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田原総一朗:安倍「延命解散」の成否と普天間移設問題
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141120-00000002-fukkou-bus_all
nikkei BPnet 11月20日(木)8時10分配信
安倍晋三首相は11月18日夜、首相官邸で記者会見し、来年10月に予定されている消費税率10%への引き上げを1年半先送りし、衆院解散・総選挙に踏み切る考えを表明した。11月21日に衆院を解散し、衆院選は12月2日公示、14日投開票になる見通しだ。
■選挙準備が整っていない野党のスキを突く
前回の本コラム(11月13日付「年内解散・総選挙に『大義なし』『無責任』の批判」)でも書いたが、消費増税を先送りするのは、アベノミクスの行く先が不安定であるからだ。
今年4月に消費税率8%への引き上げを実施したが、消費が落ち込むなどしてその影響が予想外に大きかった。東京株式市場は低迷し、10月には日経平均株価が一時的に1万5000円を割ってしまった。日銀は「デフレマインドからの転換が遅れる懸念がある」として、10月31日に追加の金融緩和策を決め、これにより日経平均株価は一挙に1万7000円を突破した。
しかし、その状態が長続きするとは、安倍首相はじめ政府および自民党の幹部は誰も考えていない。安倍首相にしてみれば、この株高が続いている間に解散・総選挙を実施したいのである。
このタイミングで選挙を仕掛ける理由はもう一つある。衆議院議員の任期は4年だが、2012年12月の総選挙からまだ2年も経っていない。野党は再び総選挙が行われるとは予想しておらず、選挙準備が全く整っていないのだ。そこを狙って解散・総選挙に踏み切ったのである。
■安倍首相の「延命解散」
この解散は、安倍首相の「延命解散」である。野党の準備が整っていない今のうちなら、政権の維持・強化ができる。来年の総裁選で再選を果たし、長期政権を目指せるからだ。
読売新聞が11月9日付朝刊で「増税先送りなら解散」という記事を掲載し、その後、12日になって各紙が「年内解散・総選挙」の可能性をいっせいに報じた。安倍首相が北京、ミャンマー、オーストラリアへの外遊中に、一気に解散・総選挙の流れが加速していった。
消費再増税をめぐるメディアの報道を見ると、朝日新聞と毎日新聞は当初、消費再増税を先送りすべきではないとの立場をとっていた。たとえば、朝日新聞11月3日付朝刊の社説は「消費税の再増税 将来世代見すえて決断を」と題して、「社会保障と税の一体改革」の趣旨を踏まえて再増税を決断すべきと主張していた。
しかし、内閣府が11月17日に発表した7〜9月期の国内総生産(GDP)速報値は年率換算で前期比1.6%減となり、2期連続のマイナス成長、しかも想定よりもはるかに悪かったため、朝日新聞も毎日新聞も“作戦”を変えざるを得なくなった。
朝日新聞は19日付朝刊の社説で「『いきなり解散』の短絡」として、「景気悪化による増税の先送りは消費増税法を改正すれば認められる」と書き、衆院解散は「短絡に過ぎる」と批判した。
また、毎日新聞も19日付朝刊の社説で「初めに結論ありきで、自らの政権戦略を優先させたのではと疑わざるを得ない」と書き、「強引な政権運営が目立つ」ようになった「安倍政治」が今回の争点だと指摘する。
■読売や産経は「安倍政治を問え」と主張
安倍政治の批判派は、こんなに景気が悪いのなら選挙どころではない、景気対策を優先すべきだと主張する。選挙を実施すれば「政治空白」をつくることになる。解散から投開票までは3週間以上の空白期間を今は置くべきではない。そう批判する。
野党も、「大義なき解散」であり、「(解散は)すべての政策を投げ出すことにつながる。無責任だ」と強く批判する。
では、安倍政権を支持する読売新聞や産経新聞はどう主張しているだろうか。
読売新聞の19日付朝刊は社説で「安倍政治の信任が最大争点だ」と題して、衆院解散表明は「日本経済や安全保障の課題を設定し、政策を遂行する体制を立て直す」のが目的だろうと指摘する。
産経新聞19付朝刊は主張(社説)で「『安倍路線』の継続を問え」と題して、消費再増税の延期とアベノミクスの成果を争点とすることに加え、「米軍普天間飛行場の辺野古移設や憲法改正を引き続き目指す姿勢も明確に打ち出したうえで、国民の信任を得るべきだ」と主張する。
両紙の主張は明らかにアベノミクスや安倍政権の安全保障政策に批判的な朝日新聞や毎日新聞とは異なる。
■安倍首相の言葉に説得力はあるか? 40議席減なら失敗
安倍首相は18日夜の記者会見で、消費再増税について、「アベノミクスの成功を確かなものとするため、法定通り来年10月には行わず、18カ月延期すべきだとの結論に至った」と述べた。そして、解散・総選挙について、「政権の経済政策と成長戦略を前に進めるべきか国民の判断を仰ぐ」と説明した。
安倍首相のこの説明で、国民は「大義ある解散」と受け止めることができるだろうか。
自民党は今(解散前)、衆議院で294議席を持つ。前回2012年12月の総選挙で大勝した結果である。
しかし、今回の総選挙で現有議席を上回ることは難しいのではないか。安倍首相の言葉に「解散はやむを得ない」と国民に思わせる説得力があれば、自民党の議席の減少は20以内で抑えることができるかもしれない。
しかし、もし説得力がなければ、「解散の理由がわからない。単なる『延命解散』だ」と国民に受け止められ、40席以上減らすかもしれない。
安倍首相は「過半数を目指す」と控えめに言ったが、40議席以上減らすようであれば、今回の解散は失敗となるだろう。
■沖縄県知事選で現職の仲井真氏が大差で敗北
さて、衆院解散・総選挙の騒動の一方で、沖縄県知事選が11月16日に行われた。結果は、安倍政権が支持する現職の仲井真弘多氏が敗れた。米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の国外や県外への移設を訴えた前の那覇市長の翁長雄志氏が約36万票で当選し、仲井真氏におよそ10万票の大差をつけた。この勝敗は事前に予想されていたものの、10万票もの大差がつくとは予想外だった。
朝日新聞や毎日新聞は、普天間基地の辺野古移転を白紙に、と主張する。一方の読売新聞や産経新聞は、米軍基地は国政の問題であり、県知事には辺野古移転に反対し阻止する権限はないとする。しかし、これは苦しい理屈である。
もともと市街地中心部にある普天間基地は世界一危険な基地と言われ、沖縄県民からの移転要請を受けて辺野古移設が検討されてきた。かつての自民党政権時代に沖縄県知事も名護市長も辺野古への移設を認めた。
それが2009年、民主党による政権交代が起こり、首相に就いた鳩山由紀夫氏が、日本の面積から見ればわずか0.6%の沖縄県に在日米軍基地の74%が存在するのはおかしいとして、最初は「国外へ移転」と言い、その後「少なくとも県外へ移転」と表明したことにより沖縄県民がそれに大賛成した。
しかし、鳩山氏は最終的には沖縄県民を裏切り、「県外移設の公約」を覆して辺野古移設を進める方針を表明。こうした失政や政治資金問題により、鳩山氏は2010年6月に首相を辞任する。
■政府は米国と嘉手納基地への統合案を含め交渉するしかない
テレビの討論番組で沖縄の基地問題を取り上げると必ず視聴率が落ちる。本土の人々は沖縄基地問題にあまり関心を持っていないのだ。そのことが沖縄の人々の怒りの原因になっている。
本土の人間は沖縄を犠牲にして日米安保条約のメリットを甘受しているが、それが「沖縄の犠牲」の上に成り立っているとは十分に理解していない。沖縄はなぜ差別されなければならないのかという沖縄の怒りが、今回の県知事選で爆発したのである。
では、辺野古移設問題をどうすべきか。
「白紙に戻す」と言うのは簡単であるが、下手をすると、それは「普天間凍結」になりかねない。最も危険な結果を招いてしまう。沖縄県民が普天間基地の移設を要望していたのに、それが凍結になるのは最悪の事態である。
政府が辺野古基地の建設作業を進めれば、沖縄県民は大反対し、大規模な建設阻止運動を展開するだろう。機動隊が出動するような事態になれば、流血の惨事を招きかねない。もし流血の惨事が起きたら、否応なく、基地建設はストップするだろう。
私は、政府は思い切って米国政府と交渉するしかないと考える。それが非常に難しいことであることは理解している。しかし現実の問題として、普天間基地の嘉手納基地への統合案を含め米国政府と交渉するしかないのではないか。
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