込むことは、与党にとって大きなメリットである。特に、対立軸である民主党の政策にいまひとつ大きな期待が持てず、野党側の選挙協力の行方も不透明な状況を考えると、「今選挙を戦っても、大きく負けることはないだろう」との読みがあるはずだ。
安倍首相とすれば、この選挙で何とか国会運営に支障のない程度の議席を維持できれば、おそらく来年秋の自民党総裁選で勝ち残る可能性は高まる。
その結果、安倍首相は長期政権を樹立することができる。長期政権をつくることは、安全保障の制度見直しを最大の政策課題とする安倍首相にとって必要不可欠の条件と言えるかもしれない。
安倍首相が就任以来、外交などにかなりのエネルギーを注ぎ、相応のメリットも実現していることは評価に値するのだが、今回の決断が本当に国民のためになるかというと、そこには大きな疑問符が付く。
少なくとも安倍首相が、選挙について国民にわかりやすく説明することが必要だ。
結論から言うと、現在までのアベノミクスに及第点はつけられない。
異次元の金融緩和策の効果もあり、円安が進み、大手企業の業績は回復基調を辿っている。それに伴い、株価は2012年11月の底値から、ほぼ2倍の水準まで上がった。失業率や有効求人倍率などの数字を見ても、過去2年間でかなり回復している。その意味では、アベノミクスは短期的に相応の評価を与えてよいかもしれない。
しかし、円安傾向への転換はアベノミクスの功績ばかりではない。安倍首相就任の時期に、偶然米国経済がリーマンショックから立ち直り、緩やかながらしっかりしたペースで回復に向かい始めた。それが、為替相場の流れを変えた。
円安方向への転換は、輸入物価の上昇のパスを通って物価を押し上げることになる。それは、デフレ脱却を最大の政策目標にする日銀を後押しすることになっている。
■本来脇役の金融・財政政策が主役に?これまでのアベノミクスを評価する
一方、アベノミクスの核心部である成長戦略に目立った成果が上がっていない。それは決定的な事実だ。規制緩和や構造改革などを通して、わが国の新しい成長のエネルギーをつくる動きがほとんど見られない。期待を大きく裏切っている。
もともとアベノミクスの政策意図は、社会的な革新(イノベーション)を促進することで、わが国経済を再び成長過程に復帰させることだ。そのために規制緩和や改革が必要になる。
しかし、ときに改革は国民に痛みをもたらすことがある。その痛みを和らげたり、改革の効果が顕在化するまでの時間を借りるために、金融・財政政策で経済を下支えすることが重要だ。つまり、異次元の金融緩和策や財政政策は、本来わき役なのである。
ところが、脇役であるべき金融・財政政策があたかも主役になってしまった。それでは、本来の政策意図が実現されるべくもない。及第点はつけられない。
■経済再生を託す国民の気持ち 選挙なんかやっている場合か?
今年7−9月期のGDPは、予想外のマイナスに落ち込んだ。在庫の予想外の取り崩しや、天候不順による消費の停滞などの要因はあるものの、4−6月期のマイナス7.3%に続いてマイナス成長になったことは間違いない。
私も含めて多くの人が、「こんなときに600億円以上のコストをかけて選挙なんかやっている場合か!」と感じている。安倍首相は、「選挙のために12日だけ時間を貸してほしい」という。それは政治家の論理で、国民の意識とは大きく乖離している。
2年前の選挙で国民は民主党を見限り、自民・公明に衆院で300議席を上回る圧倒的な支持を与えた。それは民主党政権に対する失望と同時に、自民・公明の政権に閉塞感さえ漂っていたわが国経済の再生を託したとも言える。
そうした国民の意図を理解すのであれば、今、唐突に選挙をやっている場合ではない。わが国の経済の再生のための規制緩和・構造改革に対する既得権益層の抵抗が頑強であったとしても、与党に与えられた圧倒的な議席数を基盤にして、改革に向かって猪突猛進すればよい。
安倍首相の頭の中には、野党の低調な動きから考えて、「与党が過半数割れに追い込まれる可能性は低い」と見ているだろうが、多くの国民の意図を無視して、12日間の時間と多額のコストをかける意味があるとは到底思えない。それよりも、寸暇を惜しんで、わが国経済の改革に取り組むことが必要だ。
政治がわけのわからない行動を繰り返していると、人々の心理の中に安倍政権に対する疑心暗鬼が、雲のように広がってくるだろう。それは、人々の政治対する不信感を増幅することになる。それでは、安倍政権の政策運営は一段と難しくなる。
今回の安部首相の決断に、暗澹たる気持ちを感じる人は多いだろう。それでは、この国の経済はよくはならない。
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